召喚勇者の餌として転生させられました

猫野美羽

文字の大きさ
上 下
107 / 203

106. シマエナガはかわいい

しおりを挟む

 真白い小さな鳥に変化したシェラ。
 シマエナガにそっくりな、その小鳥は俺の指先を止まり木にして、チュイチュイと愛らしい声音で囀っている。

(うん。何を言っているのか、さっぱり分からない)

 創造神から与えられた【全言語理解】スキルは動物の声は翻訳してくれないようだ。

(ダンジョンから『ソロモンの指輪』がドロップすれば良いのに)

 ピチピチチュイッ!
 甲高い声音で鳴く小鳥を観察する。
 全長は十センチほど。シマエナガと違うのは体色が真っ白なところか。シマエナガは黒い模様があったような気がする。
 それと、つぶらな目の色がシェラと同じ、綺麗なアクアマリンカラーだ。
 純白の羽毛も良く見ると、白銀色っぽい。

「なるほど、纏う色がシェラの色そのものなんだな」

 体重も数グラムしかないだろう。小さくて軽くて、このまま握り潰してしまいそうで、ちょっと怖い。
 しげしげと眺めていると、不思議に思ったらしき小鳥がこてん、と首を傾げた。
 その破壊力ときたら!

「かっ……!」

 どうにか噛み締めた。
 たかぶる気持ちのまま「かわいい!」と叫んでしまったら、きっとこの小さな愛らしい鳥を驚かせてしまう。
 可愛いが過ぎる姿の小鳥シェラには残念だが、元の姿に戻ってもらうことにした。


◆◇◆


 シェラの着替えのために、テントを張ってやり、地面に散らばる衣服類をまとめて運んでやった。
 念のため、コテツに付き添いを頼んでおいた。

「すみません、トーマさん。着替え終わりました」
「ん、じゃあテントを回収してくる」

 ローブを羽織ったシェラが戻って来た。
 テントを回収し、今日のところは街に戻ることにする。
 一日の稼ぎとしては充分な獲物の量だ。
 せっかくなので、シェラが俺のために採取しようと頑張ってくれた果実を食べながら、街に向かう。
 赤紫色のテニスボールサイズの果実はたっぷりと水分を含んでおり、皮がはちきれそうなほど熟していた。
 慎重に歯を当てて噛み締めると、甘酸っぱい果汁が口の中いっぱいに広がった。

「ん、うまいな」
「でしょう? この時期にしか実らない、美味しい果実なんです!」
「んみゃ」

 シェラもコテツも幸せそうに果実を頬張っている。ちなみにこれらは、ハイエルフの身体能力を活かした俺が採取した。
 ひょいひょいと、軽々木を登っていく俺をシェラは何とも言えない表情で見上げていた。

(まぁ、これでもハイエルフですから!)

 おかげでかなりの数を採取できたので、しばらくはデザートに困らないだろう。
 大きさはかなり違うが、味はプラムに近くてとても美味しかった。
 大きな種は道々に捨てていくのがマナーだとか。
 どのくらいで立派な木に育つのかは分からないが、プラムの小道になると楽しそうだなと思う。

「……で、その【獣化】スキルで変化するシェラのことを集落の連中が執着している、と?」
「執着、かどうかは分からないんですけど……。有翼人の中で、鳥の姿になれる者は滅多にいないらしくて。集落の長が言うには【獣化】する者は聖獣と呼ばれて、守り神として崇められていたと聞きました」
「その割には扱いが良くなさそうだよな? 守り神さまなら、ちゃんと食わせてやれよ」
「っ、ですよねっ! でも、聖獣に不浄の肉は厳禁だとか言われて、私……!」
「落ち着け、シェラ」

 勢いこんで訴えてくる少女を慌てて宥めた。うん、食い物の恨みは深いんだ。
 彼女の求める物をちゃんと与えて大事にしていたら、きっと集落から逃げ出すことはなかっただろうに。

「聖獣か……」

 それがどんな代物かは分からないが、名前からして神々しい。
 俺が知っているのは神獣の黄金竜だけだが、何か関係があるのだろうか。
 黄金竜はデカくて圧倒されそうな神気に溢れていたが、シェラが変化したシマエナガからは特に何も感じなかった。
 しいて言えば、めちゃくちゃ可愛かった。
 これがシェラでなければ、きっと両手でそっと包み込むようにして頬擦りしていたことだろう。
 ふわふわの初雪のような羽毛に包まれた、つぶらな目をした小鳥。
 とうとい、という言葉が脳裏を占める。
 
「トーマさん?」

 押し黙った俺のことを心配してか、シェラがそっと下から見上げてきた。
 微かに首を傾げた、上目遣いで。
 澄んだ湖水のように美しい双つの宝石に見詰められ、息を呑む。

「かっ……」
「か?」
「んんっ、…なんでもない。えっと、今日はギルドに寄ってから宿は俺が取っている所に泊まると良い。あ、もちろん別に個室を用意してもらうから。金も俺が払う」

 どうにか、かわいいを飲み込めた。
 呆れたような視線を向けてくるコテツと不思議そうなシェラから、そっと顔を背ける。

「えぇっ? そんなの悪いです! ちゃんと宿代は払います、けど……あの、もう少しランクを落としたお宿だとありがたいのですが……」
「だから、それは俺が払うって。シェラに紹介したいヤツがいるんだ。聖獣とか、そういうのに詳しいから、きっとシェラの力になると思う」

 そう、そういうのに詳しい知り合いが俺にはいるのだ。
 今は遥か遠い国で、神獣のお仕事に勤しんでいる黄金竜サマ。
 通信の魔道具を使い、彼に相談することにした。


◆◇◆


 冒険者ギルドで狩った獲物を換金し、二人で俺が泊まっている宿に戻った。
 街で一番の宿なため、宿泊料金はそれなりにするが、市場で儲けている俺には余裕で支払えます。
 隣の個室をシェラのために押さえて、まずは夕食を済ませることにした。
 食事は二人分、俺の部屋に運んでもらう。
 宿の食堂だと人目があるから、勝手に味変をしにくい。
 自室なら、味の薄いスープにコンソメを足したり、肉料理にソースを追加出来るからな。
 
「まずは飯にしよう」
「はい!」

 分厚めのボア肉ステーキとスープ、パンはカゴいっぱいに詰められた物が運ばれてきた。
 ご馳走だ、とシェラは無邪気に喜んでいる。
 スープを一口舐めてみて、俺は無言で【アイテムボックス】から取り出した粉末状のコンソメの素を使うことにした。
 スプーンで丁寧に混ぜて味をみて、大きく頷く。

「ん、マシになった。シェラもどう? スープが旨くなる魔法の粉」
「魔法の粉……!」

 こくこくと頷くシェラのスープにも振りかけてやる。
 ついでにハーブが添えられた、塩味オンリーのステーキにも日本製のソースをかけてやった。ガーリック味の旨いやつ。
 パンは焼き立てなので、それなりに美味しいはずだ。固いけど。
 百円ショップで購入したジャムと一口サイズのマーガリンを出しておく。

「お肉美味しいです! スープも!」
「ん、そうだな。コテツも食うか、これ?」
「ンミャ」

 ふるふると首を振って拒否するコテツ。
 宿の夕食は要らない、と主張して作り置きの飯をねだってきたので、彼だけは別メニュー。
 鹿と猪のミンチ肉を使ったミートボールはラード油でじっくりと揚げて、照り焼きソースに絡めたやつ。
 ホットミルクを添えてミートボールを皿いっぱいに盛り付けて出してやると、ご機嫌で食べている。


 宿の料理人が作ったボア肉ステーキはあまり丁寧に処理されていなくて、筋が気になるが、ステーキソースのおかげでどうにか食えるようになった。
 スープもコンソメのおかげで味が深まっている。パンは意外と美味しい。固いけど。
 贅沢な日本の味に慣れた身には微妙だったが、シェラには贅沢なディナーだったらしい。
 美味しい食事に上等な宿の部屋。すっかり気分が良くなったシェラから、スキルのことや集落の話などを聞き出すことができた。


 満腹になったシェラをひとまず部屋に戻して、レイを呼ぶことにした。
 通信の魔道具の手鏡を取り出して、魔力を込める。
 呼び出しても、すぐにその場で繋がるわけではない。
 空を飛んでいる最中だったり、魔物と戦っていて取り込み中の時もあるのだ。
 だが、今夜は運良くすぐに通信が繋がった。
 手鏡に映る自分の顔が消えて、代わりに金色の光に包まれる。
 ゆっくりと光がおさまると、そこには黄金色の髪を靡かせた、美貌の男の姿があった。

「元気そうだな、レイ」
「神獣に元気も何もないだろうに」

 紫の瞳を細めて、男は微笑う。
 黄金竜のレイはトーマをまっすぐ見つめて、何かあったのか、と静かに尋ねてきた。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *無断転載、無断翻訳を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

処理中です...