召喚勇者の餌として転生させられました

猫野美羽

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194. ネコのお仕事?

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 猫の妖精ケット・シーは妖精の中でも少しだけ変わった種族である。
 動物の姿をした妖精はそれなりにいるが、ただ己のためにる妖精と違い、人や物に執着する性質があった。
 特に猫の妖精ケット・シーはイエネコと言われる動物と酷似した姿に引き摺られてか、人や家にくことがある。

 その特性がコテツと名付けられた猫の妖精ケット・シーはことのほか強い。
 彼が執着──というより懐いている相手が、自身を拾い、育ててくれた親代わりだときちんと認識しているから、余計にだ。

 コテツは大森林にある魔の山ダンジョンで生まれた。
 通常、妖精は精霊の祈りによって、魔素を核として生まれる。
 だが、コテツは猫の妖精ケット・シーの両親を持つ、珍しい存在として生まれた。
 魔獣でいうところの、特殊個体。
 希少ゆえに、育つと精霊以上の強者となる。そんな存在。
 だが、だからこそ狙われたのだ。

 母猫も兄弟猫もとある魔族が放った強化魔獣に殺された。
 猫の妖精ケット・シーを喰わせて、己の眷属をさらに強化させようと考えたのだろうと、後で精霊たちが教えてくれた。
 コテツももう少しで喰われてしまうところを助けてくれたのが、トーマだ。

 死にかけていたのを助けてくれて、親のように可愛がって育ててくれた。
 とびきり美味しいご飯も食べさせてくれたし、ふかふかぬくぬくの寝床も与えてくれた。
 コテツが慕うのも当然のことだろう。

 人ではなく、ハイエルフなのもいい。
 コテツは植物魔法が得意なため、自然の多い森の中を好む。
 ハイエルフであるトーマも街中よりも森の中の方が生き生きとしていた。
 彼が操る奇妙な【召喚魔法】も面白い。
 『家』に憑く妖精なので、異世界の家はとびきり興味深かった。

 文字通り、自分を猫可愛がりしてくれる親代わりのハイエルフにコテツはすっかり骨抜きにされていた。
 
 猫は己の世話をしてくれる人間を『図体はデカいが、狩りの下手な大きな猫』だと思っているらしいが。
 コテツの親代わりであるトーマはハイエルフなのもあってか、とても狩りが上手い。
 料理も上手だし、撫でるのも得意。

 もう、これ最高なのでは?
 うちのママ(トーマ)がいちばん!

 ふたりきりの蜜月を堪能しているところに、急に大きくて怖いドラゴンが現れた時には卒倒しそうになったけれど。
 今ではすっかり仲良くなった。
 大きくて強いドラゴンは意外と面倒見がよく、親を失ったと聞いて、コテツに優しくしてくれたのだ。
 お肉が好きなのもお揃いだ。
 お気に入りのお菓子を交換し合ったこともある。
 ドラゴンからはこっそりと戦い方も教えてもらった。
 トーマを心配させないためにも、強くなれ。そう言われて、コテツは張り切った。
 精霊たちの力も借りながら、ダンジョンで魔獣や魔物をせっせと倒していき、レベルを上げた。
 おかげで今や、そこらのニンゲンなど相手にならないくらいに強くなったと思う。

 トーマと二人きりの楽しい旅に、シェラが混じった時にも少しだけ複雑な気分になったけれど、あんまりにも弱くて頼りないので、仕方なく子分にしてやったのだ。
 まだまだ弱いけれど、シェラはブラッシングは得意なので、旅の仲間としては認めてやっている。

 トーマとシェラ、たまにドラゴンのレイを加えた旅の道中はとても楽しかった。
 ずっとダンジョン内で過ごしていたら知らなかった『外』の世界だ。

 世界は、とても広い。
 トーマは色々な景色を見るために、世界中を旅したいと言った。
 コテツももちろん、その旅に同行するつもりだ。

 シェラもトーマも二人とも、時々とても頼りないので、自分がしっかりとしなければならない。


 大森林を抜けて、国を跨いだ先。
 王国内の街を目指している間に、自分たちを襲おうと後をついてきた連中がいた。
 気配を探るまでもなく、とても弱い相手なのは見て分かる。
 だが、トーマもシェラも相手にはしなかった。

 冒険者ギルドでもそうだ。
 後を追い掛けてきて、二人を脅そうとした奴らがいた。こっそり武器を隠し持って襲う気満々だったのに。
 面倒だから、とトーマは隠れてやり過ごした。

(やっつければ早いのに!)

 可愛い子猫の姿をしていても、ダンジョン生まれの妖精であるコテツの性質は少しばかり物騒だった。
 ダンジョンでのレベル上げブートキャンプのおかげで、やや脳筋気味でもある。

 なので、トーマとシェラの二人の対処を「なまぬるい」と思い、自分がどうにかしなければ! と張り切ってしまったのだ。


◆◇◆


 辺境の街、モーカムの宿に泊まった、その夜。
 コテツはそっとベッドから抜け出した。
 ぬくぬくのトーマの腕の中から這い出すのは少しばかり残念だったけれど、断腸の思いでベッドから降り立った。
 足音や気配を殺すのはお手のもの。
 熟睡する二人を置いて、コテツはこっそりと宿を抜け出した。
 手助けしたのは、街にいた精霊たちだ。
 猫をこよなく愛する精霊は、コテツが「おねがい」すれば、何でも言うことを聞いてくれる。
 今も、音を立てずに宿の窓を開けてくれたので、外に出ることは容易かった。

 三階の窓から、ひょいっと飛び降りる。
 風の精霊が優しく抱き止めてくれた。

「ニャッ」

 お礼を言うと、嬉しそうに風が騒ぐ。
 コテツは軽やかな足取りで、目当ての場所に駆けて行った。
 まずは昼間の冒険者もどきがいる場所へ。次は街の手前の街道だ。
 どちらも精霊たちに頼んで「しるし」を付けてもらっているので、どこにいるのか、すぐに分かる。

 自分たちの仲間を害しようとした連中なのだ。遠慮はいらない。
 好戦的な火の精霊たちも「やっちまえ!」と応援してくれている。
 意外と物騒な地の精霊たちは「処す? 処す?」と何だか楽しそう。
 もちろん、コテツは処す気満々だ。

(見つけた! アイツらだ!)

 金も無いのだろう。
 人気の少ない、廃墟跡で安酒を飲んでクダを巻いている男たちを見つけて、コテツは目を輝かせた。

(さて、どうしてやろうか?)

 やっちゃえ! と騒ぐ精霊たちの声援を背に、コテツは舌なめずりした。


◆◇◆


 翌朝、街の大通りに身ぐるみ剥がされてズタボロの状態で転がされている男たちが警備の連中に引っ立てられていた。
 致命傷には至っていないが、地味に嬲られた痕があり、弱り切っている。
 逃げられないようにか、植物の蔦でぐるぐる巻きにされていた。
 男たちは揃って「もう悪いことはしません……」「真面目に働きますぅ」と虚ろな目で訴えていたらしい。

 ちなみに街の外でも、数人の男たちが這々の体で開拓地に逃げ帰っていた。
 尻を引っ叩かれたようで、涙目で「化け物に襲われた」「真面目に働かないと、またやってくる!」と叫ぶと、以降は人が変わったように熱心に開拓地で働いたという。
 サボろうとすると、どこからか木の根や枝が伸びてきて尻を叩くらしい。
 妙なこともあるものだ、と開拓地の人々は驚いていたが、精霊さまの思召しだと、信仰深くなったようだ。
 実際は猫の妖精ケット・シーお仕置きいたずらなのだが。


◆◇◆


「おはよう、コテツ」
「にゃああん」

 すりすりと大好きなトーマに頬をこすりつけていると、優しく撫でてくれていた手を止めて、そっと顔を寄せてきた。

「──夜遊びは楽しかったか?」
「ニャッ⁉︎」

 バレている。
 尻尾の毛が膨らんでしまった。
 逆立った背中をそっと撫でてやりながら、トーマはくすりと笑う。

「夜行性だもんな。まぁ、仕方ない。でも、あんまり危ないことはするなよ?」
「……にゃーん」

 ころりと転がって、ふかふかのお腹を見せながら、コテツは愛らしく鳴いて誤魔化した。
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