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5. ステータス

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「なんだ、これ……? ステータスボード?」

 宙に浮かんだタブレットは手に持つことは出来なさそうだ。ただし、ずらりと並ぶ文字に触れることは可能。
 最近コンビニに導入された、非接触型空中ディスプレイのセルフレジに似ている。

『それが、君の今のステータスだよ。スキルの情報も見ることが出来るから、確認してね』
「ああ、分かった」

 空中に浮かぶステータスボードをじっくりと観察する。


〈ステータス〉

トーマ(伊達冬馬)21才〈ハイエルフ族〉
レベル1

HP  1000/1000
MP  10000/10000
力 20
防御 20
素早さ 100
器用さ 100
頭脳 100
運 50

スキル 【全言語理解】【鑑定】【アイテムボックス】【生活魔法】【全属性魔法】

固有ギフト 【召喚魔法】
称号  【創造神の加護】【召喚勇者の執着】




「…………んん?」

 何やら、下の方に妙な文言が見えた気がする。召喚勇者の、…執着?

『ああ、それね。普通は僕からの加護だけがつくはずなんだけど……。なんでか、その称号が与えられていたんだよね…』
「意味が分からないし、ちょっと怖いんですけど」
『分かる……。でも、そのおかげで君を餌に勇者たちも頑張ってくれそうだし、ちょっとだけ我慢してくれるとありがたいかな…?』

 慕われていることは知っていたけれど、執着とは。え、ストーカーなの?
 いや、特にストーキングまではされた覚えはないので、たぶん兄貴分として好いてくれているんだろう。無理やり納得して、称号欄からそっと視線を逸らした。
 話題を変えたかったのは創造神も同じだったようで、やたらとテンションを上げて解説してくれる。

『他にもスキルや魔法を上げたよ! 【生活魔法】は君たちが快適に暮らせるように付与した便利魔法だから、うまく使ってね?』

 スキルはタップすると詳細な説明文が現れるようだ。
 【生活魔法】は、肉体や周辺を清潔に保つことができる洗浄クリーンの魔法。スキルアップすれば強力な浄化魔法に進化するらしい。
 他にも、火種を出せる着火魔法ファイア。飲み水を出せる水魔法ウォーター。食物や薪を乾かすことのできる、乾燥魔法ドライがあるようだ。

『日本にある、あの便利なトイレはすぐには作れないけれど、どうにか魔道具職人に神託して頑張ってもらうから。それまでは【生活魔法】で乗り切ってくれる?』

 なるほど、シャワートイレの代わりの洗浄の魔法か。
 トイレはもちろん、風呂の代わりにもなるし、洗濯いらずになるなら、かなり優秀な魔法だと思う。
 部屋の掃除も呪文ひとつで完了するなんて、ロボット掃除機よりも便利だ。

『全属性の魔法も当然使えるようにしておいたよ。ハイエルフ族なら違和感もないし。ただし、魔法の腕は自力で磨いてね? 使いこなせるようになれば、かなり強力な攻撃手段になるから、精進してくれると助かるかな』

 生き延びるためには、それなりの努力が必要らしい。努力するのは慣れている。
 でも、そのうち、実らない努力ばかりだと気付いてからはさっさと見切りをつけるようになっていたが。

(だけど、その努力がきちんと反映されるらしいレベル制の世界ならばーー…)
 
「……何でもそれなりにこなせる俺なら、かなり生きやすいんじゃないか?」
『そうだね。ハイエルフになった君なら、時間に縛られることもないし、ヒューマンのように1つのスキルに絞って極めるよりも、あらゆるスキルや魔法を高めるようにしたら、この世界も楽しめるんじゃないかな?』
「待て。時間に縛られることはないってどういうことだ?」
『ああ、だってエルフは不老長寿だし、ハイエルフに至ってはーー…うん、すっごく長生き出来るから楽しんで!』
「不穏でしかない。と言うか、俺が不老長寿とやらなら、アイツらはどうなんだ? この世界を壊そうとしている邪竜とやらを倒すまでに相当の時間が必要なんじゃないか」

 神さまの肝入りで世界を救う勇者たちを召喚したが、スキルや魔法は強くともレベルは1からのスタートだ。
 それこそレベル上げやスキルの強化にはかなりの時間が必要なはず。

『彼らの時間は僕が止めたから大丈夫だよ。十年でも百年掛かってでも、あの邪悪な竜を倒して欲しいから』
「つまり、その竜を倒すまではアイツらは今の姿のままなのか……」

 念願がかなったら、元の世界、元の時間軸に帰してくれるのなら、そちらの方が良いのかもしれないが。

「……その十年、百年をアイツら我慢出来るのか?」
『だから、それを君にフォローしてもらえたらな、と……』
「ほんと、図々しいな? だけど、俺ももうこの世界で生きていくって腹を括ったから協力はする。餌は俺だって話だが、それだけじゃ不足だぞ」

 両親共に世界で活躍する有名アスリート。セレブな家で生まれ育った従兄弟たちは、贅沢に慣れている。
 この世界の文化レベルにはあまり期待が出来そうにないので、俺とは別の餌が必要だ。

「まずは食べ物。素材が良いのなら、日本製の調味料さえ手に入ればどうにかなるな。未成年だから酒はいらないが、菓子類はあった方が良いと思う。あとは服や日用品、本やゲームなんかの娯楽品に、雑貨類。アイツらを召喚したように物を出して、レベル上げのご褒美として渡してやれば、少しはやる気も持続するんじゃないか?」

 衣食住は大事だ。
 神殿が歓待するなら、住環境は期待できそうだが、食事は粗食なイメージがある。
 ただでさえ良く食うアスリートで、更に育ち盛りな今、彼らはとにかくたくさん食べる。
 肉はもちろん、炭水化物や揚げ物も大好きだ。食事制限はしない、その分動いてカロリーを消費する! と豪語し、その通りに成し遂げるのだから凄まじい。
 
(あの体型を維持して、ちゃんと成績もキープするんだからな)

 そこは素直にすごいと思う。
 とにかく若くて健康な彼らはいつだって腹を空かせていて、美味しい食べ物には目がないのだ。
 腹いっぱい満足するほど食べさせてやれば、その分きっちり働く律儀さもある。
 だから、美味しい食事は文字通りの「餌」になるのだが。

『異世界から物体を召喚する権限は僕にはないんだ。今回の勇者召喚だって、地球の、特に日本の神々に頼み込んで、必ず返すと約束してようやく許されたんだよ』

 マジか。日本の神さま優しい。だけど、その優しさは俺には分けてくれないんでしょうか……?
 ちょっとヤサグレそうになっていると、心の声が聞こえたのか、毛玉がぽふんと俺の顔に飛びついてきた。

「うわっ、何だ?」
『そうだよ、君だ! 君がいた! 巻き込んでしまった君には僕からのお詫びに固有ギフトをあげている。……そう、召喚魔法。これを使って、日本から物を召喚すれば良い!』

 ぽふぽふ、と興奮したように顔にぶつかるのはやめてください。
 痛くはないが、くすぐったい。

『本来は聖獣や神獣を召喚できる魔法なんだけど、特別に物を召喚できるように能力を書き換えたよ! これで快適に過ごせるし、勇者も満足だよね!』

 いや、それ元の魔法の方が良かったんでは???
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