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189. グランド王国 3
しおりを挟む無事にグランド王国に辿り着いたが、この国の貨幣がない。
そのため、【召喚魔法】で入手した商品を街道沿いの休憩所で売ることにした。
「なるべく消えモノがいいと思う。あまり珍しい品を持ち込むと、後々厄介なことになるかもしれない」
「厄介なこと……?」
「何処から仕入れた品かと聞かれたり、もっと厄介な相手に目を付けられたら面倒だろう?」
たとえば、てっとり早く稼ごうと塩や砂糖を高値で売ったりする。
塩は国によっては戦略物資だ。砂糖は南国産で、どちらも何処から仕入れたのか追求されることだろう。
プラスティック製品やビニール袋に包装された商品も売りには出せない。
「ブレイユの街で売った刃物類はダメなんですか?」
「あー……髭剃りナイフ、爪研ぎとハサミな。あれは辺境の地だったから、そこまで騒ぎにはならなかったみたいだけど……」
エルフの里で披露すると、ざわつかれてしまった。
ここまで高性能な作りの刃物は里に滞在していたドワーフでも無理ではないか、と驚かれたのだ。
(たくさん出回って技術が底上げされるなら、と思ったけど。どこの工房かとか聞かれたら面倒すぎる)
「ハサミはやめておこう。髭剃り用のナイフと爪研ぎくらいなら売ってみるか」
どちらも百円ショップの品なので、それほど高性能でもない。
「野営する連中だから、あとは食い物かな」
「消えモノ、ですね! パンやお菓子が大人気になると思いますっ」
「菓子か。チョコレートは論外だが、飴玉くらいはいいかな」
「瓶詰めにすると高級品として売れると思います」
「お、その案いいな」
飴玉を詰めるガラス瓶は百円ショップで購入する。十個くらい買っておけばいいか。
あまりカラフルな飴は悪目立ちするので、シンプルな物を選ぶ。
「べっこう飴でいいか」
「私、詰めますね」
タイニーハウスのリビングでせっせと商品を準備していく。
「ガラス瓶込みで銅貨五枚くらいで売るか。……ぼったくりじゃないか?」
「いえ、あのガラス瓶は銀貨一枚で売れると思います。銀貨一枚と銅貨五枚で売りましょう」
「えぇ? 原価二百円を一万五千円で売るのか。……売れるかな」
「売れます。甘い食べ物はご馳走です。エルフの里でも大人気だったじゃないですか」
「んー。まぁ、売れなくても別の場所で値下げして売ればいいか」
大陸の南の国にしばらく滞在していたので、あまり意識しなかったが、そういえば甘い食べ物は北の国では手に入りにくいのか。
南の国では砂糖が作られていたし、甘い果実もたくさんある。
北国で手に入る甘味が思い付かない。
リンゴくらいか?
「じゃあ、ハチミツなんかも売れば──」
「銀貨二枚で売りましょう!」
「ハチミツも百円で買えるんだけど」
「素晴らしいですね、ひゃくえんしょっぷ! ガラスの瓶に移し替えます」
「……はい」
粛々と【召喚魔法】でハチミツやガラス瓶をカートに突っ込んでいく。
ハチミツも十点買ってみた。
ちなみに各一種類ずつ、試食用の品も用意してある。
「あとは石鹸がおすすめです。これも消えモノですよね?」
「たしかに使うと消えるな」
獣の脂や灰などを使った石鹸と違い、汚れもよく落ちるし、何より香りがいい。消えモノだけど、問題はないだろうか。
「んー……いっそのことダンジョンのドロップアイテムってことにして売るか」
「トーマさん面倒になってません?」
「んんっ……とりあえずは香りが控えめなシンプルな石鹸を仕入れておこう」
「紙の包みは剥がして売りましょうね。石鹸はいくらくらいでしょうか」
「街で買ったことがないから相場が分からないな」
生活魔法もあることだし、あまり高値を付けても売れないかもしれない。
「うん、一個銅貨一枚で売ろう」
「安すぎませんか?」
「これも原価百円だから。一個売れたら、鉄貨九枚の利益だ」
千円の石鹸なら、高級品だろう。
ハーブの香りのする石鹸をポイントで購入する。これは二十個買っておこう。
「絶対に売れると思う物は他にもあるんですけど、野営中の人たちに受けるかどうかは謎なんですよね……」
残念そうにシェラが嘆息する。
彼女が売りたかった商品は百円ショップのリボンやシュシュ、手鏡などだった。
「どれもとっても素敵な品ばかりですから。貴族のお姫さまが使うような、綺麗なリボンがお小遣いで買えるなんて夢みたい」
うっとりとお気に入りのリボンに頬擦りしている。
そんなにか。乙女心に圧倒された。
「まぁ、街道を通るのは商人や冒険者が多いからな。街に物を売りにいく農家の連中も男が中心だと思う」
ホーンラビットなどの低ランクの魔獣くらいしか街道には現れないが、野盗の類は何処にでもいる。
女子供はよほどのことがない限りは、滅多に遠出をしないものだ。
「女性の冒険者がいれば売れるかもしれないけど……」
「はっ、それです! 少しでいいので置いてみましょう」
「分かった分かった。とりあえずはリボンとシュシュだけでいいか?」
「はい! ありがとうございます!」
なるべく若い女の子が喜びそうな色柄の物を選び、カートに入れていく。
可愛い物を並べて『お店屋さん』がしたいのかな、なんて。
微笑ましく考えていたら、大量にカートに放り込んでしまっていた。
「しまった……買いすぎた。まぁ、余ったらシェラにプレゼントすればいいか」
ここまで買ったので、ついでにピンや布製のカチューシャ、レースなども追加してみた。
値付けはシェラに丸投げする。
若い女の子たちが、少しだけ背伸びしてお小遣いで買えるくらいの値段にすればいい。
原価は百円。しかも支払いはポイント払いなのだ。コツコツと倒した魔獣や魔物素材などを交換して貯めたポイントである。
(それに、俺には魔族を倒した際の1億ポイントがある!)
他にも適当に購入して、売れ筋を見極めて売りに出してもいい。
「最低でも街への通行税が支払えるくらいの稼ぎができればいいだけだし」
街に入れさえすれば、冒険者ギルドで各種素材を買い取ってもらえる。
食事や宿は自前で用意ができるので、無駄な出費の心配もない。
「ふふふっ。明日が楽しみですね」
シェラはアイテムバッグから取り出したワンピースを体に当てて楽しそうに笑っている。
シンプルなワンピースはエルフの里で作ってもらった物だ。
自分用と従弟たちの服だけでなく、こっそりとシェラの分も頼んでおいたのだ。
綺麗な深緑色に染められたワンピースが良く似合っている。
「ニャッ」
売り子のお手伝いにやる気を見せるコテツにもエルフの里の女性たちが作ってくれた、可愛らしいスカーフを首元に結んでやる。
「明日は稼ぐぞ、ふたりとも」
◆◇◆
そんなわけで張り切って休憩所に押し掛けた二人と一匹。
まずは昼休憩中の一団を見付けて、そっと歩み寄った。
商人と護衛の冒険者パーティのグループのようだ。
近付いてくる俺たちに気付くと、警戒した様子を見せたが、成人したばかりの年頃の少年少女と子猫だと見て取ると、気を抜いていた。
(よし! 冒険者装備を外しておいて正解だな)
二人ともエルフの里で作ってもらった服を身に纏っている。魔道具で髪や目の色も変えているので、二人とも商人見習いあたりに見えているはずだった。
背中に大きなリュックを背負い、休憩所に腰を下ろす。
商人と冒険者のグループは馬に水と餌を与え、自分たちも保存食を口に運んでいた。
そっとシェラと視線を交わし合い、地面にラグを敷く。リュックから次々と商品を並べた。統一性のない、バラバラの品揃えだが、それがかえって人の興味を引いたらしい。
「それは何なんだい?」
ふくよかな中年男性が二人に声を掛けてくる。護衛が脇を固めていることから、商人なのだろう。
よし、とこっそり拳を握り締めながら、俺は愛想良く商品の説明をした。
◆◆◆
拍手いつもありがとうございます。
新作の連載を始めました。
『魔法のトランクと異世界暮らし』
エルフの大魔女の曾祖母から受け継いだ魔法のトランクを手に異世界に移住する女の子の物語です。
よろしくお願いします!
◆◆◆
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