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〈冒険者編〉

253. 新しい出会い 2

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「フロアボスがドロップしたわね! 何かしら?」
「魔石と黄金のアンクレットだな。鑑定によると、普通の装飾品らしい」
「売りましょう」
「そうだな。あとは待望のマジックバッグがドロップしているぞ?」
「えっ! 本当?」

 三十五階層のサンドキャメルをさくさくと狩り尽くし、本命のジャイアントサンドキャメルをエドの氷魔法で仕留めた後のお楽しみ。
 ウキウキと砂地に転がるドロップアイテムを拾い集めていると、エドから嬉しい報告があった。
 エドが拾い上げたマジックバッグは二十センチ四方サイズの皮の巾着袋だ。
 綺麗なキャメルカラーをしており、なかなか洒落たデザインだ。
 巾着スタイルだけど、皮紐を通してウエストポーチにしたら便利そう。

「高く売れるといいんだけど」

 念の為に鑑定してみる。
 残念ながら、収納容量は微妙だった。成人用のひつぎサイズなんて、すぐにいっぱいになってしまう。

「……よし、こっそり空間拡張を付与しちゃおう」
「バレないか?」
「大丈夫! 鑑定スキル持ちのミーシャさんに聞いたのよ。ダンジョンドロップアイテムはそこまで詳細が分からないって確認済み。私が手を加えたのはバレないわ」

 ナギとエドの二人が有する【鑑定】スキルは転生者特典で貰った、特別なもの。
 素材などの詳細鑑定の他、人物鑑定まで可能なチートスキルなのだ。

 ミーシャの鑑定スキルで分かるのは、『どこのダンジョン産なのか』と『アイテム名』、『アイテムの簡単な説明』だけらしい。
 マジックバッグだと、時間停止の付与の有無と収納容量のみ分かるのだと聞いた。

(あんまり容量を増やすのは良くないよね? 棺サイズから十メートル四方サイズに拡張しておこうっと)

「ん、完成! 鑑定してみても、製作者名は入っていないわ。成功よ」

 『ハイペリオンダンジョン産マジックバッグ』『時間停止有り』の説明と収納容量を確認して、ナギは満足そうに頷いた。
 じとっとしたエドの視線に気付いて、ナギはハッと我に返る。

「ええと、その……食材ダンジョンだと、つい自分たち用の食料として確保しちゃうから稼ぎが気になっちゃって……」

 もじもじと指を動かしながら、上目遣いで説明すると、はーっとため息を吐かれた。

「毎回やると疑われるかもしれない」
「そうだね……。じゃあ、売り物が少なそうな時だけにするわ」

 何とも言えない表情を浮かべるエドに向かい、ナギは笑顔で頷く。
 ちなみに、この時にナギが容量を拡張したマジックバッグは後日、ダンジョン都市の冒険者ギルドで金貨五十五枚で売れた。
 約1ヶ月半の稼ぎとしては上々と言えるだろう。
 エドの指摘があったように何度も使える手ではないけれど、手元不如意な際には活用できそうだ。


◆◇◆


「デーツもあるだけ採取できたし、次の階層へ移動する?」

 ミーシャ不在なため、精霊たちに手伝ってもらうことは諦めて、二人でデーツを収穫した。
 ナギは手が届きにくい箇所の果実を風魔法で落として採取する方法を使った。
 多少の取りこぼしはあるが、かなりの量を確保できたので満足だ。

「ブラッドブル肉は昨日大量に確保したから、別の階層がいいな」
「じゃあ、三十階層のオーク狩りはどう?」

 そろそろフロアボスのオークキングも復活している頃合いだ。
 オーク肉は使い勝手も良いし、何より美味しい。
 オークキングはスパイス類や上質のワインなど、ドロップアイテムも素晴らしいのだ。

「そうだな。久しぶりにオーク肉の角煮も食べたいし、行くか。三十階層」

 三十階層は森林フィールドだ。
 オークの集落があり、植生は豊かで実りも多い。
 魔獣肉の確保の他にも薬草や果実が手に入るので、ナギは森林フィールドを好んでいる。
 三十階層には果樹の他に、ジャガイモが手に入ったはず。普通のサイズより小振りで、素揚げにすると美味しい小芋だ。
 手に入れたスパイスで味付けをすると、やみつきになる。
 その味を思い出したらしいエドと視線を合わせて、ナギは笑みを閃かせた。

「では、三十階層へしゅっぱーつ!」

 エドと手を繋ぎ、転移扉に触れる。
 いざ、オーク肉と小芋!


◆◇◆


 オークの集落は訪れる度に違う場所に築かれている。
 こちらは魔物同様にドロップするわけではないらしい。
 毎回、集落を探すために、この深い森の中を探索するのは大変そうだが、二人にはこれまたチートなスキルがある。

自動地図化オートマッピング

 現れた透明なモニターに三十階層の地図とオークの居場所が示されるのだ。
 単独で行動しているオークが何頭かいるようだが、狙うのは数十匹単位で固まっている集落がベター。
 大抵はそこにオークキングもいる。

「うん、集落はここだね」

 点滅するマークをタップする。
 真っ直ぐに集落を目指すことにした。

「あ、良く熟れた無花果イチジク!」
「美味そうだな。採っていこう」

 二人とも慣れたもので、モニターと【気配察知】スキルを駆使して索敵しつつ、気になる果実や薬草を採取していく。
 無花果イチジクは熟れたものはもちろん美味しいが、固めの実もサラダに使えるし、生ハムやチーズとの相性も抜群なのだ。
 タルトにすると、黒クマ夫婦あたりは特に大喜びしてくれそうだと思う。

「ダンジョン産の無花果イチジクはジャムにしても絶品だし、肉用のソースにするのも良いんだよね」

 ウキウキと採取していると、ふと何かが気になった。
 ほんの少しの違和感に戸惑いながら、念の為に【自動地図化オートマッピング】の画面を確認する。

「……特に、問題はないよね? オーク達も近くにはいないし」
「どうした?」
「んー……何か、前回来た時には感じなかった違和感があるような気がして」

 説明がしにくい感覚に言葉を濁していると、エドがすん、と鼻を鳴らした。
 端正な眉を微かに顰めたエドが首を捻る。

「……そうだな。俺も、妙な感じを覚えた。知らない匂いがある。これまで嗅いだことのない匂い──気配だ」
「悪い感じはしないんだけど、ちょっと気になるよね?」
「そうだな。だが、まずは集落を潰して、キングを倒してからだ」

 この冒険者特有の勘は、バカにできない。
 少しの違和感を気にして行動することが、生死を分ける世界にいるのだ。
 そうして、二人はその微妙な違和感を流すことなく、心に留め置いた。

がいる気がする。でも、先にオークキングを狩ってからね)

 集落には五十頭以上のオークがいた。
 一頭ずつ虱潰しらみつぶしに倒していくのも悪くはないが、せっかく複合魔法を覚えたので、ここでもぶっ放すことにした。
 風魔法と氷魔法の合わせ技だ。
 強力な竜巻は雷を纏いながら集落を破壊していく。奥の洞窟から現れた巨体がフロアボスのオークキングだろう。
 ナギが魔力を更に込めると、竜巻は周辺の木々を巻き上げながら、オークキングを飲み込んだ。
 
「ん、モニターの点滅が全部消えたね。キングの討伐も完了!」

 集落や周りの森林破壊が凄まじかったが、幸いにもここはダンジョン。
 やがて魔素を消費しつつ、修復されリポップする。

「さぁ、ドロップアイテムを拾うわよ。今回は何が落ちているのかしら?」

 目視で【無限収納EX】に収納できるナギは全力でスキルを使った。
 地面に散らばったオークたちとオークキングのドロップアイテムを瞬時に収納すると、リストを呼び出して中身を確認していく。
 オークの数だけの魔石が一番多い。次に各部位の肉の塊。たまにレアドロップであるスパイスや黄金の装飾品があるのは、特殊個体がいたのだろう。
 何より一番楽しみだった本命がドロップしているのが嬉しい。

「やった! この木箱はスパイス各種セットね。こっちの樽は赤ワイン。ラヴィさんが高く売れるって教えてくれた上物だわ」
「当たりだったな。魔道具の類はなかったようだが」
「スパイスセットで充分よ。あとは小芋を掘って帰りましょうか」

 何の気なしにモニターに視線を落として、ナギは固まった。
 見たことのないマークがそこに浮かんでいたのだ。
 自分たちのすぐ背後の茂みに、クエスチョンマークが浮いている。

(これは、何?)

 息を潜めて、そっとエドの脇腹を肘で突いた。エドもモニターに気付いたようだ。
 アイコンタクトは一瞬で済む。三年も共にダンジョンに潜っているのだ。彼が何をしたいのかは分かる。無言で顎を軽く引くと、エドが背後に跳んだ。

「ニャッ!」

 小さな、何かの悲鳴が聞こえた。
 背後を振り返ると、エドがを抱えたまま、困惑したように立ち尽くしている。
 ふわふわの毛皮を纏った、愛らしい生き物がエドの腕の中からナギを見据えた。
 綺麗な翡翠色の瞳をした、それはキジトラ柄の猫だった。
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