召喚勇者の餌として転生させられました

猫野美羽

文字の大きさ
上 下
36 / 203

35. スコーンを焼こう

しおりを挟む

 夕食も堪能し、テントの中でのんびり過ごす夜──『勇者の餌』としての仕事時間だ。  
 ハンバーグランチの写真は好評で、特にナツが羨ましそうにしていたので、『ハンバーグの素』を送っておいた。
 作り方は箱の裏に書いてあるので、厨房で作ってもらえるだろう。
 ついでにプリンの素やら牛乳で作れるヨーグルト風のデザートの素もおまけで送る。

「さて、まずはハルの買い物リストっと。んー? またカップ麺やらカップ焼きそばが増えたな。夜食用か?」

 相変わらず、ポテチ類は多めで。菓子パンの注文もあった。鯖の味噌煮缶も五個。
 買い物リストの最後に、戦闘訓練中にデンカと親しくなって、カップ麺仲間になったと説明されていた。

「デンカ……? もしかして殿下、か? 大丈夫か、アイツ。敬語なんて喋れないだろうし、不敬罪とか平気か?」

 カップ麺仲間になったのなら、大丈夫だろうが、ヘタな真似をしないか不安だ。
 後でアキに確認しておこう。

「鯖の味噌煮缶は仲良くなった兵士へのプレゼント用か。調理要らずだから、独身には嬉しいかもな」

 海に面していない都市だと、珍しい魚料理は喜ばれることだろう。
 異世界人に味噌味が受け入れられるのかは、少し不安だが。

「ナツは甘味再びだな。蜂蜜にジャム、ピーナツクリーム、チョコレート。飴にクッキー、ホットケーキミックスか」

 ホットケーキミックスは便利だからな。パンケーキはもちろん、クッキーやケーキなどの焼き菓子もアレンジできる、最高の粉。
 砂糖やベーキングパウダーや油も最初からミックスされた小麦粉なので、卵と牛乳があれば、割りと色々な菓子が作れてしまう。

「たしか、ドーナツやメロンパン、ガトーショコラやパウンドケーキのレシピをスクショしたやつがあったな」

 スクショした画像もあとで送ってやろう。
 ナツも色々と菓子を作るつもりらしく、ケーキの型や泡立て器なども注文されていたので、リスト通りにカートに放り込んでいく。

「100円ショップの菓子やパンだけじゃ、物足りなくなるよな。俺も久々に甘い焼き菓子が食いたくなってきた」

 スコーンやマフィンのレシピもあったので、明日の朝食代わりに作ってみようか。

「アキの買い物リストは今回も文房具が多いな。コピー用紙が五セットか。ボールペンとノートも各十ずつ」

 おそらくは国王夫妻に売り付ける品なのだろう。その他は二人と同じく食品、調味料に菓子がリストに続く。
 珍しいところでは、スリッパと靴下、下着にタオル類の注文くらいか。こちらは自分用だな。
 繊細なお坊ちゃんのアキが、果たして100円ショップの下着や靴下を我慢出来るのかは謎だが、なるべく質の良さそうなシンプルな物を送っておいた。

 コットに寝転がって、もちもちクッションを枕にステータスボードをぼんやり眺める。
 ポイントは既に100万以上貯まっていて順調だ。レベルも60を越えたし、スキルレベルも地道に上がっている。
 特に魔力量はかなり増えており、レベル1の時の十倍以上だ。つまりは10万以上。
 おかげで、今では滅多なことで魔力切れ状態にはならない。

 魔法書を読み込み、地道に習得した魔法も多彩だ。水火風土光魔法はどれも中級魔法まで使えるようになった。
 光魔法は【生活魔法】の浄化クリーンを頻繁に使っていたおかげで飛躍的にレベルが上がっていたようで、【治癒魔法】に【解毒魔法】【解呪魔法】まで覚えてしまった。

「治癒魔法はありがたい。創造神が譲ってくれたポーションはあるけど、使い切ったら終わりだもんな。怪我も病気も治る中級までは覚えたから、できれば上級の治癒魔法も覚えたい」

 上級の治癒魔法ともなれば、失った身体の一部まで復活させる効果があるらしい。
 流石に死者を生き返らせることは無理のようだが、生きてさえいれば、治すことはできる。

「アイテムボックスの収納量もレベルMAXになったしな。生き物は無理だけど、植物や玉子は収納できるのが謎すぎる」

 空間魔法はかなり難しい。空間移動テレポートに憧れがあるが、下手に空間を弄ると、それこそ宇宙の狭間に放り出される可能性があるとかで、魔法書では教えてもらえなかった。
 なので、今は闇魔法を勉強中だ。

「とは言っても、闇魔法は使えそうな物が少ないんだよな。相手の視界を闇で塞ぐのは便利そうだけど……夜間、闇にまぎれて行動できるとか、夜目がきくとか、意外と地味? ああ、眠りの魔法も闇属性なのか。これは良いよな。敵を眠らせるのも有りだけど、自分に使えば熟睡できる」

 ただし、闇属性の魔法は上級になると、一気に攻撃力が増すらしい。物騒な名前の魔法が多いので、よく考えて習得しようと思う。
 ランタンの灯りを消して、シュラフに潜り込む。闇魔法はまだ覚えていないけれど、寝落ちが早いのだけは自慢だ。
 夢も見ない眠りにすとんと落ちた。


 朝、本日も快晴。
 今のところ、大森林で雨が降ったことはないが、本当に梅雨があるのだろうか。
 何にせよ、晴れている方がありがたいので、今日も元気に朝食を作ろう。

「ホットケーキミックスを使ったスコーンを焼くぞ!」

 気合いを入れて、材料を用意する。
 魔法の粉ホットケーキミックスとバターと牛乳、あとドライフルーツ、以上!
 
「ドライフルーツは100円ショップでも買えるけど、どうせなら自分で作ろう」

 収納から取り出したのは、ブルーベリーと無花果いちじくだ。【生活魔法】の乾燥ドライを使えば、瑞々しい果実があっという間にドライフルーツに変化する。
 味見をしてみるが、どちらも美味しい。
 乾燥させると、甘みが増えるのが不思議だ。ドライフルーツは栄養もたっぷりで、オヤツにちょうど良い。暇な時間にたくさん作っておくのも悪くないかも。

「さて、レシピっと」

 ボウルにバターとホットケーキミックスを入れて混ぜ合わせ、牛乳とドライフルーツを放り込む。
 無花果いちじくはみじん切りにしたものを使い、よく混ぜて生地を作る。
 あとは食べやすい大きさに切って焼くだけだ。あいにくオーブンはないので、フライパンになるが。

「クッキングシートを敷いて焼けば焦げ付かないか……?」

 とりあえずのお試しで、フライパンで焼くことにした。トースターがあればなー。さすがにキャンプに持ち込む物ではないので諦めるしかないが。

「ん? でも、良い匂いがしてきたぞ。フライパンでも焼けるっぽいな」

 ちょっと楽しくなってきた。
 無花果スコーンが焼けるのを待つ間、ブルーベリースコーンの生地をせっせと捏ねていく。板チョコもあったので、チョコ味のスコーンも焼こう。
 フライパンに蓋をして、弱火で片面五分ずつ、両面を焼くと、スコーンは完成した。

「見た目は良くないけど、匂いはちゃんとスコーンっぽい。さて、味は?」

 あつあつのスコーンに齧り付く。
 焼き立てはしっとりとして柔らかかった。生焼けが心配だったが、ちゃんと中まで火が通っている。ドライ無花果入りのスコーンはとても美味しかった。

「うん、いいな。バターのおかげで、結構腹に溜まる。他のも焼いてみよう」

 スコーン作りは、混ぜ過ぎと焼き過ぎに気を付けろとレシピには注意書きがあった。
 ざっくり適当に作った方が意外と美味しい、とまである。なるほど、俺向きだ。
 ドライブルーベリー入りのスコーンは甘酸っぱくて、いくらでも食べられそうだった。
 チョコ入りのスコーンは文句なしに美味い。チョコは小さく刻むより、大きめな方が食べ応えがありそうだ。
 
「朝食やオヤツにちょうど良いな。焼き立てを【アイテムボックス】に確保しておこう」

 調子に乗って、バターを使い切ってしまったので、後でアイツらに送ってもらおう。
 物々交換用に千円の低反発クッションをそれぞれ送っておく。ついでに焼き立てスコーンも三人分。ブルーベリーとチョコと無花果味、どれが人気かな。

 朝食の後片付けをして、荷物を収納。
 今日もさくさく進んで行こう。

 昼休憩時にスマホをチェックして、大量にバターと牛乳、玉子がアイテムボックス送りにされていることに驚くことになるのだが。

 今は、この広大な大森林を駆け抜けるのを楽しむことにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *無断転載、無断翻訳を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

処理中です...