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第三章『Go! Go! サイン会♪』
盗み聞きと悪巧み
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コンサートホール中に凄まじい数の拍手の嵐が巻き起こっている。
指揮者が観客に対して一礼して、ステージの幕が降りた。
今、とある楽団の公演が終了したのだ。
コクシネル交響楽団。
多国籍メンバーが集まる彼らはステージでの演奏を終え、楽屋に集まった。
指揮者としてステージ上でタクトを振るっていたフランス人の男性は、高らかに告げる。
「みんな、今日は本当にありがとう! 今日もとても素晴らしい演奏だった!」
すると、スペイン出身の色黒の男性が朗らかな口調で返す。
「おう。そりゃ、当たり前ぇだぜ。頼りがいのある男がここまで導いてくれたんだからな!」
言われた指揮者は、照れた様子ではにかんだ。
ブラジル人の女性はそんな彼のことを見つつ、豪快に笑った。
「あらあら~、顔が真っ赤になっちゃってるわよ。ウチの指揮者はホントに可愛いわねぇ」
今度は、イギリスと日本のハーフである女性──桜崎 ミリアムが微笑みながら頷き、その上で指揮者に言う。
「そうですね。あなたが導いてくれるから、私たちは常に最高の演奏をすることができる。そして、もっと先へ……次の景色へと進んで行ける。心から感謝します」
「ミリアムのバイオリンだって、すごかったわよ。フェスに出演して以降、さらに磨きがかかってるわ」
そう言ったのは、スウェーデン出身の女性だ。彼女の発言に続いてドイツと日本のハーフの男性が言う。
「フェスに出演したって言えば、ガウェインだってそうさ。今までの演奏も十分素晴らしいものだと思っていたけど、フェスに出てからはより一層深みが増したというか……」
当のガウェイン──アメリカと日本のハーフである彼は笑いながら男性に告げる。
「お前が他人を褒めるなんて珍しいものだな。今日は雪でも降るんじゃないか?」
「おいおい……人がせっかく褒めてるってのに、それはないんじゃないか」
「すまん、冗談だ。ありがとう」
寂しそうに言った男性に対し、謝罪した上で感謝を述べたガウェイン。
そんな二人のやり取りを見ていた皆の間に、どっと笑いが湧き起こった。
すると、ガウェインのスマホから着信音が鳴り響いた。画面を見れば、妻の名前が表示されている。
出てあげて、と指揮者の男性に促され、ガウェインは通話ボタンを押した。
「もしもし。どうした、ラグネル?」
と妻の名前を呼んだガウェインだったが、通話口の向こうから聞こえてきた声は、
『パパ! 公演おつかれさま!』
娘・フローレンスだ。父親であるガウェインは親しみを込めて愛称で呼びかける。
「フローラか! わざわざ電話してきてくれたのか。ありがとう」
『うん! ところでパパ……』
娘の声が聞けて嬉しく思ったのも束の間。フローラは告げる。
『結人くんにはいつ会えるの?』
「……え?」
『結人くんに会いたいの! パパ会わせて~!』
いきなりの懇願に動揺し指が震えたガウェインは、思わずスピーカーをオンにしてしまった。
しまった、と思ったときにはすでに遅く、電話越しの娘の声がスピーカーによって周囲にまで聞かれてしまう。
さらに追い打ちをかけるように、娘からの要求は強くなっていく。
『ねぇ、パパ~! 結人くんに会いたいよ~、会わせてよ~!!』
「ま、まあ……そのうちまた会えるさ」
『そのうち、っていつなの!?』
「いやぁ…それは……」
娘からの圧に対して、しどろもどろになってしまうガウェイン。
そんな時、
「あの……ガウェインさん、ちょっといいですか?」
思わぬ人物からの提案があった。
「実は私、結人さんのサイン会に行かないかって友人から誘われているんですけど……ガウェインさんも一緒に行きませんか? もちろん娘さんと、良ければ奥さんもご一緒に」
金髪碧眼の女性、ミリアムだ。彼女の発言にはさすがのガウェインも戸惑いを隠しきれなかった。
「い…いいのか……?」
大柄な男から問われても、彼女は柔和な笑みを崩さない。
「ええ、もちろんです」
すると、通話口からフローラの驚く声が聞こえてきた。
『結人くんに会えるってこと!?』
「サイン会ですから、直接会うことができますよ。短時間だと思いますが、もしかしたらお話もできるかもしれませんね」
ミリアムの返答にフローラは歓喜の声を上げた。
『やったぁ~! 結人くんに会えるんだぁ!! 楽しみ~!!』
とんとん拍子に話が進みすぎて、ガウェインは未だ戸惑ったままだ。彼は自信なさげにミリアムへと言う。
「やはり、迷惑ではないだろうか。かなり急な話だと思うが……」
「大丈夫ですよ。人数が増えてもサイン会には参加できますから」
いや、そういう問題ではないのだが……。
ガウェインは内心そう思いつつ、せっかくの提案を無駄にするのも良くないだろうと思い直すのだった。
その会話を楽屋の外から聞いていた男が一人。
くっくっくっ、と湧き出る笑いを堪えつつ、その男──番場 均は思う。
面白い展開になってきたねぇ……。
桜崎 ミリアムと夏継 ガウェインが所属する楽団のコンサート。その会場に潜入して正解だった。
アウェイクニングサンダーフェスのステージでは、楽団を代表してミリアムがバイオリン、ガウェインがコントラバスを演奏した。
その時、二人から《HEART》の欠片の気配を感じたのだ。
今も楽屋の中から二つの欠片の気配を感じている。つまり、彼らが欠片の所有者で間違いないだろう。
問題なのは、二人の所有する欠片が指輪なのか鍵なのか、現状では判別できない点だ。
これは直接確かめるしかなさそうだが……しかし……。
番場は思案する。
いつどうやって彼らと接触するか、というところも問題だねぇ……。
使えそうな材料はあるのだが、どうしたものだろうかと考えつつ、番場はその場を後にした。
指揮者が観客に対して一礼して、ステージの幕が降りた。
今、とある楽団の公演が終了したのだ。
コクシネル交響楽団。
多国籍メンバーが集まる彼らはステージでの演奏を終え、楽屋に集まった。
指揮者としてステージ上でタクトを振るっていたフランス人の男性は、高らかに告げる。
「みんな、今日は本当にありがとう! 今日もとても素晴らしい演奏だった!」
すると、スペイン出身の色黒の男性が朗らかな口調で返す。
「おう。そりゃ、当たり前ぇだぜ。頼りがいのある男がここまで導いてくれたんだからな!」
言われた指揮者は、照れた様子ではにかんだ。
ブラジル人の女性はそんな彼のことを見つつ、豪快に笑った。
「あらあら~、顔が真っ赤になっちゃってるわよ。ウチの指揮者はホントに可愛いわねぇ」
今度は、イギリスと日本のハーフである女性──桜崎 ミリアムが微笑みながら頷き、その上で指揮者に言う。
「そうですね。あなたが導いてくれるから、私たちは常に最高の演奏をすることができる。そして、もっと先へ……次の景色へと進んで行ける。心から感謝します」
「ミリアムのバイオリンだって、すごかったわよ。フェスに出演して以降、さらに磨きがかかってるわ」
そう言ったのは、スウェーデン出身の女性だ。彼女の発言に続いてドイツと日本のハーフの男性が言う。
「フェスに出演したって言えば、ガウェインだってそうさ。今までの演奏も十分素晴らしいものだと思っていたけど、フェスに出てからはより一層深みが増したというか……」
当のガウェイン──アメリカと日本のハーフである彼は笑いながら男性に告げる。
「お前が他人を褒めるなんて珍しいものだな。今日は雪でも降るんじゃないか?」
「おいおい……人がせっかく褒めてるってのに、それはないんじゃないか」
「すまん、冗談だ。ありがとう」
寂しそうに言った男性に対し、謝罪した上で感謝を述べたガウェイン。
そんな二人のやり取りを見ていた皆の間に、どっと笑いが湧き起こった。
すると、ガウェインのスマホから着信音が鳴り響いた。画面を見れば、妻の名前が表示されている。
出てあげて、と指揮者の男性に促され、ガウェインは通話ボタンを押した。
「もしもし。どうした、ラグネル?」
と妻の名前を呼んだガウェインだったが、通話口の向こうから聞こえてきた声は、
『パパ! 公演おつかれさま!』
娘・フローレンスだ。父親であるガウェインは親しみを込めて愛称で呼びかける。
「フローラか! わざわざ電話してきてくれたのか。ありがとう」
『うん! ところでパパ……』
娘の声が聞けて嬉しく思ったのも束の間。フローラは告げる。
『結人くんにはいつ会えるの?』
「……え?」
『結人くんに会いたいの! パパ会わせて~!』
いきなりの懇願に動揺し指が震えたガウェインは、思わずスピーカーをオンにしてしまった。
しまった、と思ったときにはすでに遅く、電話越しの娘の声がスピーカーによって周囲にまで聞かれてしまう。
さらに追い打ちをかけるように、娘からの要求は強くなっていく。
『ねぇ、パパ~! 結人くんに会いたいよ~、会わせてよ~!!』
「ま、まあ……そのうちまた会えるさ」
『そのうち、っていつなの!?』
「いやぁ…それは……」
娘からの圧に対して、しどろもどろになってしまうガウェイン。
そんな時、
「あの……ガウェインさん、ちょっといいですか?」
思わぬ人物からの提案があった。
「実は私、結人さんのサイン会に行かないかって友人から誘われているんですけど……ガウェインさんも一緒に行きませんか? もちろん娘さんと、良ければ奥さんもご一緒に」
金髪碧眼の女性、ミリアムだ。彼女の発言にはさすがのガウェインも戸惑いを隠しきれなかった。
「い…いいのか……?」
大柄な男から問われても、彼女は柔和な笑みを崩さない。
「ええ、もちろんです」
すると、通話口からフローラの驚く声が聞こえてきた。
『結人くんに会えるってこと!?』
「サイン会ですから、直接会うことができますよ。短時間だと思いますが、もしかしたらお話もできるかもしれませんね」
ミリアムの返答にフローラは歓喜の声を上げた。
『やったぁ~! 結人くんに会えるんだぁ!! 楽しみ~!!』
とんとん拍子に話が進みすぎて、ガウェインは未だ戸惑ったままだ。彼は自信なさげにミリアムへと言う。
「やはり、迷惑ではないだろうか。かなり急な話だと思うが……」
「大丈夫ですよ。人数が増えてもサイン会には参加できますから」
いや、そういう問題ではないのだが……。
ガウェインは内心そう思いつつ、せっかくの提案を無駄にするのも良くないだろうと思い直すのだった。
その会話を楽屋の外から聞いていた男が一人。
くっくっくっ、と湧き出る笑いを堪えつつ、その男──番場 均は思う。
面白い展開になってきたねぇ……。
桜崎 ミリアムと夏継 ガウェインが所属する楽団のコンサート。その会場に潜入して正解だった。
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その時、二人から《HEART》の欠片の気配を感じたのだ。
今も楽屋の中から二つの欠片の気配を感じている。つまり、彼らが欠片の所有者で間違いないだろう。
問題なのは、二人の所有する欠片が指輪なのか鍵なのか、現状では判別できない点だ。
これは直接確かめるしかなさそうだが……しかし……。
番場は思案する。
いつどうやって彼らと接触するか、というところも問題だねぇ……。
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