召喚勇者の餌として転生させられました

猫野美羽

文字の大きさ
上 下
11 / 203

10. 草原キャンプ 2

しおりを挟む

 まずはテントを張ることにした。
 キャンプの予定は四泊ほどを予定していたので、用意したのはファミリー仕様のワイドなサイズのテントだ。大人三人が余裕で横になれる広さがある。
 家にテントがあるなら持参しろよとは伝えていたが、無かったとしても男三人はこのドーム型のテントで寝れば良い。
 紅一点のナツは親戚から借りた山小屋のロフトを使ってもらうつもりだったのだが。

 どうやら、三人とも一人用のテントを持っていたらしく、ちゃんと持参していた。
 手軽なポップアップテントだが、部活の合宿時に愛用しているらしい。
 道場に布団を敷いてのごろ寝が多い合宿に神経質なアキがを上げて、一人用テントの使用を学校側と交渉したのだと聞いた。

 薄いテントの壁一枚でもプライベートを確保できたアキは良く眠れるようになった。
 効果を聞いた他の生徒達もこぞってテントを使うようになったらしい。
 おかげで三人が通っているスポーツ強豪校では合宿でテントを使うのが流行っていると云う。

(気持ちは分かる。テントって気分が高揚するよな。外ではもちろん、家の中で広げてもワクワクするもん。秘密基地っぽくて)

 三人がテントを持っている理由を聞いて、笑ってしまったが、狭くてもプライベートな空間は必要だよなぁとしみじみと思う。
 荷物は彼らに送ってやったので、野営時にはきっと活躍することだろう。

「さて、設営するか」

 キャンプは三泊以上するのが楽しい、がモットーなため、テントは良い物を選んである。バイト代は軽く吹っ飛んだが、おかげで快適に過ごせる拠点が手に入ったのだ。泣いてはいない。

 ドーム型テントはリビングスペース付きの2ルーム仕様。インナーテントを外してフライシートだけにすれば、タープにもなる。
 三十分ほどかけて一人でテントを設置して、ゆっくりと周囲を回って確認した。

「うん、良いんじゃないか? 我ながら快適そうだ」

 テントの色はカモフラージュグリーン。森や草原でもそれほど浮かないはず。
 テントの下にはしっかりとグランドシートを敷いてある。幸い、この草原では石や小枝などのゴミはなく、ふかふかの草しか生えていなかったので、整地をしないで済んだのはラッキーだった。

「ここも日本の5月頃の気温だな。深夜から朝方にかけて冷えるかもしれない」

 山で過ごすために、それなりの防寒グッズは準備している。まずはフロアマット、それからラグを敷いた。ラグは軽くてふかふかのお気に入りだ。寝転ぶと気持ちが良い。
 寝袋の下にはインフレーターマットを置く。バルブを開けば自然に膨らむ優れ物。厚みは3センチ弱だが、充分快適に眠れる。
 封筒型のシュラフはジッパーを開けば布団にもなるので便利な代物だ。秋冬のキャンプにはマミー型でないと凍えてしまうが、この時期にはちょうど良い。

「枕はタオルを重ねて代用にしよう。あとはコットも出しておくか」

 ベッドやチェア、荷物置き場にも使えるコットは万能アイテムだと思う。
 地面が寝苦しいなら使わせてやろうと車に積んでおいて良かった。
 とりあえず今回は荷物置きとして使うことにして、着替えやタオル、冷えた時用のフリースのブランケットなどを載せておく。

「あっと、ランタンは出しておかないとな。すぐに暗くなりそうだ」

 持って来たのは、高彩度のLEDランタン。ガソリンランタンは山火事が怖いので、手軽で安全なこれにしたのだ。
 電池式なので、電池が切れれば召喚魔法ネット通販で購入しなければならないが。
 面倒だな、とぼんやりランタンを眺めていると、なぜか【鑑定】スキルが発動した。

「え? 『創造神に祝福されたランタン。周囲の魔素を取り込み電池代わりにするため、半永久的に使える。破壊不可』……マジか」

 慌てて他の道具類も確認する。
 ガスコンロやバーナーも燃料不要のほぼ魔道具マジックアイテム仕様へと変化していた。
 スマホも電波は拾えないが、ダウンロードしていたゲームアプリは使えるようだし、こちらも充電不要にアップデートされている。

「……落としていた電子書籍が読めるのはありがたいな。あと、せっかくだから異世界の絶景写真や動画も撮ろう」

 暇つぶしの手段と楽しみが出来たのは嬉しい。アイツらとも気安くメールが出来れば安心なのだが。

「あ、ステータスボードでメッセージは送れるんだったな。後で送っておこう」

 ふぅ、と息を吐いて。あらためてテントを鑑定してみる。収納していた荷物には創造神の加護が掛かっていると言っていた。
 着ている服にも自動修復機能付きとある。ならば、テントは?

「ええと『創造神の加護付きテント。周辺10メートル範囲で不可視の術と結界を自動発動する。ドラゴンのブレスにも耐えられます。破壊不可、アイテムボックスに収納すると自動修復されます』……え、チートなのは持ち物だった?」

 野営時の見張りも不要だし、最高なのでは? 汚れてもアイテムボックスに収納すればピカピカの新品に修復されるようだし。

「ヤバい魔物がいても、ここに逃げ込めば安全に籠城が出来るな」

 病気知らず、老い知らずのハイエルフ族に転生させたことと言い、加護の内容もだが、創造神はよほど俺に死んで欲しくないらしい。

「ここまで気を遣ってくれたみたいだし、せいぜい餌として長生きするよ」

 日本からの荷物に全て加護がついたのはありがたい。高品質高性能のメイドインジャパンの道具は大切に使おうと思う。
 
 寝室は用意出来たので、リビングスペースに移動する。折り畳み式のテーブルとアームチェアを設置して、タープの下に向かう。
 調理は地面の上ですることにした。
 網を載せればグリルになる焚き火台をテントから少し離れた場所に置き、用意していた肉や野菜を焼いていく。

 時短を考えて、初日のバーベキューの材料は全てカットしており、肉もタレに漬け込んである。クーラーボックスから取り出したのは一人分だけだ。
 残りは劣化しないようアイテムボックスに収納する。

 山小屋の水道を借りるつもりだったので、水は持ってきていない。もう一つのクーラーボックスにペットボトルのお茶やジュース類、自分用のビール等を入れていたので、ジンジャーエールを飲むことにした。
 バーベキューには冷えたビールが正義だと思うが、さすがに異世界初日に酔っ払うつもりはない。

「うん、ホルモン旨いな。分厚い牛タンもイケる。カルビとウインナーも焼こう」

 しいたけにマヨネーズを載せて焼いて食べる。玉ねぎはアルミホイルに包んで丸ごと焼いた。皮付きのまま焼くと、甘みが凝縮されて絶品になる。トロッとした蒸し焼き状態の玉ねぎは塩を少し振りかけるだけでご馳走だ。

「締めは焼きおにぎりにしよう」

 具なしの塩にぎりに胡麻油と醤油を少し垂らして網で焼いていく。香ばしい匂いが堪らない。少し焦げた箇所がパリっとしていて、特に旨い。あっという間に平らげた。

「ふ、はー…。美味かったぁ……!」

 一人バーベキューは少しばかり寂しかったが、肉も野菜も美味しかった。
 ハイエルフが肉を食べられない種族だったらどうしよう、という不安は杞憂だったので良しとする。

 後片付けは簡単だった。
 生活魔法は便利! 浄化クリーンは洗剤要らずで網も皿もピカピカになった。
 アルミホイルなどのゴミはまとめて収納したが、なんと【アイテムボックス】には削除機能もあるので、ゴミの処分も楽に出来た。

「異世界キャンプ、快適すぎる」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

『転生したら「村」だった件 〜最強の移動要塞で世界を救います〜』

ソコニ
ファンタジー
29歳の過労死サラリーマン・御影要が目覚めたのは、なんと「村」として転生した姿だった。 誰もいない村の守護者となった要は、偶然迷い込んできた少年リオを最初の住民として迎え入れ、徐々に「村」としての力を開花させていく。【村レベル:1】【住民数:0】【スキル:基本生活機能】から始まった異世界生活。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

処理中です...