召喚勇者の餌として転生させられました

猫野美羽

文字の大きさ
上 下
114 / 203

113. 採取は楽しい 2

しおりを挟む

「たくさん獲れましたね!」

 笑顔で迎えてくれたシェラに苦笑する。
 そう言う彼女の足元には、バケツ二杯分の貝がみっしり詰まっていた。

「シェラも頑張ったな。アサリにハマグリまで見つけたのか。これは買取額が楽しみだ」
「買取り金額がどうなるかは私も楽しみですが、こっちのバケツの貝は売らずに食べたいです……」

 遠慮がちな上目遣いで訴えてくる。
 バケツが足りない、と二つ目のバケツをねだった時から、これを狙っていたのだろう。
 
「ん、いいんじゃないか? 俺も久しぶりに貝が食いたかったし」

 海水を入れたバケツに放り込んでいたため、砂抜きも少しは出来ているようだし。

「本当ですか? やったぁ! 貝料理が食べられる……!」

 バケツの中を覗き込んでいたコテツを抱き上げると、シェラはその場でくるくると舞い踊る。
 足元はいつの間にか、ショートブーツを脱ぎ捨てて裸足になっていた。
 波打ち際で海水を蹴り上げながら歓声を上げる様は幼い少女のようだ。
 十七歳にしては子供っぽいかもしれないが、閉鎖的な集落で暮らしていたシェラはそんな風に無邪気に遊んだことはなかったのだろう。
 屈託なく笑う姿が眩しい。

「遊ぶのはいいけど、服は濡らすなよ?」
「はーい!」

 良い返事だ。
 コテツも楽しそうなので、遊び相手を頼んでおく。

「さて、釣果はこんなものかな」

 生物は【アイテムボックス】には収納できないため、生きたまま捕獲した魚や貝類はバケツやクーラーボックスに入れて砂浜まで運んできた。
 シェラが器用に弓で射た魚や俺が短槍で突いた魚は【アイテムボックス】に仕舞ってある。
 ちなみに採取と捕獲作業に勤しんでいる間、サハギンには何度も襲撃された。
 サハギンとは半魚人の魔物だ。四肢が付いた巨大な魚類で、見た目はかなりグロテスク。人魚のような優雅な存在なら歓迎だが、半魚人は勘弁して欲しい。
 人の気配を感じると、沖合から泳いできて、問答無用で襲ってくる魔物だと聞いた。
 こっそりと岩場から上がってきたところをシェラが見事に撃ち抜いてくれた。

「サハギンからは魔石が手に入る。肉は食えない、あとはエラの部分が錬金素材になるんだったかな……?」

 自力で解体するのは絶対に嫌だったので【アイテムボックス】に収納し、素材化のスキルを使う。
 ポイントに変換ができれば、価値があると分かるのだが、あいにく自分で倒した獲物でないとポイント化が不可能。
 なので、依頼書を見返して、サハギンの買取り部位を確認する。

「うん、魔石とエラで当たりだな。稀に宝箱をドロップするらしいが……今回はなかったみたいで残念」

 ダンジョン外でも宝箱をドロップする魔物がいるのには驚きだ。
 魔獣は滅多に落とさないが、人型の魔物は宝箱や珍しい武器などをドロップすることがあるのだと云う。

「多分、収納スキル持ちの魔物なんだろうな。そいつらが大事に隠し持っていたお宝が、倒されると、残されるのかも」

 海に棲む魔物の宝物とは何なのか、好奇心が刺激されたので、採取依頼は何度か受けてみようと思う。
 久しぶりの釣りや魚突きはとても楽しかったので。

「生きたまま捕獲できた魚は商業ギルドで全部買い取ってもらうか」

 百円ショップで召喚購入した釣竿でも魚はちゃんと釣ることが出来た。
 ちなみに餌は魚肉ソーセージを小さく千切った物を使ってみたのだが、意外と食い付きは良かった。
 サキイカやイカの塩辛を餌にすると良く釣れると、以前に釣り仲間の友人から聞いたことがあったが、魚肉ソーセージもそれなりに優秀だったようだ。

「まぁ、途中で面倒になって、水魔法で生け捕りにしたんだけどな」

 釣り糸が届く範囲で釣れるのは、小振りな魚ばかりだったので、焦れて水魔法を使ってしまったのだ。
 試しに1メートル四方大の水球を海水で作り出し、中を泳いでいた魚をそのままクーラーボックスに移すだけの簡単な作業です。
 海水の巨大なボールを2メートルサイズまで大きくして、さらに【気配察知】スキルを駆使すると、面白いほどに魚を生け捕りに出来た。
 やはり岩場近くよりも沖に近い方が魚も大きく、また色々な種類の魚を捕まえることが出来たので、結果的には大満足だ。

(ちょっとだけズルをしたけど、魚獲りの方法は指定されていなかったし、別にいいよな?)

 釣りも少しは楽しめたし、銛ではなく短槍だが、魚突きも堪能出来たので良しとする。
 何より、岩島にびっしりと張り付いていた牡蠣を大量にゲット出来たので、達成感は凄まじい。

(シェラも予想よりたくさん貝を手に入れてくれたし、これは夕食が楽しみだな)

 大収穫のバケツを抱えて、ほくほくとした気持ちで二人と一匹は岩場を後にした。


◆◇◆


 商業ギルド内の冒険者ギルド出張所での買取りを終え、二人はそのまま宿に戻った。
 採取依頼であったので、二人分の達成報酬と魚介類の現物を査定の後に買い取って貰ったのだが。

「手間が掛かる割に、買取額はそう高くはなかったな」
「魔獣や魔物とは違いますから、仕方がないのかもです」
「まぁ、魚や貝だもんな。その点、サハギンの素材は稼げたな」
「ビックリでしたよね! 水の魔石があんなに高く売れるなんて」

 サハギンから取れる魔石は水属性。
 水の魔石は必需品だ。人は水がなければ生きていけない。
 水の魔道具である水甕みずがめに使うため、この街では特に需要が高かった。

「海の側の街だが、水源が少ない上に、雨もあまり降らない地域みたいだからな。そりゃあ水の魔石は渇望される」

 使える井戸の数が少ないので、街の連中は水甕みずがめの魔道具を愛用している。
 水の魔石を取り付けると、水道の蛇口のように水が溢れてくるのだ。
 小さな水の魔石ひとつあれば、四人家族が三ヶ月は暮らせるほどの水を出すことが出来る。

「宿でも、体を拭く用の水は有料みたいだからな。今日は生活魔法で汚れを落としておくか」
「そうですね。桶一杯の水だと銅貨一枚って聞きました。ここではお水は贅沢品です」

 シェラが暮らしていた集落では水場が豊かだったらしく、この街の水の値段には驚いていた。

(まぁ、桶一杯で千円は高いよなー)

 文字通り、湯水のごとく水を浴びてきた元日本人的にも驚きの価格だ。
 生活用水はもちろんだが、この街は果樹園農家もあったので、水の魔石は良い稼ぎになるだろう。

「釣りや魚突きは楽しかったし、しばらくは岩場の採取で稼ぐか……」

 基本は水の魔石持ちのサハギン狙いで、魚介類は自分たちで食べる分を獲れば良い。
 コテツもシェラも海での採取活動が気に入ったようなので、明日からも続けることにした。
 だが、今はとりあえず──

「宿の庭を借りて、魚料理を作って食おう」

 厳かな口調で宣言すると、シェラとコテツから歓声が上がった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw

かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます! って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑) フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...