召喚勇者の餌として転生させられました

猫野美羽

文字の大きさ
上 下
5 / 203

4. いざ、転生

しおりを挟む

『三人のためにも、衛生面と食事面がマシになるよう、特別製の魔道具をダンジョンからドロップさせるよ! 他にも日本と同じ、……は無理だけど、なるべく快適に暮らせるように誘導する。君にも快適に暮らせて、長生き出来るスキルや魔法をあげるよ。……だから、お願い、トーマ。君をこの世界に転生させて?』

(勇者を働かせるための餌として、俺を異世界に転生させるだと? ふざけんな! ……って、最初は思ったけど)

 ふう、とため息を吐いてから、俺はあっさり頷いてやった。

「いいよ。新しい人生を楽しむのも悪くないしな。この世界を快適に生き延びるためのスキルや魔法? それをちゃんと授けてくれるのなら、勇者を働かせるための餌になってやるよ」
『ありがとう! 感謝するよ、トーマ!』

 手の中の毛玉がぱあっと輝き始める。
 慌てて手を離すと、ふわふわと宙を舞い始めた。覚えのある、光の洪水。
 じっくり眺めると、それは魔法陣のような複雑怪奇な紋様を描いて煌めいていた。
 と、自身の肉体が透けてきているのに気付いて慌てて毛玉を見上げる。

「さっそく転生? スキルや魔法の説明は!」
『ああ、それは僕が教えてあげるよ。しばらくは付きっきりで、ちゅーとりある? を手伝うよ!』

 どうもこの創造神サマ、地球産の一部の文化や言葉に影響を受けまくっているようだ。
 眩しさに耐えかねて、きゅっと目をつむると、再び意識が遠くなってきた。

(そう言えば、どんな姿に転生するのか、聞き忘れていた……)

 小柄で華奢な体格が密かにコンプレックスだったので、生まれ変わるならばゴリマッチョが良い。
 夏希ナツが耳にしたら悲鳴を上げそうな希望を胸に、俺はその身を再構築された。



『ようこそ、僕の世界へ!』

 目が覚めると、ケサランパサランーー否、創造神がふわふわと空に浮かんでいた。
 魂だけの存在だった時とは違い、頬に当たる風や草の匂いが分かる。
 白い雲がたなびく青空は、少なくとも地球とそう変わりはなさそうだった。

 横たわっていたのは、草原らしき場所。片手をついて、起き上がった。ゆっくりと立ち上がる。立ち眩みもなく、気分も悪くない。
 この異世界に合わせて創られた肉体は、もう既に馴染んでいるようだった。

『君にはなるべく長生きしてもらうために、長寿な種族の肉体を与えたんだ。魔力も多いし、身体がとても軽いだろう? トーマの元のスペックになるべく近くなるよう、頑張って創ったんだよ!』

 褒めて褒めて、とばかりにケサランパサランもどきの創造神が周囲をぴょんぴょん飛び回る。

「元のスペックに近く? ……待て、俺の希望は…っ!」
『ん? ダメだった? ハイエルフの肉体』
「ハイエルフ……」

 ファンタジーに疎い自分でさえ、聞いたことがある。エルフは耳が尖っていて森に住む美形で長命な種族だったか。ハイエルフということは、その上位種なのか?
 とにかく、いちばん気になる体格は!
 見下ろして絶望に打ちひしがれた。

「以前よりも細くなっていないか……?」
『精霊に近い種族だから、常若とこわかな外見をしているんだ。君の年齢、21才だと、エルフ族の中でも赤ちゃん扱いの年頃だけどね』
「赤ちゃん……。いいのか、それで」
『中身は君だし、肉体も普通の人間に比べて頑丈だし問題ないでしょ。スキルもちゃんと授けるし!』
「分かった。もう創られてしまったんだから、仕方ない」

 憧れのゴリマッチョ体型の夢は遠ざかったが、叶えられないわけでもあるまい。
 前世では太りにくい体質だったため、ウェイトアップは出来なかったが、ハイエルフの肉体ならいける可能性もあるのでは。
 
(普通の人間よりも頑丈って言っていたし、鍛えていけば筋肉も育つかも)

 剣と魔法の世界で、魔獣や魔物を倒せばレベルアップして更に強くなるのだと聞いた。鍛え甲斐がありそうだ。

『転生させる際に自動的に付与されるスキルは、三つ。まずは、この世界で不自由なく意思疎通が出来るように【全言語理解】スキル。この世界の知識がない君たちのために、対象を凝視すると見える【鑑定】スキル』
「へぇ…? アフターサービスもちゃんとあるんだな。正直助かる」

 せっかくの新天地でも、言葉が通じないとハードモードすぎる。物を鑑定できる能力もありがたい。調べる手間が大幅に省ける。

『最後はお約束のスキル【アイテムボックス】だよ! レベルに合わせて異空間に物を収納する能力なんだ。異空間だから、生き物は入れられないけれど、時間は停止しているから、収納物は劣化しない。便利でしょう?』
「便利だな。手ぶらで行動が出来るのはありがたい。収納物は劣化しないのなら、食料も腐らないのか」
『そうそう。良いスキルだよね。日本で学んで便利だなーって思って、こちらの世界でも作ってみたんだ。勇者の三人にももちろん与えてあるよ?』
「結構レアなスキルなのか、これ?」
『鑑定とアイテムボックスはレアスキルだよ! 転移者や転生者には特典であげるけどねー』

 収納スキルはありがたいが、荷物は無いしな、と自分の体を見下ろしてため息を吐く。
 服装は生前に着ていた物がそのまま再現されていた。薄手のパーカーにチェックのネルシャツを着込み、撥水性のジャケットを羽織った姿だ。
 下は穿き慣れたデニムのストレッチパンツ。スニーカーも撥水性で気に入りの物だったので、こちらの世界に持ってこれたのは嬉しい。

「とは言え、荷物がないと不安だな……。こちらの世界の金もないし」

 ぽつりと呟くと、毛玉は馴れ馴れしく肩に乗ってきた。

『荷物はちゃんとあるよ! 君のアイテムボックスに収納しているんだ。確認してみてよ』
「確認? どうやって?」
『んっふふふー。もちろんお約束の呪文で! リピートアフターミー? 「ステータスオープン」が魔法の呪文だよ』
「……ステータスオープン?」

 ぽつりと復唱した瞬間、目の前に透明なタブレットのような物が現れた。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *無断転載、無断翻訳を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

処理中です...