ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインは、幼馴染で両想いですが、攻略キャラ達が全力で邪魔してくる。もう、俺（私）達のことは諦めてください。

ギャルゲの主人公は、幼馴染の噂の真相が知りたい。

　郁人は、走って、家に帰る。急いで、美月に事の真相を尋ねようと思ったからである。そして、スマホを見ると、美月から、連絡がきていることに気がつく。美月は、家にもう帰っているということを知った郁人は、自分も今から、家に帰ると連絡を入れる。

　急いで、帰ってきた郁人は、家に入ると、両親の靴が脱ぎ散らかされていることに気がついた。ため息をつきながら、郁人は靴を綺麗に並べる。

「父さん、母さん、帰ってきてるのか？　靴きちんと並べろよな」

　郁人はそう言って、手洗いを済ませて、リビングに向かう。床に寝転がって、制服のまま、雅人はゲームをしている。郁人の母親も、ソファに寝転がって、ゲームをしている。父親は、そんな二人を、ダイニングテーブルのところに座って、微笑ましく眺めている。

「雅人、お前は……せめて、着替えてこい」
「おお、兄貴お帰り～、オヤジたちのお土産食うか？　北海道のいつものだけど」

　そう言って、北海道のいつものお土産を食べながら、ゲームしている。ちなみに母親も、北海道のいつものお土産を食べながらゲームしている。

「いふと……かへったの？」
「母さん……せめて、食べ終わって話してくれ」
「まぁまぁ、郁人……母さんも、仕事で疲れてるんだから、許してやってくれないか」

　そう、実の母親を注意する郁人に、郁人の父親は、郁人の母親をかばう。ため息をつきながら、頭を掻く郁人だった。

　ちなみに、父親は朝宮　晴人あさみや　はるとで、服飾関連の自営業をしている。母親は朝宮　麻沙美あさみや　まさみで、服飾デザイナーをしている。仕事関連から、出張の多い二人である。

「とりあえず、今日は美月が家に来るから、あんまり、だらしなくするなよな」

　その発言に、家族一同ため息をつく。いつもニコニコ優しい父の晴人ですら、呆れている。

「郁人……今日は……家族で過ごすって……言った」

　母の麻沙美がむくりと起き上がり、ぼそぼそとそう言っている。あからさまに不機嫌そうだ。

「そうだぞ、郁人、今日は家族で、食事に行くと言っていただろう？」
「あと、兄貴……今日はじゃなくて、今日もだろ」
「そうだったか？　まぁ、でも、夕飯なら、まだ、時間あるし、大丈夫だろ？」

　そう時計を見ながら言い放つ郁人に、あからさまに不機嫌になる母の麻沙美である。

「美月ちゃん……とは、明日でも会えるでしょ……今日は、家族で過ごすの」
「そうだぞ～、郁人、とりあえず、母さんの言うとおりにしなさい」
「なんでだ？　別にいいだろ？」

　その郁人の発言に、母親の麻沙美は、ムッとした表情で、郁人を睨んでいる。弟の雅人は頭を掻きながら呆れる。

「兄貴……おふくろの機嫌が悪くなるから…まじで察しろって」

　そう兄の郁人のもとに行き、弟の雅人は小声で兄を説得する。郁人は首をかしげる。

「そもそも、郁人いいかい……ウチは男兄弟だし、あまり、女の子の美月ちゃんを、男の家に呼ぶのもどうかと、父さん思うんだ」
「そう……二人が、お付き合いしてるなら……話は別だけど」

　この両親の発言に、郁人は顔を赤くして頬を掻く、その態度に、家族一同騒然とする。いつもなら、美月は、幼馴染で家族みたいなものだから、いいだろっと、怒って反論するのに対して、今日はなぜか照れている郁人なのである。

　ニコニコ笑顔で嬉しそうな父の晴人と、絶望の表情を浮かべる母の麻沙美と弟の雅人だった。

「郁人、今日は何かいいことがあったのかい？」

　そう父の晴人は、嬉しそうに尋ねる。その発言に、聞きたくないと耳を塞ぎ悶絶している母と弟がいた。

「ああ、今日、美月についに、好きって言ったんだ。美月も俺に好きって言ってくれてな」

　顔を赤くして、家族にそう報告する郁人に対して、いつもの日常に戻る朝宮一家である。父は、どこか失望した笑みを浮かべ、母の麻沙美と弟の雅人はゲームを寝転がって再開する。完全にこの話題の興味を失っている。

「どうしたんだ？　みんな？　美月と両想いだったんだ。こんな俺の事を美月が好きでいてくれたんだ…少しは祝福してくれよな」

　あからさまに不満な郁人は、家族一同にそう言い放つが、みんな聞く気がなかった。父の晴人は、とりあえず、座りなさいと、ダイニングテーブルに郁人を誘導する。父の晴人の対面に座る郁人を、父の晴斗は、両手を組み郁人を見据える。

「郁人……お前は…本当にどうして、恋愛となるとそうバカになるんだい？」
「父さん？　どうしたんだ？」
「いいかい…郁人、よく思い出してごらん？　郁人は、美月ちゃんのこと、昔から好きって言っていたよね？　美月ちゃんも、郁人のことはよく好きって言っていたと思うのだけど？」

　父の晴人は衝撃の事実（郁人だけ）を口にする。郁人は衝撃を受ける。まさかと思い、思考の海にダイブし過去の記憶を呼び覚ます。

　よく思い出すと、確かに、言っていた気がする郁人だった。

「ま……まさか、そんな馬鹿な…ということは……俺は美月の彼氏じゃない」
「郁人……それで、美月ちゃんの彼氏なら、もう、君たち、赤ん坊の時からお付き合っていることになると思うけどね」

　父の晴人が爆弾発言する。郁人は、その父の発言を考える。

「つまり、美月の好きは、ライクの好きってことか？　つまり、俺と美月は両想いじゃないということなのか？」

　ショックを受ける郁人に、父の晴人は頭を抱えて、ため息をついている。郁人以外は理解している。その好きは絶対ラブだろうと、しかし、母の麻沙美と弟の雅人は、絶対に口にはしなかった。

（待てよ……俺が美月の彼氏じゃなかったとしたら、あの噂は…いやいや、美月が逆ハーレムとか……いや、しかし、もしかしたら、美月も誰か好きな人が……あのイケメンたちとか？）

　自分が美月の彼氏じゃないという事実に気がついた郁人は、例の噂のことがさらに気になってきた。不安になる郁人の思考は悪い方向に向かってしまう。

「と、とにかく、美月に会って話せば問題ない」
「郁人……そういえば、公人さんと今日話したんだがな……あちらのお宅も今日は用事があるそうだよ」

　どうせ、今から美月と会うのだし、その時に確認すれば大丈夫と思う郁人だったが、父親の晴人が思い出したようにそう言い放つ。

「え？　でも、美月今日来るって言ってたが……」
「はぁ～、郁人、とにかく、今日は美月ちゃんがウチに来るのは駄目だよ。いいね」
「うん……それがいい……今日は駄目だから」

　この幼馴染コンビは、お互いの事となると周りが全く見えなくなるのである。父も呆れてため息をこぼす。そんな父親の晴人に、母親の麻沙美は、嬉しそうに便乗する。

「ちょっと、待ってくれ父さん、母さん！　今日は美月といろいろあって、全然一緒にいられなかったんだ！　それに美月に聞きたいことがあってだな」

　そう、郁人は、確かに美月の噂の真相が気になって仕方ないが、それとは別に、やっぱり美月と一緒に居たいのが本心である。しかし、そんな郁人に、家族一同は呆れている。

「郁人、今日はどうしたんだい？　嘘ついてまで、美月ちゃんと一緒にいようとしたりして」
「郁人……嘘はよくない…嘘は駄目だから」
「兄貴、嘘までつかなくても、姉貴なら、明日でも来るだろ？」

　日頃の行いのせいで、全く信用されてない郁人である。もちろん、郁人は不満だった。

「いや、マジで、今日は美月と、あまり一緒にいられなくてな。それに、本当に聞きたいことがあってだな」
「美月ちゃんが、郁人と一緒にいないとは考えられないのだけどね」
「あの子が……郁人の近くにいないのは…信じ…られない」
「姉貴が、兄貴の近くにいないとか、ありえないだろ」

　家族から別の意味で信頼されている郁人は、そのせいで、全く信用されていなかった。それでも、食い下がらない郁人に、父の晴人は必殺技を発動させる。

「聞きたい事なら、電話しなさい。これ以上、わがまま言うなら、美月ちゃんに渡した合鍵と、郁人が持っている夜桜さんの家の合鍵を没収するよ……いいね」

　そう言い放たれ、郁人は絶望の表情で固まる。もはや、郁人に反論は許されなかった。幼馴染の美月のことになると、郁人は周りが見えなくなる。そんな郁人相手の必殺技である。この技を受けたら、その名の通り郁人は死の表情を浮かべて黙るしかないのである。

（今日は美月に会えない……あの話のことも聞けないのか……でも、美月に限って、逆ハーレムとか…電話で聞いて…いや、直接会って聞いた方が……しかし、相手はイケメン…もし、美月が、そいつらのことが好きだったら、俺に勝ち目があるのか？　いや、あきらめるな俺…大丈夫だ）

　郁人は完全に死んだ顔で固まって、思考の海にダイブするのだった。