召喚勇者の餌として転生させられました

猫野美羽

文字の大きさ
上 下
134 / 203

133. 勧誘は迷惑です

しおりを挟む

 失礼過ぎる冒険者三人をぶん投げてからは、冒険者ギルドやダンジョン内で変に絡まれることはなくなった。
 なくなりはしたが、数日経った今でも噂はされている。

「お、あれがリトルドラゴンか」
「そうそう。可愛い顔して滅法強いと噂のデンジャラスビューティーだ」
「あんなに好みのタイプなのに男とかマジか……」

 ひそめた声音でも、ハイエルフの鋭敏な聴覚はしっかりと拾ってしまう。

(誰がデンジャラスビューティーだ! あと、男で悪かったな!)

 しかも、たまに嬉しくない発言もぽつぽつ耳に入ってくる。

「最悪だ……。俺も変化か隠蔽の魔道具を使っておくんだった……。シェラと違って俺は男だし問題ないと思っていた」

 だが、そういえば今の自分はハイエルフに転生しているのだ。
 前世の自分も女顔で可愛いと舐められていたものだが、今生はレベルが違う。
 男だからと油断はできなかったのだ。
 肩を落としていると、シェラが慰めようと声を掛けてくれるのだが。

「トーマさん、元気だしてください。多分、私のように色彩を変えるだけでは意味がなかったと思います。とっても可愛らしくて綺麗な顔立ちをしてらっしゃいますし! だから、ここはもう開き直ってデンジャラスビューティーで売っていくのは──…」
「いいわけないだろう」

 あからさまに声を掛けてくる連中は減ったが、下心のある輩はそこかしこにいる。
 冒険者ならではのちょっとしたお得情報などをこっそりと教えてくれるのは、まだマシな方。
 ぶん投げた三人のヤロー共はあれでもそれなりの力量のある冒険者グループだったらしい。
 それを素手の一撃で意識を刈り取った俺のことを、幾つもの冒険者グループがしつこく勧誘してくるようになったのだ。
 それが鬱陶しくて仕方ない。

(ハイエルフだとバレていないのは幸いだけど。外見からハーフエルフって疑われて、さらに引き抜こうとする連中が増えたんだよなー……)

 エルフは魔法が得意だ。
 通常の魔法以外にも、エルフにしか使えないとされる精霊魔法を操れる。
 魔力量も人族の魔法使いの五倍以上はあるとされており、冒険者からは引く手数多あまた
 だが、当のエルフは基本的には引きこもりが多い種族なのだ。
 『森の人』の呼称からも分かるように、自然が豊かな深い森に暮らす者が殆どらしい。
 たまに好奇心が旺盛な変わり者のエルフが里を飛び出して、人族の国の宮廷魔法使いになったり、錬金術師として名を馳せていた。
 そんな変わり者エルフの中には冒険者として活躍した者もいたらしい。

金級ゴールドランクのその上、幻の神銀級ミスリルランクの冒険者だったか)

 強引に勧誘する輩は無視していたが、有用な情報をくれる冒険者とはそれなりに仲良くなり、一緒に酒を飲みながら得た知識を思い出す。
 今は冒険者を引退したらしいが、三十年ほど前に、特別に与えられたランクのエルフの冒険者がいたのだとか。
 輝く黄金色の髪、翡翠色の瞳の美貌のエルフの冒険者だったらしい。
 何でもドラゴンをソロで討伐したらしく、今でもファンが多い伝説の冒険者。
 ギルドの一角では、彼の絵姿の写しが売られているようだ。

 弓と魔法が得意な彼と組んだ冒険者グループは数々の功績を上げたらしい。
 中級ダンジョンの踏破、ダンジョンの氾濫スタンピードの速やかな収束に貢献したとかで、一代限りだが、国から爵位を得たという。

(エルフが一人パーティに加わるだけで、そんなに戦力が上がるのか?)

 おそらくは、そのエルフが特別に強かったのだと思う。
 
「俺に声を掛けてくるのは、都合の良い解釈をした奴らばっかりなのが腹立つ」
 
 滅多に人里には現れない引きこもりエルフを勧誘するのは、ほぼ不可能。
 ならば、エルフの血を引くハーフエルフらしき俺に声を掛けようと考えたのだろう。
 エルフの血を引く者は魔力量が多いと言われている。エルフほど魔法が使えないが、それでも普通の人族よりは強いはずだろうと。
 そんな下心が見え見えなのだ。

「しかも、人のことを未成年の子供だとバカにして……適当に上手いコト言って丸め込もうとしているのが見え見えだっての!」

 元の年齢はこれでも成人済み、二十一歳の大学生だったのだ。
 ハイエルフに転生したため、少しばかり小柄で華奢な体格に変化してしまったけれど。

「ちゃんと会話を交わしたら、トーマさんが未成年の初心うぶな子供だとは誰も思いませんよね……」
 
 シェラも苦笑を浮かべている。
 実際、一緒に酒を酌み交わした冒険者は俺をガキ扱いすることなく、対等に接してくれた。
 そんな気の良い連中なら、仲間になるのは無理でも、一時的にパーティを組むのもやぶさかではないのだが。

「それを、アイツらは……」

 つい先ほどまで、気障ったらしい口調で勧誘してきた男たちを思い出し、眉を顰める。
 うんうん、とシェラも力強く頷いた。

「よりによってトーマさんを『お姫さま』扱いしようとしていましたからね。ありえません」

 女扱いとは違うが、良い待遇を約束しようとにこやかに提示してきた内容が、その『お姫さま』扱いだった。
 フロアボスと遭遇するまでは、一切攻撃に参加しなくても良い。
 なるべく魔力、体力を温存して欲しいので、移動は専用のポーターが担ぐ駕籠かごに入ると楽だろう。
 三食おやつ付き、テントも一番広くて綺麗な物をソロで使わせてやる、と笑顔で勧誘された。

「ありえない。そりゃあ、快適で清潔な環境を俺はこよなく愛しているが。でも、対等な冒険者相手に出す条件じゃないだろう?」
「失礼な話ですよね。トーマさんなら、フロアボスどころか、フロア中の魔獣や魔物を殲滅しても、余裕でスキップしてます」

 スキップはしないけれども。
 ハイエルフの魔力量は膨大なので、アンハイムダンジョン内でどれだけ暴れても早々に魔力切れになることはないと思う。
 特級と呼ばれる大森林内の魔の山ダンジョンを攻略した身には、中級のアンハイムダンジョンはそれこそスキップしながらでも踏破は余裕だ。

(たぶん、コテツも鼻歌混じりに攻略できそうだな……)

 なにせ、うちの可愛い子は賢い上に強くて可愛いので! 
 大事なことなので二回繰り返しました。うちの子は可愛い。

「それにアイツらが気に食わないのは、シェラやコテツをおまけ扱いしたこともだからな?」
「ニャッ」

 温厚なコテツも怒っている。
 猫の妖精ケット・シーのコテツを、ただの非力な子猫と侮っている時点で、アイツらの実力は底が見えていた。
 
「てっちゃんはともかく、私はまだまだ弱いので……」
「シェラは強くなったぞ? 多分、アンハイムで活動している冒険者の中でも平均より上のレベルだし」

 それに彼女には幻獣のたまご──今はヒナ、かな? 得意な属性の風魔法は、既に上級魔法使い並みに成長している。

(今は魔道具で髪や瞳の色を茶色に変えて、ソバカスを描いているから、地味な色彩かもしれないけど! 顔立ちはそのままなんだ。ちゃんと観察したら、とびきりの美少女だと分かるはず)

 なのに、よりによって、うちの可愛い妹分を「地味なブス」呼ばわりしたのだ。
 その瞬間、怒髪天を突いて、勧誘してきた冒険者パーティのいけすかないリーダー格の男を殴り飛ばしていた。
 おかげで少しは気が晴れたし、ソイツらの後で俺にコナをかけようとしていたパーティが青い顔をして離れてくれたので、一石二鳥!
 
「コテツとシェラの良さが分からない奴らなんて、話す価値もない」

 そうして、今日も二人と一匹でダンジョンに潜っていく。
 本日はアンハイムダンジョンの三十五階層に挑戦だ。

「この階層ではコカトリスが狩れるらしいぞ」
「コカトリス……! コッコ鳥より滋養があって、とても美味しいと評判のお肉ですねっ?」
「ん。唐揚げはもちろん、親子丼にすると最高に美味い」

 ぱあっとシェラの顔が輝く。
 コテツもやる気らしく、肩の上で仁王立ちしている。

「よし、じゃあ狩るか!」


◆◆◆

2023年はお世話になりました!
本年もよろしくお願い致します♡

◆◆◆
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *無断転載、無断翻訳を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

処理中です...