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本編
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幼いころから芸能界に憧れていたわけではなかった。
海野は高校生になってから、自分の容姿が他人よりも整っていることを自覚したのだ。
中学生の頃からやたらと告白されるな~と思っていた。
しかし高校生になるとそれは段違いに増え、やがては他校の女生徒からも告白さるようにもなった。
「ってわけでこの顔で小遣い稼げないかなって思ったわけ」
ファーストフード店で同じ大学に通う小島に話していた。
海野にこのままモデルを続けるのかと小島が何の気なしに聞いてきたことが話のきっかけだった。
「それでずるずると来た感じか」
「おい、ずるずるって言うなよ」
最初は雑誌の企画に応募してみたり、芸能事務所のオーディションに行ってみた。
しかし歌えない踊れないじゃどこの事務所も雇ってくれなかった。
それでも何度目かのオーディションで合格した事務所に所属してモデルとして活動することになったのだ。
「モデルって良いよなって思ってさ。踊らなくてもいいし歌わなくてもいい、ただ服着て写真撮られてればいいんだからって思ったわけよ、バカな俺は」
海野は別にアイドルになりたかったわけでもなく、ただ顔を活かして楽に生きる方法を探していたのだ。
芸能人なんて楽な仕事ではないが海野は楽観視していた。
「そんなに甘くなかったのか」
「そういうこと」
体系維持は必須。
部活も仕事優先だからはいれないし、表情筋を鍛えていろんな表情を見せられるようにならなければいけない、ポージングに歩き方、姿勢…鍛えなければいけないことはたくさんあった。
「今思うとマジでよく頑張ったよな俺」
溶けかけたスムージーをストローで吸い上げながら海野は言った。
「何回か雑誌で見かけた覚えあるもんな海野のこと。表紙やってたこともあったよな」
小島は美味しそうにナゲットを口に入れた。
「あああ、脂っこいもの食いてぇ…」
「今日、撮影あるんだもんな、まぁ頑張れよ」
「クッソ、他人事のように言いやがって…」
「だって他人事だし」
小島はナゲットもポテトもハンバーガーもすべて美味しそうに海野の目の前で完食した。
「撮影終わったら俺も食ってやる」
仕事に向かう海野は居酒屋のバイトへと歩いて行った小島の後ろ姿を睨みながらそう思った。
…
しかし正直に言ってモデルの仕事をこのまま続けていくことに限界を感じていることは事実である。
「にしても就活かぁ」
海野は社会人になって毎日スーツを着て会社に行って働く自身の親のような姿を想像できない。
だからといって芸能の世界で生きていく覚悟もできていない、宙ぶらりんの状態なのだ。
「社長にもそろそろ決めろって言われてるしな」
事務所との契約期間も終わりが近づいているため、社長からも判断を迫られているのだ。
果たしてこのままモデルでいてもいいのか、就活をするか、それとも全く別の道を行くか。
毎日毎日、海野の頭を悩ませるのは自身の未来の話だった。
「本日はこれで終了です、お疲れさまでした~」
緩いスタッフの挨拶を背中に感じながら海野はだらだらと私服に着替えてスタジオをあとにした。
事務所が用意してくれたタクシーで家の近くまで送ってもらう。
だが悶々とした気持ちが胸をざわつかせる。
「だぁー、飲みにでも行くか」
前に事務所の先輩モデルが教えてくれたバーに行くことにした。
階段を下りて地下の入り口をくぐるとそこにはTHE大人の空間が広がっている。
「いらっしゃいませ」
「あー、マティーニで」
「かしこまりました」
聞いたことのあるカクテルの名前を適当に告げて注文する。
こんな場所に慣れていないがそんな雰囲気を意地でも出したくない。
バーテンからカクテルグラスを受け取ると一口飲んで必死に取り繕う。
「はぁ」
海野は気付くとぼーっとしていた。
「マスター、久しぶり」
海野の隣の席に誰かが座ったようだ。
「おや、お久しぶりですね。お忙しかったんですか」
「うん、なんか海外に行くことが多くてさ。あ、いつもので」
「はい、かしこまりました」
バーテンダーは慣れた手つきでシェイカーにお酒を入れていく。
「あ、ごめんね、急に隣に座って」
ぼーっとしていた海野にその人は話しかけてきた。
「え、あ、いえ」
海野はまさか話しかけられると思っていなかったので少し驚いてしまった。
「見ない顔だけど俺が来てない間に来るようになったのかな?」
「あ、えーと…」
海野がどもるとバーテンが気をきかせてくれた。
「神山さん、そのかたは今日初めて来られた貴重なお客様なのであまり絡まないで上げてください」
「そうなんだ。でもよくこんな隠れ家みたいなところに辿り着けたね」
神山さんと呼ばれた男はバーテンからグラスを受け取ると一気に飲み干した。
「じむ…会社の先輩に教えてもらって」
「へぇ、その人名前なんて言うの?常連さん?」
「神山さん」
「はーい、しつこくてごめんね。マスター次もっとすっきりしたのちょうだい」
空のグラスを振って神山は笑った。
海野は困惑したまま、グラスの酒を少しだけ口に含んだ。
海野は高校生になってから、自分の容姿が他人よりも整っていることを自覚したのだ。
中学生の頃からやたらと告白されるな~と思っていた。
しかし高校生になるとそれは段違いに増え、やがては他校の女生徒からも告白さるようにもなった。
「ってわけでこの顔で小遣い稼げないかなって思ったわけ」
ファーストフード店で同じ大学に通う小島に話していた。
海野にこのままモデルを続けるのかと小島が何の気なしに聞いてきたことが話のきっかけだった。
「それでずるずると来た感じか」
「おい、ずるずるって言うなよ」
最初は雑誌の企画に応募してみたり、芸能事務所のオーディションに行ってみた。
しかし歌えない踊れないじゃどこの事務所も雇ってくれなかった。
それでも何度目かのオーディションで合格した事務所に所属してモデルとして活動することになったのだ。
「モデルって良いよなって思ってさ。踊らなくてもいいし歌わなくてもいい、ただ服着て写真撮られてればいいんだからって思ったわけよ、バカな俺は」
海野は別にアイドルになりたかったわけでもなく、ただ顔を活かして楽に生きる方法を探していたのだ。
芸能人なんて楽な仕事ではないが海野は楽観視していた。
「そんなに甘くなかったのか」
「そういうこと」
体系維持は必須。
部活も仕事優先だからはいれないし、表情筋を鍛えていろんな表情を見せられるようにならなければいけない、ポージングに歩き方、姿勢…鍛えなければいけないことはたくさんあった。
「今思うとマジでよく頑張ったよな俺」
溶けかけたスムージーをストローで吸い上げながら海野は言った。
「何回か雑誌で見かけた覚えあるもんな海野のこと。表紙やってたこともあったよな」
小島は美味しそうにナゲットを口に入れた。
「あああ、脂っこいもの食いてぇ…」
「今日、撮影あるんだもんな、まぁ頑張れよ」
「クッソ、他人事のように言いやがって…」
「だって他人事だし」
小島はナゲットもポテトもハンバーガーもすべて美味しそうに海野の目の前で完食した。
「撮影終わったら俺も食ってやる」
仕事に向かう海野は居酒屋のバイトへと歩いて行った小島の後ろ姿を睨みながらそう思った。
…
しかし正直に言ってモデルの仕事をこのまま続けていくことに限界を感じていることは事実である。
「にしても就活かぁ」
海野は社会人になって毎日スーツを着て会社に行って働く自身の親のような姿を想像できない。
だからといって芸能の世界で生きていく覚悟もできていない、宙ぶらりんの状態なのだ。
「社長にもそろそろ決めろって言われてるしな」
事務所との契約期間も終わりが近づいているため、社長からも判断を迫られているのだ。
果たしてこのままモデルでいてもいいのか、就活をするか、それとも全く別の道を行くか。
毎日毎日、海野の頭を悩ませるのは自身の未来の話だった。
「本日はこれで終了です、お疲れさまでした~」
緩いスタッフの挨拶を背中に感じながら海野はだらだらと私服に着替えてスタジオをあとにした。
事務所が用意してくれたタクシーで家の近くまで送ってもらう。
だが悶々とした気持ちが胸をざわつかせる。
「だぁー、飲みにでも行くか」
前に事務所の先輩モデルが教えてくれたバーに行くことにした。
階段を下りて地下の入り口をくぐるとそこにはTHE大人の空間が広がっている。
「いらっしゃいませ」
「あー、マティーニで」
「かしこまりました」
聞いたことのあるカクテルの名前を適当に告げて注文する。
こんな場所に慣れていないがそんな雰囲気を意地でも出したくない。
バーテンからカクテルグラスを受け取ると一口飲んで必死に取り繕う。
「はぁ」
海野は気付くとぼーっとしていた。
「マスター、久しぶり」
海野の隣の席に誰かが座ったようだ。
「おや、お久しぶりですね。お忙しかったんですか」
「うん、なんか海外に行くことが多くてさ。あ、いつもので」
「はい、かしこまりました」
バーテンダーは慣れた手つきでシェイカーにお酒を入れていく。
「あ、ごめんね、急に隣に座って」
ぼーっとしていた海野にその人は話しかけてきた。
「え、あ、いえ」
海野はまさか話しかけられると思っていなかったので少し驚いてしまった。
「見ない顔だけど俺が来てない間に来るようになったのかな?」
「あ、えーと…」
海野がどもるとバーテンが気をきかせてくれた。
「神山さん、そのかたは今日初めて来られた貴重なお客様なのであまり絡まないで上げてください」
「そうなんだ。でもよくこんな隠れ家みたいなところに辿り着けたね」
神山さんと呼ばれた男はバーテンからグラスを受け取ると一気に飲み干した。
「じむ…会社の先輩に教えてもらって」
「へぇ、その人名前なんて言うの?常連さん?」
「神山さん」
「はーい、しつこくてごめんね。マスター次もっとすっきりしたのちょうだい」
空のグラスを振って神山は笑った。
海野は困惑したまま、グラスの酒を少しだけ口に含んだ。
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