煌めく世界へ、かける虹

麻生 創太

文字の大きさ
上 下
22 / 39
第二章『ライブ行こうぜ!!』

ライブ行こうぜ!!②

しおりを挟む

上司から『アウェイクニングサンダーフェス』の警備を任命された崇嶺と寛助。フェスをメチャクチャにしてやるという声明文が匿名でネット上に投稿されたからだ。
そして、崇嶺はついにその投稿者を特定することができたのだった。
名は、大迫 賢太。彼はジャミングノイズというロックバンドのリーダーを務めているらしい。
崇嶺は大迫をマークし続けていたのだが、あれから現在に至るまで特に大きな動きは無かった。
彼が何の目的であの投稿をしたのかは分からない。だが、もしも、イタズラではなく本当にフェスをメチャクチャにしようとしているのなら……。
崇嶺は妹の言葉を思い出す。
花彩は友人たちとともにこのフェスに参加すると言っていた。
もしも妹や妹の友人たちに……多くの人々に被害が及ぶなら……一刻も早く大迫の真意を確かめなければならない。
崇嶺がそう考えていると、となりにいた部下が気怠げな調子で呟いた。

「今のところ変わった様子もないし……警備なんて必要なかったんじゃないすか」

愚痴を零した寛助を崇嶺が一喝する。

「奴らが何をしようとしているのか分からない以上、警戒を怠るな」

「あぁ……はいっ! すみませんっ!!」

部下は勢いよく謝罪した。
そんなときだった。彼らの目の前に現れたのは、

「お兄ちゃん!? それに、かんちゃんも!!」

「か、かかか、かんちゃん!?」

いきなり軽々しく呼ばれ、寛助は大いに動揺した。
崇嶺は少女に対して言う。

「花彩。会場では会えないだろうと思っていたが」

「すっごい偶然だけど、お兄ちゃんと会えて良かったぁ!」

ことはは崇嶺と寛助の前に歩み出て緊張気味に挨拶をする。

「は……はじめまして。三稜 ことはです。花彩……花彩さんとは、仲良くしてもらっていまして……」

表情が硬い彼女に対して、崇嶺は少しくだけた笑顔を見せる。

「そんなにかしこまらなくてもいいさ。いつも妹から話は聞いているよ。こちらこそ、妹と仲良くしてくれてありがとう」

崇嶺はふと、ことはのとなりにいる人物へ視線を向ける。
ことはは崇嶺の視線に気づいたのか、しなやかな佇まいの人物を紹介する。

「こちらは以前、実家の花屋に来てくださったユリアン・アールグレイさん。スタイリストをされてて、今日は出演者の方たちのスタイリングをしに来たそうなんです」

「はじめまして。今はちょうど休憩時間に入ったところなんですの」

柔和な笑みでそう言ったユリアンに、崇嶺は納得した。

「そうでしたか。申し遅れました、私は筧 崇嶺……花彩の兄です。そして彼は部下の佐伯 寛助」

紹介された瞬間、寛助はたどたどしい動きでお辞儀をしてみせた。
すると、花彩は付け加える。

「ホントはね、文哉くんたちもいたんだけど……先にステージの方へ向かっちゃって……」

「文哉くん……とは、中野 文哉くんのことか? まさか、渡橋 明慶くんも一緒か?」

そうよ、と短く花彩が答えると、崇嶺はさらに問いかけを作った。

「その二人の他に、白衣姿の男がいなかったか?」

「うん、いるよ。番場 均さんっていう白衣にサングラスかけた変なおじさん。なんか二人の知り合いなんだって」

やはりそうか、と、思い、崇嶺は言う。

「前に話しただろ、街中で二人のことを見かけたと。そのとき、その白衣の男も一緒にいたんだよ」

ようやく思い出したのか、花彩は明るい声色で言う。

「ああ! そっか、だから番場さんと初めて会ったとき、初めてなのに初めてじゃない気がしたのね!!」

「その番場という男もステージの方に向かったんだな!?」

あまりの気迫で問い詰められ、気圧されながらも花彩は頷いた。
大迫 賢太に番場 均……こうも怪しい人物が集まってくるとは、一体どうなっているんだ。
迷っている暇はない。
途端、ステージへ向かって崇嶺は走り出した。
後ろで部下の寛助が何事か叫んでいたようだったが、崇嶺には届かなかった。



ここは欲望が集まるステージ。
楽しみたい。目立ちたい。見つけたい。証明したい。叶えたい。
そんな多彩な欲望が渦巻くこの祭りで、《GROW》が発生しない方がおかしい。
明慶に選んでもらったクレープを頬張りながら番場はそんなことを考えていた。今、番場が食べているのは、オレンジとグレープフルーツの果肉とクリームが入ったシトラスクレープだ。
熱くなるフェス会場でも爽やかな気分になれるから、という理由で明慶が買ってくれたのだった。
さすが、彼が薦めるだけはある。甘さは控えめで後味もさっぱりしていて口に残らない。
もう一口、クレープを頬張った上で番場は思う。
感じた≪HEART≫の欠片の気配はフェス会場全体で合計九つ。そのうち二つは文哉とことはが所有するものからだ。
その他についてはどの色か、指輪なのか鍵なのかまで判別できないが……これは素晴らしいことだ。
喧騒で溢れ返る会場内でぽつりと、自分にしか聞こえないくらいの声で番場は呟いた。

「さて、と。一番、欲深いのは誰だろうねぇ?」

すると、ステージ上から開演のアナウンスが流れた。
瞬間、祝福するように会場中の皆が一斉に拍手と歓声を送る。
そんな中で最初にパフォーマンスを披露するのは──。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

👨一人用声劇台本「告白」

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
彼氏が3年付き合っている彼女を喫茶店へ呼び出す。 所要時間:5分以内 男一人 ◆こちらは声劇用台本になります。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

男性向け(女声)シチュエーションボイス台本

しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。 関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください ご自由にお使いください。 イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

処理中です...