189 / 203
188. グランド王国 2
しおりを挟むグランド王国は大陸の北西部に位置した大国だ。隣り合う帝国とは度々、領土争いを起こしているらしい。
国境付近での小競り合い程度で済んでいるのは、魔獣や魔物が犇く大森林が両国の間に広がっているからだろう。
(それに、今は魔族という共通の敵がいる)
召喚された勇者たちが魔族を倒し、邪竜を封印すれば、王国と帝国の関係もまた変わるのかもしれない。
ともあれ、ここは王国でも南の端の小さな村。帝国とは遠く離れた場所なので、今のところ小競り合いの気配は感じなかった。
リーフ村は小さくて、素朴な村だ。
大森林が近くにあるため、村の周辺を塀で囲っている。石を積み重ねて、泥で塗り固めた簡易な塀だ。
ホーンラビットならともかく、これではゴブリンの襲撃を防ぐのも大変そうだと思う。
入り口だけは木造の扉のような物が設置されていた。
そこから中を覗くと、暇そうにしている村人と目が合った。
「なんだぁ、ボウズ。冒険者見習いか?」
「二人ともれっきとした冒険者ですよ。ほら、タグもある」
首にぶら下げておいた冒険者ギルドのタグを見せると、あっさりと村の中へと招き入れてもらえた。
「通行税は一人銅貨五枚だ」
「ん、分かった」
シェラと二人分を支払った。
日本円にすると五千円ほどの通行税が高いかどうかは分からない。
幸い、ペットは無料とのことで、コテツは引き止められることもなく通り抜けられた。
「……こんなに簡単に通していいんですか?」
あんまりにも簡単に入国できてしまい、落ち着かない。つい、そんな風に入り口で通行税を回収する村人に聞いてしまった。
「ははは! ボウズたちが気にすることじゃないぞ。こんな辺境の地は、冒険者を歓迎するんだ」
「どうしてですか? あ、宿代や食事代を回収するためとか」
「まぁ、それもあるけどよ。こんな辺境の村じゃ、領主さまの目も届かないし、魔獣が氾濫した際にゃ冒険者頼みだからな」
自衛のために、彼らを歓迎しているのだと笑う。朴訥としているかと思いきや、どっこい逞しい。
「村の中には宿がないんですね?」
「おう。宿はないが、屋根裏や厩、倉庫は貸してやれるぞ。貸し賃は請求されるが」
お礼を言うと、二人は村の中をぶらつくことにした。
「トーマさん、厩を借りるんですか?」
「遠慮する。馬は嫌いじゃないが、一緒に寝たいとは思わないし。この村に泊まるより、野営した方が快適だと思う」
村の中心部に建つ家をちらりと眺めてみたが、あまり快適そうには見えなかった。
裕福な村でないことには、すぐに気付いた。
元々は開拓村のような存在だったのだと思われる。
が、大森林は大勢で踏み込む相手には容赦がない。
開拓できたのは、大森林からある程度離れた、この周辺の土地だけなのだろう。
今は塀の中で田畑を耕し、森の手前の平原で狩りをして生計を立てているようだ。
村には宿はもちろん、店も一軒しかない。
その一軒も雑貨屋もどきで、品揃えも微妙そう。
「せっかく通行税を支払ったけど、リーフ村はこのまま通り過ぎよう」
「賛成です。村に泊まるよりも、いつものコテージやタイニーハウスの方が休めそう」
小声で相談すると、二人はそのまま村を通り抜けることにした。
入り口として入った扉とは反対方向にある扉から外に出る。
創造神から貰った魔法の本に「王国の地図」と念じれば、真っ白のページにじわりと描線が浮かび上がってきた。
「ここから北上すれば、大きめの街がある。とりあえずはそこを目指そう」
「街なら、冒険者ギルドがありそうですね」
「ああ。大森林で手に入れた素材がたくさんあるから、売り払おう」
そこから王国のダンジョンを目指すことにした。
◆◇◆
大森林から離れると、のどかな光景が広がっている。
穀倉地帯らしく、街道沿いに麦畑が見えた。鑑定してみると、蕎麦が多く作られているようだった。
(王国は冬が長い土地だったか。寒冷地だから、蕎麦が育てやすいんだろうな)
田園地帯をのんびりと歩き進めて行く。
あの塀のおかげかは分からないが、街道には魔物の姿はない。
たまにホーンラビットやネズミ系の魔獣が現れるくらいで、このくらいなら冒険者でなくとも対処はできそうだ。
「平和だな」
「野盗が二組、襲ってきたくらいですからねー」
ちなみに野盗は冒険者くずれの四人と食い詰めた連中が三人、それぞれ襲い掛かってきた。
もちろん、どちらも返り討ちにして、近くの村に押し付けておいた。
辺境の地では犯罪者は労働力として使役されるそうだ。謝礼金は、と問われたが、そこは遠慮しておいた。
「おおむね平和だな?」
野盗はどいつも弱かった。
殺さないように捕まえる方が面倒なくらいの武器の腕前で、そりゃあ冒険者としてやっていけないな、と納得したほど。
「平和でしたね」
なにせ、シェラが魔法なしで制圧できたのだ。
ダンジョンや大森林での過酷な環境に耐え抜いた少女からしたら、何てことのない相手だったのだろう。
「案外、良いところかもしれないな、グランド王国」
牧歌的な光景に、目を細める。
もしかしなくても、自分たちが活動していた地域はかなり物騒なところだったのかもしれない。
(でも、この穏やかな光景も、邪竜が現れたら台無しになるんだよな……)
創造神と対になる、破壊の神。それが邪竜と呼ばれる存在の正体だ。
全てを壊したい欲に突き動かされた邪竜を勇者たちが封じることに失敗すれば、この光景も見られなくなる。
少しでも封印の成功率を上げるために、暗躍を頑張ろう。あらためて、そう思った。
◆◇◆
目当ての街までは、徒歩で三日ほどかかるとのこと。
シェラと二人でのんびり歩いて街を目指した。ちなみにコテツはフードに潜り込んでずっと眠っていた。
途中で見かけた村には寄らず、夜になるとタイニーハウスで過ごす日々。
大森林内では夜になると合流していたレイがしばらく帰って来ていない。
通信の魔道具に連絡があり、別件で忙しいから、しばらくは合流できないと告げられた。
なので、王国ではしばらく二人と一匹だけで活動することになる。
だが、その前に──
「まずは、金を稼がないと」
深刻な表情でそう告げると、シェラがきょとんとする。
「お金……ないんですか?」
「あるけど、王国の金がない。リーフ村で払った銅貨はエルフの里で貰ったのを使わせてもらった」
「そうだったんですね」
エルフの里で、グランド王国を目指しているのだと里長のサフェトさんに相談した際、ならばと購入品支払いの一部を王国のコインで渡してくれたのだ。
あまり数はなかったので、リーフ村の通行税を支払ったら、鉄貨しか残らなかった。
金貨なら、他国の発行のものでも地金の価値で使えるとは聞いていたが、よその国から来たとはなるべく知られたくない。
「街にも通行税が必要だったら、支払えない。だから、その前にどこかで稼がないと」
「街に入れたら冒険者ギルドですぐに稼げますもんね」
「それなー」
なにせ、俺の【アイテムボックス】には山ほど、魔獣や魔物の素材が眠っている。
だが、それも冒険者ギルドでしか買い取ってもらえないのだ。
ならば、以前にも二人で稼いだ方法を使うしかない。
「久々にやるか、行商人」
「! やりましょう! 私も売り子のお手伝いをします!」
「ニャッ」
街の周辺では商業ギルドに睨まれそうなので、街道沿いの休憩場が狙い目だ。
「さて、何を売ろうかな」
百円ショップにコンビニ、大型家具店に続いて、ホームセンターまで【召喚魔法】で使えるようになったのだ。
シェラとコテツもわくわくした表情で、覗き込んでくる。
「なるべく安い物を仕入れて、高く売ろう」
「トーマさん悪い男です! ひゃくえんの何かを売りましょう」
「シェラも悪よのぅ」
キャッキャとはしゃぎながら、二人と一匹で売りつける品を選んだ。
915
お気に入りに追加
2,577
あなたにおすすめの小説

いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜
EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」
優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。
傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。
そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。
次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。
最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。
しかし、運命がそれを許さない。
一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか?
※他サイトにも掲載中

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~
イノナかノかワズ
ファンタジー
助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。
*話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。
*他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。
*頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。
*無断転載、無断翻訳を禁止します。
小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。
カクヨムにても公開しています。
更新は不定期です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる