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40. テールカレー
しおりを挟むオオトカゲの魔獣のテールスープをベースに作ったカレーは絶品だった。
100円ショップで購入したカレーの固形ルーを放り込んだだけとは思えない、深みのある味に舌鼓を打ちながら、夢中で平らげた。
「煮込むのに時間は掛かるけど、絶品だよな、テール料理」
テールカレーを残したくなくて、ショップで召喚した、塩バターパンで皿を綺麗に拭い、口に放り込む。うん、旨い。
カレーは断然ライス派だが、このテールカレーはパンが合う。
「尻尾肉、癖になりそうだな……。スジ肉にちょっと近い食感だから、おでんにしても美味そう。トロットロのスジ肉、最高だよなぁ……」
赤ワイン煮にしても美味そうだったが、あいにく手元にワインがない。
トマト缶があるので、代わりにトマトソースベースで煮込むレシピもありだろう。
カレーやハヤシライスにして食べる場合は下茹でをするよりは、オリーブオイルで焦げ目がつくくらいに焼いて、ことことと煮込む方が良いかもしれない。
「まぁ、トカゲや亜竜系の魔獣は魔の山でそれなりに出没しそうだし、近くに気配があれば狩ることにしよう」
うっかり食欲に流されそうになったが、今はなるべく早く目的地に辿り着きたい。
巨大な魔の山は中腹から上は山肌も露わで、ごつごつとした岩壁が目立つ。
魔法書によると、自然の産物の洞窟がいくつかあるらしい。
「家を召喚魔法で購入出来るまでレベルが上がっていなければ、ひとまずはその洞窟を拠点にして、梅雨を凌げば良いしな。何処にあるか分からない洞窟を探す時間の余裕は欲しい」
万能の魔法書のように考えていたが、場所などの詳細は教えてくれなかった。
仕方がない。地味に探して行こうと思う。
「最悪、固めの岩壁を土魔法でぶち抜いて、人工の洞窟を作って拠点にしてもいいしな」
力業なので、最後の手段にするつもりだが、それはそれで悪くないかもしれない。
天井と壁があって、雨風が凌げるならば、創造神に祝福されたチートなテントで快適に過ごせるのだ。
(あれ? それだと別に家はいらないか?)
楽な方につい流されそうになったが、どうにか思い止まる。
だって、テントには風呂もトイレもないのだ。風呂は生活魔法の浄化で代用してきたし、トイレも繁みに隠れて済ませてきた。100円ショップで召喚したショベル片手にこそこそと用を足しに行くのはもう勘弁してほしい。
浄化でペーパー要らずだが、魔獣を警戒しながらでは、落ち着いて排泄も出来やしないのだ。
「コンテナハウスが手に入れば、風呂トイレ付き、狭いけどロフトにベッドもあるし、薪ストーブ付き! 快適すぎだろ」
しかも説明文を読んだところによれば、創造神に祝福されたテントと同じく、周辺三十メートル四方に自動で結界が張られるらしい。魔獣や魔物の侵入を防ぎ、さらに魔法などの攻撃も弾き返すと云う。
その代わり、人間や亜人種たちの侵入や攻撃は防げないのが残念だが。
「でも、召喚した建物には目眩しの魔道具が備え付けられているから、発動するための魔石さえ手に入れば、人から見つからないように隠すことが出来るんだよな」
建物をまるっと隠すための魔道具なのだ。使用する魔石は稀少な物だろう。
いつもは全てをポイント化しているが、特殊個体や強い魔物の魔石は幾つか手元に残しておくのも良いかもしれない。
「さて、今日の分の支援物資を送ろうか」
テントの結界内の大木に引っ掛けたハンモックに寝転がり、スマホをタップする。
創造神のアプリ『勇者メッセ』には三人からのリクエストが届いていた。
「アイツら、今はダンジョンで修行中なんだよな。大丈夫とは思うが……」
一番心配なのは、単純で激しやすいハルか。頭に血が昇って、無茶な攻撃に走らないといいのだが。
ナツは冷静で慎重に事を運ぶタイプなので、実は一番信頼している。
地味に心配なのが、アキだ。
頭脳派で腕っ節も強いが、神経質な性格の持ち主で──何より虫が嫌いだった。
「ダンジョンに出るのって、魔法書によると魔獣だけじゃないんだよなー…?」
昆虫類が魔素に当てられて巨大化した、魔蟲。大きく醜く変化したソイツらを前にしたアキがどれほど冷静でいられるか、心配だ。
「今潜っているダンジョンが魔獣中心のダンジョンであることを祈るしかないか……」
虫は自分も嫌いだ。爬虫類も得意ではないが。出来るなら、蛇系の魔獣には当たりたくない。
幸い創造神の加護が良い仕事をしてくれるので、結界に守られている間に全力で逃げるつもりだ。
勇者ならありえない行為かもしれないが、あいにく自分は巻き込まれた一般人。
蛇はもちろん、Gの魔蟲あたりにかち合えば、卒倒しそうなほどの小心者です。
「……アキの精神衛生上、お守り程度の気休めだけど、虫除けスプレーとか虫取り用の線香を送っておいてやろう」
さて、肝心のお買い物リクエストは。
三人とも、ほぼ食料品を注文していた。
「カップ麺、カップ焼きそば、袋ラーメンにパスタ、乾麺。缶詰も多いな。鯖缶に焼き鳥缶、フルーツ缶。パックご飯は白飯だけじゃなくて、赤飯に炊き込みご飯系もか」
リクエスト通りにポチポチとタップして、カートに放り込んでいく。
レトルトのカレーやスープ、リゾットにパスタソース類もいつもより多めだ。
さすがに菓子類は少なめだが、軽く摘めそうなチョコや飴、ラムネ菓子などは注文していた。
「お茶にジュース、スポーツドリンクも多いな。まぁ、優雅に紅茶を嗜む余裕はないか」
数が多いのは、同行してくれている騎士達の分もあるのだろう。
「あとは菓子パンだな。これまた大量だ」
異世界の住民に一番人気の菓子パンは、どうもメロンパンらしい。次点でクリームパン。アップルパイも人気だと聞いたが。
ちなみにハルとアキはソーセージパンを良くリクエストしている。甘い菓子パンよりも惣菜パンの方が好きらしい。
ナツはチョコクロワッサンが大好物で、毎日の買い物で余ったお金は全てチョコクロワッサンに替えて保管していると聞いた。
チョコクロワッサン美味いもんな、気持ちは分かる。
冷やして固めたチョコ部分としっとりとしたクロワッサンで食うのも良いし、ほんの少し炙ってサクサクにしたクロワッサン生地ととろとろのチョコで味わうのも、どっちも美味しい。
ちなみに異世界でいちばん人気のメロンパンは騎士連中に銅貨1枚のレートで出回っているらしい。
定価の十倍とは、ハルもなかなか商売人だ。たぶん、定価で譲ろうとしてアキあたりに叱られたのだとは思うが。
さすがに今回のダンジョンブートキャンプには、殿下は同行していないので、カップ焼きそばは自分達用か。
「よし、買い物終了! 未来の勇者たち、頑張れよ」
野営で腹の足しになれば、と。
小鍋いっぱいのテールカレーをアイテムボックスに送ってやる。
繊細なアキが気にしないように、肉がオオトカゲの尻尾であることは内緒だ。
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