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3巻
3-2
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「青が好きなの? なら、こんな柄物はどうかしら」
「これは、絞り染め?」
前世で見たことのある色柄だ。布を手に取って、まじまじと観察してしまう。
「あら、よく知っているわね。秘密の製法で染められた布で、とても人気があるのよ」
店員さんが見せてくれたのは藍を使って染色された布で、独特の柄が入っていた。前世、美術の授業で試したことのある、絞り染めで描き出される模様とそっくりだ。
「えっと、人から聞いたことがあって。見たのは初めてです」
絞り染めは同じ製法で染めても、微妙に色柄が変わるのが楽しい。手に取った布はまるで朝顔の花のような柄に染まっており、華やかだ。ワンピースに仕立てるといいかもしれない。
幾何学模様の布地はエドの土産にしよう。お揃いのアロハシャツを作るのも楽しそうだ。
最初に一目惚れした空と海の色を映した布と一緒に纏めて購入する。
ミーシャとラヴィルも気に入った布地をいくつか買っていた。
「さて、そろそろランチにする?」
「ラヴィ、あの海沿いのレストランですか?」
「そう。魚介類のメニューが豊富だから、きっとナギも気に入ると思うわ」
「楽しみです」
南の街ではもっぱら海鮮市場の屋台でお腹を満たしていたので、お洒落なレストランでの食事は初めてだ。ナギは笑顔で二人の師匠の腕に己のそれを絡める。
自然とスキップを踏む少女の姿を二人の美女が微笑ましげに見守ってくれた。
「あの店よ。素敵な外観でしょう?」
緩やかな坂道を登った先には、珪藻土に似た白壁造りのレストランがあった。
二人が気に入るだけあり、とても素敵なお店だ。海を見渡せるテラス席に案内される。
「素敵。オーシャンビューですね」
「良い景色でしょ? 私たちのお気に入りのお店なの」
「料理もワインも美味しい、すばらしいレストランです」
ラヴィルはさっそく店員を呼び寄せて、注文の方法を教えてくれる。
「この店には決まったメニューはないのよ。その日の朝に市場で仕入れた新鮮な素材によって作る料理が決まるから、私たちはお任せするだけ」
「客が注文するのはお酒の種類くらいです」
「あ、私は……」
お酒と聞いて、心惹かれてしまったが、この肉体は未成年。
「ナギには白ぶどうのジュースがいいと思います。白ワインで乾杯する私たちと、気分だけでも楽しめそうでしょう?」
「はい!」
ミーシャの心遣いが嬉しくて、ナギは笑顔で頷いた。
混み合う時間より少しだけ早いためか、店は貸切りに近い。テラス席はちょうど建物の影にあたり、パラソルがなくても快適だ。乾いた南国の風が滲む汗を吹き飛ばしてくれる。雲ひとつない晴天と海の碧が白壁を際立たせており、ハイビスカスの花の黄色が華やかさを添えてくれていた。
(まるで地中海のリゾート地みたい……)
夢見心地のナギのもとにドリンクが運ばれてくる。
グラスはきっちり冷やされており、店の意識の高さが透けて見えた。
ガラスの生産地が近いため、南の街ではガラス製品が普及しているようだ。グランド王国では高価なガラス製品も、ダンジョン都市では庶民でも頑張れば手に取れる価格設定になっている。
「じゃあ、さっそく乾杯よ! 二人ともグラスを掲げて」
「何に乾杯をするのですか、ラヴィ。ナギの美味しいご飯とお菓子に?」
「いいわね。じゃあ、ナギの──」
「あの、女子会に! 三人での初開催の女子会を祝って乾杯しませんか!」
白ぶどうジュース入りのグラスを掲げて主張すると、きょとんとしていた二人が破顔する。
「そうだったわね。女子会に乾杯は良い案だわ」
「三人目のメンバーを歓迎します。ナギ、私たちの女子会にようこそ」
「「「素敵な女子会に乾杯!」」」
そっとグラスの縁を重ねて、笑みを交わし合う。冷えたジュースではちっとも酔えないけれど、白ワインを飲んだ時と同じくらいの幸福感に心が満たされた。
「美味しいです、白ぶどうのジュース」
「そう、良かった。この白ワインもいい味です。五年後、ナギと飲むのが楽しみです」
ほんの数日後のことのようにミーシャが微笑みながら言い、ラヴィルが肩を竦めた。
「これだから気の長いエルフは。十年前の話でも、ついこの間で済ますのよ、ミーシャったら」
「さすがエルフ……」
グラスを傾けながら、くだらないお喋りを楽しんでいると、料理が運ばれてきた。大皿から取り分けて食べる形式のようだ。広めのテーブルがメイン料理だけで半分ほど占められてしまう。
「シーフードのトマト煮込みですね」
真っ赤なスープにたっぷりの具材が浮かんでいる。大きな有頭エビが三匹、ちゃんと人数分入っていた。イカにタコ、二枚貝など、新鮮な魚介類がたっぷりと詰まっていて美味しそうだ。
「今日も当たりね。美味しそう。さっそく取り分けて食べましょう」
普段はおっとりしているが、食べることに関しては素早いミーシャがそれぞれの皿に取り分けてくれる。魅惑的な香りに誘われるまま、ナギはスープを口に運んだ。
海の幸の旨味が凝縮されたスープは文句なしに美味しい。ガーリックとオリーブオイルの香りが食欲を掻き立てる。赤唐辛子のピリッとした刺激が味を引き締めており、いくらでも食べられそう。
付け合わせのパンはフォカッチャに似た平パンだ。ナギの顎には少しばかりきついハードパンだが、オリーブオイルに浸して食べてみる。ほんのりと塩味を感じる、もちっとした食感。
「面白い食感ですね。嫌いじゃないです」
「そうなのよ。ここのパン、ワインにも合うから病みつきになっちゃうのよね」
「この料理も美味しいですよ」
野菜たっぷりのラザニアに似た料理をもりもり食べるミーシャ。肉が好きだと公言していたが、同じくらいチーズが好きなようだ。うっとりと瞳を細めながら幸せそうに堪能している。
あつあつのラザニアもどきを口にして、ナギは少し驚いた。ホワイトソースの代わりにヨーグルトを使っている。さっぱりとしていて、これが意外と美味しい。
ホワイトソースを作るのは地味に面倒なので、これは良い時短テクだと感心した。
このパンも酵母の代わりにヨーグルトを使って焼いているのかもしれない。
「ムニエルの焼き加減も絶妙! 皮がパリパリで身はほくほく。ガーリックバターソースも最高に美味しいです。ソースがもったいないから、パンで拭って食べよう」
身悶えするほど美味しいムニエルに、ナギは夢中になった。付け合わせの野菜も彩りがよく、目を楽しませてくれる。新鮮な素材を厳選して丁寧に下拵えしたことがよく分かる料理だった。
味はもちろん、接客もロケーションもいい。まさに女子会向けのベストチョイスなレストランだ。さすがお洒落でグルメなラヴィルの行きつけの店だけはある。
デザートもまた格別だった。焼き菓子に添えられたフルーツのゼリー寄せには驚かされた。
まさか寒天やゼラチンが手に入るのか、と色めきたったのだが。
「これ? スライムが原料なのよ」
「スライム」
さらりと爆弾発言で返されて、固まってしまった。
何でも最近発見された製法らしく、核を残したままスライムの身を削り取って、そのゼラチン部分をデザートに使うのだとか。
「スライムにそんな使い方があったなんて」
「熱して溶かして、また冷やして固めるみたいよ。面倒だけど、食感が面白いのよね」
「冷たくて美味しい甘味なので、南の街で流行っているようです」
「知らなかったです」
でも、いいことを聞いた。レストランで提供されたフルーツゼリーはカットしたフルーツをゼリーで固めただけなので、少し物足りない味なのだ。
(これ、果汁や蜂蜜、砂糖を追加して作れば、もっと美味しくなるよね?)
大人向けにワインゼリーと洒落込んでも、きっと喜ばれるはず。女子に受けることは間違いない。スライムゼリー素材はデザートだけでなく、テリーヌなどの他の料理にも使えるはず。
これは欲しい。作りたい料理がたくさん脳裏をよぎった。
「今度の休日、エドと一緒にスライム狩りをします!」
「あら。ナギが張り切っているわ」
「これは美味しい物が食べられる予感」
「うふふ。楽しみね、ミーシャ」
締めの紅茶を堪能して、ランチを終える。食事代は師匠二人が奢ってくれた。
「食休みも兼ねて、近くの砂浜を散策しましょう」
ミーシャの素敵な提案に、ナギは笑顔で頷いた。
レストランの裏手には階段があり、海岸に降りられるようになっていた。
前世の日本と違い、海洋ゴミの見当たらない、美しい砂浜だ。さらさらと細かな白砂の上に貝殻がいくつも落ちている。ナギは貝殻を拾って、慎重に形を見定めた。
「どうするの、それ?」
「お留守番のエドへのお土産です」
「ああ、なるほど。オオカミくん、置いて行かれて寂しそうだったものね」
「ちゃんとエド用の布地も買ったし、教えてもらったお店も今度連れて行ってあげるつもりでいたんですけど……そんなに寂しそうでした?」
「ふふ、冗談よ。今日のレストランより、あの子なら肉料理のお店の方が喜ぶんじゃない?」
「あー……そうかもしれないです」
お洒落で素敵なお店だったが、魚料理中心のレストランなので、肉食男子のエドにはきっと物足りないと思われた。
「ナギなら料理の再現もできるでしょう? 貴方が作ってあげたらきっと喜ぶわ」
「良い考えね、ミーシャ。ついでに私たちにも味見をさせてくれたら嬉しい!」
「それはもちろん期待していてください。今日はご馳走様でした」
二人に奢ってもらったので、お礼を何にしようか迷っていたところだ。
アレンジ料理の提供で喜んでもらえるなら、お安い御用です。
「ふふっ、裸足になると気持ちがいい」
サンダルを脱いで、裸足で踏む砂の感触が楽しい。
水際まで寄って、爪先で波を蹴とばしてみる。冷たい水の感触にナギは歓声を上げた。
漁師の舟がまるで空に浮かんでいるように見えるほど、ここの海は透明度が高い。
(エドと一緒にまた遊びに来たいな)
楽しい時間を過ごしていても、ふいに過るのは黒髪の少年の顔。
離れているのに、一緒にいる時よりも彼のことを考えてしまうのが不思議だった。
「ナギ。約束していたお店を案内しますよ」
ぼんやりと海を眺めていると、ミーシャに手招きされる。
サンダルを指先に引っ掛けると、ナギはエルフの麗人の元へ寄っていった。
***
「じゃあ、行ってきます。お土産、楽しみにしていてね、エド!」
艶やかな黒髪のポニーテールを揺らしながら、ナギが手を振る。
その両脇を固めるのは、二人の師匠である白兎獣人のラヴィルとエルフのミーシャだ。
たおやかな外見とは裏腹に、鋭い蹴りで魔物を殲滅する『戦闘狂ウサギ』のラヴィル。
おっとりとした語り口と美しい容貌から聖母と持て囃されているが、現役時代は『暴虐のエルフ』の異名で恐れられていたミーシャ。その二人がナギと共にいるのだ。
こんなにも頼りになる護衛は他にいない。そう頭ではきちんと理解していたが、エドはそれでも相棒の少女が心配だった。なにせ、今日のナギはいつにもまして愛らしいので。
人目を引く金髪と澄んだ青い瞳はエルフの秘薬で色を変えられたが、外見はそのままの上に、着飾って出掛けたのだ。心配するに決まっている!
白く滑らかな肌や頬に影を落とすほどに濃く長い睫毛、艶やかなピンクの唇。ころころと変わる表情は愛らしく、真っ直ぐで好奇心に満ちた眼差しが魅力的な少女なのだ。
(男装していても目立っていた。それを、あんなに可愛く着飾るなんて信じられない。人攫いに狙われてしまう。アキラが教えてくれた『ナンパ』とやらの被害に遭うかもしれない)
水色のブラウスに紺色のふわりと広がるスカート姿のナギは、誰が見ても清楚な美少女だ。
よほど女子会が楽しみなのだろう。満面の笑みを浮かべて歩く少女の姿は目立っていた。
両隣を歩く美女二人の効果もあって、ものすごく人目を引いている。
「今の子、見たか?」
「見た見た! めちゃくちゃ可愛かったな」
「あんな子、この街にいたっけ?」
「いや、初めて見る。声かけてみようぜ」
同年代の少年たちがさっそく目をつけたらしく、やたらとはしゃいでいる。
成人した年齢の男たちも、二人の美女と黒髪の美少女に見惚れていた。
(師匠たちのせいで、余計に目立っている!)
家を出て、通りを歩いて二分でこれだ。
三人には護衛を断られてはいたが、心配すぎてエドはこっそりと彼女たちを尾行していた。
普段からナギの艶やかな金髪は目立っていた。だから、ありふれた黒に染めれば、集団に紛れられるかと考えたのだが──
(むしろ、親しみやすさが加わって、気軽に声をかけられそうだ……)
高嶺の花よりも、道端の可憐な花の方が摘まれやすいもの。
綺麗な服を着ているが、黒髪黒目の街の娘なら自分たちでも手が届くのではと思い込んだ連中が気安く声をかけようとしている。慌てて、間に割って入ろうとしたが──
ぎろり、とラヴィルの紅い瞳が少年たちを睨み付けると、途端に蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
中には腰を抜かした者もいたが、仲間たちが両脇を抱えて連れていく。
一瞥だけで邪魔なナンパ少年を蹴散らした師匠は白くて長い耳をぴるるっと震わせて、ちらりとこちらに視線を向けてきた。帰りなさい。声には出さないが、そう囁いているのが分かった。
どこか呆れているような、生温い眼差し。後ろに回した片手で親指を上げて、ピッと宿を指してくるラヴィル。最後通牒なのだろう。あの目は本気だ。
エドは尻尾を巻いて、すごすごと宿に戻ることにした。
そっと背後を窺う。先程のナンパ騒動に気付いた様子もなく、ナギはミーシャとのおしゃべりを楽しんでいる。
ガラの悪そうな低ランク冒険者の男たちがニヤニヤしながら三人に近付いていったが、数メートル離れた場所で動きを止めた。どうやらミーシャがエルフ特有の精霊魔法で男たちの歩みを物理的に止めたようだった。地面から生えた蔓に足首を縫い付けられている。
怒声を上げようとした男には顔を覆うほどの大きさの水球が現れ、その声を奪っていた。
ガバゴボと喉元を押さえて、苦しそうにのたうっている。意識を失いかけたところで、水球は姿を消したが、男たちはすでに戦意を喪失したようだ。
「……おっかねぇ……」
息も絶え絶えにそれだけをつぶやくと、這う這うの体で逃げていく。
「お、いい女だな。ウサギの姉ちゃん」
通りすがりに尻を触ろうとしてくる不埒な痴漢にはラヴィルの鋭い蹴りが炸裂した。ちゃんと怪我をさせないよう意識だけを奪う、絶妙な力加減での攻撃だ。
どれもナギにはまったく気付かれていない早業だ。
たった五分で、何人が撃退されたのか。もはや指折り数えるのも空しくなるほどで。
「俺よりも強い護衛だ……」
もっと鍛錬を頑張ろうと、エドはそっと心に誓った。
宿に戻っても、することがない。
毎日仕込んでいるパン酵母も順調に育っているし、昨日のうちに一週間分のパンは焼いてある。
昼食はナギが弁当を作ってくれたので、自炊の必要もない。
ナギは笑顔で「エドも好きに過ごしていいのよ」と言ってくれたが、特に遊びに行きたい場所も彼にはなかった。
強いて言うなら、ダンジョンに行きたかったが、ルーキーはソロでの挑戦は禁止されている。
休みの日に冒険者ギルドの鍛錬場に通うのも面倒だ。ならば、行き先はひとつだけ。
「久しぶりに森に行くか」
『賛成! 森でひと狩りしたい!』
頭の中に響く声は、アキラのものだ。この時間はてっきり眠っているのだとばかり思っていたが、どうやら彼もナギのことが気になって起きていたようだ。
「よし、森へ行こう。俺も久々に狩りたいから、交代だぞ?」
『いいよ。たまには大物を狩らないとね』
獣化した姿で森を駆けるのは愉しい。ダンジョン内ではまだ浅い階層にしか潜れていないので、アキラを存分に駆けさせることができていない。黒狼の姿の彼を解放するのは、もっと下層で冒険者の少ないフィールドを見付けないと難しそうだった。
アキラがうきうきと心を騒がせているのが伝わってきて、苦笑する。よほど楽しみなのだろう。ずっと深層意識に閉じこもっていた彼は随分とストレスが溜まっているようだった。
リュック型のマジックバッグを背負うと、エドは東の砦を足早に目指した。
東の森に足を踏み入れると、エドは【獣化】スキルで黒狼の姿に変化する。
ナギとはまだ向かったことのない、かなり奥の地を目指して黒狼は力強く駆けていく。途中で見かけた魔獣はすべて氷魔法で仕留めた。戦利品はきっちりと持ち帰る。
黒狼はマジックバッグを咥えて、仕留めた獲物を器用に収納した。
『オークの集落がある』
すん、と鼻を鳴らしてアキラが念話で伝えてくる。
交代するか、と提案してみるが、鼻先で「まさか」と笑われてしまった。
『せっかく全力で遊べそうなのに。邪魔をするなよ、エド?』
上機嫌なアキラはいつもの仔狼姿ではなく、本来の、巨大な黒狼の姿で顕現していた。
気配を殺すことなく、悠々とオークたちのテリトリーへ侵入していく。
全力どころか、一割ほどの力でオークの集落を壊滅させた黒狼は「あー楽しかった!」と満足そうに伸びをすると、肉体の主導権を返してくれた。スキルを解かれたエドは急いで衣服を整える。
後に残るのはオークたちの屍がごろごろと転がる、惨劇の場で。
「……これを俺に片付けろ、と?」
『ごめんなー? さすがにオオカミの前脚じゃ、これだけの死骸拾いはキツいだろ? 集落は後で俺がきちんと潰しておくから』
「分かった。掃除は頼んだぞ」
『もちろん!』
そんなわけで、エドは黙々と物言わぬオークを拾っていき、マジックバッグを戦利品でいっぱいにした。幸運だったのは、集落にハイオークなどの上位個体がいたことか。
「この肉で、ナギにオークカツを作ってもらおう」
ハイオークは魔素をたっぷりと含んでおり、とんでもなく旨い。ただ焼いただけでも美味だと思うが、ナギがカツにしてくれた肉は最高のご馳走だ。
『上位種になるほど旨くなるなら、オークキングってどんな味なんだろうねー?』
「キング種ともなれば、上級貴族や王族の口にしか入らないと噂で聞いた」
『でも、ダンジョンにいるんでしょ? いつか狩りたいな。カツカレーにして食いたい』
「深階層にいると聞いたことはある。……ところで、かつかれー、とは?」
アキラがうっとりとため息まじりに切なくつぶやく単語は大抵が旨いご馳走の名前だ。
さっそく食い付いたエドの様子にアキラはにんまりと笑って、美味しいカツカレーの話をたっぷりと語ってやった。
***
「ただいま!」
「おかえり、ナギ。女子会は楽しかったか」
「うん、すっごく楽しかった!」
宿に帰宅したナギを穏やかな表情のエドが出迎えてくれる。久しぶりの一人きりの休日を、彼なりに満喫したのだろう。今朝方の心配そうな表情を浮かべていた少年とは別人のようだ。
「お土産たくさんあるからね」
「分かったから、落ち着け。まずは汗を流してくるといい。服も着替えたいだろう?」
「ん、そうね。先にお風呂に入ってくる!」
上機嫌のまま、ナギは部屋の隅のテントに潜り込む。小型の魔道テントの中は拡張されているため、外観よりも広々としている。ここにナギは魔道トイレとバスタブを設置していた。
鼻歌まじりにバスタブへ魔法で湯を張り、服を脱いでいく。脱いだ服と全身をまずは浄化して綺麗にした。切り落とした自分の髪で作ったウィッグを外し、しげしげと眺めた。
「本当に不思議。市販の染め粉は触れると色がつくし、ザラザラした触感になるのに。いつもと変わらない、さらさらの手触り。色移りもしないし、髪が傷んだ様子もない。さすが、エルフの秘薬」
見慣れた黒髪は否応にも前世を思い起こしてしまう。黒い目もカラコンよりも自然に見えた。
あらためて鏡で眺めて見ても、今の自分はアリア・エランダルとは思えない。
整った顔をしているが、黒い色を纏った少女は生粋のダンジョン都市っ子に見える。
「この姿なら、絶対にバレないよね。私がアリアだなんて」
希少な素材を使って作られた、エルフの秘薬。
普段は惜しげなく珍しい果物や植物を分けてくれるミーシャが、困ったように眉を寄せていた。
本来ならエルフ以外には見せられない薬なのだろう。喉から手が出るほどに欲しい薬だが、大事な師匠にあんな表情をさせてまで手に入れたいとは思わない。
「あと数年の我慢よ。さすがに成人する頃には辺境伯家の事件も風化しているだろうし」
楽観的かもしれないが、そう言い聞かせて納得するしかない。
後ろでひとつに括っていた紐をほどき、乱れた髪を撫で付ける。せっかくの黒髪だが、あの秘薬の効果は二十四時間。使用して一日が経つと、自然と元の色に戻るらしい。
「寝て起きたら、元の色なのよね。残念だけど、ちょっとの間だけでもエドとお揃いの髪色になれたし、可愛い服も楽しめたから満足だわ」
ラヴィルにメイクを施してもらい、気兼ねなくはしゃげた女子会はとても楽しかった。お約束の恋バナでも盛り上がったし、素敵なレストランも教えてもらえた。
特にミーシャが連れて行ってくれたエルフの店は興味深い物ばかりで、欲しかった物をたくさん手に入れることができた。
ガーゼの小袋を湯に浮かべて、バスタブで身体を伸ばす。カモミールとラベンダーを調合したバス用の香り袋だ。乾燥された花びらからリラックスできる香りが立ち昇ってくる。
半日ほど南の街を歩き回ったのだ。湯の中でマッサージすると、浮腫んでいた足が息を吹き返す。
「さすがエルフのハーブ屋さん。効能が凝縮されているなー……」
気持ち良さにうっとりとため息をついた。
油断すると寝落ちしそうなほどにバスタイムを満喫したナギだった。
お風呂上がりにノースリーブのワンピースを着て、その上にエプロンを付ける。
朝はパンと卵焼き、昼は魚介料理を食べたので、夕食は肉料理にしよう。
「何を作ろうかな」
「まだメニューが決まっていないなら、この肉を使ってほしい」
「ドロップアイテムじゃなくて、そのままの獲物ね。狩りにでも行っていたの?」
「ああ。アキラと森へ行ってきた。楽しかった」
「そっかー……って、これハイオークじゃない! 大丈夫──か、エドとアキラの二人なら」
大森林でも何頭か狩ったことがある魔物だ。オークが進化した魔物で高ランクの危険種だが、エドにとっては「オークよりも美味しい上等なお肉。ついでに素材が高く売れる」でしかないのだ。
アキラと一緒だったなら、余裕で狩れたことだろう。
「じゃあ、一旦預かって解体するね。今日はハイオークのステーキにする? トンテキならぬハイオークテキ」
「実は集落にかち合って壊滅させたから、肉は大量にあるんだ。メニューはナギに任せるが、明日はカツが食べたい」
「集落……」
しおらしげに、そっとリュック型のマジックバッグを差し出してくるエドに、瞳を眇めた。
文句を言いたいが、好きに遊んできたらいいと背中を押したのは自分だ。
一人きりなら、きつく叱責したと思う。が、今回は同一体ではあるが、一応のお目付役であるアキラもいたらしいので、お説教はどうにか飲み込んだ。
「……今度は私も誘ってね?」
「! もちろん誘う。少し距離はあるが、アキラに乗れば楽に辿り着ける」
なぜか、喜ばれてしまった。まあ、悪い気はしない。
「とりあえず、夕食にしようか。今日のデザートは楽しみにしておいてね?」
「ああ、楽しみだ」
夕食のメインはハイオークのステーキにした。バターでじっくりと焼き上げ、醤油で味付け。
スライスしたフライドガーリックを散らしたら完成だ。付け合わせはブロッコリーとニンジン、じゃがいものソテー。スープとおにぎりを添えて、いただきます。
「オークも美味しかったけど、さすが上位種。肉汁がたまらないわね」
「……っ!」
噛み締めながら味わうナギの隣で、エドは無言でハイオークのステーキに挑んでいる。
一枚目のステーキの切れ端を味見した瞬間からこうなることは予想していたので、ステーキは大量に焼いてある。エドの皿には分厚いステーキが三枚重ねてあったが、もう残り少ない。
「ハイオーク肉、絶品ね。明日のカツも楽しみになってきちゃった。いいお肉だから、しゃぶしゃぶやすき焼きにもしても良さそう」
「どれも食べたい」
「ふふ。うん、期待していて。……それはそうと、デザートが入る余地は残してある?」
あまりにも旺盛な食欲を目にして、ナギはおそるおそる口を挟んだ。
「大丈夫だ。アレだ、ベツバラ」
「……ほんっと、アキラは何を教えているんだか」
女子か! まぁ、別腹理論は分かるけど。
しっかりとステーキを堪能した後で、いよいよデザートの時間だ。
「じゃーん! すごいでしょう? バニラアイスよ!」
颯爽と【無限収納EX】から取り出したデザートをテーブルに並べていく。
「バニラ……アイス……?」
「そう! 念願のバニラが手に入ったの!」
バニラアイスはとっておきのスイーツなため、高価なガラスの器によそってある。アイススプーンがなかったので、普通のスプーンで盛り付けた。少し不恰好だが、美味しければ問題ない。
「ミーシャさんが教えてくれたお店がね、色んな怪しい物を売っていたんだけど……」
ダンジョンや遺跡から発掘した鑑定不能な物、他国から輸入した品。
「これは、絞り染め?」
前世で見たことのある色柄だ。布を手に取って、まじまじと観察してしまう。
「あら、よく知っているわね。秘密の製法で染められた布で、とても人気があるのよ」
店員さんが見せてくれたのは藍を使って染色された布で、独特の柄が入っていた。前世、美術の授業で試したことのある、絞り染めで描き出される模様とそっくりだ。
「えっと、人から聞いたことがあって。見たのは初めてです」
絞り染めは同じ製法で染めても、微妙に色柄が変わるのが楽しい。手に取った布はまるで朝顔の花のような柄に染まっており、華やかだ。ワンピースに仕立てるといいかもしれない。
幾何学模様の布地はエドの土産にしよう。お揃いのアロハシャツを作るのも楽しそうだ。
最初に一目惚れした空と海の色を映した布と一緒に纏めて購入する。
ミーシャとラヴィルも気に入った布地をいくつか買っていた。
「さて、そろそろランチにする?」
「ラヴィ、あの海沿いのレストランですか?」
「そう。魚介類のメニューが豊富だから、きっとナギも気に入ると思うわ」
「楽しみです」
南の街ではもっぱら海鮮市場の屋台でお腹を満たしていたので、お洒落なレストランでの食事は初めてだ。ナギは笑顔で二人の師匠の腕に己のそれを絡める。
自然とスキップを踏む少女の姿を二人の美女が微笑ましげに見守ってくれた。
「あの店よ。素敵な外観でしょう?」
緩やかな坂道を登った先には、珪藻土に似た白壁造りのレストランがあった。
二人が気に入るだけあり、とても素敵なお店だ。海を見渡せるテラス席に案内される。
「素敵。オーシャンビューですね」
「良い景色でしょ? 私たちのお気に入りのお店なの」
「料理もワインも美味しい、すばらしいレストランです」
ラヴィルはさっそく店員を呼び寄せて、注文の方法を教えてくれる。
「この店には決まったメニューはないのよ。その日の朝に市場で仕入れた新鮮な素材によって作る料理が決まるから、私たちはお任せするだけ」
「客が注文するのはお酒の種類くらいです」
「あ、私は……」
お酒と聞いて、心惹かれてしまったが、この肉体は未成年。
「ナギには白ぶどうのジュースがいいと思います。白ワインで乾杯する私たちと、気分だけでも楽しめそうでしょう?」
「はい!」
ミーシャの心遣いが嬉しくて、ナギは笑顔で頷いた。
混み合う時間より少しだけ早いためか、店は貸切りに近い。テラス席はちょうど建物の影にあたり、パラソルがなくても快適だ。乾いた南国の風が滲む汗を吹き飛ばしてくれる。雲ひとつない晴天と海の碧が白壁を際立たせており、ハイビスカスの花の黄色が華やかさを添えてくれていた。
(まるで地中海のリゾート地みたい……)
夢見心地のナギのもとにドリンクが運ばれてくる。
グラスはきっちり冷やされており、店の意識の高さが透けて見えた。
ガラスの生産地が近いため、南の街ではガラス製品が普及しているようだ。グランド王国では高価なガラス製品も、ダンジョン都市では庶民でも頑張れば手に取れる価格設定になっている。
「じゃあ、さっそく乾杯よ! 二人ともグラスを掲げて」
「何に乾杯をするのですか、ラヴィ。ナギの美味しいご飯とお菓子に?」
「いいわね。じゃあ、ナギの──」
「あの、女子会に! 三人での初開催の女子会を祝って乾杯しませんか!」
白ぶどうジュース入りのグラスを掲げて主張すると、きょとんとしていた二人が破顔する。
「そうだったわね。女子会に乾杯は良い案だわ」
「三人目のメンバーを歓迎します。ナギ、私たちの女子会にようこそ」
「「「素敵な女子会に乾杯!」」」
そっとグラスの縁を重ねて、笑みを交わし合う。冷えたジュースではちっとも酔えないけれど、白ワインを飲んだ時と同じくらいの幸福感に心が満たされた。
「美味しいです、白ぶどうのジュース」
「そう、良かった。この白ワインもいい味です。五年後、ナギと飲むのが楽しみです」
ほんの数日後のことのようにミーシャが微笑みながら言い、ラヴィルが肩を竦めた。
「これだから気の長いエルフは。十年前の話でも、ついこの間で済ますのよ、ミーシャったら」
「さすがエルフ……」
グラスを傾けながら、くだらないお喋りを楽しんでいると、料理が運ばれてきた。大皿から取り分けて食べる形式のようだ。広めのテーブルがメイン料理だけで半分ほど占められてしまう。
「シーフードのトマト煮込みですね」
真っ赤なスープにたっぷりの具材が浮かんでいる。大きな有頭エビが三匹、ちゃんと人数分入っていた。イカにタコ、二枚貝など、新鮮な魚介類がたっぷりと詰まっていて美味しそうだ。
「今日も当たりね。美味しそう。さっそく取り分けて食べましょう」
普段はおっとりしているが、食べることに関しては素早いミーシャがそれぞれの皿に取り分けてくれる。魅惑的な香りに誘われるまま、ナギはスープを口に運んだ。
海の幸の旨味が凝縮されたスープは文句なしに美味しい。ガーリックとオリーブオイルの香りが食欲を掻き立てる。赤唐辛子のピリッとした刺激が味を引き締めており、いくらでも食べられそう。
付け合わせのパンはフォカッチャに似た平パンだ。ナギの顎には少しばかりきついハードパンだが、オリーブオイルに浸して食べてみる。ほんのりと塩味を感じる、もちっとした食感。
「面白い食感ですね。嫌いじゃないです」
「そうなのよ。ここのパン、ワインにも合うから病みつきになっちゃうのよね」
「この料理も美味しいですよ」
野菜たっぷりのラザニアに似た料理をもりもり食べるミーシャ。肉が好きだと公言していたが、同じくらいチーズが好きなようだ。うっとりと瞳を細めながら幸せそうに堪能している。
あつあつのラザニアもどきを口にして、ナギは少し驚いた。ホワイトソースの代わりにヨーグルトを使っている。さっぱりとしていて、これが意外と美味しい。
ホワイトソースを作るのは地味に面倒なので、これは良い時短テクだと感心した。
このパンも酵母の代わりにヨーグルトを使って焼いているのかもしれない。
「ムニエルの焼き加減も絶妙! 皮がパリパリで身はほくほく。ガーリックバターソースも最高に美味しいです。ソースがもったいないから、パンで拭って食べよう」
身悶えするほど美味しいムニエルに、ナギは夢中になった。付け合わせの野菜も彩りがよく、目を楽しませてくれる。新鮮な素材を厳選して丁寧に下拵えしたことがよく分かる料理だった。
味はもちろん、接客もロケーションもいい。まさに女子会向けのベストチョイスなレストランだ。さすがお洒落でグルメなラヴィルの行きつけの店だけはある。
デザートもまた格別だった。焼き菓子に添えられたフルーツのゼリー寄せには驚かされた。
まさか寒天やゼラチンが手に入るのか、と色めきたったのだが。
「これ? スライムが原料なのよ」
「スライム」
さらりと爆弾発言で返されて、固まってしまった。
何でも最近発見された製法らしく、核を残したままスライムの身を削り取って、そのゼラチン部分をデザートに使うのだとか。
「スライムにそんな使い方があったなんて」
「熱して溶かして、また冷やして固めるみたいよ。面倒だけど、食感が面白いのよね」
「冷たくて美味しい甘味なので、南の街で流行っているようです」
「知らなかったです」
でも、いいことを聞いた。レストランで提供されたフルーツゼリーはカットしたフルーツをゼリーで固めただけなので、少し物足りない味なのだ。
(これ、果汁や蜂蜜、砂糖を追加して作れば、もっと美味しくなるよね?)
大人向けにワインゼリーと洒落込んでも、きっと喜ばれるはず。女子に受けることは間違いない。スライムゼリー素材はデザートだけでなく、テリーヌなどの他の料理にも使えるはず。
これは欲しい。作りたい料理がたくさん脳裏をよぎった。
「今度の休日、エドと一緒にスライム狩りをします!」
「あら。ナギが張り切っているわ」
「これは美味しい物が食べられる予感」
「うふふ。楽しみね、ミーシャ」
締めの紅茶を堪能して、ランチを終える。食事代は師匠二人が奢ってくれた。
「食休みも兼ねて、近くの砂浜を散策しましょう」
ミーシャの素敵な提案に、ナギは笑顔で頷いた。
レストランの裏手には階段があり、海岸に降りられるようになっていた。
前世の日本と違い、海洋ゴミの見当たらない、美しい砂浜だ。さらさらと細かな白砂の上に貝殻がいくつも落ちている。ナギは貝殻を拾って、慎重に形を見定めた。
「どうするの、それ?」
「お留守番のエドへのお土産です」
「ああ、なるほど。オオカミくん、置いて行かれて寂しそうだったものね」
「ちゃんとエド用の布地も買ったし、教えてもらったお店も今度連れて行ってあげるつもりでいたんですけど……そんなに寂しそうでした?」
「ふふ、冗談よ。今日のレストランより、あの子なら肉料理のお店の方が喜ぶんじゃない?」
「あー……そうかもしれないです」
お洒落で素敵なお店だったが、魚料理中心のレストランなので、肉食男子のエドにはきっと物足りないと思われた。
「ナギなら料理の再現もできるでしょう? 貴方が作ってあげたらきっと喜ぶわ」
「良い考えね、ミーシャ。ついでに私たちにも味見をさせてくれたら嬉しい!」
「それはもちろん期待していてください。今日はご馳走様でした」
二人に奢ってもらったので、お礼を何にしようか迷っていたところだ。
アレンジ料理の提供で喜んでもらえるなら、お安い御用です。
「ふふっ、裸足になると気持ちがいい」
サンダルを脱いで、裸足で踏む砂の感触が楽しい。
水際まで寄って、爪先で波を蹴とばしてみる。冷たい水の感触にナギは歓声を上げた。
漁師の舟がまるで空に浮かんでいるように見えるほど、ここの海は透明度が高い。
(エドと一緒にまた遊びに来たいな)
楽しい時間を過ごしていても、ふいに過るのは黒髪の少年の顔。
離れているのに、一緒にいる時よりも彼のことを考えてしまうのが不思議だった。
「ナギ。約束していたお店を案内しますよ」
ぼんやりと海を眺めていると、ミーシャに手招きされる。
サンダルを指先に引っ掛けると、ナギはエルフの麗人の元へ寄っていった。
***
「じゃあ、行ってきます。お土産、楽しみにしていてね、エド!」
艶やかな黒髪のポニーテールを揺らしながら、ナギが手を振る。
その両脇を固めるのは、二人の師匠である白兎獣人のラヴィルとエルフのミーシャだ。
たおやかな外見とは裏腹に、鋭い蹴りで魔物を殲滅する『戦闘狂ウサギ』のラヴィル。
おっとりとした語り口と美しい容貌から聖母と持て囃されているが、現役時代は『暴虐のエルフ』の異名で恐れられていたミーシャ。その二人がナギと共にいるのだ。
こんなにも頼りになる護衛は他にいない。そう頭ではきちんと理解していたが、エドはそれでも相棒の少女が心配だった。なにせ、今日のナギはいつにもまして愛らしいので。
人目を引く金髪と澄んだ青い瞳はエルフの秘薬で色を変えられたが、外見はそのままの上に、着飾って出掛けたのだ。心配するに決まっている!
白く滑らかな肌や頬に影を落とすほどに濃く長い睫毛、艶やかなピンクの唇。ころころと変わる表情は愛らしく、真っ直ぐで好奇心に満ちた眼差しが魅力的な少女なのだ。
(男装していても目立っていた。それを、あんなに可愛く着飾るなんて信じられない。人攫いに狙われてしまう。アキラが教えてくれた『ナンパ』とやらの被害に遭うかもしれない)
水色のブラウスに紺色のふわりと広がるスカート姿のナギは、誰が見ても清楚な美少女だ。
よほど女子会が楽しみなのだろう。満面の笑みを浮かべて歩く少女の姿は目立っていた。
両隣を歩く美女二人の効果もあって、ものすごく人目を引いている。
「今の子、見たか?」
「見た見た! めちゃくちゃ可愛かったな」
「あんな子、この街にいたっけ?」
「いや、初めて見る。声かけてみようぜ」
同年代の少年たちがさっそく目をつけたらしく、やたらとはしゃいでいる。
成人した年齢の男たちも、二人の美女と黒髪の美少女に見惚れていた。
(師匠たちのせいで、余計に目立っている!)
家を出て、通りを歩いて二分でこれだ。
三人には護衛を断られてはいたが、心配すぎてエドはこっそりと彼女たちを尾行していた。
普段からナギの艶やかな金髪は目立っていた。だから、ありふれた黒に染めれば、集団に紛れられるかと考えたのだが──
(むしろ、親しみやすさが加わって、気軽に声をかけられそうだ……)
高嶺の花よりも、道端の可憐な花の方が摘まれやすいもの。
綺麗な服を着ているが、黒髪黒目の街の娘なら自分たちでも手が届くのではと思い込んだ連中が気安く声をかけようとしている。慌てて、間に割って入ろうとしたが──
ぎろり、とラヴィルの紅い瞳が少年たちを睨み付けると、途端に蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
中には腰を抜かした者もいたが、仲間たちが両脇を抱えて連れていく。
一瞥だけで邪魔なナンパ少年を蹴散らした師匠は白くて長い耳をぴるるっと震わせて、ちらりとこちらに視線を向けてきた。帰りなさい。声には出さないが、そう囁いているのが分かった。
どこか呆れているような、生温い眼差し。後ろに回した片手で親指を上げて、ピッと宿を指してくるラヴィル。最後通牒なのだろう。あの目は本気だ。
エドは尻尾を巻いて、すごすごと宿に戻ることにした。
そっと背後を窺う。先程のナンパ騒動に気付いた様子もなく、ナギはミーシャとのおしゃべりを楽しんでいる。
ガラの悪そうな低ランク冒険者の男たちがニヤニヤしながら三人に近付いていったが、数メートル離れた場所で動きを止めた。どうやらミーシャがエルフ特有の精霊魔法で男たちの歩みを物理的に止めたようだった。地面から生えた蔓に足首を縫い付けられている。
怒声を上げようとした男には顔を覆うほどの大きさの水球が現れ、その声を奪っていた。
ガバゴボと喉元を押さえて、苦しそうにのたうっている。意識を失いかけたところで、水球は姿を消したが、男たちはすでに戦意を喪失したようだ。
「……おっかねぇ……」
息も絶え絶えにそれだけをつぶやくと、這う這うの体で逃げていく。
「お、いい女だな。ウサギの姉ちゃん」
通りすがりに尻を触ろうとしてくる不埒な痴漢にはラヴィルの鋭い蹴りが炸裂した。ちゃんと怪我をさせないよう意識だけを奪う、絶妙な力加減での攻撃だ。
どれもナギにはまったく気付かれていない早業だ。
たった五分で、何人が撃退されたのか。もはや指折り数えるのも空しくなるほどで。
「俺よりも強い護衛だ……」
もっと鍛錬を頑張ろうと、エドはそっと心に誓った。
宿に戻っても、することがない。
毎日仕込んでいるパン酵母も順調に育っているし、昨日のうちに一週間分のパンは焼いてある。
昼食はナギが弁当を作ってくれたので、自炊の必要もない。
ナギは笑顔で「エドも好きに過ごしていいのよ」と言ってくれたが、特に遊びに行きたい場所も彼にはなかった。
強いて言うなら、ダンジョンに行きたかったが、ルーキーはソロでの挑戦は禁止されている。
休みの日に冒険者ギルドの鍛錬場に通うのも面倒だ。ならば、行き先はひとつだけ。
「久しぶりに森に行くか」
『賛成! 森でひと狩りしたい!』
頭の中に響く声は、アキラのものだ。この時間はてっきり眠っているのだとばかり思っていたが、どうやら彼もナギのことが気になって起きていたようだ。
「よし、森へ行こう。俺も久々に狩りたいから、交代だぞ?」
『いいよ。たまには大物を狩らないとね』
獣化した姿で森を駆けるのは愉しい。ダンジョン内ではまだ浅い階層にしか潜れていないので、アキラを存分に駆けさせることができていない。黒狼の姿の彼を解放するのは、もっと下層で冒険者の少ないフィールドを見付けないと難しそうだった。
アキラがうきうきと心を騒がせているのが伝わってきて、苦笑する。よほど楽しみなのだろう。ずっと深層意識に閉じこもっていた彼は随分とストレスが溜まっているようだった。
リュック型のマジックバッグを背負うと、エドは東の砦を足早に目指した。
東の森に足を踏み入れると、エドは【獣化】スキルで黒狼の姿に変化する。
ナギとはまだ向かったことのない、かなり奥の地を目指して黒狼は力強く駆けていく。途中で見かけた魔獣はすべて氷魔法で仕留めた。戦利品はきっちりと持ち帰る。
黒狼はマジックバッグを咥えて、仕留めた獲物を器用に収納した。
『オークの集落がある』
すん、と鼻を鳴らしてアキラが念話で伝えてくる。
交代するか、と提案してみるが、鼻先で「まさか」と笑われてしまった。
『せっかく全力で遊べそうなのに。邪魔をするなよ、エド?』
上機嫌なアキラはいつもの仔狼姿ではなく、本来の、巨大な黒狼の姿で顕現していた。
気配を殺すことなく、悠々とオークたちのテリトリーへ侵入していく。
全力どころか、一割ほどの力でオークの集落を壊滅させた黒狼は「あー楽しかった!」と満足そうに伸びをすると、肉体の主導権を返してくれた。スキルを解かれたエドは急いで衣服を整える。
後に残るのはオークたちの屍がごろごろと転がる、惨劇の場で。
「……これを俺に片付けろ、と?」
『ごめんなー? さすがにオオカミの前脚じゃ、これだけの死骸拾いはキツいだろ? 集落は後で俺がきちんと潰しておくから』
「分かった。掃除は頼んだぞ」
『もちろん!』
そんなわけで、エドは黙々と物言わぬオークを拾っていき、マジックバッグを戦利品でいっぱいにした。幸運だったのは、集落にハイオークなどの上位個体がいたことか。
「この肉で、ナギにオークカツを作ってもらおう」
ハイオークは魔素をたっぷりと含んでおり、とんでもなく旨い。ただ焼いただけでも美味だと思うが、ナギがカツにしてくれた肉は最高のご馳走だ。
『上位種になるほど旨くなるなら、オークキングってどんな味なんだろうねー?』
「キング種ともなれば、上級貴族や王族の口にしか入らないと噂で聞いた」
『でも、ダンジョンにいるんでしょ? いつか狩りたいな。カツカレーにして食いたい』
「深階層にいると聞いたことはある。……ところで、かつかれー、とは?」
アキラがうっとりとため息まじりに切なくつぶやく単語は大抵が旨いご馳走の名前だ。
さっそく食い付いたエドの様子にアキラはにんまりと笑って、美味しいカツカレーの話をたっぷりと語ってやった。
***
「ただいま!」
「おかえり、ナギ。女子会は楽しかったか」
「うん、すっごく楽しかった!」
宿に帰宅したナギを穏やかな表情のエドが出迎えてくれる。久しぶりの一人きりの休日を、彼なりに満喫したのだろう。今朝方の心配そうな表情を浮かべていた少年とは別人のようだ。
「お土産たくさんあるからね」
「分かったから、落ち着け。まずは汗を流してくるといい。服も着替えたいだろう?」
「ん、そうね。先にお風呂に入ってくる!」
上機嫌のまま、ナギは部屋の隅のテントに潜り込む。小型の魔道テントの中は拡張されているため、外観よりも広々としている。ここにナギは魔道トイレとバスタブを設置していた。
鼻歌まじりにバスタブへ魔法で湯を張り、服を脱いでいく。脱いだ服と全身をまずは浄化して綺麗にした。切り落とした自分の髪で作ったウィッグを外し、しげしげと眺めた。
「本当に不思議。市販の染め粉は触れると色がつくし、ザラザラした触感になるのに。いつもと変わらない、さらさらの手触り。色移りもしないし、髪が傷んだ様子もない。さすが、エルフの秘薬」
見慣れた黒髪は否応にも前世を思い起こしてしまう。黒い目もカラコンよりも自然に見えた。
あらためて鏡で眺めて見ても、今の自分はアリア・エランダルとは思えない。
整った顔をしているが、黒い色を纏った少女は生粋のダンジョン都市っ子に見える。
「この姿なら、絶対にバレないよね。私がアリアだなんて」
希少な素材を使って作られた、エルフの秘薬。
普段は惜しげなく珍しい果物や植物を分けてくれるミーシャが、困ったように眉を寄せていた。
本来ならエルフ以外には見せられない薬なのだろう。喉から手が出るほどに欲しい薬だが、大事な師匠にあんな表情をさせてまで手に入れたいとは思わない。
「あと数年の我慢よ。さすがに成人する頃には辺境伯家の事件も風化しているだろうし」
楽観的かもしれないが、そう言い聞かせて納得するしかない。
後ろでひとつに括っていた紐をほどき、乱れた髪を撫で付ける。せっかくの黒髪だが、あの秘薬の効果は二十四時間。使用して一日が経つと、自然と元の色に戻るらしい。
「寝て起きたら、元の色なのよね。残念だけど、ちょっとの間だけでもエドとお揃いの髪色になれたし、可愛い服も楽しめたから満足だわ」
ラヴィルにメイクを施してもらい、気兼ねなくはしゃげた女子会はとても楽しかった。お約束の恋バナでも盛り上がったし、素敵なレストランも教えてもらえた。
特にミーシャが連れて行ってくれたエルフの店は興味深い物ばかりで、欲しかった物をたくさん手に入れることができた。
ガーゼの小袋を湯に浮かべて、バスタブで身体を伸ばす。カモミールとラベンダーを調合したバス用の香り袋だ。乾燥された花びらからリラックスできる香りが立ち昇ってくる。
半日ほど南の街を歩き回ったのだ。湯の中でマッサージすると、浮腫んでいた足が息を吹き返す。
「さすがエルフのハーブ屋さん。効能が凝縮されているなー……」
気持ち良さにうっとりとため息をついた。
油断すると寝落ちしそうなほどにバスタイムを満喫したナギだった。
お風呂上がりにノースリーブのワンピースを着て、その上にエプロンを付ける。
朝はパンと卵焼き、昼は魚介料理を食べたので、夕食は肉料理にしよう。
「何を作ろうかな」
「まだメニューが決まっていないなら、この肉を使ってほしい」
「ドロップアイテムじゃなくて、そのままの獲物ね。狩りにでも行っていたの?」
「ああ。アキラと森へ行ってきた。楽しかった」
「そっかー……って、これハイオークじゃない! 大丈夫──か、エドとアキラの二人なら」
大森林でも何頭か狩ったことがある魔物だ。オークが進化した魔物で高ランクの危険種だが、エドにとっては「オークよりも美味しい上等なお肉。ついでに素材が高く売れる」でしかないのだ。
アキラと一緒だったなら、余裕で狩れたことだろう。
「じゃあ、一旦預かって解体するね。今日はハイオークのステーキにする? トンテキならぬハイオークテキ」
「実は集落にかち合って壊滅させたから、肉は大量にあるんだ。メニューはナギに任せるが、明日はカツが食べたい」
「集落……」
しおらしげに、そっとリュック型のマジックバッグを差し出してくるエドに、瞳を眇めた。
文句を言いたいが、好きに遊んできたらいいと背中を押したのは自分だ。
一人きりなら、きつく叱責したと思う。が、今回は同一体ではあるが、一応のお目付役であるアキラもいたらしいので、お説教はどうにか飲み込んだ。
「……今度は私も誘ってね?」
「! もちろん誘う。少し距離はあるが、アキラに乗れば楽に辿り着ける」
なぜか、喜ばれてしまった。まあ、悪い気はしない。
「とりあえず、夕食にしようか。今日のデザートは楽しみにしておいてね?」
「ああ、楽しみだ」
夕食のメインはハイオークのステーキにした。バターでじっくりと焼き上げ、醤油で味付け。
スライスしたフライドガーリックを散らしたら完成だ。付け合わせはブロッコリーとニンジン、じゃがいものソテー。スープとおにぎりを添えて、いただきます。
「オークも美味しかったけど、さすが上位種。肉汁がたまらないわね」
「……っ!」
噛み締めながら味わうナギの隣で、エドは無言でハイオークのステーキに挑んでいる。
一枚目のステーキの切れ端を味見した瞬間からこうなることは予想していたので、ステーキは大量に焼いてある。エドの皿には分厚いステーキが三枚重ねてあったが、もう残り少ない。
「ハイオーク肉、絶品ね。明日のカツも楽しみになってきちゃった。いいお肉だから、しゃぶしゃぶやすき焼きにもしても良さそう」
「どれも食べたい」
「ふふ。うん、期待していて。……それはそうと、デザートが入る余地は残してある?」
あまりにも旺盛な食欲を目にして、ナギはおそるおそる口を挟んだ。
「大丈夫だ。アレだ、ベツバラ」
「……ほんっと、アキラは何を教えているんだか」
女子か! まぁ、別腹理論は分かるけど。
しっかりとステーキを堪能した後で、いよいよデザートの時間だ。
「じゃーん! すごいでしょう? バニラアイスよ!」
颯爽と【無限収納EX】から取り出したデザートをテーブルに並べていく。
「バニラ……アイス……?」
「そう! 念願のバニラが手に入ったの!」
バニラアイスはとっておきのスイーツなため、高価なガラスの器によそってある。アイススプーンがなかったので、普通のスプーンで盛り付けた。少し不恰好だが、美味しければ問題ない。
「ミーシャさんが教えてくれたお店がね、色んな怪しい物を売っていたんだけど……」
ダンジョンや遺跡から発掘した鑑定不能な物、他国から輸入した品。
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