1 / 17
一章 勇者召喚?
1.ハロウィンの夜に、
しおりを挟むそれは、見知った猫だった。
広大なキャンパスにいつの間にか棲みついていた、小さな子猫。
灰色の毛皮を持ち、キトンブルーの目をしたその子は長毛種の血が混じっていたのか、ふわふわの毛並みを誇っていた。
猫好きの学生たちがこっそり餌をやっていたのは知っている。
かく言う、この自分――羽柴美夜もふわふわの小さき生き物は嫌いではなく、近くに人がいない場合に限ってだが、こっそりと猫用のオヤツを与えていた。
名前は何だったか。皆が皆、それぞれ好きな名前で呼んでいたように思う。
チビ、シロ、グレイ、ミーちゃん。
学生だけでなく、大学職員や教員、はては巡回の警備員にも可愛がられていた、小さくて愛らしい子猫。
その子猫がアスファルトの上で丸まって動かない姿を目にして、美夜はらしくもなく慌ててしまった。
深夜までシフトを詰め込んでいたバイト帰り。すっかり遅い時刻になっていた。
大学前の公園を突っ切るのが自宅アパートへの近道なため、ぽつりぽつりと灯りのついた公園へ足を踏み入れて、そこで倒れていた子猫を見付けたのだ。
「チビちゃん、大丈夫っ?」
慌てて脇にしゃがんで、そっと子猫の首元に触れてみる。
鼓動があるのかどうか、分からない。
ぐんにゃりと力を失った柔らかな体に恐怖を覚えながら、鼻先に指を近付けてみると、温かな気配を感じた。
「息がある。良かった、すぐに動物病院に……」
タオルハンカチで包み込み、そっと抱き上げた、その瞬間。
地面が眩いばかりの光を放った。
「なに、これ」
アスファルトの道路に浮かび上がるそれは、フィクションの世界で見かける魔法陣によく似ていた。
そう言えば、今日はハロウィンの夜。きっと誰かが悪戯を仕込んでいたのだろう。
「こんな時にもう……!」
美夜は苛立ちまぎれに、その光の魔法陣から離れようとして。
「え……?」
強い力で引き寄せられるのが分かった。
逃れたいのに、身体が動かない。
そして、ひときわ強く光が弾けたと同時に、美夜は子猫を抱きしめたまま意識を失った。
◆◇◆
『ようこそ、勇者よ。そなたの魂が唯一、魔王を討伐せしめる――…む? どういうことだ。今代の勇者は人ではなく、獣なのか。いや、確かに人の魂の気配もある……』
遠い場所で誰かが話しかけてくるが、指一本動かせる気がしない。
とんでもなく身体が怠くて、ひたすら眠かった。
『多大な魔力を込めて召喚したのだ、勇者のはずだが。ふむ、鑑定。……なるほど、此奴は二つの魂が融合してしまったのか。これでは勇者として戦えまい。元の世界に戻すべきか。……む?』
威厳のある声の主が何かに驚いたようだ、とぼんやりと考える。
どんな姿かは分からないが、何となく喋り口調から白髪の老人の姿が思い浮かんだ。
と、再び何かに引っ張られる感覚があった。
強い力で、何かに包み込まれる。
ひんやりとしたそれは、意外と心地良い。
『貴様は、魔王! おのれ、勇者を浚うつもりか!』
『これは私が貰っていこう』
『待て……!』
『遅い』
低く艶やかな声音が吐き捨てるように告げて。
美夜は自分の身体がふわりと抱き上げられたのが、何となく分かった。
だが、それが限界だった。
意識がぷつりと途切れて、美夜はそのまま心地良い眠りの世界にダイブした。
◆◆◆
しばらく多忙につき、更新が遅れます。
ので、お詫びに以前書いていたお話をリメイクしてUPします。
ラブ分は多いのか少ないのか…(ねこ愛ならあります)
コメディです!
肩の力を抜いて、ゆるりと読んで頂けると幸いです。
◆◆◆
41
お気に入りに追加
583
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

過程をすっ飛ばすことにしました
こうやさい
ファンタジー
ある日、前世の乙女ゲームの中に悪役令嬢として転生したことに気づいたけど、ここどう考えても生活しづらい。
どうせざまぁされて追放されるわけだし、過程すっ飛ばしてもよくね?
そのいろいろが重要なんだろうと思いつつそれもすっ飛ばしました(爆)。
深く考えないでください。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。
これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。
それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです
かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。
強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。
これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる