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197. 生ハムとベーコン
しおりを挟む木造建ての倉庫は、元々は備蓄用の穀物を保存するために使われていたようだ。
風を遮り、湿気も少なくて意外と過ごしやすい。
これが夏だったら、また大変だったとは思うが、北国の秋なのでちょうど良い。
「これだけ広ければ、余裕だな」
コンテナハウスは三軒分、購入してある。大森林や旅の途中で使う際には、重ねて二階建てにしていたが、さすがに倉庫内では難しい。
広さはあるが、高さはギリギリか、足りなさそうなので、今回は二軒分のコンテナハウスを隣同士で並べることにした。
それでもまだ倉庫内には余裕がある。
「いっそ、タイニーハウスも出しておくか」
「いいですね! 日中はコンテナハウスで過ごして、夜はタイニーハウスで休みたいですっ」
タイニーハウスは初期設定のシャワールームを取り外してミニキッチンを付けてある。
トイレはあるが、風呂に入りたければコンテナハウスに設置してあるトイレルームを使う必要があった。
「なら、シェラが寝室としてタイニーハウスを使うといい。俺とコテツはコンテナハウスで寝泊まりするから」
シェラが使っていたコンテナハウスをリビングにすれば、ゆったりと過ごせるだろう。
タイニーハウスよりもコンテナハウスのキッチンの方が広くて使いやすいので、日中はコンテナハウスでのんびりするのも良い。
さっそく、コンテナハウスを二つ繋げた状態で倉庫内に設置する。
空いたスペースにタイニーハウスを出した。旅の間はずっとお世話になっていた。
シェラの荷物はそのままに、俺とコテツの家具は引き上げて、コンテナハウスに移動する。
タイニーハウスのミニキッチンにはダンジョンでドロップした小さめの魔道冷蔵庫を置いた。
食事はコンテナハウスで揃って取るつもりだが、飲み物くらいは必要なはず。
何がいいか、シェラに尋ねてみると、真剣な表情で悩み出した。
「ジュースがいいです! オレンジとぶどうジュースは絶対に外せません。あ、でもリンゴジュースも飲みたい……アイスティーも好き……迷います…」
「分かった。適当に冷やしておくから」
【召喚魔法】でコンビニショップを開き、ジュース類をカートに放り込んでいく。
紙パックのジュースなら飲みやすいだろう。オレンジ、グレープフルーツ、リンゴジュースの他にもグレープジュースとレモンティはペットボトルで購入した。
冷凍機能はないので、アイスは買わない。
ついでにデザートも入れてやる。プリンにゼリー、シュークリームにエクレア。
「美味しそうです!」
「一日に一個ずつだぞ?」
顔を輝かせるシェラにはしっかりと釘を刺しておく。注意していなければ、あっという間に食べ尽くしてしまうからだ。
タイニーハウスとコンテナハウスの片付けを済ませたところで、街に出掛けることにした。
目的は、肉屋探しだ。
「手持ちの魔獣肉を加工してくれる、腕のいい店を探そう」
「はいっ!」
「ニャッ」
美味しい肉料理が食べられるとあって、シェラとコテツは張り切って頷いてくれた。
肉好きな二人の嗅覚と勘を頼りに、街をぶらつくことにする。
◆◇◆
モーカムの街は広い。
創造神から貰った魔法の書の地図を頼りに歩き回って見つけた肉屋に声を掛けては断られ、三軒目にしてようやく話を聞いてもらえた。
「魔獣肉の加工か」
肉屋の親父は奥の作業場にいた女性を呼んだ。現れたのは、三十代くらいの体格のいい女性だった。どうやら、店主の妻のよう。
「肉の加工はこいつに任せているんだ。俺は解体と枝肉の処理を担当している」
肉の解体は大仕事だ。
二の腕の逞しい親父が一人で頑張っているらしい。店頭に並ぶ肉はどれも丁寧に処理されていたので、腕は良さそうだ。
あらためて加工担当の奥さんに魔獣肉の加工を頼んでみた。
「生ハムとベーコンを作ってほしい。あと、できればソーセージも」
肉屋には生ハムの塊肉とベーコンのブロックが売られている。どちらも魔獣肉ではなく、豚肉だ。鑑定したが、野生ではなく、牧場で繁殖させた豚が使われている。
豚肉と羊肉、鶏肉の三種が売られており、牛肉は見かけない。
(ソーセージは売っていない……ってことは、作っていないのかもな)
奥さんは「魔獣肉……」と呟くと、何やら考え込んでいる。
「もちろん、加工してもらう代金はちゃんと支払う。オークを五頭分処理してもらって、金貨一枚はどうかな?」
旨い生ハムやベーコンが食べられるなら、十万円支払っても惜しくはない。
冒険者ギルドでドロップアイテムを大量に買い取ってもらえたので、資金には余裕がある。
「金貨一枚⁉︎ そりゃあ、うちはありがたいが……」
肉屋の親父はぎょっと目を見開いている。加工賃、高すぎたか?
まぁ、値切って手抜きされるより、相応の仕事をしてもらえた方がこっちも嬉しいので気にしない。
肉屋の奥さんが咳払いをする。
「代金はその半額でいいよ。ただし、うちにも魔獣肉を卸してくれないかい?」
「おい、お前。いいのか」
「魔獣肉を扱えるなら、そのくらいすぐに稼げるもの。……ダメかい?」
「いや、俺はそれでもいいけど」
何せ、【アイテムボックス】にはまだまだ肉の在庫が眠っている。
「何の肉がいいんだ?」
「オークはまだ余っているのかい? 余裕があるなら、オーク肉はぜひとも欲しい。あとはボア、ディアあたりだね」
「それなら大丈夫だ」
はらはらした表情のシェラだったが、ボアとディアの肉なら山ほどある。
あまり魔獣がいない地域のようなので、低ランクの魔獣肉がいいだろう。
肉屋の親父に招かれて、裏庭で大量の肉を取り出した。
「驚いた。収納スキル持ちか」
「ああ。内緒にしてくれると助かる」
庭に敷いたブルーシートの上に、まずは加工を頼むオーク肉を五頭分、どかっと転がした。
ちゃんと解体して枝肉にしてあるので、加工はしやすいはず。
「で、依頼料のオーク肉は一頭分でいいか?」
「そんなにくれるのかい?」
「ああ。あとは、ワイルドディアとワイルドボアだな。それぞれ二頭分ある」
「いい肉だな」
肉の状態を確認した親父が惚れ惚れとしながら言う。
ダンジョン産のドロップアイテムだからな。新鮮で魔素もたっぷり含んでいるから、良質だ。
【アイテムボックス】内では時間が停止しているので、肉も新鮮だし。
「オーク肉を使った生ハムとベーコンだね。二週間あれば作れるよ」
「早いな」
「スキル持ちだからね」
ソーセージはこの店では作ってはいないらしい。どうやら器具がないらしい。
「腸詰を作る道具なら、俺が貸し出せる。調味料も用意するから頼めないかな?」
つい先日、【召喚魔法】に追加されたショップ、ホームセンターで購入した道具があるのだ。
肉屋の奥さんはぎらりと瞳を輝かせると、がっしりと握手を交わしてきた。商談成立。
羊肉は店でも扱っているので、羊の腸は売るほどあるとか。
腸詰肉の歴史は古く、古代ギリシア時代だかに、すでに携行食として山羊の胃袋に血と脂身を詰めた加工肉が存在していたらしい。
塩胡椒にハーブなどのスパイス類をガラス瓶に詰め直しておいた物を渡して、ソーセージメーカーも貸し出した。
ついでに店頭でいちばん目立っていた生ハムの原木を購入する。
魔獣肉でなくても、生ハムは美味しい。
「すごく立派なお肉です……!」
「フミャア!」
我が家の肉食女子と肉食ニャンコが大騒ぎだ。まぁ、生ハムの原木が家にあるとテンションは上がるよな。
じっくりと色んな食べ方で味わい尽くそう。
俺たちは二週間後を楽しみにして、肉屋を後にした。
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