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161. 新店舗が追加されました
しおりを挟む「一時的にこのダンジョンを支配していた魔族も倒したし、これで氾濫は起きないよな?」
最下層内を【気配察知】スキルで探り、撃ち漏らしがないことを確認する。
「うむ。このアンハイムダンジョンでは氾濫は起きない。トーマの尽力に感謝する」
訊ねた相手であるレイには、律儀に頭を下げられてしまった。
「いや、こっちこそ助かった。魔族とドラゴン、同時に戦うのは厳しかったから」
実際、両方を一人で相手にするとなれば、魔族を倒せたかどうか、自信がない。
「ああ、そう言えばコレを拾った」
ひょい、とレイから放り投げられた物を咄嗟に受け取った。
拳大の大きさの魔石だ。
黒曜石に似た艶やかな漆黒の魔石は、まるで宝石のように美しい。
「ブラックドラゴンの魔石か。……これ、俺が貰っていいの?」
「お前の物だ。ブラックドラゴンを下した魔族を倒したからな。ついでに、この宝箱も持って行くといい」
「あー……じゃあ、皆で山分けな。中身の確認は家に帰ってからにしよう」
あらためて周囲を睥睨する。
洞窟内に彫られていた玉座は、魔族の女が作った物のようで、ふたたび魔素が充満してきたことにより修復されていく。
戦闘により大きく抉られ、破壊されていた岩肌も元の形に戻っていた。
これなら、ここで魔族が暴れていたことはバレないだろう。
何があったのかを、冒険者ギルドに報告するつもりはない。
悪戯に混乱を招くだけだからだ。
「勇者や、特別に力のある者でなければ、只人に魔族に対抗する術はない。報告して警戒させたとして、防げるものではないからな」
レイがため息混じりに言う。
魔族の暗躍は、災害のようなものなのだろう。それも、どれだけ備えても防げるものではない、理不尽な大災害。
「……そうだな。アイツらの活躍に期待するしかないか」
創造神と対になる破壊神を担ぎ出そうとしている魔族の数は、あまり多くないと聞いた。
元々の種族が闇堕ちしたハイエルフ族だと知って、それも納得だ。
(ハイエルフも幻扱いされているくらい、希少種だって聞いたからな……)
召喚勇者である従弟たちは、既に魔族を何人も倒していると聞いたが、あんなのが大量にいるなんて想像したくもない。
あんなの、と思い出しながら視線を落とした先には特大の魔石が転がっている。
鮮血の色に似た、真紅の魔石。……魔族の女からドロップしたものだ。
(意外と平気なことが、ショックかも)
最初は、小さな魔獣を殺すことさえ嫌な気分になっていたはずなのに。
四つ脚の獣で慣れ、二足歩行の人型に近い魔物を殺すことにもすっかり馴染んでしまっていた。
ゴブリン、オーク、コボルトにオーガ。
だが、ここまで人に近く、言葉を話して意思疎通の可能な相手を殺したのは初めてのこと。しかも、元はハイエルフ──同族だというのに。
思ったよりもショックを受けていない自分に戸惑ってしまう。
「拾わないのか、トーマ」
「……拾うよ」
ずしりと重い魔石が、あの魔族を屠った命の重みと考えるべきなのだろう。
「ところで、魔族は魔物なのか? 人は死んでも魔石を残したりしないものだろ」
それとも、魔法に長けた種族であるエルフは体内に魔石があるのだろうか。
「此奴はダンジョンに長期間潜み、濃い魔素に晒され過ぎたのもあるが、直接的な原因はダンジョンボスと成り変わったことだろうな」
詰まらなそうな口調で言い放ったレイが肩を竦めている。
自業自得だ、と冷ややかに吐き捨てて。
「ダンジョンボスになって、そのまま魔物化したってこと?」
「そういうことだな。安心しろ。ハイエルフは魔石化はしない」
「そっか。なら、いい」
あれは魔物だったのだと思えば、少しだけ気分もマシになった気がする。
とはいえ、これだけのサイズの魔石の取り扱いには困ってしまう。
ブラックドラゴンの魔石でさえ持て余しているのだ。それより一回りは大きな真紅の魔石をどうしてくれよう。
「……さすがに、これは売れないし、持っていたくもないな」
仕方なく【アイテムボックス】に放り込み、何の気なしにポイントを査定してみた。
すると、弾き出された評価額にギョッと目を見開くはめになる。
「……は? 1億……?」
意味の分からない数字が表示されていた。
数字が多い。数え間違いか。
いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……と指差しながら再び数え上げたのだが、何度数え直しても、1億という数字にしかならない。
「うそだろ……? 魔族一匹につき、1億ポイントだと?」
震える指先で、ポイントに変換した。
何かの間違いだったのかもしれないと不安になり、ポイント残高を確認してみたが、やはり1億が追加されている。
「ほぅ。なかなかに良い買取り額になったのだな。重畳重畳」
上機嫌に笑うレイをじっとりと見上げる。
これはもう、あれだな。
「創造神関係が、さっさと魔族を倒せってプレッシャーを掛けている気がするんだが……」
でなければ、このボーナス増し増しのポイント数の意味が分からない。
「ふむ。そうかもしれんな。創造神さまは破壊神さまを抑えるために眠りについておられるが、気を利かせた神の一柱がそう望まれている可能性はある」
「いやいやいや! おっかないから! 今回はレイがいたのと、魔族の女が俺のことを雑魚と侮っていたから倒せたんであってだな……」
したり顔で頷くレイに縋り付きながら、あわあわと首を振る。
あんな恐ろしい相手と何度も戦うなんて、冗談じゃない。
せっかく長命で高性能のハイエルフに転生したのに、命が幾つあっても足りなくなる。
「だが、高ポイントなのだろう? ダンジョンで稼ぎたいと言っていたではないか」
「う……それはそうだけど!」
魔族は怖いが、1億ポイントが手に入る。
しかも、格上の魔族を倒したためか、レベルが5つほど上がっていた。
もう、なかなか上がらなくなっていたレベルが、だ。
ステータス画面を睨み付けていると、ふと更新されている箇所に気付いた。
「ん……【召喚魔法】に新ショップが追加されてるな。新しく使えるようになったのは……マジか!」
百円ショップ、三百円ショップ、コンビニ、大型家具店、異世界不動産に続いて、【召喚魔法】に追加されたのは──
「ホームセンター!」
◆◇◆
なるはやで新ショップの内容を確認したくて、大急ぎでダンジョンを後にした。
大量のドロップアイテムの買取りは明日ギルドに出向くことにして、疲れた身に鞭打って帰宅する。
とはいえ、体力も魔力も限界であったので、まずは食事だ。
夕食の準備をしている間、シェラとレイには交代で風呂に入ってもらうことにした。
まだ子猫のコテツは疲れ切っていたらしく、クッションソファに埋もれるようにして熟睡している。
「めちゃくちゃ腹が減っているから、今夜はカツカレーだな」
今から作り始めるのは大変だが、幸い【アイテムボックス】には作り置きがある。
ジャガイモ、にんじん、玉ねぎにオークの薄切り肉をコンソメで煮込んだベースのスープが寸胴鍋いっぱいに眠っていた。
このままポトフとして食べるのも良し、肉じゃがに仕上げても良い状態にしておいたのだ。
今夜はこれをカレーに仕上げる。
「カレールーを放り込むだけだから、楽でいいわー」
面倒なのは、カツを作る作業。
だが、今夜はがっつりカツカレーが食べたい気分なので、無心で調理する。
使うのは、ちょっと贅沢にワイバーン肉。脂身が少なく、柔らかな赤身の部位がいい。
熟考して、ワイバーンのヒレ肉を使うことにした。
風呂上がりのシェラにも手伝ってもらいながら、分厚く切り分けたヒレ肉でカツを揚げていく。
「綺麗な赤身肉です! 美味しそう」
「生で食うなよ」
「食べませんよっ! でも、サシミにして食べれそうなくらいに綺麗なお肉です……」
「今度、牛刺し食わせてやるから」
空腹の少女を宥めつつ、ワイバーンカツを揚げ切った。
大皿に山盛りにしたカツとオーク肉カレーはセルフ方式で食べることにする。
土鍋で炊いた白飯もたっぷり用意してあるので、後はこう宣言するだけだった。
「よし、好きなだけ食え!」
「「いただきます!」」
「ニャッ」
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