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34. 合い挽きハンバーグ
しおりを挟む昨夜、夕食に食べた鹿肉ハンバーグは美味しかったが、少し物足りなかった。
肉自体はとても美味しい。柔らかくて、極上の赤身肉だ。これまで食べた魔獣肉の中でも上位をいく味だったが。
「なんだろう……? あんまり、ハンバーグっぽくなかったな……」
赤身部分が殆どで、脂身が少なかったからかもしれないが、ハンバーグの醍醐味の肉汁感がないのが気になった。
「そう言えば、お高いブランド牛のハンバーグステーキもそうだったかも。ちょっとチープなハンバーグの方が肉汁ソースがたっぷりで美味かったイメージがある……」
貧乏舌なのかもしれないが、そのチープさが堪らなく美味しいのだ。
「鹿肉はそのままステーキで食った方が良いのかも。あとはシチューとか煮物にも合いそう」
だが、何の気なしに猪肉を眺めていて、気付いた。
そう言えば、自分好みのハンバーグは殆どが合挽き肉だった。
「牛肉と豚肉のミックス……。この場合は鹿肉と猪肉で作れば良いか?」
思い立ったら吉日で、その日の昼食は鹿と猪の合い挽き肉で作ったハンバーグでリベンジだ。
ハンバーグの素を100円ショップで購入したボウルに合い挽き肉と共に投入し、ビニール手袋をしてひたすら揉み込んでいく。
「どうせだから、大量に作り置こう。半分は焼いておけば、手抜き気分の時にすぐ食えるしな」
両てのひらに挽き肉ボールをペチペチと交互に叩き付けて、空気を抜いていく。
少し大きめに成形して、フライパンで焼いていった。
オリーブオイルが熱されて、ぱちりと弾ける。良い匂いだ。ひっくり返してよく焼いていく。肉串を刺して火の通りを確認し、焼けたハンバーグは大皿に並べていく。
途中、ハンバーガー用に小さく丸く成形したハンバーグも焼いてみた。
バンズは売っていなかったが、似たような形の丸いパンがあったので、それでハンバーガーを作れば良い。
ミニサイズのハンバーグはサンドイッチにしても良いし、クロワッサンやバターロールに挟んで食べても美味しい。
「うん、こんなもんかな。二枚だけ残して、あとは【アイテムボックス】へ」
焼き立てのハンバーグがいつでも食べられるとは、なんと贅沢なことか。
せっかくなので、サラダと目玉焼きも載せてハンバーグプレートの完成だ。
スマホで撮影するのもすっかり手慣れてしまった。日本でいた時よりも写真を撮っているかもしれない。
「まぁ、珍しい植物や景色が拝めるもんなー……大森林は」
カラフルなキノコはもちろん、夜になると青白く光る草花や、妖精っぽい生き物も時折見掛ける。
妖精もどきは動きが素早いので、写真に収めることは難しいが、見ている分には綺麗で飽きることなく眺めていられる。
遠くから眺めるだけなら、魔獣の姿も雄々しくて立派だと思う。特にワイルドディアの迫力は筆舌に尽くし難い。
「肉も美味いしな。最高だな、アイツ」
その立派なワイルドディアとワイルドボアの合い挽き肉のハンバーグ。焼いている最中から、溢れ出る肉汁の勢いが凄かった。
肉汁のおかげで、たっぷりとソースが作れたのは嬉しい誤算だ。
鼻先をくすぐる良い匂いの誘惑に、たまらず両手を合わせて、いただきます!
フォークとナイフで切り分けて、ほかほかと湯気が立つハンバーグをさっそく口に放り込んだ。
「ん……。んー! 肉が甘い。柔らかさが絶妙だな」
昨日食べた鹿肉とは食感も味わいも全く違っていた。
何より、噛み締めるごとに口の中に溢れ出る肉汁の美味しさに自然と顔が綻んでしまう。
鹿の赤身肉と猪のサシ入りの柔らかな肉が絶妙に絡み合って、最高級品のハンバーグとして完成されていた。
「旨すぎる。これは白米泥棒だな。ソースがまた絶品だから、いくらでも食べられてしまう」
肉汁を絡めて作ったソースがこれまた美味しいのだ。白飯にこのソースだけを掛けて、普通に茶碗一杯完食できるレベルである。
「ワイルドディアとワイルドボアは見掛けたら絶対に狩り尽くそう。ハンバーグはもちろんまた作るけど、これは他の調理法も試したくなる」
立派な赤身肉はローストビーフ風に調理してみよう。ビーフシチュー風に煮込んでもきっと美味しいはず。
ボア肉はそれこそ、何にでも使えそうだ。
猪というより、猪豚に近い食感だ。臭みがなく、肉も柔らかく、甘みがあって豚肉っぽい。
「生姜焼きはもちろん、トンテキ、焼き豚風、角煮も絶対に旨いだろう。鍋も外せないな……」
スマホでブクマしていたレシピサイトはもう拝めないが、SNSで見掛けて旨そうだったレシピはスクショして保存してある。
大抵がレンジを使った簡単美味しい時短レシピだが、幾つか使えそうな調理法があったことを覚えていた。
「ま、時間はいくらでもあるし、美味しい飯が食えるなら、挑戦してみるか」
何せ食材の美味しさはピカイチなので、よほどの失敗をしないかぎりは、美味しく食べられるはず。
焼いてステーキソースで食べるだけでも震えるほど旨いのだ、魔獣肉は。
「……さて、美味い昼飯も食ったことだし、今日の分のポイント稼ぎと食材集め、頑張ってくるか」
本日の野営地は、無花果の木の傍らだ。
熟して美味しそうな無花果の実はありがたく収穫済みで、お礼に周辺の木々は切り倒して間引いている。
テントもタープも設置済み、天気も良いので、そのまま狩猟と採取に出掛けた。
本日の収穫。
ワイルドディアが四頭、ワイルドボアが三頭。コッコ鳥が五羽、残念ながらコッコ鳥の玉子は見付けられなかった。
ワイルドウルフの群れとかち合ったので、八頭ほど倒した。あとはゴブリンが十二匹、オークが四頭。
食用の肉にはしばらく困りそうにない。
「採取に集中できなかったのは残念だな。キノコに山芋、葉玉ねぎ、セロリっぽい葉物野菜くらいか。あとは野いちご。ちっこくて酸っぱいが、香りがいい」
ジャムにしたら美味しそうだ。それだけの量を採取する時間がなくて諦めたが。
「山芋はバター醤油で炒めたら美味いんだよなー。ほくほくして。すりおろして食べるのも嫌いじゃないけど」
数時間の成果にしては、なかなかだと思う。最近はコンスタントに稼いでおり、1日で十万ポイント以上は余裕だ。
従弟たちからのリクエストをこなしても、毎日十万ポイントは貯めることが出来ている。
「やっぱり、小さい家よりコンテナハウスを目指すか。ポイントだけなら、この調子で頑張れば梅雨シーズンには間に合いそうだし」
召喚魔法のレベルが上がらなければ、建物関係が召喚できないのはもどかしい。
「まぁ、地道に頑張るか」
努力するのは嫌いじゃない。
頑張れば、その分がレベルや能力値に反映される、この世界は自分の性に合っている。
「それに、美味い肉が食えるしな」
今夜は鹿肉を使ったブラウンシチューを作ろう。100円ショップで召喚した、ビーフシチューのルーを使うので、簡単だけど美味しいシチューが作れる。
「日本にいた時よりも、贅沢な食生活を送っている気がする……」
バイト先の居酒屋のまかないメニューより、絶対にこっちの方が美味しいし。
美味しいお肉に関しては、この世界を創った創造神に感謝しようと思った。
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