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一章 勇者召喚?

7.子猫生活は快適です

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 人族の国と魔族の国の戦は、起きなかった。

 すっかり子猫姿の勇者にほだされた魔王アーダルベルトが相手にしなかったのだ。
 召喚勇者である子猫の美夜ミヤは、今日も執務机に向かう魔王の膝の上で眠りこけている。

 三食美味しいご飯におやつ付き、お昼寝し放題。
 毎晩綺麗なエルフのメイドさんがお風呂に入れてくれるし、夜は豪奢な天蓋付きの魔王のベッドで眠れるのだ。
 しかも極上の美貌の主の腕枕付き。
 最初は怯えていたが、美夜は今ではすっかり魔王アーダルベルトに慣れ親しんでいる。
 生真面目で不器用な男だが、美夜の喉や耳の後ろをそっと撫でてくれる指先がとても優しいものだと、もう彼女は理解しているので。

(元の世界より快適な暮らしを送れているし、私もうここで猫として生きていこう)

 怠惰な生活をこよなく愛する美夜は満ち足りた表情で魔王の膝を独占している。

「勇者よ、おやつの時間だぞ?」
「みゃ!」

 耳元で優しく囁かれて、美夜は弾かれたように飛び起きた。
 抱きかかえられてソファに移動すると、テーブルいっぱいにお菓子が並んでいる。

「みゃあああん」

 少しぬるめのホットミルクを入れてくれたエルフメイドにお礼を言って、青い目を期待に輝かせながら、アーダルベルトが飲ませてくれるのを待つ。
 そうすると苦笑まじりに魔王がスプーンを口元に運んでくれるのだ。

「みゃあうう」

 うん、ミルクも甘さ控えめクッキーも美味しい。
 お腹が満ちると、次は運動だ。
 魔王の長髪はちょうど良いオモチャで、美夜はお尻をふりふりと揺らしながら跳びついてじゃれて遊ぶのが日課だった。
 たまに髪を引き抜いてしまうので、それなりに痛いはずだが、優しい魔王は怒らない。
 遊びがエキサイトして豪奢なカーテンに穴を空けてしまった時には、エルフのメイド長にアーダルベルトとふたりで叱られてしまったが、それはそれ。

 異世界転移なのか、異世界転生なのかは分からないが、羽柴美夜はしばみやはそれなりに楽しく魔族の国で暮らしている。

 ひとつだけ不満なのは、魔王アーダルベルトから「勇者」と呼ばれることくらいか。
 普通、女の子は勇者じゃなくて、聖女じゃない?

(……まぁ、どうせ子猫の姿だから、勇者も聖女も関係ないけどね)

 のんびりと魔王城での生活を堪能する美夜は、多忙な日本での暮らしよりも居心地の良い異世界がすっかり気に入っていた。
 元々、親との関係は希薄だったし、バイトが忙しくて、大学の友人との付き合いも浅い。

(日本ではきっと誰も心配していないだろうし。元の世界に戻るまでは、快適な魔王城で三食美味しいご飯を味わって、イケメンの膝枕を満喫しちゃおう!)

 ちやほやされる生活にすっかり骨抜きにされた子猫、もとい美夜はそんな風にまったりと平穏に過ごしている。

 満月の間だけ、なぜか子猫の姿から、猫耳と尻尾付きの猫獣人の姿に変化するのだと、魔王アーダルベルトに知られてしまうまでは。

 ちなみに獣人の姿をとった美夜に一目惚れした魔王アーダルベルトに、猫の姿と同様に溺愛されるようになるのだが、それはまた別のお話。
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