煌めく世界へ、かける虹

麻生 創太

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第二章『ライブ行こうぜ!!』

驚天動地

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紡が最後の一撃を放とうと、ディスプレイに触れた瞬間だった。
怪物がが勢いよく全身を振り回したのだ。
巨大ハリネズミの動きに合わせて無数の針が全方位に撒き散らされる。

「晴喜!」

紡はパートナーを守るべく、咄嗟に雷撃を放ち針の雨を迎撃した。

「危ねぇ……助かったぜ、紡」

晴喜は頭にかいた汗を拭いながら息を吐き出した。
疲弊した文哉も、なんとか力を振り絞って無数の針を迎撃する。
ことはは、召喚した盾で花彩と崇嶺を守った。
針の雨はその範囲を広げ、ステージ上にも降り注ぐ。
ハイドランジアのメンバー四人に、ハリネズミの針が襲いかかる。
そんな時だった。番場が彼女たちの前へ出た。
彼は自らの右手を宙に翳す。すると針が突然勢いを失くして止まり、ステージの床に散らばり落ちた。
番場は普段の不敵な笑みを崩さず呟いた。

「まったく……野暮なことをするもんだ」

その言葉が《GROW》に届いたのかは不明だ。だが、ハリネズミは番場の存在に気づいたようで、彼に向かって突進していく。
文哉は瞬時に絵筆を走らせ、バケツを描写した。そして、具現化したバケツの中身をぶちまけ、ハリネズミの周囲を水浸しにしたのだ。
巨大ハリネズミは濡れた地面に足を滑らせ、よろめいた。
そこで、今度はことはが動いた。
ハリネズミの周囲に大量のつたが生え始め、そのままハリネズミの足に絡まって強く縛りつける。
こうして、文哉とことはの連携によって巨大ハリネズミの動きを封じ込めることに成功したのだった。
しかし、怪物は悪足掻く。
再び大量の針を撒き散らし始めたのだ。
紡は先程から戦い続けている少年に向かって叫び声を上げる。

「おい、お前!」

文哉はキョトンとして思わず聞き返してしまう。

「……オレのこと?」

紡は頷く。

「ああ、そうだ。お前……さっきのやつ、まだ使えるよな?」

「さっきの、って……ああ!」

紡は恐らく、まだガトリングガンを撃てるのか、と訊いているのだろう。
疲労は感じる。体力は確実に消耗している。
だが、できないとは微塵も思わない。
文哉は心底明るい口調で応答する。

「うん! いけるよ!」

文哉の返答を聞いた紡は歯を剥き出しにした、不敵な笑みを浮かべて言った。

「……そうでなくちゃな」

すると、紡は真剣な表情になって、文哉に指示を飛ばす。

「いいか? あのバケモンが出す針を撃ち落として時間を稼いでくれ。ほんの一瞬でいい。少しでも隙を作れたら、必ず勝てる」

そう語る紡のまっすぐな瞳を見て、文哉は静かに頷いた。

「分かった。やってみる」

言った直後。ハリネズミの背中から大量の針が噴出した。
文哉は反射的にガトリングガンを連射し、針を迎撃する。
紡の方はといえば、ディスプレイを操作してボリュームを最大にまで引き上げていた。そして右手の親指と人差し指を広げ、ピストルのような形にした上でハリネズミへ向ける。
次第に紡の指先にバチバチと音を立てながら電気が蓄積していく。
彼はこの戦いを終わらせる一撃を準備しているのだろう。
これ以上、フェスを荒らされるわけにはいかない。
だから、ここで倒すんだ。
自分に任されたのはその為の時間稼ぎなのだ。
思い、文哉は撃ち続ける。
とはいえ、振り続ける針の雨はやはり数が多く迎撃するにも限界があった。
数本の針を取り零してしまい、紡の方へ飛んでいってしまったのだ。

「しまった……!!」

焦る文哉だったが、ことはが素早く盾を召喚することで紡を守り、怪物の攻撃は届かなかった。
ことはは叫ぶ。

「文哉くん! 気にせず針を撃ち落として!」

「ありがとう、ことはちゃん! 助かったよ!」

声をかけつつも、彼女の言う通り怪物の攻撃を相殺することに専念する文哉。
そしてついに、いつまでも続くかと思われた膠着状態に転機が訪れる。
怪物の方もかなり疲弊している様子で、わずか数秒の間、針の雨が完全に止まったのだ。

「……ここだ!!」

言って、紡はスピーカーからの電撃とともに指先に帯電した電気を一斉に発射した。
迎え撃つハリネズミは大きな口を明け、そこから巨大な針を精製し射出した。
紡の放った電撃と、ハリネズミの放った巨大針が衝突する。
しかし、すぐに勝負は決した。
紡の電撃がハリネズミの巨大針を穿ったのだ。
巨大針を貫通した電撃は一直線に進み続け、ハリネズミの胴体をも貫いた。
強烈な一撃に怪物は悶え、完全に消滅したのだった。



ついにハリネズミの《GROW》を撃破した。
文哉、ことは、紡の三人は、互いの顔を見合わせて誇らしげな表情を浮かべている。
そんな喜びも束の間。突然、ある異変が生じた。
以前文哉たちが見た、荘厳な装飾の巨大な鏡。番場が加々見 成美と呼ぶ人物がステージ上に出現したのだ。
さらに鏡の中から人が現れる。加々見が従えている、黒い宝石のついた指輪を嵌めた人物だ。
加々見の手下であると思われるその人物は小柄で中性的な見た目をしており、男性なのか女性なのか判別できない。
その人はステージ上の詩織に語りかける。

「真木 詩織さん。あなたが持つ鍵を……こちらに渡してください」

「鍵、って……この宝石がついた鍵のこと?」

詩織の問いに対し謎の人物は無言のまま答えない。
気にせず詩織は話を続ける。

「これ、さっきリハのとき偶然拾ったんだけど……スタッフに訊いてもみんな知らないって言うし、誰のなんだろってずっと思ってたんだけど……アンタのものなの?」

謎の人物は相変わらず詩織の問いかけには答えない。
詩織は突き刺すような鋭い口調で言う。

「何も言わない、ってことは、違うって言ってるようなもんよね。だったら──」

彼女は謎の人物をまっすぐ見据えて言い放った。

「渡すわけにはいかないね」

詩織の言葉を聞いた謎の人物は数瞬、目を伏せた後、顔を上げる。

「そうですか……。ならば──」

言った直後。いきなり指輪についた黒い宝石から光が放たれた。怪しげな光が謎の人物の姿を変えていく。
そうして変身を遂げたその姿は、黒いコートに身を包んだ禍々しい風貌となっていた。
すると謎の人物は、まるで死神が持っているようなとても大きな鎌を自らの手元に召還した。
その大鎌の柄を掴んだ瞬間、詩織めがけて勢いよく振り下ろしたのだ。
しかし、

「危ない!!」

そう叫びながら即座に動いて詩織を庇った人物がいた。彼は言う。

「大丈夫ですか?」

心配そうに詩織を見つめていたのは、今回のフェスのゲストとして出演していた俳優・新堂 結人だ。
意外な人物に助けられ、戸惑いながらも詩織は答える。

「まあ、なんとか……」

彼女の無事を認めた結人は微笑みを返すと、鎌を持った謎の人物と相対する。
結人は問う。

「あなたは一体、誰なんですか? どうして、こんなことするんですか?」

「それは言えません」

謎の人物は結人を見下ろし、冷たく言い放つ。

「そこを退いてください」

「嫌です」

謎の人物の冷徹な眼差しに負けないように、結人はまっすぐ睨んで視線を逸らさない。
指示に従わない結人と詩織の元へ、謎の人物がじりじりと詰め寄っていく。
その時。詩織の持つ鍵が鮮やかな光を放ち始めたのだ。



緑の輝きはたちまち詩織の全身を包み込む。
そして彼女は変身を遂げた。黒い革製のジャケットやベルトにはスタッズがあしらわれており、荒々しい印象を受ける衣装を身に纏っている。ライブで使用していたベースの形も変化していて、ところどころに緑の宝石が散りばめられている。

「わわっ! 詩織が変身しちゃった!? え、何? 超カッコいいんだけど!? ……ってか、ベースめっちゃくちゃゴージャスになってるし!」

「クールでありつつもド派手さを忘れない。……推せる」

「アンタら、リアクションがいろいろおかしいでしょ……」

リーダーの変身に興奮気味な夢歌と未可子に対し、星羅は呆れた様子で溜め息を吐いた。
すると、白衣の男はまたもや絶叫した。

「オオオオオォォォ!!! 黄色の指輪に続いて緑の鍵も覚醒するとは!! 実に素晴らしいよ!!」

もはや何がどうなっているのか、崇嶺には分からない。
先程、変身して怪物と戦闘を繰り広げていた文哉、ことは、紡の三人を見る。しかし、どうやら彼らも崇嶺と同様、理解が追いついていない様子だ。
変身した当人も状況が分かっていないらしい。詩織の表情は戸惑いの色に染まっていた。

「これは……どういうことなの……」

詩織がそう呟いた途端。謎の人物が持っていた大鎌を振りかぶった。
その時、咄嗟の動きで詩織がベースの弦を弾いた。瞬間、地響きが起こり、謎の人物の足元が崩壊したのだ。

「……!!」

謎の人物は鮮やかな身のこなしで跳躍しつつ後退した。
地響きは強い揺れとなってステージ外にも伝わり、文哉たちは体勢を崩してしまう。

「わ、おっ、と……!!」

崇嶺も体勢を崩してしまったが、素早い動きですぐに復帰した。
足元の揺れすら物ともせずに謎の人物は詩織へ向かって前進する。
そこで、鏡の中から低い女性の声が響き渡った。

「もういい……ここは一旦退け、ゆかり

「……分かりました」

縁と呼ばれた性別不明の人物は頷いて鏡の中へ入り、鏡ごと跡形もなく消え去ってしまった。
その去り際の一瞬。崇嶺には見えたのだった。
目は付いていないはずの鏡が番場を睨んだかのように。
……一体、何が起こっていたんだ。
崇嶺は自らが所有する黄色の鍵を見つめる。
文哉、ことは、紡、そして先程まで謎の人物から狙われていた詩織。
異なる姿へ変身を遂げた彼らに、直接話を聞いてみた方が良さそうだ。崇嶺はそう判断した。
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