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第6章 子守係

6-2 内戦

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 挨拶もなしにいきなり中級魔法をバンバン打ち込んできたのはどこのどいつだ。
 などと言っている暇はもちろんなかった。今まさにヴアイゼインゼルの町の外れの方では黒い煙が数か所から立ち上っている。

「ちょちょ、セルジオこれ何!?何が起きてるの!?」

 町の外れを呆然と見ている俺の腕をぶんぶん揺らしながらルーナが聞いてくるが。もちろん俺もこの状況を説明することはできない。俺も何が起きているのか全く分かっておらず。何をしたらいいのか。どうしたらいいのかがわかっていなかったからだ。
 もちろん俺たちの周りに居たヴアイゼインゼルの町の人も、何が起きたかわからず右往左往している。そういえば先ほどまでルーナに話しかけていた子供も……どこかへ行ってしまった。

「――全く状況がわからないのですが――とにかく攻撃されて――ますね」

 黒煙ののぼるる方を見つつルーナに返事をする俺。

「セルジオどうしよう?どうしたらいい?」
「――」

 ルーナに再度腕を揺らしながら話しかけられたが。俺がルーナに言えることは現段階ではなかった。ただただ複数に立ちのぼる黒煙を見るしかできなかった。

 ★

 唐突にヴアイゼインゼルの町が攻撃された。
 今度は多くの町の人を巻き込んでいる。魔術が使える人が多くいれば反撃。守ることもできるだろうが。ヴアイゼインゼルにはそのような戦力はなかったはず――ここにソフィが居れば的確に指示。またはソフィ1人で何とかしてしまいそうだが。この場には居ない。混乱する頭の中で俺は少しずつ考えをまとめていく。そして――。

「――避難しましょう」
「へっ?」

 俺の出した答えは避難だった。

 状況から見て明らかに相手はこちらより多い。今も地響きを立てつつ。攻撃されてるところを見ると、複数個所からの攻撃――それにしても人間界からの攻撃かと思うが――って、そんなことを今は関係ない。こちらは戦える戦力がない。なら守りを固めるべきだろう。
 でもこの場所では無理だ。ヴアイゼインゼル全体を守るのは既に不可能――俺は今居る場所からは見ることはできないが。町の外れにある魔王城離れの方を見た。

「ちょちょ、セルジオ。ここは反撃――私も今なら」
「ルーナ!」
「は、はい」

 どうやらルーナは魔術が使えるようになって自分も戦えるということを言いたそうだったが。俺はそのルーナの声を遮った。後日罰があるかもしれないが――今は……。

「今ここで一番強い力を持っているのは間違いなくルーナだ」
「あっ――う、うん」

 俺が言うと、少し嬉しそうにするルーナ。って、いやいや、ルーナ褒めている――ということになるかもしれないが。現状を思い出せルーナ。町がパニックなのだから。

「でも――ルーナ1人じゃヴアイゼインゼル全体は守れない」
「あっ。う。うんそれは――無理」
「だから魔王城の離れに避難させて――天気を操ればいいんだよ」
「――天気?」

 少しぽかんとルーナがしていたが。時間がないのでそのまま俺は話を続けた。

「そう。練習の時と同じように。魔王城の離れだけ晴れさせる。あとは嵐にでも何でもいいからする。そして――多分が攻めてきたのだと思うから、魔王軍もしばらくすれば来るはず。とにかく耐えしのぐ。魔王城の裏庭ならいつも通り。練習通魔術が使えれば――」
「――ま。まあ、裏庭なら大丈夫と思うけど――って、離れに行くくらいなら。駅から魔術特急使って避難の方が――」

 ルーナが駅の方を見つつ言う。もちろん俺も一瞬はその考えが浮かんだが。乗れる人に限りがある。それに今こちらに魔術特急がいなければアウトだ。待っている時間で攻め込まれる可能性が高い。なのでその選択はすぐに消えた。

「みんなが避難するには魔術特急は使えません。だから、ルーナは魔王城の離れへ」
「――えっ!?わ、私1人で行くの?」

 本当はルーナと一緒に動いた方がいい。というか。普通次期魔王様を1人にするというのはダメだろう。でも今ここでルーナに走り回ってもらうわけにはいかない。ルーナにはルーナしかできないことがある。なので俺は。

「すみません!聞いてくださーい!」

 まず混乱する周りの人たちに声をかけまくった。自分でも少しびっくりの大声が出せたが。それは今はおいておき。
 俺はここ最近ではすっかり顔なじみになったヴアイゼインゼルの人たちに声をかける。基本いつもはルーナが話していたが。でも俺も少し話すようになっていたため。俺が叫ぶとまず近くに居た人が何人か振り向いてくれた。そしてなんだ?という感じに俺を見てきたので、それと同時に俺は話し出した。

「何が起こったのかはまだ分かりませんが。とにかく魔王城の離れに避難してください。そしてルーナ。次期魔王様と一緒に行ってください。お願いします急いで避難してください!」

 叫ぶように町の人に話す俺の隣では、ルーナがはじめこそ混乱している感じだった。でも――。

「――あっ、えっと、私が守ります。だから――皆さん魔王城の離れに避難してください!早く!」

 ルーナも声をあげると、まわりに居たヴアイゼインゼルの人たちはさらに俺たちを見てくれ。

「――よーし!女、子供はルーナ様と離れに向かえ!急げー」
「男は避難の手助けだ。行けー!みんなに伝えろ!」

 集まっていた男性集団の中からそんな声が聞こえだして――次の瞬間にはみんなが動き出していた。
 そしてルーナの周りには先ほど声をかけてきていた女の子が、お母さんとともにやって来る姿があった。

「――わ、私の声で――動いてくれた」

 ルーナはというと、ちょっと感動?していたみたいだが。まだ何も始まっていない。ここで止まっていてはだめだ。

「ルーナ。まず離れに。急いで」
「えっ、あ。うん。セルジオ。気を付けて。ちゃんと戻って来てよ?」
「大丈夫。とにかく急いで」
「う、うん!――みんなこっち!」
「危なかったらいつも通り。練習通りの魔術を使えば大丈夫だから」
「う、う。何とかしてみる」

 そこから俺とルーナは別々に動いた。
 ルーナはまず周りに居た人とともに離れの方に向かっていった。
 そして俺や他の男性は町中を走りながら声をかけまわった。
 その間も攻撃は近づいてきていた。まだはっきり攻撃してきている相手を見ることはできないが。すでに攻撃により町中でも一部近づくのは難しくなっている所があるので相手の確認より避難の呼びかけを優先した。

 自分もルーナやソフィのように魔術が使えれば魔術を使いもっと上手に避難誘導もできただろう。
 ちなみに周りでは初級魔術を使い人を助けたりしている人もいる。しかし俺にはできない。なので俺は走り回った。

 ★

 それからしばらく。ヴアイゼインゼル4分の1まではまだいかないと思うが。でもすでに町の一部は火の海になりつつある。一部の初級魔術の使える人だけではどうにもできないレベルになっていた。
 また、すでに手遅れの魔族の人を多数すでに俺も見ていた。
 そんな中俺はまだ走り回っていた。なお、途中まで一緒に居てくれた人は減った。何故なら怪我をした人を離れの方に運んで行ったり。助けを求めている人のところへと向かったからだ。
 俺は走り回り。避難を促すしかなかったので、攻撃の範囲を気にしつつ走り回っていた。
 ちなみにまだ遠くから?相手は攻撃をしてきているようで、町の外れには攻撃が多いが。ヴアイゼインゼルの中心にいきなり攻撃ということは起きていない。

「セルジオさん!」
「――はいっ?」

 すると、俺は一緒に避難を呼びかけていた1人の男性に声をかけられた。初めて名前を呼ばれたかも――じゃなくて。

「な。何ですか?」

 少し呼ばれたことにびっくりしつつ。慌てて俺が返事をすると声をかけて来た男性が建物が崩れている方を指差していた。

「今あそこに子供が!」
「えっ?」

 男性が指差す方は建物が崩れている。多分――今は攻撃がないが。何度かここにも攻撃があったのだろう。なのでここはあまり安全ではないのだが――誰か居たとなると。見に行かないといけない。
 俺たちはもうほとんどの人は声をかけれた。『そろそろ俺たちも離れの方に――』という話があった中での子供が居たという情報。
 残念だが俺は姿を見れていない。でも男性は居たと言っている。ちなみに男性は既に先ほど怪我を負った人を背中に乗せているので見に行くことができない。なら――。

「わかりました。俺が見てきますから、あなたは離れの方にみんなで先に」
「えっ、でも――」
「大丈夫です。とにかくここは攻撃の跡がありますから。急いで」
「――わ。わかりました」

 俺が指示すると男性は怪我をした人を背負いつつ小走り。そして、少し離れたところに居た人たちと合流し。魔王城の離れの方へと向かっていった。俺はその背中を見てから建物が崩れている方へと走り出した。

 ★

 セルジオと別れてからしばらく。
 私は魔王城の離れにヴアイゼインゼルの町の人をまとめていた。
 はじめは、私1人で大丈夫だろうかと思ったが。すぐに町に人も協力してくれて、離れまでの案内をしてくれる人や。ケガした人の治療をしてくれる人など。みんながそれぞれ動いてくれるので、私は守りに徹することが出来ていた。
 でも今の所私が何かするということはなかった。何故なら魔王城の離れは攻撃と無縁だから。攻撃を受けているとみられるのは離れとは真逆の方向。今も黒煙が上がっている。

「――酷い」

 誰が攻撃しているか――それはだと私も思っていたが今の所離れたところから魔術を使っているのか。攻撃してきている相手の姿は見えない。遠い分。攻撃の威力は弱いみたいだが。それでも――すでに犠牲者は多いだろう。許せない。でも、今自分にできることはここを守るしかない。この状況がなんとももどかしかった。

「――私がもっと強ければ――」

 それから少しすると男性の人も離れへとやって来るようになった。

「――セルジオ……セルジオ」

 私は周りを経過ししつつ。離れへとやって来る男性をチェックしていたが――まだセルジオは来ない。

「――」

 まだ町の中心などは攻撃を受けていないが――いつ来るかわからない。

「――早く戻って来てよ」

 私が少し寂しくなり出した時だった。

 ドゴン!

「――へっ」

 また攻撃。今度はそこそこ大きな攻撃がヴアイゼインゼルの町を襲った。少しだが。この魔王城の離れも揺れた気がする――って、今私はとある光景を見た。そしてその光景は私以外にも見た人が多数いたみたいだった。

「――おい。今――の方から魔術とんでこなかったか?」
「あ、ああ」
「あれだろ。もう魔王様が気が付いて反撃――」
「――ならなんでに攻撃を?」

 明らかに今の攻撃。の方からだった。そういえば攻撃の飛んでくる方をちゃんと見たのは初めてかもしれない。にしても、なんでユーゲントキーファーの方から攻撃が?なんで?という言葉が私の頭の中を埋め尽くす。

「――人間界からじゃないの?」
 
 私は攻撃を受けるヴアイゼインゼルの町を見つつつぶやいたのだった。

 ☆
 
 声をかけまわってしばらく。
 そろそろ離れの方に俺たちも。という時に、一緒にいた男性が子供を見たと言ってからすぐ。俺は子供を探して角を曲がった――のだが。それと同時だった。

 ドゴン。

「――ぬあっ!?」

 いきなり近くで振動――どうやら攻撃が近く。多分火の魔術を連発。または中級?レベルをぶっ放した様子だ。そんなことを思いつつ俺が角を曲がり進むと――。

「――っ!?」

 目の前の道路に倒れている子供が居た。近くにはお店の看板が倒れている。もしかすると今の衝撃で倒れた看板に当たった――。

「くそっ」

 俺は急いで子供の所へと駆け寄る。

「おい!大丈夫か!」
「――う。うぅ」

 意識はある。俺は子供の全身をパッと見る。大きなけがはなさそう。
 ちなみに子供の身なりは――あまり良くない。昔の俺を見ているようだった。
 魔界へと来てからは基本ルーナと共に動いていたので、この町で路地裏などに行くことはなく。このような身なりの子――簡単に言えば。ボロ布を身にまとっただけの子供を見るのはこちらでは初め――いや、それは今関係ない。俺は自分が着ていた上着を脱いで少女を包む。

「――だ、誰――?」

 すると、少女が目を覚ました。綺麗な目がこちらを――って、身なりは……だが。よく見るとこの少女。金髪碧眼で何というか。服以外汚れがなかった。顔も少し砂が付いていたが。傷などなくきれいな肌だ。

 ――何か引っかかる。

 俺はちょっと不思議な感じがしたが。今はこの場に居ては危険だ。

「俺はセルジオ。今ここは危ないから逃げよう。次期魔王様が守ってくれるから」

 少女を走らすのはだったので俺はすぐに少女を抱き上げる。すごく軽い。いろいろ大丈夫だろうか?と、思った瞬間。また近くで地響きがした。

 ドゴン!ドゴ――ン!

「きゃあ!」

 金髪碧眼の少女が悲鳴をあげる。

 俺はしっかり金髪碧眼の少女を抱き。周りを注意しつつ。魔王城の離れへと急いで向かいだしたのだった。
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