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第二章『ライブ行こうぜ!!』
目醒める雷鳴
しおりを挟む突如としてライブ会場に出現したハリネズミの《GROW》は、再び背中の針を撒き散らし始めた。
大量に飛んでくる針を相殺するのが精一杯で、文哉はなかなか本体に攻撃を当てられない。この状況がずっと続いているせいで、文哉は確実に疲弊している。
時折、文哉が相殺しきれずにすり抜けていった針はことはの盾によってなんとか防げている。しかし、彼女の盾では先程ハリネズミが吐き出した巨大針は防ぐことができなかったのだ。
またあの巨大針を吐かれたら、今度こそ終わりだ。
膠着状態の続く戦局。その中で沸々と怒りを煮え滾らせている一人の少年がいた。
ライジングイカロスの片割れ・雨宮 紡。
彼は歯を食いしばり、両の拳を強く強く握り締めていた。
出演者も観客も皆が盛り上がっていたフェスは今、目の前でメチャクチャにされたのだ。
この化け物が一体何なのか分からない。
だが、この化け物がフェスをメチャクチャにしたのは事実だ。
……許せねぇ。
そう想った瞬間だった。紡が嵌めている指輪の宝石が眩い光を放ち始めたのだ。
「な……何だぁ?!」
いきなりの出来事に戸惑う紡。そんな彼のことなどお構いなしに鮮やかな黄色い光が彼の全身を包みこんだ。
やがて光は収束し、完全に消滅した。そこに、先程とは異なる格好に変身した紡がいた。
彼は頭部に大きめのヘッドフォンを装着しており、手元にはDJが使う機材のようなディスプレイ、そして彼の背後には半透明のスピーカーのようなユニットが左右一対で浮かんでいる。
変身した彼の姿を見た文哉が笑顔になりながら言う。
「わぁ! ホンモノのDJみたいだね!」
「いや……“みたい”じゃなくて、俺は本物のDJなんだけどな……」
呆れたように溜め息を吐きながら、紡は呟いた。
すると唐突に番場が叫び声を上げた。
「おお! 黄色の指輪の力が覚醒したか! 見事! 実にブラボーだよ!!」
紡には理由がよく分からないものの、どうやら自分が変身したことで興奮しているらしい。
頭を抱えた紡は、さらに深々と溜め息を吐き出した。
その時だった。変身した者が増えたことなど関係ないと、そう告げるかのようにハリネズミが再び針を放出し始めた。
疲弊しきっている文哉ではもはやすべての針を処理しきれない。ことはの防御も追いつかない。
ハリネズミが放出した針のうち数本が、迎撃と防御をすり抜けて紡へ襲いかかる。
「マジか……っ!?」
躱しきれない紡は咄嗟の動きで手元に表示されたディスプレイ上のターンテーブルを擦った。
次の瞬間。スピーカーから鋭い電撃が放たれたのだ。電撃は数本の針を消し炭にしたのだった。その数秒後に、落雷のような轟音が会場内に鳴り響いた。
「……は?」
目の前で発生した光景は、紡本人も理解するのに時間がかかった。
しばらく考えを巡らせてようやく己の能力を把握したのだった。
どうやら自分の背後に浮かんだこのスピーカーから雷を放出することができるらしい。そして、その雷の威力や放出する方向などを手元のディスプレイでコントロールすることができるようだ。
……なるほど、なんとなく分かってきたぜ。
そう思っている矢先。いきなり次の攻撃が飛んできた。
すると、すかさず慣れた手つきでディスプレイ上のターンテーブルを動かす紡。
紡の動きに合わせて背後のスピーカーから電撃が放たれる。
鋭くまっすぐに宙を走り抜ける稲妻がハリネズミの針を焼き尽くした上で、貫通した。
あまりにも速すぎる雷は、怪物ですら回避することができなかったようで、ついに命中した。
紡の攻撃は確実に当たった──にも関わらず、巨大ハリネズミは倒れない。
しかし、電撃の影響でハリネズミの身体は痺れているようだ。先程よりも動きが鈍くなっている。
今が絶好のチャンスだ。
紡は怪物を睨みつけ、思う。
……逃さねぇぞ。ここで必ず仕留めてやる。
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