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50. 巣ごもり準備
しおりを挟む「さすが魔の山。獲物には困らなそうだな」
三時間ほど周辺を索敵し、倒した魔獣や魔物の数は二十八匹ほど。
大型の猛禽類の魔獣、ロックバードを皮切りに、オークの群れとハイオーク、コボルトやホブゴブリン、ゴブリンナイトなどと遭遇した。
【気配察知】スキルで先にこちらが気付いた場合は、遠方から先制攻撃を仕掛けた。
戦利品として魔物から手に入れた弓を使い、練習がてらに的にして。
【身体強化】スキルは、魔力を全身に行き渡らせて肉体を強化するスキルだ。
ならば、魔力を身体ではなく、武器に行き渡らせれば、武器自体を強化できるのではないかと考えて、試してみたのだ。
何度か失敗し、練習を重ねてみて、ようやく成功した。
「木製の弓矢、石の鏃じゃ、普通は魔獣を倒せないよな」
だけど、魔力を纏わせて強化した矢はオークの額を射抜くことが出来た。
【物質強化】だけでなく、それぞれの属性の魔力を纏わせれば、さらに攻撃力が増す気がする。
「明日はその検証だな」
普通に攻撃魔法を使うよりも、弓矢を強化して放った方が、魔力の消費も少なく、燃費が良いので、この技術はモノにしたかった。
「さて、獲物をポイント化するか」
肉食らしきロックバードだが、鑑定の結果では食用可、美味とあった。
美味しい肉はいくらあっても困らないので、これはポイント化せずに自家消費用に【アイテムボックス】に収納しておく。
オークとハイオークの肉ももちろん確保だ。コボルトやゴブリン種とその他の素材や魔石はポイントに換えていった。
現在のポイント残高は、4,370,028Pだ。
ちなみに召喚魔法では、未だ家屋類は購入できなかった。
「仕方ない。しばらくは稼いで貯めておこう。梅雨の間に稼げないのは辛いが、雨風は凌げるようになったし、しばらくは休暇と思って、のんびりするか」
森の日暮れは早い。
夕方の五時前には既に陽が落ちて、真っ暗になる。
なるべく暗くなる前には拠点に戻るつもりだが、自然の中では何が起こるか分からない。
そのため、百円ショップで購入した、ソーラー式のガーデンライトを洞窟の入り口周辺に挿しておいた。
ランタンほどの明るさはないが、ぼんやりと光を放つ様は目印としては充分だ。
「洞窟の中ではランタン二つをずっと灯しておくとして、通路にも明かりは欲しいな」
二つのランタンは向こうの世界から持ち込んだ物なので、創造神の祝福付き。
どれだけ使っても劣化せずに壊れることもなく、エネルギーが尽きることはない代物なので遠慮なく使い倒せる。
「百円ショップでも乾電池式のLEDランタンが売っているな。三百円? マジか。安いな……」
乾電池式のランタンを一晩ずっと使うのは勿体無いが、乾電池も百円で購入できるので、ここは安全経費と割り切った。
無駄に細長くした通路に、さっそく三百円のLEDランタンを置いた。
風呂は入るとしても日中なので、トイレの手前に設置する。
「うん、明るい。充分だな」
ランタンの灯りの下で、さっそく夕食作りに励んだ。
せっかくのロックバード肉なので、本日は唐揚げにすることにした。
一口サイズに肉を切り、唐揚げ粉をまぶして寝かせておく。
その間にじゃがいもを茹でてポテトサラダを作ることにした。大鍋いっぱいのお湯にじゃがいもを投入し、キュウリと玉ねぎをスライスする。
キュウリは塩揉み、玉ねぎは水にさらして、魚肉ソーセージを細かく刻んだ。
「ん、そろそろ肉を揚げるか」
唐揚げ粉が馴染んだようなので、サラダ作りと並行して揚げていくことにした。
二口コンロを持ち込んで良かったと、しみじみ思いながら、たっぷりの油で肉を揚げる。
「じゃがいもにも火が通ったようだな」
湯を捨て、鍋のままじゃがいもをマッシュしていく。百均商品のマッシャーがあるので簡単だ。隠し味にコンソメパウダーを振りかけて、ひたすらマッシュする。
ごろっとしたポテトが残るサラダも人気のようだが、俺の好みはなめらかなサラダなので、丁寧にマッシュした。
搾ったキュウリとスライスした玉ねぎ、ソーセージを投入し、塩胡椒で味付けする。
マヨネーズはたっぷり、ケチらずに投入する。マヨラーではないつもりだが、ポテトサラダのマヨネーズは多ければ多いほど美味しいと思う。
「っと、唐揚げが焦げるとこだった!」
ついサラダ作りに熱中してしまった。
慌ててロックバードの唐揚げを鍋から救出し、次の肉を油に投入する。
「ポテトサラダも唐揚げも大量に作れたな。作り置きにして、何回かに分けて食べようか」
百均商品の大ぶりのタッパー二つ分のポテトサラダは圧巻だ。
唐揚げもロックバード肉を丸々使っているので、こちらも大量にある。
キッチンペーパーを敷いた大きめの深皿に盛り付けていくが、山盛り食っても十日以上持ちそうな量だった。
「しばらくは節約生活の予定だし、作り置き料理は良い考えかも?」
どうせ梅雨の間は暇なのだ。
狩っておいた肉を使って、色々な料理を作っておけば、暇潰しもできるし、一石二鳥である。
「コンビニの書籍コーナーに、レシピ本もあったし。参考にして、何品か作っておくか」
せめて漢飯から、もう少しレベルアップしたい。
レシピ本は幸い、人気料理人のキャンプ飯特集本や酒のつまみ料理、ガッツリ肉料理本など、興味深いラインナップだったので、ありがたく召喚した。
特に面白そうなのが、ホットサンドメーカーを使ったレシピ本で簡単なわりに食欲をそそる写真ばかりで、今から作るのが楽しみになってきた。
「とりあえず、今日のところは唐揚げ定食だ。温めたパック飯とインスタントの味噌汁になるけど」
コンビニでは白米が売っていたので、土鍋で炊飯するのも良いかもしれない。味噌汁やスープ系も作り置きしておけば便利だ。
「せっかく肉には困っていないことだし、カレーやシチューを自作するのもありだな……」
百円ショップのレトルトカレーも悪くはないが、節約生活を目指すなら、自作がベストだろう。魔獣肉美味いし。
加熱したパック飯とインスタント味噌汁はそれなりだったが、ロックバードの唐揚げとポテトサラダは美味しかった。
ロックバード肉は地鶏に似た食感で、噛み締めると滋味豊かさにうっとりする。
筋肉質で少し固い肉だが、唐揚げには良く合っていた。
「片栗粉をまぶして、低温で茹でた水晶鶏にしても美味しそうだな……」
筋肉をつけたくて、鶏の胸肉中心の料理作りにハマっていた頃にお世話になったメニューである。
水晶鶏はタッパーいっぱいに作り置いて、大根おろしソースで食べるのが好きだった。
「うん。コッコ鳥とはまた違った味わいで面白いな、ロックバード。また見付けたら狩っておこう」
コッコ鳥に比べて、かなり大きなサイズなのもありがたい。
脂身が少ないので、気兼ねなく食べられるところが素晴らしい。
「……そういえば、アイツらに連絡するの忘れていたな。拠点が決まったこと、知らせておくか」
夕食後、丸一日触っていなかったスマホを取り出して、タップする。
通知が大量に届いていて「げっ」となった。嫌な予感を抱えながら、アプリを開くと三人分のお小言が送られてきている。
「あー……まぁ、心配だよな。連絡取れないと。それは俺が悪かったけど、こえーよ! 五分ごとのメッセージとか!」
しかもそれが三人分だ。
うへぇ、と顔を顰めながらも、勇者メッセのグループトーク欄に「生きてるぞ」と一言入れて、ついでに毛玉がふわふわ舞うスタンプもタップしておく。
夕食時にも関わらず、三人の従弟たちから一斉にお叱りのメッセージが飛んできて、首を竦めてやり過ごした。
揚げたてのロックバード唐揚げの賄賂と今後は一日一回は必ず連絡しますと約束して、どうにか許されたのだった。
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