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第二章『ライブ行こうぜ!!』
情熱の二重奏(デュエット)
しおりを挟むステージ上から開演のアナウンスが聞こえた。
いよいよ、始まったな……。
舞台袖から歓声を上げる観客たちを眺めながら、紡は思った。
「なんだよ、紡。今更緊張してんのか?」
すでに開演したというのに、パートナーはあっけらかんとした調子で言ってきた。
紡はパートナーの顔は見もせずに、観客たちへ視線を向けたまま言う。
「ちげーよ。ただ……やっぱすげぇよなって思っただけだ」
荒くなっていく息を整えながら紡は続ける。
「分かってたことだけど……もうすでにこの熱気だからな……」
ステージはまだ始まったばかりなのだ。それなのに、会場のボルテージは急激に上昇している。
紡と晴喜のユニット・ライジングイカロスはオープニングアクトの後、MC陣による短いトークを挟んでその次に出番が来る。
だから、自分たちの出番まで舞台袖で待機しているというわけだ。
今、ステージ上には華やかな衣装を纏った男女が姿を現した。
女性の方はすらっとした細身で金髪碧眼、外国人のような顔立ちをしていて、純白のドレスに身を包んでいる。
男性の方はというと、かなりの巨漢だが漆黒のスーツを華麗に着こなしていた。彼もまた彫りの深い外国人のような顔立ちをしている。そういえば、二人の名前はそれぞれ、女性の方は「 桜崎 ミリアム」、男性の方は「 夏継 ガウェイン」というそうだ。恐らくハーフなのだろう。そして、二人は同じ楽団の所属なのだという。
すると、ミリアムはバイオリン、ガウェインはコントラバスを構えた。
その一瞬、先程まで騒がしかった場内が静まり返った。張り詰める静寂に気圧された紡は、思わず唾を飲み込んだ。
緊張感が高まる中で、沈黙を打ち破ったのはミリアムが鳴らしたフレーズだった。
最初は緩やかなテンポ。しかし、彼女が奏でる音色はどこか儚げで、少しでも調子を乱せば崩れ去ってしまいそうだ。それほどに繊細な音を響かせている。
彼女の弓を引く動きは滑らかで思わず見惚れてしまうほどだ。
誰かに訴えかけるような、儚さの中に確かな熱さを孕んだミリアムのソロパート。
バイオリンの演奏だけで、こんなにも感情を揺さぶられるのかと紡は驚いた。
そしてここで、ガウェインのコントラバスが入ってくる。
彼の奏でる音色は寂れたような印象を受けるが、そこには逞しさと強さを感じることができる。
儚くも熱いミリアムのバイオリン。寂しくも力強いガウェインのコントラバス。
違う楽器、違う音、違う身分、違う立場。そういった垣根を越えて、互いをリスペクトし合うかのように音色を響かせる二人。
まさしく、情熱の共鳴だ。
ふと、晴喜は、
「おいおい……マジかよ」
と、零していた。
パートナーの言わんとしていることを紡は理解した。
リハーサルで何度か聴いてはいたものの、ここまで感情に訴えかける演奏ができるなんて。
バイオリンとコントラバス。たった二つの楽器で、だ。
互いを認めた上で、競い高め合うかのように、音は重なり合っていく。
激しさを増していく演奏に、紡は思わず呟いた。
「俺たち、こんなすげぇパフォーマンスの後に出ていくのかよ……」
お膳立てはばっちりってわけだ。
そして、ミリアムとガウェインの演奏は終局を迎える。
ミリアムが最後の締めの一音を奏でると、会場が静まり返った。
直後。一斉に拍手の轟音が湧き起こった。
今、自分はとんでもないものを目の当たりにした。
そう思って紡はパートナーである晴喜と顔を見合わせる。
開始早々、こんな凄まじい演奏を見せられたのだ。
とてつもないプレッシャーを感じる。しかし、それは会場をさらに盛り上げるチャンスでもある。
晴喜も同じことを考えていたのか、紡を見て頷き、歯を剥き出しにして笑った。
「よっしゃあ! いっちょ、やりますか!」
パートナーの気合いを受けて、紡も思いっきり笑い返してやった。
「おう。派手にやらかそうぜ」
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