召喚勇者の餌として転生させられました

猫野美羽

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192. サブマスター

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 モーカムの街の冒険者ギルドでドロップアイテムを売りに出したところ、ざわつかれてしまった。
 どうやら数が多すぎたようだ。

(嘘だろ。売り払う予定の二割くらいしか出してないぞ?)

 王国の辺境の地はどうやら、そこまで魔獣や魔物の数は多くなかったようだ。
 見たこともない魔獣の素材を山と積まれて、ギルドの買取り担当の従業員が目を白黒させている。

「……どうする、シェラ?」
「困りましたね……。逃げるわけにはいきませんし、ここまで注目されたなら、もう開き直ってしまうのも手かもしれません」
「ニャア」

 コテツにもこくこくと頷かれてしまった。
 そっと背後を伺うと、ギルド中の冒険者たちがこちらを見守っている気配がする。
 うん、逃げ場はなさそうだ。
 無理やり押し通ることはできるが、俺たちは別に悪いことはしていない。
 ただ、他国のダンジョンの氾濫騒動スタンピードで倒した大量の素材をここで売り払おうとしているだけなのだ。

(……もしかして、国を越えて素材を売るのは違法なのか?)

 ちょっとだけ心配になってしまった。
 どうしようか、とシェラと二人で困惑していると、やがて責任者らしき壮年の男性が現れた。

「申し訳ない。ここでは差し障りがあるようなので、裏に回ってもらっても?」
「あ、はい」

 喜んで、男性の後をついていった。
 てっきり問題を起こしたとかでギルドマスターの部屋などに連れて行かれるかと不安だったが、案内されたのは広々とした倉庫だ。

「失礼。私は冒険者ギルドのサブマスター、バレルだ」
「はぁ、どうも」

 差し出された手を握り返す。
 すらりとした体格の優男かと思いきや、てのひらの皮は意外と厚い。独特の感触はおそらく剣ダコ。
 事務方のトップをしつつも、かなり鍛えてあるようだ。
 こちらが観察しているのと同じように、バレルの方も俺とシェラ、そして俺の肩に座るコテツをしげしげと眺めてくる。
 不思議そうな表情を一瞬だけ浮かべた理由も分かっていた。
 俺が彼の手の特徴から、「できる」男だと見抜いたように、向こうもこちらを探ろうと握手を交わしたのだろう。

(残念! 元の身体なら、それなりに鍛錬の痕跡はあったけど、創造神ケサランパサランに作り直された、このハイエルフの肉体はどれだけ鍛えようとしても、ほっそり華奢なままだ)

 ふふん、と笑い飛ばしたいが、ちょっとだけ心で泣いている。
 ゴリマッチョなんて贅沢は言わないから、せめて細マッチョにはなりたかった……。
 てのひらもつるつるすべすべ、お姫さまも真っ青な白魚のよう。
 剣ダコ? あるわけない。

 おかげで「コイツら、どうやってあれだけの魔獣や魔物を倒したんだ?」と思われていそうである。

「……で、ここまで連れて来られたということは、素材は買い取ってもらえるんですか?」

 腹の探り合いが面倒になって、単刀直入に聞いてみた。

「それはもちろん! むしろ、もっと売ってもらいたいくらいだ」

 即答された。
 これは本心っぽい。

「どうやら君たちは力の強い魔法使いのようだな。見ての通り、この街には凄腕の冒険者は皆無なんだ。腕に覚えのある連中は皆、ダンジョンのある街へ行ってしまう」

 肩を竦めながら、説明してくれるバレル。大森林と隣接した辺境の土地だが、魔物の氾濫はほとんど起こらない、恵まれた街らしい。
 冒険者の仕事は薬草などの採取と畑や牧場を狙う野生動物の駆除がほとんどなのだとか。
 あとは街中依頼。日本でいう派遣スタッフのような形で、店に臨時で雇われるらしい。

(想像以上に平和な街みたいだ)

 だが、おかげで有用なモンスター素材が集まらない。
 
「武器や防具、魔法具の素材はもちろん、魔石も不足している状態なんだ」

 幸い、ここは水運に恵まれた経済都市。
 金銭ならあるので、魔道具に必要な魔石などは他の街から買っているらしい。
 だが、慢性的な魔石や素材不足は続いていて、そんな時に俺たちが大量にドロップアイテムを持ち込んできたのだ。
 渡りに船、とばかりにサブマスターが飛び付いてくれたのだろう。
 
(そういう理由なら、ラッキーか?)

 ちらりとバレルを見やる。
 壮年のサブマスターは落ち着いた、だがどこか期待した眼差しをこちらに投げ掛けてきた。
 一人では決めかねたので、シェラにこっそり念話で語り掛けてみる。

『どうする、シェラ? 売り付けるか?』
『バレルさんは、何となく信用できそうな気がします。嘘は言っていないようですし、私は任せてもいいと思います』
『そうか。シェラが信用できるなら、賭けてみよう』

 獣化スキルに目覚めてからのシェラは勘が鋭くなった。
 なんとなく、誰かが嘘を吐いていたら分かるようにもなったらしい。
 コテツも同じく、シェラの提案には反対しなかった。
 ならば、俺の答えは決まっている。

「ここだけの話にとどめておいてくれますか? 素材は出すので、誰が売ったかは秘密で」
「もちろん! ギルドには守秘義務がある」

 その言葉を信用して、俺は【アイテムボックス】から、不要なドロップアイテムを取り出した。
 ちなみに背負っていたリュックから取り出したように小細工はしている。勝手にマジックバッグと勘違いしてくれるはず。
 次々と取り出していった素材類は、倉庫に大量に積み上がった。

「これほどに……」
「あ、実はもっとあります。魔石に皮や牙などの素材以外にも、肉もドロップしているので」
「おお、魔獣肉……! もしかして、魔物の肉もあるのか? ほう、それは素晴らしい。ちなみに、その肉は売ってはもらえないのだろうか?」
 
 やけに真剣な眼差しだ。
 もしかして、この街には美味しい魔獣肉はあまり出回っていないのだろうか。
 
「肉は俺たちの食用に確保しているので」
「そこを何とか!」

 拝み倒されて、仕方なくディア肉やボア肉、オークの肉などをいくつか売ることにした。
 ドロップアイテムなので解体は不用の、美味しいお肉だ。
 バレルは塊肉を目にして、大喜びだ。
 
「買い取り額は色を付けさせてもらおう。大量の素材、感謝する」
「いや、こちらこそ。クズ魔石もあっただろうに、いいのか? 赤字になるんじゃ……」

 途端、楽しそうに笑われてしまった。

「ここは商業都市、モーカムだぞ? 冒険者ギルドで持て余したとしても、商業ギルドが間に入ってどうとでもしてくれる。あっちも品不足で困っているからな」

 景気自体は悪くないのだろう。
 バレルはとても良い笑顔を浮かべると、「肉ありがとな」と言って、二人と一匹を応接室のような部屋に案内してくれた。

「外で金のやり取りをしていたら、ガラの悪いのに目を付けられる可能性があるからな」
「お気遣い、どうも」

 それほど長居するつもりはないが、念のために髪や瞳の色をまた変えた方がいいかもしれない。

「大金になるぞ? ギルドで預かってもいいが、どうする」
「いえ、マジックバッグがあるので、持って行きます」
「分かった」

 ずっしりと重い皮袋の中には大量の王国金貨が詰まっていた。


◆◆◆

更新、お待たせしました。
もうしばらく忙しそうです。

◆◆◆

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