虚の混淆

緑茶猫

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揺籃から墓場まで

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「何でそこで水之江先輩が出てくるんだよ」

「食堂で飯食ってる時とか探してるのバレバレだぜ。屋外の席の方をよく見てるから、こっちは嫌でもわかるっつの」

「……いや……まあ、そうだけど。そもそも全然見掛けないし……」

「探しに行けば良いじゃん。恋愛は行動あるのみだぜ」

「……お前が言うと説得力あるな」

「だろ? つー訳で期間は、学祭までの一週間だな。だが、あれだけの噂が流れてても、何だかんだ狙ってる人は多いから、早い方が絶対に有利だぞ。今すぐにでも誘った方が良いレベルだ」

「ああ、ありがとう」

 やけに親切というか、後押ししてくれるのは、この友人が彼女が出来て間も無くで、浮かれきっているからだろう。けれど、何だかんだ彼は彼女を作るための努力もしてきた様にも思えるし、その努力を無償で分けてもらっているというのは有り難かった。

 友人の惚気に当てられてしまったらしい俺は、昼休みに早速探してみる事にした。そもそも普段から俺と水之江先輩の接点が無いため、手掛かりも無いと思われたが、流石有名人な事もあって、本日……木曜日のお昼明けである、三時限目に受けている講義を知ることが出来た。

 自分の講義もあったが、今日は少し早めに抜け出す事にした。講義は続いていたが、幸い普段から板書は写しているので、少し位なら抜けてしまっても問題は無いだろう。

 授業を受けていた講義室から出た俺は、昼休みにに聞いた、水之江先輩が講義受けているであろう教室の前で待つ事にした。授業終わりのチャイムが鳴り、出てくる人を眺める。しかし、水之江先輩らしき姿は、一切見受けられなかった。

 教室の中を覗き込んでみると、何人かまだ教室内に残ってはいるが、目的の人は居ない。恥を忍んで、残っていた女子生徒に水之江先輩の事を訊ねてみると、今日は来ていないらしい。また、普段から病弱みたいで休む事も多いけど、ここ最近は特に見ていない、その割に成績は良いのが恨めしいとも愚痴っていた。

 ……困った。これは誘う以前の問題だ。断られる断られないよりも先に、まず会えなくては意味がない。あまりに機会を逃し続けると、折角固まった俺の決心も、臆病風に吹かれてしまうかもしれないのに。

 しかし結局、今日は誘うどころか、糸口を掴むことも叶わなかった。





 その夜の事、アルバイトを終え最寄り駅まで向かう帰り道、パトライトが一つ、忙しなく光っているのが目に入った。どうやら俺が働いている間に、新たな被害者が出たらしい。しかし野次馬は殆ど居らず警察も撤収作業をしている辺り、事件が起きたのは結構前で、もう調査は粗方終わっているのだろう。……そうなると、俺がバイトへ行く途中に犯人と遭遇していた可能性もあったのではないだろうか。犯人の傾向上、男は狙わない筈ではあるが、襲っている所を見てしまうと話は別で、口封じに殺されてしまう事だって大いにある。そう考えると怖くなってきた。……折角、今日のバイトは水之江先輩のお陰か、疲れも感じなかったから気分も良かったのに。一気に怠さが込み上げてきた。

 何気無くパトカーが引き上げるまで眺めていると、さっきまで警察が調査していた路地裏の奥に、ふと白い人影の様な物が見えたような気がした。

 そこまで疲れてはいない筈なんだけど。変な物が見えた気分になる程、俺は繊細だったろうか。……いや、それは無い。不安が無い訳ではないけど、今は好奇心の方が強い。

 俺は好奇心に任せて、白い人影を追うように、路地裏へと入っていった。流石に警察も確認したばかりだ、見落としなんて無いだろう。そんな風に半分くらいは自分に言い聞かせて前へと進む。路地裏は思いの外、奥行きがあった。
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