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ギャルゲの主人公と乙女ゲーの主人公は幼馴染である。

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 雲一つない晴天の空なのに空はかすんでみえる。そんな空から窓越しに照らされた部屋で気合を入れる少年の姿があった。本日は、高校の入学式当日の朝なのである。 

 超絶美少女の幼馴染がいる少年の名前は、朝宮 郁人あさみや いくとと言い、彼は幼馴染の少女のことが大好きなのだ。

 結局今の今まで色々なことがあり、思いを告げられずに今の幼馴染という関係のまま中学校を卒業し、本日で高校生になってしまった郁人は、幼馴染に対して想いを告げたいという願いがあった。今のままの関係の方がいいのではないのか? 幼馴染の気持ちは? そんな様々な要因から想いを告げることができずにいた。

 しかし、そんな彼も環境が一新する高校生活の始まりと共に決心したのである。

 高校生になったら本気を出すと、本気で幼馴染に対して自分をアピールしていくと、そして本日はついに高校の入学式ということで超気合を入れているという訳である。

 まだ薄暗い朝の五時に起きて、日課のジョギングをこなし、朝のシャワーを終えて、幼馴染が好きな髪型を意識し、ヘアーアイロンとワックスを使って髪をセット、そして、家族の朝食を作る。

 ある時期から始めた朝の日課をこなし終えての現在である。

 郁人は幼馴染に好かれるための努力は惜しまないのである。そして、今日から幼馴染にアピールをすることを決意したため、容姿に対してのセットはいつも以上に時間をかけている。

 前もって準備していた高校の制服の上着を羽織り袖を通す、顔はイケメンではないと思っている郁人だが、容姿には結構気を使っていた。天使で可愛い超絶美少女である幼馴染の隣に立つためには、それなりに頑張らないと釣り合わないからだ。

 そして、自室から階段を降りて洗面所に向かうと、容姿を確認し髪型に不満があるのか髪を再度いじりだすのである。

 正直、容姿に不安がある郁人は、普段以上に念入りに準備し時間をかけている。 

「兄貴……また髪セットしなおしてんのかよ……どんだけ時間使ってんだよ?」
「雅人……いいか、容姿は大事だ。容姿に気をつければ、俺みたいなフツメン? でもな……それなりにはまともに見てもらえるはずだ」
「兄貴……マジで言ってんのか?」

 弟の朝宮 雅人あさみや まさとは、朝から洗面所を独占する兄に呆れ、さらに兄の発言に驚きの表情を浮かべる。

 そんな弟の表情を見て郁人は、こんなに頑張って容姿に気をつけてもダメなのかと内心でかなり落ち込むのである。

 幼馴染の少女は超可愛い。中学の頃、いや、小学校の頃……いやいや、幼稚園の頃からモテていた。郁人は、自分は、超絶可愛い天使で美少女の幼馴染とは釣り合ってないと心の底から感じていた。

「まぁ、確かに俺はイケメンではない……もしかしたらフツメンでもないかもだが……そんなに呆れなくてもいいだろ?」
「いや……兄貴……兄貴はイケメンだから……マジで……」
(ほんと……マジでそれ以上兄貴にイケメンになられると……本気で勝ち目なくなるからやめてくれ)

 一人落ち込む兄の郁人に対して、呆れと嫉妬心が混じった複雑な表情になる弟の雅人なのである。

「雅人……いつも気を遣ってくれてありがとな」
(雅人は優しい奴だな。いつも、俺の容姿を褒めてくれる。マジでいい弟だな)

 完全に勘違いしている兄の郁人に対して、呆れ困っている弟の雅人は、ため息をつきながら、落ち込む兄の郁人を洗面所から追い出して、そのまま歯ブラシを取り歯磨きを始める。

 郁人は、不安は残るものの、雅人に追い出されてしまったため、諦め仕方なく準備を終えたことにし、バクバクな心臓を押さえ、気合を入れるのである。

 そして、玄関に向かい姿見で最終チェックと全身を確認し、不安は残るものの、意を決して玄関の扉を開き外に出る郁人なのであった。
 




 同じく高校の入学式である本日の早朝から、バタバタと慌ただしくしている少女の名前は夜桜 美月よざくら みつきと言い、幼馴染の少年が大好きな少女である。

 小さいころからずっと、幼馴染の少年のことが大好きで、過去に何度も想いを言葉にして伝えようと思ったができないでいた。

 今の関係でも不満はないのなら、無理に気持ちを伝える必要があるのだろうか、幼馴染はどう思っているのか、様々な要因から気持ちを伝えることを躊躇っていた。

 だけど、中学を卒業し心機一転、高校生になったら絶対に想いを伝えようと決意した美月なのである。

 そう、高校生になったら、本気を出すというやつである。本気で、幼馴染の少年にアピールする決意を固めた美月なのである。

 朝早く起き容姿を整えていく、髪型をセットし、化粧はナチュラルメイクである。美月は自分の容姿に自信を持っていなかった。でも、幼馴染には可愛く思われたい。ある時期から必死にメイクの練習をした。

 幼馴染が好きな髪型にして、幼馴染が好きそうなメイクをする。

 美月は、幼馴染に好かれるための努力は惜しまないのである。はっきり言って、幼馴染の少年は超モテるのである。それはもう、幼稚園の頃からモテていた。正直、美月は幼馴染の少年とは釣り合ってないと感じていた。

 それは、幼馴染の少年が超絶イケメンであるからだ。

 慌ただしく、一階の洗面所と二階の自室を往復する美月なのである。二階の自室で化粧の手直しをして、一階の洗面所で髪型をセットし直す、これをもう何往復も繰り返す美月なのである。

 本日は、決心していた高校の入学式で幼馴染の少年にアピールするために初日から超気合を入れる美月は、これで大丈夫なのかと不安から何度も手直しをするのである。

「お姉ちゃん!! さっきから何してるの!? 今から私が洗面所使うからね!!」
「……おはよう、美悠……美悠にはわからないよね……私みたいなのは一生懸命容姿に気を付けないといけないんだよ」
「……お姉ちゃん……それ……本気で言ってるの?」

 怒った表情で洗面所に来て、そう言い放つ少女は、美月の妹の夜桜 美悠よざくら みゆである。姉の美月のネガティブな発言に対して、ジト目で呆れボソッとそう呟く妹の美悠の姿に、姉の美月は内心で必死に外見を取り繕うために頑張っている自分の姿は、妹にはさぞ滑稽に見えているのかとショックを感じて、どよ~んと落ち込むのであった。

「ていうか、お姉ちゃんはもっと自分に自信もって、十分可愛いから大丈夫だって」
(ていうか、これ以上可愛くなられたら、私が困るんだけど……今でも勝ち目ないのに、さらに勝ち目無くなるじゃん)
「美悠……お世辞はいいんだよ。私はね……自分のことよくわかってるから……」
(美悠は相変わらずいい子だよね。こんな私に気を遣ってくれて)

 滅茶苦茶落ち込む姉の美月の姿を見て、妹の美悠は、再度ため息をつく、そして、姉の美月の手からヘアーアイロンを取り上げ洗面所から追い出して、髪型のセットを始めるのであった。

 追い出された姉の美月は、不満を口にするも、妹の美悠に完全に無視され、渋々と玄関に向かい姿見で全身をチェックする。

 新品の制服に、スカート丈に合わせたニーソックスは、完璧な絶対領域を形成している。

 不安は残るものの、時間ももうないので、最期に手櫛で前髪を整える。

 最終チェックを終えた美月は、バクバクな心臓を押さえるために、そこそこのボリュームな胸に手を当て、深呼吸して、気合を入れる。

 そして、頑張るぞいと、勢いよく家を出る美月なのであった。





 郁人が門扉を開き家から出ると、美月も、気合十分で家から出てきたところであった。そして、ばったりと家の前で出会う二人は、お互いの家の門扉の前に佇み、ジッと見つめ合う。

(美月の制服姿……超可愛すぎるな)
(郁人の制服姿……滅茶苦茶格好良すぎるよ)

 郁人は、幼馴染の美月に見惚れていた。幼馴染の美月は超絶美少女だ。綺麗に整えられたボブヘアーの髪型に、大きな瞳に長いまつ毛、リップが塗られた唇は艶やかである。小柄だが、胸はそれなりにある。ニーソとスカートから見える白い肌は雪のように美しい。

(美月……マジで可愛な……これは本当にまずい。高校でも絶対にモテる……間違いない……高校生ともなれば、恋人がほしくなるという……やはり、俺は本気でアピールしていかないとな)

 そして、美月も幼馴染の郁人に見惚れていた。郁人の容姿はイケメンだ。丁度良く伸びた髪をきれいに遊ばせているイケメンヘアに、190cm近い高身長で、制服越しでもわかる引き締まった身体はイケメンスタイルだ。新品の制服を少し気崩している姿は、イケメンのみに許される着こなしである。

(郁人……本当に格好良すぎるよ!! なんでこんなに格好いいんだよ!! これ絶対高校でもモテモテだよね!? 今まで彼女を作らなかった郁人だけど、男子高校生って、彼女欲しがるって言うし、絶対彼女作ろうとするよね? うう~……こ、これは、やっぱり、本気でアピールしてかないとだめだよね!!)

 二人の関係は両想い。だが、相手の気持ちをわかってない二人は片思い。だから、中学を卒業し心機一転の高校生活で、想いを告げて、今の関係から先に進みたいという気持ちがあった。だから、高校生になったら、頑張るとお互い決意したのである。

 そして、先に動いたのは郁人だった。

「おはよう美月。その……あのな制服……に、似合ってるな。その……相変わらず……美月は可愛いな」

 郁人は内心は心臓バクバクだったが、平常心を意識して美月に可愛いと言ってみた。

(え? 郁人が可愛いって言ってくれた……言ったよね? やった、可愛いって言ってくれたよ)

 美月は、顔面真っ赤になって照れた。心の中で、スキップランランする美月だが、ハッとなるのである。ここで、終わってはいけない。そう、美月もここでアピールする決意を固めるのである。美月は嬉しい気持ちを抑え、心臓バクバクで、照れながら、郁人をまっすぐ見つめる。

「ありがとう。郁人も、その……せ、制服似合ってるね……その……えっと、か……格好いいよ」
(……美月が……俺のことを……格好いいと言った……だと!?)

 郁人は、滅茶苦茶驚き、最高にテンションが上がるのである。内心ガッツポーズの郁人である。そして、ジッと見つめ合う二人は、お互いに、ハッとなって、真っ赤になった照れ顔を隠すために。お互い逸らすのである。

(これは……やはり、美月は、まだ、俺のことが好き……なのだろうか?)
(郁人は……やっぱり、私のこと好きなのかな? 好きだよね? たぶんそうだよね?)

 しばらく、無言で照れて、学校に向かう二人だが、少し時間が経てばいつも通りの会話ができるようになった。自然と恋人つなぎで手をつないで学校に向かう二人なのである。





 そう、朝は上手く事が運んでいたとお互い思っていた。しかし、二人の通う事になる時ノ瀬高等学校について、クラス発表の張り紙を見た時、二人は絶望した。

 二人のクラスは郁人が1組で、美月は7組だった。時ノ瀬高等学校の新一年のクラスの数は、7クラスである。つまり、教室も一番離れている上に、合同の授業などもありはしない。考えられるクラス別けで一番最悪の結果である。

(マジで……高校生活……いや、人生終わったな。さようなら……俺の青春……ああ、そう言えば中学の時もクラスずっと違ったし……考えれば……あの時から……ずっと違うクラスなんだよな)
(神様、私何か悪いことしたかな? 本当に最悪だよ……もう無理……高校人生終わったよ)

 絶望の表情で落ち込む郁人と美月である。しかし、このまま、呆然としてるわけにもいかずに、ため息をついて、お互い見つめ合うのである。

「じゃあ、美月……俺は……1組みたいだし行くな」
「うん……私は……7組だよ……じゃあね……あ、か、帰りは……」
「……ああ、帰りは一緒に……その……か、帰ろうな」
「そ、そうだね……い、一緒に帰ろうね!!」

 お互い絶望の表情を悟られないように気をつけながら、もじもじと何かを言いたそうな美月に対して、帰りの約束を取り付ける郁人なのである。

 そんな、郁人に対して美月は顔を真っ赤にして、嬉しそうな表情を見られないようにと顔を伏せるのである。お互い照れながら、帰りの約束をしたものの、その後、すぐに絶望の表情に戻る二人は、トボトボと哀愁漂う姿で、お互いの教室に向かう。

 そして絶望の真っ只中な二人は教室に入ると、郁人は女子生徒に、美月は男子生徒に囲まれることとなり、二人の波乱の高校生活は幕を開けるのであった。
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