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第二章『ライブ行こうぜ!!』
残響
しおりを挟む崇嶺は事情聴取にてライジングイカロスとハイドランジアの面々から入手した情報を整理していた。
そんな彼の下へ花彩たちの聴取を終えた寛助がやって来る。
「佐伯 寛助、ただいま戻りました!」
「御苦労。さっそくだが、聴取で得た情報を教えてくれ」
はい、と短く返事をした上で寛助は言う。
「まず、巨大ハリネズミについてですが……中野 文哉くんの情報によると、あれは《GROW》と言うそうです」
「グロウ?」
即座にその単語の意味について考える崇嶺。未知の言語という可能性も考えられるが、それを考慮しなければ“グロウ”から連想できる英単語は二つ。一つは“GLOW”。こちらの場合、“光輝く”という意味を持ち、“白熱光”や“赤熱光”などといった意味も併せ持つ。もう一つは“GROW”。こちらの場合は、“育つ”、“成長する”などといった意味を持っている。
しかし、単語の意味が解ったとしても、有力な手掛かりにはならない。
崇嶺は言う。
「中野 文哉くんは何故そのことを知っていた?」
「なんでも、番場 均なる人物から聞いたそうです」
部下の口から飛び出した名前に崇嶺は反応する。
やはりか。どういう経緯で出会ったかは不明だが、文哉と明慶は番場と知り合いなのだと妹は言っていた。
崇嶺は部下に報告の継続を促す。
「続けろ」
「は…はいっ! 中野 文哉くんと三稜 ことはちゃんが変身した件については、彼らが身に着けている指輪の力によるもののようです。ことはちゃんが警部の傷を治したのも、その指輪の力だと思われます。本人も土壇場で使えるようになって戸惑っていたようですが」
崇嶺はことはのおかげで一命を取り留めた。彼女には感謝しなければならない。
それにしても……。
指輪、と聞いて崇嶺は眉をひそめる。どういう原理かは分からないが、彼らは紡と同じ要領で変身したということだ。そして、詩織が持っている鍵は己が持つ鍵と同質の物。鍵にも指輪と同じ力があるだろうということは詩織の変身ですでに証明されている。
だとすれば、自分も同じように変身する可能性があるのだろうか。
どうなのだろう、と崇嶺は思う。
寛助は報告を続ける。
「文哉くんたちはライジングイカロスやハイドランジアというグループ名こそ知っていても、直接会って話したことは一度もないとのことです」
これは崇嶺の聴取の内容とも矛盾しない。ライジングイカロスとハイドランジアの面々も文哉たちとは会ったことがないと主張していた。つまり、聴取を受けた全員が嘘をついていないということだ。
崇嶺は部下へ問う。
「あの鏡と、鎌を持った人物については、何と言っていた?」
「中野 文哉くんと渡橋 明慶くんが番場から聞いた話によると、鏡は加々見 成美という人物だそうです」
「なんだと? あれが人間だというのか……?」
あり得ない、と崇嶺は思う。
寛助はさらなる情報を付け加える。
「鎌を持った人物については名前、年齢、性別は一切不明。加々見 成美との関係についても不明ですが、恐らく手下であると思われます。そして、この人物は文哉くんたちのしている指輪と同様の指輪をしているようです」
崇嶺は思い出す。あの時、各所に散っていった指輪は七つ。その宝石の色はそれぞれ、白、赤、黄、緑、青、紫、黒。鍵も同じ数が同じ配色で存在している。
己が持っている鍵は黄色、詩織が持っている鍵は緑色だ。
他の色の鍵もすでに誰かの手に渡ってしまっているだろう。
崇嶺は寛助の肩を軽く叩きながら言う。
「よくやった。今日はもう帰っていいぞ」
「えっ? あ……はいっ! それでは、お疲れ様でしたぁ!!」
と言って、そそくさと部屋を出て行った寛助。
そんな部下の背中を見送りながら、崇嶺は思案する。
……もっともっと、多くの情報が必要だな。
些細な手がかりでさえ取り零したくないが、特に気になるのは、残りの指輪と鍵の行方について。
番場 均及び加々見 成美とその手下。彼らの目的があの指輪と鍵にあるのなら、調べる必要がある。
グロウ、と呼ばれる怪物に関しては、フェスで巨大ハリネズミを発生させたと思われる大迫 賢太にも事情聴取を行う方がいいだろう。
そうと決まれば、留まっていては始まらない。そう思い、崇嶺もすぐに部屋を出て行った。
一方その頃。『アウェイクニングサンダーフェス』が終了し、帰り道を歩く少年が一人。
彼は前髪を軽くリーゼントにした、不良といった感じの見た目をしている。
フェスのステージ──特にハイドランジアのライブに圧倒され、彼の心は高揚していた。
……俺は今日、ヤベェもんを見ちまった。
彼女たちの演奏は凄まじいものだった。だが、それ以上に、あの真木 詩織というボーカルの声が心に突き刺さったまま、離れない。
やっぱ俺、アイツのことが……。
想った瞬間、なぜか全身が熱を帯びる。
少年は自分にしか聞こえないような小声で呟いた。
「喉……渇いちまったな……」
そう思って、道端に設置された自販機へ小銭を入れようとするが、少年の手は震えてしまい、小銭を落としてしまった。
「げ……しまった!」
地面に落ちた小銭は無惨にも自販機の下へと転がっていく。
「あー……マジかー……」
少年は面倒くさそうに自販機の下の僅かな隙間に手を突っ込んで探る。
すると、
「あん?」
指先に小銭とは違う何か別の物が触れた。少年はとりあえずそれを掴んでみることにした。
ゆっくりと掴んだ物を取り出してみると、それはダイヤモンドのような宝石がついた鍵だったのだ。
少年は驚いて、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
「んだぁ、こりゃあ!?」
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