200 / 203
199. 優雅な(?)お茶会
しおりを挟む(どうしてこうなった……!)
頭を抱えて喚き出したくなるのをどうにか我慢して、ティーカップを傾ける。
紅茶は美味い。当然だ、コンビニショップで購入した茶葉を使っているのだから。
「本当に素晴らしい香り。味も深みがあって、まろやかで」
「えぇ、こんなに美味しい紅茶は初めてですわ」
「ありがとうございます」
楚々とした令嬢方に褒められて、笑顔で礼を言う。どうにか、微笑を浮かべることはできたように思う。
「紅茶はもちろんですが、この陶器! こんなに美しい色合いのカップも初めて拝見しましたわ」
「使うのがもったいないくらいに素敵ですわね」
「お茶だけではなくてよ。こちらのお菓子もとっても素晴らしいですわ」
「軽やかなのに、とっても甘くて……背徳の味ですわね」
ほほほ、と軽やかな笑い声が響き渡る。
ここはモーカムの街の、とあるお屋敷の庭園だ。
とりどりのバラが咲き誇り、美しく整えられた庭の一角のガゼボに着飾った令嬢たちが集まり、お茶会を開いている。
青空の下、馨しい花の香りに包まれながらのティーパーティは華やかなだけでなく、ご婦人方の小さな戦場でもあった。
そんな優雅な空間に、なぜ俺がいるかと言うと──
「ピチチッ」
俺の肩にちょこんと止まった白い小鳥が愛らしく囀ると、ご令嬢方はそろって相好をくずした。
「まぁ、とっても愛らしいこと」
「小鳥がこんなに懐くなんて」
「うふふ。クッキーが欲しいのかしら? こちらにいらっしゃい」
金髪縦ロールの令嬢に優しく手招きされて、シマエナガは大喜びで飛んでいった。
麗しい令嬢方にちやほやされて、小鳥は上機嫌だ。
俺が提供したスイーツをここぞとばかりに堪能している。
そして、同じようにちやほやされて喜んでいる相棒がもう一匹。
「ニャーン」
「まぁ、お手をしたわ。とっても賢いのね」
「素晴らしい毛並みですわね。可愛らしいわ」
文字通りに猫可愛がりされて、デレデレしているキジトラ柄のにゃんこ。
(コテツ……お前まで……)
可愛い少女や綺麗なお姉さんに抱かれて、ヒゲ袋をぷっくりさせているのは猫の妖精のコテツである。
自慢の毛皮と愛らしさを武器に、さっそくご婦人方のハートを掴んだようだ。
(いや、それが目的だったけども!)
一羽と一匹はノリノリである。
あいにく、俺はそこまで乗れなかった。
綺麗なお姉さんは個人的には大好きではあるが、元日本人の男子大学生からしたら、フリルとレースがごってりしたドレスで着飾ったお姫さまよりも、プチプラコーデの気安いお姉さんが好みです。
いや、そういう問題ではないか。
いちばんの原因は別にある。
(いくら、この国の情報を集めるにしても、こんな格好になってまでやりたくなかった……っ!)
こっそりため息を吐きながら見下ろした、己の服装。
それはエルフの集落で縫い上げてもらったワンピースだった。
それも、腕自慢の裁縫職人であるエルフの長老が張り切って縫い上げてくれた、豪奢な衣装だ──シェラ用の。
『トーマさん、とってもお似合いです! 恥ずかしがらずに、自信もってください!』
ピチュピチュと愛らしく囀るシマエナガ姿のシェラが飛ばす念話がエグい。
似合っているは、俺にとっては褒め言葉じゃないし、自信とかどうでもいい。
恨めしそうに小鳥を見上げても、くりくりの目できゅるん、と小首を傾げるあざとさの前には完敗である。
くそ、かわいいな。
そのワンピースもとっても素敵ですわ、と褒められて、頬を引き攣らせながらお礼を言う、こっちの身にもなってほしい。
ワンピースが素敵なのは当然だ。
大型家具店で購入した、天鵞絨のカーテンを使って縫い上げたワンピースはもはやドレスと名乗っても過言ではない出来栄えである。
しかも、100円ショップで購入したレースやキラキラのボタン、リボンなどを惜しげもなく使った力作なのだ。
ご令嬢方が身に纏うシルクのドレスも美しいが、肌触りからして違う。
冒険者以外からも──特に中流から上流貴族の関係者からも情報を得た方がいいと考えて、このお茶会に参加させてもらったのだが、当初は着飾らせたシェラを送り込む予定だったのだ。
商業ギルドに【召喚魔法】で仕入れた商品を売り付けて、どうにか繋ぎを取って招かれたお茶会。
上流階級のご婦人方が集う、この催しには商業ギルドが新進気鋭の商会をお披露目する場でもある。
提供されている開催場所も、商業ギルド所有の屋敷の庭園だ。
物珍しく希少な商品をギルドに提供したおかげで、この栄誉ある場に招かれたというわけだ──人はそれを賄賂とも言う。
既婚者のご婦人はもちろん、年頃のご令嬢も集まるお茶会なため、ここは男子禁制。
なので、シェラに商会の代表として参加してもらうつもりでいたのだが、人見知りを発動した彼女に拒否されてしまい、仕方なく女装した俺が参加することになったのだ。
魔道具で変装するか迷ったが、お茶会は顔を突き合わせて数時間を共に過ごすことになるため、バレる可能性が高い。
諦めて、せめて化粧で誤魔化すことにした。
幸いというか、不幸にも。
俺は女装用のメイクに慣れている。
母親似の女顔なため、体育祭の応援でチアガールのコスプレをさせられたり、文化祭でメイドのコスプレをさせられた経験が生きたようだ。嬉しくない。
しかも、今生はあさっての方向に気をきかせた創造神のせいで、ハイエルフとして転生した。
元の女顔をベースにエルフ補正が入り、自分で言うのもなんだが、絶世の美少女顔になった。男なのに。
素顔も整っているが、ここに日本製の化粧品を使えば、そりゃあもう傾国の美女の出来上がりである。
にこりと微笑めば、同じ性別の少女たちまでぽーっと見惚れてくれるのだから、複雑な心境になったものだった。
一応、商会として商品の売り込みをする必要があったので、ちゃんと囮の品は用意してある。
まずは、ご婦人方にも好評の陶器のティーカップ。
グランド王国にも陶磁器は少量ではあるが、出回ってきている。
陶器を作っているのは錬金術師というところが、異世界っぽくて面白い。
だが、まだまだ数は少なく、出来栄えもあまり良くはないらしい。
そこへ、新進気鋭の商会主である俺がじゃじゃーんと披露したのが、【召喚魔法】で購入した、白の陶器。ティーセットだ。
ティーカップとソーサー、ポットがお揃いのお茶会セットを用意した。
もちろん、紅茶と茶菓子も忘れずに。
コンパニオンとして召喚したのは、シマエナガ姿に変化したシェラと猫の妖精のコテツである。
商品の売り込みに聞き込み、どちらもできないが、参加者をひたすら癒やせ! と指示を出してやったので、あざと可愛さで女性陣をメロメロにしている。
おかげで、皆の気分もほぐれたようで、ついでに口の滑りも良くなった。
おしゃべり好きなお花さんたちのおかげで、市井では知れない情報が集まってきたので女装を頑張った甲斐もあったと思う。
◆◇◆
参加者のご婦人方は、異国から訪れたという、エキゾチックな美貌の持ち主である商会主にすっかり心を奪われて、無邪気に求められるまま、王国内の噂話に花を咲かせた。
とても有意義で楽しいお茶会は、商会からのお土産付きで解散となった。
美しい陶器と美味しいお茶に菓子にすっかり夢中になった彼女たちにしっかり商品を売り付けた商会主は、その一度きりでお茶会に参加することはなくなり、残念がられたと言う。
847
お気に入りに追加
2,577
あなたにおすすめの小説

いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~
イノナかノかワズ
ファンタジー
助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。
*話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。
*他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。
*頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。
*無断転載、無断翻訳を禁止します。
小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。
カクヨムにても公開しています。
更新は不定期です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる