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26. 親子丼
しおりを挟むコッコ鳥とその卵をゲット出来たのは、大収穫だった。ほくほくしながら、周辺を探索する。魔獣が棲んでいる場所には餌となる植物があるので、それを期待して。
「お、あった。これは小さいけど、大根か? ハツカダイコンっぽいな」
ラディッシュは赤い大根? カブかな? ぷっくりした丸っこい形をしていたが、これは白くて形も大根のミニチュアっぽい。
サイズも十センチほどなので、サラダで食べようと思う。
「こっちは小松菜か? うん、小松菜だな。これもミニサイズで葉も柔らかそうだ」
全体的に大森林産の野菜類は小ぶりな物が多い気がする。樹海ばりに木々が生い茂り、日当たりが悪い所為なのだろう。
それでも、ちゃんと育っているのだから、異世界はすごい。
(魔素って、万能すぎないか?)
土も水も栄養をたっぷり含んでいるので、小さいながらも元気に育っているのだろう。
とりあえずの拠点が決まれば、日当たりの良い畑を作り、野菜を植えようと思う。
100円ショップには野菜の種の他にも園芸用品が揃っていたので、家庭農園も楽しめそうだ。一人で食うにはそれで充分だろう。
「畑が失敗しても、採取でどうにか食いつなげそうだしな」
葉物野菜や根菜類が自生しているのも分かったので、探索結果は上々だろう。
何より卵と鶏肉が手に入ったのが嬉しい。
暗くなる前に拠点に戻ろうと移動している最中にも、梨の木を見付けることが出来た。
こちらも小さめで姫りんごサイズだったが、水分たっぷりで美味しい。
浄化で綺麗にして皮ごとかぶりついたが、シャキシャキとしており、とても甘い。
「美味い。ほんと、この世界の果物は日本のブランドフルーツ並みだな」
仕送りとバイト代でやりくりしていた学生からしたら、果物は積極的に買うことはない贅沢品だ。なので、久々の食感に夢中になって味わってしまった。
日本の果物は高価なので仕方ない。
果物を買う金額と同じなら、コンビニ弁当に手が伸びてしまうのは、男子大学生としては普通のことだと思う。
「熟している実だけ、もらっていこう」
鑑定しながら、梨を捥いでいく。りんごとアケビも嬉しかったが、水分たっぷりで糖度も高い梨は別格だ。
採取している最中に襲ってきた森林狼は風魔法で首を落としておいた。
血の匂いに誘われたクマの魔獣は土魔法で大穴に落とし、土礫で頭を穿って倒した。
「お、レベルが上がった。あれだけ怖かったクマの魔獣も倒せるようになったんだな……」
ちょっと感慨深い。
土魔法の落とし穴を使っての討伐なので、あまり胸は張れないが、おかげでレベルも上がった。
「マーダーグリズリー、肉も内臓もポイント化出来るのか……」
毛皮はもちろん、魔石と肉の他にも内臓が買取り対象になっていた。
これはアレか。熊の胆か?
異世界でも漢方的な処方があるのかもしれない。それともポーションの材料なのか。
「おお、1万Pか。なかなか美味しいな、クマ。怖いから魔法でしか倒せないけど」
森林狼とマーダーグリズリーを【アイテムボックス】に収納する。これだけ稼いだら、今日のところは充分だろう。
「さて、拠点に戻ったら夕食だ」
親子丼は簡単に作れて美味しいので、自炊レシピの上位に入っている。
かまどにフライパンを置き、めんつゆと水、砂糖を投入して煮立たせて。
玉ねぎと鶏肉を放り込んで火が通ったら、解きほぐした卵を入れるだけ。超簡単。
卵はほどよい半熟とろとろ具合が好きなので、あまり煮立たせないよう注意が必要だけれど、まぁ失敗はしないレシピだ。
加熱で温めたご飯を深皿に移し、フライパンの中身を流し込む。
三つ葉っぽいハーブを散らせば完成だ。
玉ねぎとコッコ鳥のモモ肉を煮ている間に作った小松菜とハツカダイコンのサラダ、インスタントの味噌汁で夕食にする。
忘れずに写真を撮り、アプリで送っておいた。もはや日記がわりだな。
アイツらも負けじと夕食の写真を送ってくるので、食事事情が分かりやすくていい。
(うん、100均商品だが、調味料や米、パスタも送っているからか、前よりは美味そうだな)
焼く、煮るだけだった調理法も、揚げ物好きのアキが尽力したのだろう。
フライ系のメニューが追加されたようで、多彩になっている。
簡単な料理のレシピも調味料と一緒に送ってやったので、王宮の厨房で役に立っていることを祈っておいた。
「さて、コッコ鳥のお味はどうかな?」
レンゲですくった親子丼を慎重に口に運ぶ。少し甘めの味付けの親子丼だ。文句なしに美味しい。肉は地鶏に近く、筋肉質。
玉子の濃厚さには驚いた。
とろふわに仕上がった半熟卵はご飯と絡めて食べると抜群に旨い。
「これは卵かけご飯にしたくなるやつだ……」
オレンジ色の鮮やかな黄身は艶々で、箸で崩すのがもったいないほどだったが、さもありなん。
食中毒が怖いので、浄化はもちろんだが、しっかり鑑定した後でなら、コッコ鳥の卵かけご飯を試してみても良いかもしれない。
「肉も美味い。滋味がある。アルミラージの肉が鶏肉に近いかと思ったけど、全然違ったな。コッコ鳥めっちゃ筋肉質」
ニワトリと同じく飛ばない鳥らしいので、地面を駆け回って鍛えられたのだろう。
サラダチキンはもちろん、チキンカツや煮物にも合いそうな肉質だ。
焼き鳥にも挑戦してみたい。
「あと、卵は絶対に見かけたら確保だな。オムレツにしても美味いだろうなぁ、コレ」
うっとりと口許を綻ばせながら、親子丼を堪能する。
味噌汁とサラダもきちんと食べたが、コッコ鳥の親子丼が美味すぎて、作り置き用に多めに作った分まで完食してしまった。
食後のデザートに梨を齧りながら、本日のお仕事。送られてきたお買い物リストを確認しながら、ポチポチと召喚していく。
調味料一式、ソース系、ドレッシング、マヨネーズ。ケチャップもリストにあったが、トマトソース系もないのか、この世界?
ご飯とパスタ、餅は分かる。こっちの世界のパンは恐ろしく不味いらしいからな。
最近はカップ麺系はあまり頼まれない。
まぁ、調味料さえあれば、食材はどれも一級品なのだから、食事に満足できているのだろう。良いことだ。
ただし、お菓子類は我慢できないらしい。
ポテチとクッキー、チョコは必ずリストに入っている。
「アキは相変わらず、紅茶にコーヒー、砂糖か。オリーブオイルも多め、香辛料も国王夫妻に売り付けているのか? やり手だな」
ナツのリクエストは食品が減って、コスメ系が大量に注文されている。
自分では買わない類の品物なので興味深い。リストに沿って探していった。
「化粧水、保湿クリームと日焼け止め? そんなの100均にあるのかよ。……あったな。すげぇな、100均。あと、BBクリーム? 何だそりゃ。色付きリップとハンドクリーム。三百円のコンパクトミラー?」
検索すると、あった。何とLED付きコンパクトなサイズの三面鏡だ。
これは知っているぞ。テレビで見たことがある。女優ミラーというやつだ。
他にもメイク用のブラシやスポンジ、パフをカートに突っ込んでいった。
「ナツ、いつのまに美容に目覚めたんだ? 年頃だから、こんなものか?」
基礎化粧品にはこだわっていたようだが、基本はスッピンで過ごしていたので、買い物内容が不思議だったが。
アイテムボックスに買った品を転送してやると、すぐにお礼のメールが届いた。
どうやら、メイク関連の品はお姫さまに転売する用だったらしい。
これまた高値で売れたと、毛玉が躍るスタンプと共に感謝のメールが送られてきた。
スタンプもあったのか、このアプリ。しかも毛玉イラストオンリーかよ。
転売リストが半分を占める、ナツとアキと違い、ハルだけは初志貫徹。
己の食べたい物だけがつらつらと並ぶリストに、ほっこりしてしまった。
「うんうん、カップ麺相変わらず多いな。菓子パンもそんなに食うのか? ポテチ好きだなー。ちょ、マヨネーズ多すぎ。マヨラーかよ」
何でコイツだけ小学生男子っぽいままなのか。三人の中で一番年上なのに。図体もやたらデカいのに。
リストの最後に髭剃り用の剃刀があったのに、ハッとする。
そういえば、もうこの世界に来て五日は経つのに、髭が生えてこない。
「エルフって髭が生えないのか……?」
小柄で華奢なのはもう諦めたが、まさか男性ホルモンも減少したのか?
地味にそれが一番ショックだった。
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