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第三章『Go! Go! サイン会♪』
君のサインを求めて
しおりを挟む筧 花彩は悩んでいた。
次の日曜日、とあるイベントが行われる予定で、そこには花彩の憧れの人がやって来るのだ。
新堂 結人。現在、売れに売れている実力派若手俳優だ。とあるイベントというのは、彼の写真集発売を記念したサイン会のことだ。
花彩が悩んでいたのは、どうすれば確実に直筆サインをゲットできるかということなのである。
「んー……絶対、整理券を手に入れなくちゃだし、早起きしないといけないんだけど……」
当日は整理券が配られる予定とのことなのだが、数に限りがあるうえに、争奪戦になってしまう為、誰よりも早く整理券を手に入れておきたいのだ。
しかし、そうなると朝早くに会場へ向かわなければならない。いつ会場へ行けば確実にサインをもらえるのか、花彩には予想がつかない。
「十時だと絶対アウトだし、九時でも間に合わないかもしれないし……八時……から並んでいけば大丈夫かなぁ……でも、だとしたら何時に家出たらいいんだろ……」
結人が人気なのは当然のことなのだが、その人気ぶりはときに花彩の想像を遥かに超えることがある。
どれだけ早く会場へ向かってもサインが手に入れられないのではないか、と不安になってしまう。
と、そんな時。
花彩の親友である少女が苦笑しつつも声をかけてきた。
「花彩、まだ悩んでるの? 悩みすぎると夜寝れなくなっちゃうよ」
「分かってるけど……絶対! ぜーったいに! 是が非でも! 何としてでも! 手に入れたいんだもん」
憧れの人の直筆サインなのだ。必ず手に入れたいと花彩は思う。
そんな中、彼女たちのやり取りを聞いていた一人の少年が会話に入ってくる。
「花彩ちゃんとことはちゃんも、結人くんのサイン会行くんだね!」
「……え? 文哉くんもサイン会行くの? 明慶くんも一緒に?」
名前を呼ばれた明慶は即座に補足する。
「あ、僕は文哉くんの付き添いなんだ」
うん、と花彩の問いかけに頷いた上で、文哉は告げる。
「オレのお母さんも結人くんの大ファンで、サイン会に行くって張り切ってたんだけど……最近、体調が悪いから代わりに行ってきてくれないかって頼まれちゃって」
ことはは心配そうな表情で文哉に尋ねる。
「お母さん、大丈夫なの?」
「ただの風邪だから安静にしてれば大丈夫なんだけど、ほら、サイン会っていっぱい人が来るでしょ? 周りの人にうつしたらダメだし」
文哉の説明に、ことはと花彩は口を揃えて「なるほど……」と呟いた。
すると、何かをひらめいたのか表情を明るくした文哉は言う。
「そうだ!今日の放課後、作戦会議も兼ねてみんなでごはん行こうよ!」
「賛成! 行こ行こ!」
文哉の出した提案を即座に花彩が受け入れた。ことはも頷き言う。
「うん、良いと思う!」
「ぼ、僕も行くよ!」
皆に乗り遅れまいと慌てて明慶も声を上げた。
期待に胸を膨らませるように文哉は告げる。
「よぉし。じゃあ決まり!サイン会に向けての作戦会議、楽しみだね!!」
コンサート会場を後にした番場は、思案しながら街中を歩いていた。
桜崎 ミリアムと夏継 ガウェインは新堂 結人のサイン会へ行くと発言していた。
二人と接触するには絶好の機会。そして、必要な材料はすでに番場の手元にあるのだ。
それは、文哉たちの存在だ。
特にあの筧 花彩という少女。どうやら結人の大ファンらしい。
私の推測通りなら、恐らく彼女も……。
番場がそう考えて街中を歩き続けていると、見慣れた少年少女たちの後ろ姿を見つけた。
逸る気持ちを隠しつつ、番場はさりげなく彼らに声をかける。
「やあ、君たち。奇遇だねぇ」
振り返った少年少女たちのうち、明慶、ことは、花彩の三人はとても驚いた様子を見せていたが、
「あ、番場さん! 久しぶりだね!」
文哉は全く気にしていないようで、むしろ満面の笑みを浮かべて番場を受け入れていた。
番場は軽い口調で尋ねる。
「フェス以来になるかな? 今日はみんな仲良くどこへ行くんだい?」
「えっとね、今度、みんなで結人くんのサイン会に行くことになったんだけど……みんなでごはん食べながら作戦会議しようよってことになったんだ!」
文哉が告げた内容に、番場は内心ほくそ笑んだ。
「ほう……サイン会、か。それは興味が湧いてくるねぇ」
番場が漏らした言葉に、文哉は提案する。
「だったら、番場さんも一緒に行く?」
「おや。私も行っていいのかい?」
「もちろん! みんなもいいよね?」
文哉が呼びかけると、残りの三人も頷いた。
番場は微笑を浮かべて言う。
「では、同伴させてもらうとしよう」
これで新堂 結人のサイン会に参加することができる。
まさかこんなに上手くいくとはねぇ。
そう考えていると、明慶が不意に番場へ訊いてきた。
「それはそうと……番場さん、フェスが終わった後、急にいなくなりましたよね? 警察の事情聴取は受けなかったんですか?」
「ああ──面倒だったからね」
警察官の彼──筧 花彩の兄である崇嶺は少々厄介だ。あの場で機転を利かせて事情聴取に踏み切るとは。その行動力には感心するが、逃げるのに一苦労だった。
すると、花彩が少々驚いた様子で言う。
「え、事情聴取って面倒だったら辞退してもいいものなの?」
「うーん……。たぶん、ダメだと思う……」
戸惑ったように告げたことはの言葉を受けて、番場はわざとらしく苦笑した。
「おやおや。そうだったのかい? それは困った。怒られちゃうねぇ」
番場は『アウェイクニングサンダーフェス』のライブ会場で起こった出来事を思い返す。
「お前は一体、何者なんだ……!?」
こちらに対してそう叫んだ崇嶺を思い浮かべながら、番場は内心で呟いた。
……まあ、謝罪する気はないけどね。
番場はこれまでしていた話を切り上げて、別の話題に逸らす。
「それで? 君たちはどこで食事を摂るのかな?」
「ここだよ」
文哉は言いながら店の看板を示した。
一同が辿り着いたのはハンバーガーショップだった。
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