召喚勇者の餌として転生させられました

猫野美羽

文字の大きさ
上 下
66 / 203

65. 子猫のステータス

しおりを挟む

 ダンジョン攻略を再開することにして、あらためて猫の妖精ケット・シーのコテツのステータスを確認することにした。
 テイムした存在は【鑑定】スキルで詳しくステータスを把握できる。
 
「良い子だな。じっとしてろよ?」

 小さな子猫を膝に乗せ、スキルを発動する。遊び足りないコテツが逃げようとするのを抱き止めて、くすぐってやると可愛らしく喉を鳴らして大人しくなった。
 これ幸いにと【鑑定】を掛けてみる。


〈ステータス〉

コテツ 生後30日〈ケット・シー〉
レベル1

HP  100/100
MP  1500/1500
力 5
防御 5
素早さ 10
器用さ 7
頭脳 6
運 90

スキル 【生活魔法】【精霊魔法】
固有ギフト 【植物魔法】
※テイム状態


「素早さ以外、一桁のステータスか……」

 生後1ヶ月、レベル1では仕方ないか。
 それにしても運とMPが、やたらと数値が大きい。この子だけ生き残れたのは、この強運のおかげだろうか。
 ちなみにMPがこれだけ増えているのは、俺がせっせと回復魔法を掛けてやった所為らしい。ハイエルフの極上のマナをたっぷり吸収して育っちゃったからね……と創造神がこっそりメッセージを送ってきた。
 まぁ、いいんじゃないだろうか。魔法猫。かわいくて。

 【生活魔法】が使えるのはありがたい。
 あれから魔法の書で調べたところ、この世界のケット・シーは『家につく妖精』だと知った。
 気に入った家に棲み付く存在で、ミルクやおやつと暖かな寝床を提供すると代わりに家事を手伝ってくれるらしい。
 気になるのは【精霊魔法】と固有ギフトの【植物魔法】か。
 精霊の力を借りて四属性魔法を扱うことができるのが【精霊魔法】。

「攻撃や防御は【精霊魔法】を使うんだな。固有ギフトの方は、植物を育てる魔法か? へー。ちょっと面白そうだな」

 召喚魔法ネット通販で家を買えば、庭で小さな畑を作る予定でいたので、お誂え向きの能力だ。
 膝の上で微睡む子猫をそっと撫でてやる。
 無防備にへそ天姿を晒すキジトラが愛しくてたまらない。

「レベルを上げてステータスを強化しないと、かなり心許ない数値だよなぁ……。しばらくは俺が痛め付けて弱らせた獲物にトドメを刺させてレベルを上げていくか」

 この小さく愛らしい生き物に魔獣を倒せるのかは不安だが、弱いままでは母親や兄弟たちのように喰われてしまう恐れがあった。

「ずっと俺が側で守ってやれるとは限らないしな」

 うっかりテイムしてしまったが、本人──本猫の希望を優先してやりたいので、ある程度まで育ててから、手放してやるつもりだった。

「俺の近くにいたら危険かもしれないし。……本当言うと、ずーっと飼いたいところだけど」

 ずっと、このダンジョンや大森林にこもっているつもりはないのだ。
 せっかく異世界に転生したので、従弟たちが邪竜とやらを倒して平和になった世界を見て回りたい。
 念の為に変装をするつもりではあるが、この身はレア種族らしいハイエルフ。
 人族至上主義の国によっては亜人と蔑まれ、奴隷に堕とされる可能性もあるらしい。

(勇者の従弟たちが元の世界に戻れば、餌になっている俺も少しは安全に生きられるかな。……いや、創造神からもらったギフトが狙われる可能性もあるから、やっぱり目立たないように生きるべきだな)

 厄介な連中に目を付けられたら、楽しいスローライフは送れそうにない。
 異世界旅行に関しても、普通に魔獣や野盗などが闊歩している物騒な世界なので、やはりそれなりの腕はあった方が安心だろう。
 逃げ隠れするにも、ステータスは上げておいた方が良いに決まっている。
 明日からはスパルタ教育だな。
 


「よし、行け! コテツ!」

 ゴブリンの群れは一匹だけ残して、他は魔法で潰しておいた。
 残した一匹もかなり加減して弱らせておいたので、残りHPは一桁になっている。
 近接戦闘だとコテツに何かあったら大変なので、ここしばらくは魔法で遠方から攻撃をしていた。

「ミャア!」

 てちてちと瀕死のゴブリンに近付いていったコテツが、その小さな前脚でぺちんと猫パンチを繰り出した。とんでもなくかわいい。
 とんでもなくかわいいが、攻撃力はめちゃくちゃ低い。
 幸いと言うか、瀕死に近いゴブリンにはそれなりのダメージだったのか、猫パンチ一度につき、HP1ずつ減っていく。
 9回ほど、愛らしい猫パンチをぺちぺちと繰り返したところ、ゴブリンはようやく淡く光ってドロップアイテムに変化した。

「みゅ?」

 不思議そうに小首を傾げている。
 どうやら、今の攻撃でレベルが上がったようだ。ステータスを見ると、力や素早さなどの数値が少しだけ上がっている。
 かなり不安だったHPも微妙に増えており、ほっとした。

「よし、この調子でどんどん倒していくぞー!」

 気分は園児の引率だ。
 子猫は気まぐれなので、いくらテイムした俺が命じても、飽きたら梃子てこでも動こうとしない。
 そのため、彼が飽きないように工夫しつつのダンジョンブートキャンプは続いた。
 猫パンチぺちぺち作戦に飽きたコテツには、魔法を教えて興味を誘う作戦だ。
 猫の妖精ケット・シーのコテツには【生活魔法】はまだ難しかったが、【精霊魔法】は使いやすかったようで、難なく地水火風の四属性魔法を精霊の力を借りつつではあるが、魔獣や魔族を倒していく。

「良し、上手いぞ。そのまま水球を動かして、ゴブリンの頭部を覆ってしまえ」

 この小さな肉体では魔力が欠乏すると命に関わりそうなので、数値を確認しつつ省エネ魔法を教えてやった。
 水魔法では水球を創り出して、窒息させる。火魔法は燃費が悪いので今はスルーして、土魔法では土を操作して獲物を串刺しにして倒させた。

「なかなかやるじゃないか。もうレベルが6だぞ?」

 倒した数が少ない割には、レベルの上がりが早い。もしかして、彼は種族特性とやらで経験値が入りやすいのかもしれない。

「よし。今日の訓練はここまでにしておこう。後は本日の野営地探しな」

 日が暮れるにはまだ少し早いが、意外と拠点探しは時間が掛かる。
 景色が良く、緑が豊かで綺麗な水場が近くにあれば、なお良し。
 なんとも贅沢な拠点探しだが、ここでコテツが大活躍した。
 なーん、と可愛らしく宙に向かって鳴いたところ、どうやら周辺にいた精霊が良い場所を教えてくれたらしい。
 適当に魔獣を蹴散らし、露払いしながら精霊が俺たち──と言うかコテツだな? 小さな猫を案内してくれた。

「精霊は大の猫好き。理解した」

 ありがたく、そのおこぼれを貰うことにして、てちてち歩く子猫の後を追った。


「さすが精霊。分かっているなー」
「ぴゃあん!」

 上機嫌で会話を交わす。
 コテツも嬉しそうに尻尾をぴんと立てて返事をしてくれた。
 精霊が案内してくれた、とっておきの場所はセーフティーエリア内の広場だ。目の前には小さな滝が見える。
 マイナスイオンをたっぷり浴びることができる、素晴らしいキャンプ地で、ウキウキと調理を始めた。

「今日はオーク肉を使ったハンバーグステーキにしよう。……ん? お前も欲しいのか?」

 普通の子猫なら絶対にダメだが、妖精のコテツにとって、人間の食べ物は嗜好品。
 毒にも薬にもならないよ、と創造神が教えてはくれたが、何となくそのまま与えるのは気が引けた。
 なので、玉ねぎ抜きのたねにして、子猫サイズの小さな特製のハンバーグステーキを焼いてやる。
 ケチャップとマヨネーズを鼻先に差し出すと、小さな前脚はマヨネーズを選んだ。
 マヨラーの妖精か。
 リクエスト通りにハンバーグにマヨネーズを添えて、そっと提供してみると、大喜びで食べ始めた。
 小さな牙を器用に使い、丁寧に肉を噛み砕いているところは、妖精といえども、肉食の猫の性質が強いなと感心する。

「……ん。オーク肉ハンバーグステーキ、旨いな。肉汁がすげぇ」

 一人で食べるよりも、相棒と一緒に食べる飯は格別だ。
 明日は何を作ってやろうか、と自然と口許が綻んでいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *無断転載、無断翻訳を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

処理中です...