召喚勇者の餌として転生させられました

猫野美羽

文字の大きさ
上 下
180 / 203

179. エルフの里 4

しおりを挟む

「うう……頭が痛い……」
「二日酔いというやつだな。キュアポーションを飲むといい」

 昼前に目が覚めて、熱い湯で顔を洗ってみたけれど、頭痛はおさまらなかった。
 リビングで頭を抱えていると、ふらりと現れたレイが助言してくれた。

 普通のポーションは怪我を治すものなので、二日酔いには役立たずだが、解毒作用のあるキュアポーションは効果があるようだ。
 ダンジョンでドロップしたキュアポーションなら、【アイテムボックス】に大量にある。
 さっそく一本飲み干すと、途端に気分が良くなった。頭痛も胸焼けも吐き気も綺麗さっぱり消えている。

「すごいな、キュアポーション。ありがたい。これは売らずに確保しておこう」

 ダメな大人の発言だとは我ながら思うが、浴びるほど酒を飲んでも翌朝すっきり過ごせるなんて最高すぎる。

「もう昼か。客人なのに失態もいいところだな。エルフの人たちが気を悪くしていないといいんだけど」
「その心配はないだろう。エルフたちは酒好きだが、あまり強くないからな。宴の翌日は皆、昼まで起きてこない」
「あー……耳に痛いな」

 昨夜はどうやら宴もたけなわな頃、すっかり酔い潰れてしまった俺をレイが運んでくれたようだ。めんぼくない。
 シェラとコテツは朝食を各自で済ませて、外に遊びに行ったらしい。
 夕食を共にした子供たちと仲良くなったようで、一緒に遊んでいた。

「とりあえず昼飯を作るか」
「うむ。よろしく頼む」

 酒を飲んだ後は、不思議と炭水化物が欲しくなる。あと、濃い味付けのスープ。つまりはラーメン! ラーメンが食べたい。

「トッピングが必要だな。肉ましましの野菜炒めを作ろう」

 オーク肉の薄切りとキャベツ、もやしで野菜炒めを作る。
 塩胡椒でさっと味付けただけの野菜炒めだ。
 袋ラーメンはとんこつ味をチョイス。皆、一人前で足りるわけがないので、大量の湯を沸かしておく。
 ちなみに本日は袋ラーメンを調理するため、共同の炊事場には行かなかった。
 簡易キッチンで魔道コンロを使ってのクッキングだ。

 レイがいそいそとテーブルに丼を並べてくれた。ラーメンをよそい、野菜炒めを盛り付けると、仕上げにオークのラードをのせる。
 こってり背脂は好みが分かれるけれど、うちの連中は皆、大好物だった。

『ごはんですか!』
「ごあーん!」

 トッピングを終えたところで、開けていた窓から白銀色のカラスが飛び込んできた。
 キジトラ柄の猫も続けて入ってくる。

「ナイスタイミング! ちょうど昼飯だ」
「ふっ、鼻がいいな」

 はらぺこの可愛いふたりのために、小皿にラーメンを取り分けてやる。
 シェラはずっとカラスの姿でいることに、すっかり慣れていた。獣化スキルは肉体に負担はないようだ。
 眠りにつく際にはさすがに元の姿に戻ったようだが、ここエルフの里での生活をカラスの姿で満喫している。

(幻獣さま、とちやほやされるのが嬉しいみたいだな……)

 まぁ、微笑ましいので放置してある。
 コテツも文字通りネコ可愛がりされていたが、まだ子猫ということで遊んでもらえて満足そう。

「うむ。ラーメンはやはり美味いな。コンビニのカップ麺も良いものだが、袋ラーメンもこれはこれで味わい深い」

 瞳を細めて、幸せそうな表情でラーメンのスープを啜るレイ。イケメンは唇が背脂でテカテカでもカッコ良いから羨ましい。
 
「肉と野菜もてっとり早く食えるし、作るのも簡単だからな」
『美味しいですっ! ラーメン大好きです! お野菜はなくてもいいんですけど、スープが美味しいから食べれますね』
「シェラに野菜を食わすために選んだメニューだからな……」

 器用に麺を食べるシェラ。食べる時くらい人の姿に戻ればいいのに。
 コテツは野菜も肉も旨そうに食っている。いい子! 

 皆はそれからラーメンのおかわりをして、残ったスープにご飯を投入して締めていた。
 シェラとコテツは遊び疲れたのもあり、しばらく昼寝をするらしい。
 ふたりに留守を任せて、レイと二人で里長の家へ向かうことにした。

「商談って言っていたけど、どれだけ買ってくれるのかな。酒だけでいいのか」
「まずは酒だろう。あとは調味料も喜ばれるかもしれんな。昨夜、子供たちに食わせていた菓子も売れると思うぞ」
「そっか。まぁ、この里では手に入りにくい物を提案してみればいいか」

 十軒以上の家の前を通ったが、見かけるのはエルフの子供たちばかりだ。レイが言う通り、大人たちは二日酔いで寝ているのだろう。

「エルフのイメージが……」
「集落によるが、ここの連中はこんなものだぞ?」
「そうなのか。まぁ、人嫌いの偏屈エルフよりはいいかな……」

 酒好きで美味しい食べ物に目がないエルフの方が親しみやすい。
 
「サフェトの家はここだ」

 レイに案内された家は三階建てのコテージだ。他の家よりも少しだけ大きい。
 ドアをノックすると、女性が顔を出した。

「こんにちは。サフェトさんと約束をしているトーマですが……」
「……ええ、聞いていますよ。どうぞ、中へ」

 プラチナブロンドのエルフの女性はサフェトの母親だろうか。
 外見年齢は四十歳くらい。実年齢は不明だが、落ち着いた風情の美しい女性だ。

「レイさま! トーマさんもご足労ありがとうございます。さぁ、どうぞ座ってください」

 笑顔でイスを勧められる。先ほどの女性がハーブティを入れてくれた。ペパーミントに似た良い香りだ。優しい口当たりで、気分がさっぱりする。

「酒の翌日にはよく効く薬草茶なのですよ」
「ああ、なるほど。うん、美味しいです」

 薬草茶で和んだところで、さっそく商談だ。
 昨夜のうちに里の住民たちの間で相談していたようで、かなりの量の酒を注文された。

「瓶ビールが30箱、果実酒のセットも同じく30箱。……こんなに? まぁ、すぐに傷むような物じゃないですけど」
「ふふ。私たちはエルフですから、収納スキル持ちはそれなりにいます。それに、ダンジョンから手に入れたマジックバッグも持っていますからね」
「ああ、それなら心置きなく渡せます」

 エルフたちにはワインも人気で、赤白ロゼと各50本ずつの注文も入った。
 ウイスキーやブランデーは高級品だと先に申告してあったので、ビールよりは控えめな量の注文だ。それでも各10本は購入するようで、支払額が心配になってくる。
 ついでに子供たちが嬉々として飲んでいたジュースも評判で、こちらは酒が苦手なエルフたちが大量に注文してくれた。

「それと子供たちが、昨日食べさせてもらったお菓子をまた欲しいと言っておりまして……」
「ああ、いいですよ。どのお菓子かな。クッキーにキャンディ、チョコレート……」

 実物がないと分かりにくいかと思い、マジックバッグに収納しておいた菓子を取り出してテーブルに並べていく。
 さすがにラッピングは取り除いてある。クッキーは木皿にキャンディはガラスの瓶に詰め替えてある。
 チョコレートだけは銀紙に包んだままだが、まぁ適当に誤魔化すつもりで。

 見たこともない菓子類にサフェトと母親らしき女性が驚いている。
 
「まぁ、こんなの見たことがないわ」
「これは飴なのですか? こんなに綺麗な色の飴は初めて見ました」

 カラフルなキャンディは見栄えがいいので、特に目を惹くのだろう。
 
「どうぞ、味を見てください。……そこの子も良かったら」
「え? ……まぁ、ミーシャ! 隠れてお客さまを見ていたの?」

 ドアの影からそっと顔を覗かせたのは、五歳くらいの女の子だった。
 肩の下くらいの長さの銀髪がさらりと揺れている。好奇心旺盛な瞳は綺麗な翡翠色で、エルフらしく整った容貌をしていた。

「クッキーは好き? 昨日も食べていたよね、たしか」
「…………」

 恥ずかしそうに祖母のスカートの後ろに隠れて、こくりと頷いている。
 昨夜、オレンジジュースを大喜びで飲んでいた女の子だ。
 お気に入りらしいジュースを出して、手招きしてやると、おずおずと寄ってきた。

「はい、どうぞ。クッキーとチョコレートは食べた? このキャンディはお近付きの印にプレゼントしよう」
「良いのですか、トーマさん。甘味は高価でしょうに……」
「あー…ちょっとした伝手がありまして、安く大量に仕入れてあるんです。なので、ついでに菓子も買いませんか?」

 にこりと笑って、すすめてみる。
 日本が誇るコンビニお菓子だ。おそるおそる食べてみた三人がぱっと笑顔になった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *無断転載、無断翻訳を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

処理中です...