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ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインは、やはり幼馴染に好かれる。
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入学式の説明を受けて、体育館に移動する郁人は、完全に男子生徒達に嫌われていた。舌打ちされ、殺意の視線を送られる。ものすごく居心地が悪い郁人なのである。ちなみに男子生徒と女子生徒に別れて、列が作られて体育館に向かっているため、郁人は完全に孤立していた。
そして、同じく美月も、完全に女子生徒達に嫌われていた。彼女もまた、同じように体育館に列を組んで向かっている最中、嫌味を言われ、陰口をたたかれる。完全に同性に嫌われてしまった美月なのである。美月は、高校に入ったら同性の友達を作ると意気込んでいた為、酷く落ち込むのであった。
そして、体育館で行われた入学式は何事もなく終わり、教室に戻る郁人は、自分の席に真っ先に向かうのである。席に着くと、先ほどの清楚美少女が声をかけてくる。男子生徒からは、殺気を向けられ、女子生徒からも不満の声があがるのである。
「その…郁人君……さっきは少ししかお話しできなかったけど……本当に久しぶりだねぇ」
「あ……えっと……」
突然話しかけられ郁人は、内心やっばっと焦るのである。この清楚美少女のことを全く思い出せなかったため、なんて返していいか考えていたが、すかさず、ゆるふわ宏美が、郁人と清楚美少女の間に割って入るのである。
その瞬間、清楚美少女から、殺気のようなものがゆるふわ宏美に放たれる、瞳の光が一瞬消えるも、ゆるふわ笑顔のゆるふわ宏美なのである。
「ダ、ダメですよ~…抜け駆けはいけませんよ~」
人差し指をメッと清楚美少女に突き出して少し上うわずったゆるふわ声で注意するゆるふわ宏美に、すぐに清楚笑みに戻る清楚美少女なのである。
「あ……ごめんねぇ。その、えっとねぇ……わ、私達は、そ、その……お、幼馴染なんだぁ」
(え!? 俺とお前……幼馴染なのか? 全く記憶にないんだが……)
今の清楚美少女の発言に、郁人は困惑するのである。全く記憶にない郁人である。そもそも、郁人の幼馴染といえば美月である。美月以外にも幼馴染が居たのかと思考の海にダイブしている郁人抜きにゆるふわ宏美と清楚美少女は会話を続ける。
「な、なるほどですね~…そういうご関係ですか~…では~、特別に会話を許可しますよ~」
「ありがとう……えっと? その…あなたは?」
「え? わたしぃですか~? わたしぃは細田 宏美ですよ~…郁人様のファンクラブ会長兼マネージャーをやってますよ~」
「あ……うん? えっとぉ? よ、よくわかんないけどぉ…私は、三橋 梨緒よろしくねぇ」
梨緒と名乗った自称幼馴染は、ゆるふわ宏美の意味不明な自己紹介に困惑しながらも自己紹介するのである。梨緒は、小声でファンクラブって、マネージャーって、と疑問を口にしていた。郁人も正直、それは意味不明なのである。
郁人は、自称幼馴染の自己紹介を聞いても、全く思い出せなかった。しかし、覚えてないというのも失礼だろうと思うのである。しかも、相手は美少女である。ここで、嫌われれば、このよくわからん女子生徒達の、嫌がらせも加速するかもしれないと考えた郁人である。
梨緒は、チラチラと郁人の方を見ている。その視線に気が付いている郁人だが、まだ考えがまとまっていないため、どう対応していいかわからない。そのため、視線を合わせないようにする郁人なのである。
「ところで、細田さんは……結局何がしたいんだ?」
「宏美でいいですよ~……何と言われましても~…そのままですよ~、今後の郁人様の学園でのアイドル活動の手助けをしていきたいと思っています~」
「えっと…郁人君は…その…アイドルなのかなぁ?」
「……い、いや……アイドルになった覚えがないんだが?」
「大丈夫ですよ~! わたしぃに全てお任せですよ~」
とりあえず困った郁人は、ゆるふわ宏美に疑問をぶつけるが意味不明な回答に、聞いた郁人も、聞いていた梨緒も、完全に頭が?モードなのである。ゆるふわ宏美はニコニコ満面なゆるふわ笑みを浮かべている。郁人はゆるふわ宏美の様子から、彼女が、朝の謎の握手させられ事件の主犯だと確信したのである。
「……すまないが……揶揄うのはやめてくれないか?」
「え~? 揶揄ってなんかないですよ~」
「はぁ~……あのな……別にイケメンでもない俺が…アイドルなんてできる訳ないだろ?」
呆れる郁人は、ゆるふわ宏美に、本心からそう言い放つのである。この郁人の発言に、梨緒とゆるふわ宏美は、驚愕の表情を浮かべて郁人を見る。信じられないという表情をしているのである。
「あ……あの、郁人君は、イ、イケメンだと思うよぉ…ていうか…そ、その…か、カッコいいよぉ」
梨緒は、顔を真っ赤にしながらそう言い放つ。そして、言った後にハッとなって、顔を伏せる。完全に顔がゆでだこ状態である。そんな梨緒に対して、この子は、お世辞をこんなに必死に言ってくれて、良い子なのかもな、と思う郁人であった。
「……大丈夫ですよ~!! イケメンな郁人様は普通にしていればいいですからね~!!」
いつの間にか、ゆるふわ笑顔に戻っているゆるふわ宏美は、残念な胸を張りながらそんなことを言っている。郁人は、何が大丈夫なんだと疑問を浮かべている。
「あ…そうだったぁ…郁人君は、そ、その…ほ、放課後とか暇かなぁ? よ、よかったら…そのぉ…」
「あ……だめですよ~!! 郁人様は、放課後これから、ファンの方々のために握手会がありますからね~」
「え? そ、そうなんだぁ……じゃあ、仕方ないかぁ」
「……いやいや…握手会なんてしないからな……後、俺は放課後予定がある」
幼馴染の美月と一緒に帰る約束をしている郁人なのである。郁人的には、幼馴染の美月が最優先なのだ。だが、ゆるふわ宏美はゆるふわ笑みを浮かべながら、逃がしませんよ~とゆるふわ圧を放つゆるふわ宏美なのである。
郁人は正直、恐怖を覚えた。梨緒もゴクリと喉を鳴らしている。
とりあえず、梨緒の自称幼馴染の件は有耶無耶になって、助かった郁人だが、放課後の謎の握手会とやらに参加する気はない。学校が終わり次第、真っ先に逃走することを決意した郁人なのだった。
そんな、真剣な表情で考え込む郁人を微笑みながら眺める梨緒は、心の中である決意をしていた。絶対に郁人君に、この思いを伝えると、あの時、伝えられなかった気持ちを、今度は絶対に伝えたい。それだけ梨緒は、郁人のことを想っていた。郁人の中で、自分がどれだけ小さな存在でも、梨緒にとって郁人は大切でとても大きな存在なのだから。
そんな、自称幼馴染の梨緒が決意を固める中、真の幼馴染の美月はというと、彼女も彼女で、クラスでトラブルが発生していた。教室に戻り、自分の席に着くなり、また、男子生徒達に囲まれてしまった美月なのである。
だが、そんな包囲を突破して、美月に話しかけてくる人物が現れる。それは、先ほどのイケメンである。男子生徒の殺気を受けても、涼しげにイケメンスマイルを浮かべている。
「さっきは、あんまり話せなかったけど、美月、本当に久しぶりだね」
そう、美月に馴れ馴れしく話しかけるその様子に男子生徒が、イケメンだからって、一人占めするなよと更に不満が上がる。イケメンは周りを見渡すと両手を広げて説明しだす。
「俺は、美月の幼馴染なのさ!! だから、いつも通り普通に話しかけてるだけなのさ!!」
「……え!?」
美月は、イケメンのその発言に素っ頓狂な声が出てしまう。というか、美月の中では、このイケメンも、普通に周りの男子生徒達と同じく他人であった。美月の幼馴染は郁人だけなのである。全く記憶にない美月は困惑する。
「ほら……イケメンさんよぉ……イケメンだろうが抜け駆けはだめだぜ。美月ちゃんは、みんなのアイドルだからよ。イケメンでも、特別扱いはしないぜ」
「さっきも言ったが、俺は美月の幼馴染なのさ…だから、別段話しかけても構わないだろう?」
「幼馴染……そうなのか? わりぃな……そういうことなら、仕方ないか……いいぜ」
なぜか、イケメンとの間に割って入ってきた浩二も、少し考える素振りを見せて、自称幼馴染の幼馴染発言を真に受けて勝手に美月との会話の許可をだすのである。
(え!? 何…どういう状況なのよ? なんで、この人こんなに仕切ってるのよ!?)
完全に混乱する美月は、少し考えるとハッと、一つの仮説にたどりついたのである。これは、この二人が主導で私を揶揄ってるのだと、そう考えると、ムッとなる美月なのである。不機嫌な顔で二人を睨むのだが、二人はそんな美月をスルーして会話を続ける。
「僕は、永田 浩二って言うから…よろしくだぜ」
「俺は、覇道 政宗だ……美月とは幼馴染だ」
(……この人、私の幼馴染って強調してるけど……私…全く覚えてないんだけど…全然記憶にないよ?)
美月はムッとしたまま少し考える。正直、このイケメンたちに話しかけられ、揶揄われているせいで、女子生徒達から、完全に嫌われ始めている。このままでは、中学暗黒時代の再来である。ぼっちは正直、嫌な美月なのである。深呼吸をして、ムッとしていた心を抑え込む、そして、美月は作り笑顔を浮かべる。
「あの……私を揶揄うのはやめてもらってもいいですか?」
「え!? 揶揄ってないけどな~? 美月ちゃん男子生徒の間では、既に有名人だよ。学園のアイドルってさ」
「はぁ!? アイドル!!?? 私が!!!??? なんでよ!!!!????」
浩二のその発言のせいで、美月の作り笑顔は消え去り、素の声がでてしまうのである。完全に美月の怒りゲージは上がってしまった。再度ムッとしてしまう美月であった。そんな美月をやはり二人は完全スルーして会話を進める。
「美月は昔から……可愛かったから、モテるのは仕方ないさ」
「それは、そうだろうぜ。完全無欠の美少女って感じだし…美月ちゃん」
美月のイライラゲージは更に上がる。完全に激おこである。ムッとした表情から、ムカッとした表情にランクアップしている。しかし、ここで怒鳴ってしまっては、この二人は更に調子に乗って、揶揄ってくると思った美月は、冷静になって対応することにしたのである。
「私……そんなに言われるほど……可愛くはないと思いますけど」
「いやいや、美月ちゃんは、超可愛いって、間違いなく学園のトップ取れるから、全て、僕に任せておけって、僕が君のアイドル生活を、ファンクラブ兼マネージャーとしてサポートしてやるぜ」
「美月はアイドルなのか? まぁ、美月なら似合っているな」
(いやいや、この二人何言ってるのよ? 正直全く意味が理解できないだけど?)
もはや、二人が何を言っているのか理解できない美月だった。だが、ここで諦めては、一年間このクラスで、この二人に揶揄われることになる。なんとしても、阻止しないといけないと思う美月は、二人と口論することを決意する。
「よ、よくわかんないんだけど……私はアイドルとかやらないからね!! 似合ってもないし、ていうかよくわかんないし!!」
「大丈夫だって、僕に任せてくれよな…それに事実上…もう学園で超絶美少女登場って、話題にもなってるぜ」
「いや…だから、私は…」
「美月なら、大丈夫だ。俺も応援するさ」
美月は頭を抱える。美月の表情は、完全にムカッから、イライラにランクしていたが、もはや口調も普段通りで、取り繕うのを忘れていた。そんな美月を無視して、イケメン二人は話を進める。
「あ、そうだ。美月、放課後は、空いているか? よければ一緒にどこかいかないか? 積もる話もあるからさぁ」
「おいおい、ダメに決まってるだろう…美月ちゃんは、放課後もお話し会しないといけないから…美月ちゃんと話したいって、男子生徒が多くて困るぜ」
美月は二人の傍若無人の振る舞いに、更なる怒りが込み上げてきた。拳を握り締めて、怒りを抑える。落ち着くのよ、落ち着きなさい私と自分に言い聞かせる美月なのである。
「…ごめんなさい。私、放課後は予定があるから」
「美月……なんの予定だい? 俺でよければ付き合うよ」
「美月ちゃん。ダメだって、少しでいいから、時間作ってくれ……頼むぜ!!」
「……私、どうしても外せない予定があるの……ごめんなさい」
もはや我慢の限界だが、ここで怒りを爆発するのは良くないと考え、必死に怒りを抑えようとするも、少し強めの口調での反論となった美月なのである。しかし、傍若無人なイケメン二人にはやっぱり全く効果がなかった。
「大丈夫だ……問題ないさ、美月、俺も一緒に付き合うから」
「そうそう、少しだけ時間作ってくれれば…それで問題ないぜ」
「だから……私……予定あるって言いてるよね!!」
ついに、美月は机を両手でバンバン叩きながら怒鳴ってしまう。もはや、我慢の限界であった。バンバン机を叩き、怒りを示す美月を微笑ましく見つめるイケメン二人は、やはり美月をスルーして会話をしだす。
「美月は、本当に可愛いな」
「美月ちゃんの台パン可愛いぜ」
政宗は、相変わらずのイケメンスマイルでそんなことを言っている。浩二もまた、微笑ましく美月を見ている。美月は、そんな二人を驚愕の表情で見る。もはや、何を言っても無駄だと悟った美月は、放課後この二人から、全力で逃げるしかないと悟ったのであった。
そして、同じく美月も、完全に女子生徒達に嫌われていた。彼女もまた、同じように体育館に列を組んで向かっている最中、嫌味を言われ、陰口をたたかれる。完全に同性に嫌われてしまった美月なのである。美月は、高校に入ったら同性の友達を作ると意気込んでいた為、酷く落ち込むのであった。
そして、体育館で行われた入学式は何事もなく終わり、教室に戻る郁人は、自分の席に真っ先に向かうのである。席に着くと、先ほどの清楚美少女が声をかけてくる。男子生徒からは、殺気を向けられ、女子生徒からも不満の声があがるのである。
「その…郁人君……さっきは少ししかお話しできなかったけど……本当に久しぶりだねぇ」
「あ……えっと……」
突然話しかけられ郁人は、内心やっばっと焦るのである。この清楚美少女のことを全く思い出せなかったため、なんて返していいか考えていたが、すかさず、ゆるふわ宏美が、郁人と清楚美少女の間に割って入るのである。
その瞬間、清楚美少女から、殺気のようなものがゆるふわ宏美に放たれる、瞳の光が一瞬消えるも、ゆるふわ笑顔のゆるふわ宏美なのである。
「ダ、ダメですよ~…抜け駆けはいけませんよ~」
人差し指をメッと清楚美少女に突き出して少し上うわずったゆるふわ声で注意するゆるふわ宏美に、すぐに清楚笑みに戻る清楚美少女なのである。
「あ……ごめんねぇ。その、えっとねぇ……わ、私達は、そ、その……お、幼馴染なんだぁ」
(え!? 俺とお前……幼馴染なのか? 全く記憶にないんだが……)
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「な、なるほどですね~…そういうご関係ですか~…では~、特別に会話を許可しますよ~」
「ありがとう……えっと? その…あなたは?」
「え? わたしぃですか~? わたしぃは細田 宏美ですよ~…郁人様のファンクラブ会長兼マネージャーをやってますよ~」
「あ……うん? えっとぉ? よ、よくわかんないけどぉ…私は、三橋 梨緒よろしくねぇ」
梨緒と名乗った自称幼馴染は、ゆるふわ宏美の意味不明な自己紹介に困惑しながらも自己紹介するのである。梨緒は、小声でファンクラブって、マネージャーって、と疑問を口にしていた。郁人も正直、それは意味不明なのである。
郁人は、自称幼馴染の自己紹介を聞いても、全く思い出せなかった。しかし、覚えてないというのも失礼だろうと思うのである。しかも、相手は美少女である。ここで、嫌われれば、このよくわからん女子生徒達の、嫌がらせも加速するかもしれないと考えた郁人である。
梨緒は、チラチラと郁人の方を見ている。その視線に気が付いている郁人だが、まだ考えがまとまっていないため、どう対応していいかわからない。そのため、視線を合わせないようにする郁人なのである。
「ところで、細田さんは……結局何がしたいんだ?」
「宏美でいいですよ~……何と言われましても~…そのままですよ~、今後の郁人様の学園でのアイドル活動の手助けをしていきたいと思っています~」
「えっと…郁人君は…その…アイドルなのかなぁ?」
「……い、いや……アイドルになった覚えがないんだが?」
「大丈夫ですよ~! わたしぃに全てお任せですよ~」
とりあえず困った郁人は、ゆるふわ宏美に疑問をぶつけるが意味不明な回答に、聞いた郁人も、聞いていた梨緒も、完全に頭が?モードなのである。ゆるふわ宏美はニコニコ満面なゆるふわ笑みを浮かべている。郁人はゆるふわ宏美の様子から、彼女が、朝の謎の握手させられ事件の主犯だと確信したのである。
「……すまないが……揶揄うのはやめてくれないか?」
「え~? 揶揄ってなんかないですよ~」
「はぁ~……あのな……別にイケメンでもない俺が…アイドルなんてできる訳ないだろ?」
呆れる郁人は、ゆるふわ宏美に、本心からそう言い放つのである。この郁人の発言に、梨緒とゆるふわ宏美は、驚愕の表情を浮かべて郁人を見る。信じられないという表情をしているのである。
「あ……あの、郁人君は、イ、イケメンだと思うよぉ…ていうか…そ、その…か、カッコいいよぉ」
梨緒は、顔を真っ赤にしながらそう言い放つ。そして、言った後にハッとなって、顔を伏せる。完全に顔がゆでだこ状態である。そんな梨緒に対して、この子は、お世辞をこんなに必死に言ってくれて、良い子なのかもな、と思う郁人であった。
「……大丈夫ですよ~!! イケメンな郁人様は普通にしていればいいですからね~!!」
いつの間にか、ゆるふわ笑顔に戻っているゆるふわ宏美は、残念な胸を張りながらそんなことを言っている。郁人は、何が大丈夫なんだと疑問を浮かべている。
「あ…そうだったぁ…郁人君は、そ、その…ほ、放課後とか暇かなぁ? よ、よかったら…そのぉ…」
「あ……だめですよ~!! 郁人様は、放課後これから、ファンの方々のために握手会がありますからね~」
「え? そ、そうなんだぁ……じゃあ、仕方ないかぁ」
「……いやいや…握手会なんてしないからな……後、俺は放課後予定がある」
幼馴染の美月と一緒に帰る約束をしている郁人なのである。郁人的には、幼馴染の美月が最優先なのだ。だが、ゆるふわ宏美はゆるふわ笑みを浮かべながら、逃がしませんよ~とゆるふわ圧を放つゆるふわ宏美なのである。
郁人は正直、恐怖を覚えた。梨緒もゴクリと喉を鳴らしている。
とりあえず、梨緒の自称幼馴染の件は有耶無耶になって、助かった郁人だが、放課後の謎の握手会とやらに参加する気はない。学校が終わり次第、真っ先に逃走することを決意した郁人なのだった。
そんな、真剣な表情で考え込む郁人を微笑みながら眺める梨緒は、心の中である決意をしていた。絶対に郁人君に、この思いを伝えると、あの時、伝えられなかった気持ちを、今度は絶対に伝えたい。それだけ梨緒は、郁人のことを想っていた。郁人の中で、自分がどれだけ小さな存在でも、梨緒にとって郁人は大切でとても大きな存在なのだから。
そんな、自称幼馴染の梨緒が決意を固める中、真の幼馴染の美月はというと、彼女も彼女で、クラスでトラブルが発生していた。教室に戻り、自分の席に着くなり、また、男子生徒達に囲まれてしまった美月なのである。
だが、そんな包囲を突破して、美月に話しかけてくる人物が現れる。それは、先ほどのイケメンである。男子生徒の殺気を受けても、涼しげにイケメンスマイルを浮かべている。
「さっきは、あんまり話せなかったけど、美月、本当に久しぶりだね」
そう、美月に馴れ馴れしく話しかけるその様子に男子生徒が、イケメンだからって、一人占めするなよと更に不満が上がる。イケメンは周りを見渡すと両手を広げて説明しだす。
「俺は、美月の幼馴染なのさ!! だから、いつも通り普通に話しかけてるだけなのさ!!」
「……え!?」
美月は、イケメンのその発言に素っ頓狂な声が出てしまう。というか、美月の中では、このイケメンも、普通に周りの男子生徒達と同じく他人であった。美月の幼馴染は郁人だけなのである。全く記憶にない美月は困惑する。
「ほら……イケメンさんよぉ……イケメンだろうが抜け駆けはだめだぜ。美月ちゃんは、みんなのアイドルだからよ。イケメンでも、特別扱いはしないぜ」
「さっきも言ったが、俺は美月の幼馴染なのさ…だから、別段話しかけても構わないだろう?」
「幼馴染……そうなのか? わりぃな……そういうことなら、仕方ないか……いいぜ」
なぜか、イケメンとの間に割って入ってきた浩二も、少し考える素振りを見せて、自称幼馴染の幼馴染発言を真に受けて勝手に美月との会話の許可をだすのである。
(え!? 何…どういう状況なのよ? なんで、この人こんなに仕切ってるのよ!?)
完全に混乱する美月は、少し考えるとハッと、一つの仮説にたどりついたのである。これは、この二人が主導で私を揶揄ってるのだと、そう考えると、ムッとなる美月なのである。不機嫌な顔で二人を睨むのだが、二人はそんな美月をスルーして会話を続ける。
「僕は、永田 浩二って言うから…よろしくだぜ」
「俺は、覇道 政宗だ……美月とは幼馴染だ」
(……この人、私の幼馴染って強調してるけど……私…全く覚えてないんだけど…全然記憶にないよ?)
美月はムッとしたまま少し考える。正直、このイケメンたちに話しかけられ、揶揄われているせいで、女子生徒達から、完全に嫌われ始めている。このままでは、中学暗黒時代の再来である。ぼっちは正直、嫌な美月なのである。深呼吸をして、ムッとしていた心を抑え込む、そして、美月は作り笑顔を浮かべる。
「あの……私を揶揄うのはやめてもらってもいいですか?」
「え!? 揶揄ってないけどな~? 美月ちゃん男子生徒の間では、既に有名人だよ。学園のアイドルってさ」
「はぁ!? アイドル!!?? 私が!!!??? なんでよ!!!!????」
浩二のその発言のせいで、美月の作り笑顔は消え去り、素の声がでてしまうのである。完全に美月の怒りゲージは上がってしまった。再度ムッとしてしまう美月であった。そんな美月をやはり二人は完全スルーして会話を進める。
「美月は昔から……可愛かったから、モテるのは仕方ないさ」
「それは、そうだろうぜ。完全無欠の美少女って感じだし…美月ちゃん」
美月のイライラゲージは更に上がる。完全に激おこである。ムッとした表情から、ムカッとした表情にランクアップしている。しかし、ここで怒鳴ってしまっては、この二人は更に調子に乗って、揶揄ってくると思った美月は、冷静になって対応することにしたのである。
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「美月はアイドルなのか? まぁ、美月なら似合っているな」
(いやいや、この二人何言ってるのよ? 正直全く意味が理解できないだけど?)
もはや、二人が何を言っているのか理解できない美月だった。だが、ここで諦めては、一年間このクラスで、この二人に揶揄われることになる。なんとしても、阻止しないといけないと思う美月は、二人と口論することを決意する。
「よ、よくわかんないんだけど……私はアイドルとかやらないからね!! 似合ってもないし、ていうかよくわかんないし!!」
「大丈夫だって、僕に任せてくれよな…それに事実上…もう学園で超絶美少女登場って、話題にもなってるぜ」
「いや…だから、私は…」
「美月なら、大丈夫だ。俺も応援するさ」
美月は頭を抱える。美月の表情は、完全にムカッから、イライラにランクしていたが、もはや口調も普段通りで、取り繕うのを忘れていた。そんな美月を無視して、イケメン二人は話を進める。
「あ、そうだ。美月、放課後は、空いているか? よければ一緒にどこかいかないか? 積もる話もあるからさぁ」
「おいおい、ダメに決まってるだろう…美月ちゃんは、放課後もお話し会しないといけないから…美月ちゃんと話したいって、男子生徒が多くて困るぜ」
美月は二人の傍若無人の振る舞いに、更なる怒りが込み上げてきた。拳を握り締めて、怒りを抑える。落ち着くのよ、落ち着きなさい私と自分に言い聞かせる美月なのである。
「…ごめんなさい。私、放課後は予定があるから」
「美月……なんの予定だい? 俺でよければ付き合うよ」
「美月ちゃん。ダメだって、少しでいいから、時間作ってくれ……頼むぜ!!」
「……私、どうしても外せない予定があるの……ごめんなさい」
もはや我慢の限界だが、ここで怒りを爆発するのは良くないと考え、必死に怒りを抑えようとするも、少し強めの口調での反論となった美月なのである。しかし、傍若無人なイケメン二人にはやっぱり全く効果がなかった。
「大丈夫だ……問題ないさ、美月、俺も一緒に付き合うから」
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ついに、美月は机を両手でバンバン叩きながら怒鳴ってしまう。もはや、我慢の限界であった。バンバン机を叩き、怒りを示す美月を微笑ましく見つめるイケメン二人は、やはり美月をスルーして会話をしだす。
「美月は、本当に可愛いな」
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