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13. 魔法を使ってみよう
しおりを挟むスマホのアラームで目が覚めた。
午前七時。寝袋から起き上がって小さく欠伸する。久々のテント泊だったが、存外に快適で熟睡していたようだ。
「創造神の加護のおかげかな。テントの質が前よりも良くなっている気がする」
テントだけでなく、マットや寝袋も極上の寝心地だった。おかげで疲れは取れたし、体調もすこぶる良い。
開いたままだった魔法書をアイテムボックスに戻して、浄化の魔法で全身を綺麗にした。着ていたスウェットも洗濯要らず、歯磨きも必要なさそうだ。
「生活魔法はすんなり使えるんだよな、不思議と」
今日は魔法を使いこなせるように練習しながら進むことにした。昨日着ていた服装に着替えて、テントから外に出る。
「良い天気だ。……空を飛ぶ、あのデカい鳥はなんだろうな」
爽やかな小鳥の鳴き声はなく、ダミ声の巨鳥が空を舞っている。おはよう、異世界。
とりあえず、空を飛んでいるのがドラゴンでなくて良かったと思おう。
創造神の加護付きテントの結界と不可視の術は良い仕事をしているようで、上空のモンスターはこちらに気付いた様子はない。
「さて、朝食は何にしようかな」
クーラーボックスの中身は夜に食べることにして、朝は簡単に済ませよう。
ガスバーナーに小鍋で湯を沸かす。水は生活魔法で出した物を使っている。
ステータスボードを呼び出し、召喚魔法で朝食を用意することにした。
「菓子パンとインスタントコーヒー、スープの素で300P分、召喚っと」
粉末状のスープはポタージュ味にした。三食分ある。インスタントコーヒーは良く飲むブランド物を選んだ。
瓶のサイズは小さめだが、このコーヒーまで100円ショップで手に入るとは驚きだ。
「朝はブラック派だし、砂糖とミルクは昼に買おうかな」
愛用のステンレスのマグでポタージュスープを作り、メロンパンを齧りながら、スープを堪能する。
食後は浄化で綺麗にしたマグで、ブラックコーヒーを飲んだ。
「ん、美味かった。100均の商品だとか、全然気にならなかったな」
菓子パンも有名なメーカー製の物だったし、味も変わらない。異世界生活、とりあえず食の面では余裕で過ごせそうだった。
「アイツら、ちゃんと飯食えてるかな? とりあえず今日の分、先に送ってやっとくか」
昨日はとりあえず調味料を送ってやろうと考えて、塩胡椒と醤油にマヨネーズを選んだが。今日は何にしよう。
「素材は良いらしいし、やっぱりソース系かな。肉料理に合う、焼き肉のタレとステーキソース。後は野菜を美味しく食べるためのドレッシングかな。俺チョイスなら断然ゴマダレで!」
ぽちぽちっと召喚して、早速送ってやった。
モーニングコールならぬ、モーニングメールだ。いっぱい飯食えよー。
怒涛の感謝メールが三人分届いていた。
やはり食は大事だ。調味料やソース類はこまめに送ってやろうと思う。
食後の片付けをして、調理器具やテーブル、チェア類をアイテムボックスに収納していく。
さて、テントを畳むかと向き合って、ふと手を止めた。これはもしかして、そのまま収納が出来るのでは?
ダメ元で試してみることにして、とりあえずペグだけは外しておいた。
「よし、やってみよう。テントをそのままの状態でアイテムボックスに収納!」
てのひらで触れていたテントがふっと消えるのが分かった。成功だ。
「よし。これでテントを張る手間が省ける……!」
設置をするのは嫌いではないが、毎回三十分ほど掛けるのは地味に面倒だったので、収納スキルには感謝だ。
(それにしても、このアイテムボックス、どのくらい収納が出来るんだ?)
テントのような大物もそのまま収納出来たので、容量は大きそうだが。
ステータスボードのスキル欄を再び凝視して【アイテムボックス】を鑑定する。
説明文が表示される。【鑑定】スキルのレベルが上がったのか、昨日よりも詳しい。
「アイテムボックス、レベル1か。収納容量は20平方メートル。十二畳くらいか? ボックス内の時間は停止しているため、生き物は収納出来ないのか」
テントは収まる広さだが、今後を考えても収納の容量は増やしておきたい。
【鑑定】スキルは、ひたすら鑑定することでレベルアップしたが、アイテムボックスに関しては魔力量の増大が必要らしい。
魔力を上げるには、魔法を使ってのレベル上げをしなくてはならないようだ。
「仕方ない。なるべく魔法で倒していこう」
魔法書には、まずは生活魔法で水、火、風、土の四属性を使うことに慣れろと書いてあった。
風と土はまだ使っていないので、とりあえずは一番良く使った水魔法に挑戦することにした。
「水で、ある程度の大きさの水球を作り、ぶつける!」
ちょうど目についたグラスマウスに魔法の水球をぶつけてみた。キュッ、と甲高い鳴き声を上げてネズミの魔獣は転がったが、それほどダメージは受けていないようだった。
文字通り、濡れ鼠状態のグラスマウスが怒りの形相で飛び掛かってくる。
「水球の勢いが弱かったのか……。じゃあ、これならどうだ?」
光の盾に弾かれて転がるグラスマウスに、ふたたびバスケットボールサイズの水球を放つ。意識を集中させて、水球でグラスマウスの頭部を覆った。
「生き物なら呼吸を塞げば倒せるよな」
魔物や魔獣も生き物のはずなので、水魔法を使っての溺死作戦だ。
ガボゴボと水音を立てながら暴れていたグラスマウスがやがてぐったりと身を横たえた。
「……倒したか?」
ピクリともしないのを確認して、軍手をした手で触れて回収する。
「うん、使えそうだな。まずは水魔法に慣れるために、しばらくはこの方法で倒していこう」
水作成で作った水球を維持するのには、それほど魔力を使わないので、魔力操作に慣れるために水球は常に浮かべておくことにした。
「お、グラスマウスもう一匹発見」
一応、手斧だけはリュックに突っ込んで、のんびりと歩きながら魔獣を倒していく。
水球の魔法は意外と使えるようで、グラスマウスだけでなく、ホーンラビットもあっさり仕留めることが出来た。
血生臭い死骸に触れなくて済むので、その点もありがたい。
「あっと、スライムか。アイツらは水に強いんだったな……。じゃあ、火には弱い?」
水球はそのまま待機させて、生活魔法の着火で火を起こす。
爪の先ほどの大きさの火種に魔力を込めて大きく育てていく。テニスボールサイズになったところで、スライムにぶつけてみた。
ジュワッと蒸発するような音がして、スライムが消えていく。残った魔石を拾い上げて、にんまりと笑った。
「魔法、便利だな。それに面白い」
火魔法は火事が怖くてなかなか使えなかったが、どうやら魔法の火は放った者の任意で消せるようだった。
「火魔法を森で使っても山火事みたいに広がることはなさそうだ」
水魔法がいちばん綺麗に倒せそうだが、攻撃力が高いのは火魔法だろう。
強靭な魔物とかち合ってしまった時のために、火魔法もきっちり覚えておきたい。
「風魔法も火魔法と併用したら強そうだし、土魔法は戦闘はもちろんだけど、生活に役立ちそうだから、そっちも覚えたいな」
試行錯誤しながら学ぶのは嫌いじゃない。何せ自分は器用貧乏の秀才型。こつこつ努力して自分のものにしていくことに、喜びを感じる凡人だ。
一族の連中みたいな天才型の連中にはなれなかったが、おかげで広く色々な能力を試すことが出来る。
(まぁ、天才も羨ましいけどな。こっちが時間を掛けてようやく見つけた正解を飛び越えて、最適解に難なく辿り着くんだから)
そんな突出した存在に囲まれて、これまで腐らずに済んだのは、彼らが純粋に自分を慕ってくれたからかもしれない。
「……アイツらも頑張っていると思うし、俺も早く拠点を築かないとな」
せめてハイエルフらしく、全属性の魔法をスマートに使いこなしたい。
小さな野望を胸に、水球と火球を同時に操る練習に意識を集中した。
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