53 / 203
52.〈幕間〉夏希 3
しおりを挟むレベルが上がった。
ステータス画面を確認し、にんまりと笑う。
レベル10で挑戦したダンジョン。
1週間ほど泊まりがけで、ひたすら魔獣や魔物を狩りまくったおかげで、今やレベル48だ。
ハル兄やアキも50前後までレベルが上がったようで、ひとまずの成果に満足そうにしている。
勇者特権でレベルが上がりやすい特性には感謝しかない。
「どうせならキリ良く50までレベル上げしておきたかったんだけどなー」
「無理を言うな。そろそろ物資も尽きる。一旦は引き上げて、また潜れば良い」
アキがちらりと付き添いの騎士や神官たちを一瞥する。
【アイテムボックス】持ちの私たちなら、もうしばらくは物資にも困らないだろうが、彼らは容量制限付きのマジックバッグしか持ち込めていないのだ。
当初の予定の一週間分+αの食料と野営道具でバッグはいっぱいらしい。
(トーマ兄さんから仕入れた食料がまだ結構あるけど、あんまり分けたくないしね)
百円ショップの缶詰やカップ麺なら多少融通しても良いとは思うが、コンビニ商品は譲れない。
ホットスナックにおにぎり、お弁当、サンドイッチ。特にパティシエコラボのスイーツは絶対に誰にも渡したくはなかった。
セーフティエリアを見付けての、休憩時間。ちょうどおやつタイムだった。
【アイテムボックス】から、とっておきのスイーツを取り出した。
「ふふっ。今日のスイーツはベルギー王家御用達のショコラブランドがコンビニコラボした、魅惑のザッハトルテ!」
ミニサイズのケーキだが、お値段はかなりする。とは言え、デパ地下で買うよりはかなりお得に楽しめるので嬉しい限りだ。
羨ましそうにこちらを眺めてくるハル兄やアキの目の前で、一口ずつ大事に味わって食べた。
それに釣られたのか、兄のハルが【アイテムボックス】から焼肉弁当を取り出す。
生活魔法の加熱を使い、セルフで温めると、わしわしと豪快に食べ始める。カルビの匂いが魅惑的だ。
アキが眉を寄せている。うん、焼肉の匂いはやばいよね。食欲を掻き立てられる。
結局、アキも【アイテムボックス】からコンビニ弁当を取り出した。選んだのはカツカレー。匂いテロに対抗したのか。
付き添ってくれていた騎士たちが切なそうに顔を歪めている。
「うん、美味しかったわ、ザッハトルテ。満足」
「焼肉弁当も最高だな! 次は牛タン弁当が食いたい」
「弁当ひとつじゃ足りないだろ、ハル」
「〆のカップ麺食うから平気!」
相変わらず、ハルの食欲は凄い。
すらりとして一見スレンダーに見えるアキも実は兄に負けず劣らず食べる方だが、マナーが完璧で綺麗に食べるからか、あまり大食いには見えないらしい。
「はー。それにしてもコンビニ弁当はやっぱり美味いよなー。もう、こっちの世界の料理が食えなくなりそう」
「そうね。日本産の調味料やソースを使った料理ならまだしも、異世界レシピのご飯はキツいかも……」
「肉に限っては、魔獣肉の圧勝だがな」
「ああ、そうだった。魔獣肉のステーキやカツは最高に美味しかったわね」
大森林近くで採取された果実も美味しかったので、素材は良いはずなのに。
調味料さえあれば、城での食事もどうにか美味しく食べられるが。
「トーマ兄から聞き出したレシピ、城で買って貰ってるんだろ? アキ」
「ああ。自分達でも食べたいからな。菓子類のレシピはもっと高値を付けても良さそうだ」
「アキは良い商人になりそうね。賢者よりも向いてるんじゃない?」
「自分でもそう思う」
揶揄ってみても、アキはしれっと流す。
我が兄と違って、可愛げがない。
レベルと共にアキは視力が上がった。
もうメガネは使っていないのに、いつもの癖で眉間に指を添えてしまい、戸惑っている姿は、ちょっと可愛いかもしれないが。
「買って貰うと言えば、他にも売り付けているんでしょう?」
「ああ。とりあえずは紙の作り方、綿花の栽培法を売り付けたぞ。大金貨になった」
「大金貨って金貨百枚分だっけ? 金貨が十万円だから、……いっせんまんえんっ⁉︎」
「成功したら、成功報酬も貰えるぞ。そっちは大金貨二枚だ」
「合計三千万円かー…。いいな、もっと売ろう!」
「無理を言うなよ。電子書籍の図鑑レベルの内容だぞ。こんなことなら、世界史や文化史の本を買っとくんだった」
「トーマ兄さんの召喚魔法で買えないのかな?」
珍しく落ち込んだ様子のアキに、何の気なしに呟くと、すごい勢いで振り向かれた。
「本は買えないだろ。コンビニじゃ雑誌や漫画くらいしか置いてないし」
「店頭には新刊や売れ筋な本しか置いていなかったけど、コンビニのネットショップがあるじゃない? 私、たまに特典目当てでコンビニのオンラインショップで本を買ってるんだ。結構、色んな本を扱っていたから、あるんじゃないかな」
「知らなかった……」
そういえば、アキは基本は図書館利用か書店で直接見て買うタイプだったか。
「トーマ兄に確認してもらったら? 私も欲しい本があるから、後で聞いてみよっと」
「え! じゃあ俺も欲しい漫画、聞いてみる! 週刊の雑誌は読み終わった後送ってくれてるけど、コミックスの新刊がそろそろ発行されてるはずだし」
「ハル、お前ちゃんと小遣いあるんだろうな? コンビニで爆買いしていたようだが」
「う……。やばい、かも?」
「……私もちょっと心許ないわね。ダンジョンのドロップ品を売り払ってから、リクエストすることにしようかな」
コンビニスイーツやアイスクリームをついつい大量に購入してしまったのだ。
食べたかったので後悔はしていないが。
金貨一枚、十万円の爆買いは楽しかった。
が、私たち新米勇者のお給料は一日銀貨二枚、二万円。
五日分を一気に使い切ってしまったのは、ちょっとだけ反省している。
「……私、百均コスメを王妃さまや姫さま達に売り付けるわ。化粧水や乳液、ハンドクリームはもう売ったから、リップやファンデ、マニキュアあたり。きっと売れる」
トーマ兄から仕入れたので元手は百円だが、銀貨数枚で買い取ってもらえるので、かなりの儲けが出るのだ。
女性の美に対する執念は、どこの世界も変わらない。
「なら、俺も調味料と紅茶を売りつけるか。紙と鉛筆もまだ在庫があるから、金貨にはなりそうだな」
「マジか。えっと、じゃあ俺はカップ麺とポテチ……?」
アキはともかく、ハルはもう少し考えて仕入れるべきだと思う。
今のところ、私は化粧品関連とアクセサリーや布の販売でそれなりに稼げている。
百均商品の端切れでも、この世界では希少な布地なのだ。
蜂蜜やジャム、飴などの甘味はかなりの量を売り付けてしまったので、さすがにもう売れない。
(トーマ兄の召喚魔法がバレたらやばいから、慎重にしないといけない)
魔族だけでなく、欲にまみれた人族まで敵に回したくはなかったので、そこは三人とも気を付けている。
飽くまでも、最初から【アイテムボックス】に収納していた物を売り払っていると思わせなくてはいけないのだ。
「ダンジョンのドロップ品がかなりあったから、換金に期待するぞ、俺は!」
「良さそうな武器はドロップしなかったがな」
「トーマ兄さんなら、やっぱり弓かなぁ? 短剣も似合いそうだけど」
ドロップした武器をトーマ兄さんに送る予定だったが、残念だ。
今回は浅い階層だったので、次回に期待しようと思う。
「城に戻って二日は休息に充てるとして、またすぐにダンジョンに挑戦するぞ」
真剣な表情でアキが宣言するのに、私たちは頷いた。
早くレベルを上げて力をつけなければ。
大森林の奥に潜伏するトーマ兄さんと合流するため、大切なものを守り切れるほどの、力を。
313
お気に入りに追加
2,575
あなたにおすすめの小説

いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

『転生したら「村」だった件 〜最強の移動要塞で世界を救います〜』
ソコニ
ファンタジー
29歳の過労死サラリーマン・御影要が目覚めたのは、なんと「村」として転生した姿だった。
誰もいない村の守護者となった要は、偶然迷い込んできた少年リオを最初の住民として迎え入れ、徐々に「村」としての力を開花させていく。【村レベル:1】【住民数:0】【スキル:基本生活機能】から始まった異世界生活。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】
雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。
そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!
気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?
するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。
だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──
でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

異世界に転生したら?(改)
まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。
そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。
物語はまさに、その時に起きる!
横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。
そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。
◇
5年前の作品の改稿板になります。
少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。
生暖かい目で見て下されば幸いです。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ
さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw
かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます!
って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑)
フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる