72 / 203
71. 樽風呂と肉巻き半熟卵
しおりを挟むさっそくワイン樽を使うことにした。
テントの隅に設置しているトイレルームで【アイテムボックス】から取り出したワイン樽を置く。
手洗い用の水道から引いても良かったけれど、すぐにでも風呂を試したかったので、水魔法を使うことにした。
湯にするのには生活魔法の加熱を使い、適温に。
大型家具店ショップで召喚したワゴンにバスセットを用意し、脱ぎ捨てた服もそのままに樽風呂に飛び込んだ。
「あー……」
言葉もなく、緩んだ表情で樽風呂を満喫する。長風呂を見越して、温度は少しぬるめにしてみた。木の香りがする湯は心も身体もほど良く温めてくれる。
汚れを落とす浄化魔法は便利だけど、やっぱり風呂は気持ち良い。
うっとりと湯を堪能していると、後をついて来ていたコテツが興味深そうにこちらを見詰めていることに気付いた。
猫は水に濡れることが嫌いだと思っていたけれど、猫の妖精の彼はどうやら平気らしい。
「コテツも一緒に入ってみるか?」
「ニャッ!」
ほんの冗談のつもりで誘いかけてみると、思いの外元気の良い返事をもらってしまった。
「え? マジで? 水は平気なの?」
「にゃあん」
「そうか。平気なら、まぁ良いか……?」
おいでと手を差し出すと、待ってましたとばかりに寄ってくる。抱き上げて、そっと湯に浸けてみた。子猫は暴れもせずに、じっとしている。本当に平気みたいだ。
「むしろ気持ち良さそうだな……?」
お風呂好きな猫もいるのか。
目をつむり、少し口を開いて心地良さそうに身を預けてくる子猫の姿に感心する。
初めてのお風呂体験だが、どうやらかなり気に入ったらしい。
「そうか。お前も風呂が好きか。この世界にも温泉があったら、一緒に入りたいな」
丸い後頭部が可愛くて、頬を擦り寄せると、ゴロゴロと喉を鳴らして甘えてくる。
ここしばらくのダンジョンアタックで、コテツのレベルはかなり上がった。
魔力量も増えたので、【生活魔法】を教えてやったのだが、あっという間に使いこなすようになったのには驚いた。
今では自慢の毛皮のお手入れは浄化魔法で自力でこなしている。つやつやさらさらの毛並みの触り心地は最高だ。
加熱もしっかり習得した猫舌のコテツは好みの温度になるように、毎食自分で温めている。
うちの子、やはり天才なのでは?
「はー、気持ち良かった……。やっぱり風呂はいいものだ。今度は入浴剤を入れてみよう」
風呂上がりに、コーヒー牛乳を飲む。
コテツにはフルーツ牛乳をあげてみた。こちらも初めての味だったが、美味しそうに舐めている。
蜂蜜入りのホットミルクは風呂上がりには合わないよな、さすがに。
ルームウェアに着替えると、一人と一匹での夕食だ。
「今日もハイオーク肉にするか」
文字通りに「美味しい」階層は何度か周回するので、必然的に肉の在庫が増えていく。
オークよりも脂身が少なく、引き締まった赤身部分の多いハイオーク肉は食べやすくて美味しい。
薄くスライスしたハイオーク肉を使って、肉巻き半熟卵を作ることにした。
「茹で卵は大量に作り置きしてあるんだよなー。半熟卵のタッパーはこれか」
味玉が好きなので、麺つゆに漬けた半熟卵はたくさん作ってある。
今回は肉に味を付けるので、漬け込んでいない半熟卵を使うことにした。
作るのは簡単だ。ハイオークのバラ肉に塩胡椒をして半熟卵に巻き付けて焼くだけだ。薄く小麦粉をはたくのを忘れずに。
フライパンにオリーブオイルを敷き、肉に焼き色がつくまで火を通していく。焼きすぎると、せっかくの半熟卵が台無しになるので、火加減には気を付けた。
砂糖と醤油、みりんに料理酒で味付けし、煮込めば完成!
レタスとトマトで飾りつければ、なかなか見栄え良く作れたと思う。
「ごあーん!」
「分かった分かった。コテツの分もあるって」
最近ではカリカリに見向きもしなくなったコテツは、俺と同じメニューを食べたがる。
こんなに小さいのに、一人前をぺろりと食べるのだ。
肉巻き半熟卵を食べやすいように切り分けて、コテツ用の皿に載せてやると、大喜びで顔を突っ込んでいる。
美味そうに食ってくれる相手と食卓を囲めるのは幸せだ。
「ん、美味い。さすがハイオーク肉」
甘辛く煮込んだ肉と、とろりと黄身が絡まる半熟卵のマリアージュにうっとりとする。
これは白飯がすすむ。
肉巻きおにぎりも良いけれど、半熟卵巻きもありだな。濃い味付けなので弁当メニューにも最適に思える。
「うまいか、コテツ?」
「うみゃあ!」
「そうか。もっと食え」
これが「食わせたがる」オカンの気持ちというやつか。いっぱい食べるうちの子かわいい。
べっとりとタレで口元を汚した子猫の顔を拭いてやる。
されるがままに身を任せて甘えてくるコテツをひとしきり撫で回すと、面倒な後片付けに取り掛かった。
食後のアイスクリームはコテツと半分こにした。バニラアイスにブルーベリーソースを添えて。ちなみにブルーベリーはコテツが植え替えを手伝ってくれた木から採取したものを使った。
ジャムほどには煮込まずに、水分が多く残ったフルーツソースを作ったのだ。
ヨーグルトやアイス、たまに肉料理にも使っている。これがまた良いアクセントになって美味しいのだ。
こってりとした肉料理にはブルーベリーの酸味がよく合う。
コンビニで買ったファミリーサイズのバニラアイスにはブルーベリーソースの他に、森で採取したミントを添えている。
ちなみにコテツのアイスにはキャットニップを載せてみた。西洋またたびとも言われているイヌハッカだ。猫とか犬とかややこしいが、同じハーブらしい。
これはダンジョン内でコテツが見つけた。
やたらと草に体をこすりつけて、コロコロ転がっていたので【鑑定】してみたら、キャットニップだったのだ。
「またたびより弱いみたいだけど、結構効いてる?」
普通の子猫にはもちろん与えたらダメだが、コテツは猫の妖精。森に棲む妖精なのだから平気かと思ったが、気持ちよく酔っ払っているようだ。
またたびは見つけても、しばらくはお預けだな。
「猫にはキウィもまたたびと似た効果があるんだったかな……?」
うろ覚えの知識なので、心もとない。あとでアキに聞いてみよう。
「そういや、アイツらもダンジョン攻略にかなり力を入れているみたいだよな」
新しく解放された召喚魔法のショップリストに大型家具店が追加されたと知り、三人とも張り切っているらしい。快適な寝具を切望されてしまった。
さすがに消費ポイントがデカすぎるので、その旨を告げると二割り増しでも良いから! と切々と訴えられた。
(まぁ、ちゃんと餌として働かないとだしなー……)
良い睡眠は肉体にも精神にも影響するもの。ベッドと布団、枕にシーツ類を早急に! と従弟だけでなく創造神にまでお願いされてしまった。
1人10万ポイント前後になりそうだったが、すぐに金貨二枚が送られてきた。
賢者と名高いアキが必死で覚えた【空間拡張】をテントに施すことが出来たようなので、仕方ない。頑張ったご褒美だ。
「家が欲しかったけど、これだけ家具が揃ったら、意外とテント泊も快適になったんだよなー」
しばらくはテントでも我慢できそうなので、かわいい従弟たちのためにポイントを消費して寝具を揃えてやろう。
寝具が第一希望だが、残金でルームウェアも欲しいとのリクエスト。
レベル80到達のお祝いに1割増しで売ってやろう。スキルや魔法も新しく、いくつか覚えたらしい。さすが勇者御一行。
召喚した一式をそれぞれのアイテムボックスに送ってやった。
300
お気に入りに追加
2,577
あなたにおすすめの小説

いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜
EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」
優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。
傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。
そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。
次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。
最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。
しかし、運命がそれを許さない。
一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか?
※他サイトにも掲載中

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~
イノナかノかワズ
ファンタジー
助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。
*話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。
*他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。
*頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。
*無断転載、無断翻訳を禁止します。
小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。
カクヨムにても公開しています。
更新は不定期です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる