20 / 40
第二章『ライブ行こうぜ!!』
渇望
しおりを挟む『アウェイクニングサンダーフェス』。その本番前リハーサルの中で、まっすぐな音を掻き鳴らす少女たちがいた。
現役女子高生四人によるロックバンド・ハイドランジアだ。
その中でドラムを担当している少女、 姫里 夢歌は言う。
「今の、ケッコー良いんじゃない!?」
「確かに。悪くないと思う」
ギターを担当する 日比野 星羅は自信ありげに頷いた。
すると今度は、キーボード担当の 棚本 未可子が溜め息を吐きながら呟いた。
「もうすぐ、本番始まる……緊張してきた……」
「未可子。何、弱音吐いてんのよ。ここまで来たら、いっそ思いっきり楽しむしかないでしょ!」
ローテンションな未可子に対して、星羅は歯を剥き出しにして笑顔を作った。
「えぇ……」と言いながら未可子は再び深く溜め息を吐いた。
メンバーが本番に向けて想いを募らせる中、バンドリーダーである黒髪ロングヘアーの少女・ 真木 詩織は静かに告げる。
「みんな、浮き足立つのは分かるけど──本番は確実にキメるよ」
「それがプレッシャーなんですよぉぉぉ……」と未可子が涙目になって呟いているが、リーダーが本気である以上、誰も反抗はしなかった。
そんな中で、詩織は足元に何か光る物体が落ちているのを見つけた。
彼女がそれを拾い上げると、他のメンバー三人は彼女の近くへと集まってくる。
星羅は首を傾げながら言う。
「何、ソレ……? 鍵?」
詩織が拾った物体──それは、頭部に緑色の宝石がついた鍵だった。
次に、夢歌が瞳を輝かせて言う。
「うっわぁ~! めっちゃくっちゃキラキラしてるね! これって本物の宝石かなぁ? エメラルド??」
「ペリドット、かも……」
はしゃぎまくる夢歌に対して、未可子は静かに呟いた。
「ここにあるってことは……もしかしたら、スタッフさんが落としたのかもね」
詩織が自らの考えを口にしたそのとき、背後から男の怒鳴り声が響いてきた。
「オイオイ、お前らいつまでやってんだ! 早くしろ! もう終わったんなら、俺らに場所譲れや!!」
彼女たちが振り返って声のした方を見ると、腕を組んで貧乏ゆすりをしている若い男がいた。
同じくこのフェスに出演するロックバンド──ジャミングノイズのボーカル・ 大迫 賢太だ。
激怒している賢太を宥めるように、星羅が丁寧な口調で応対する。
「すみません、確認に時間がかかってしまって……すぐ片付けます」
すると、賢太は少女たちへ向けて吐き捨てる。
「とっととしろ、ノロマ」
言って満足したのか、彼は踵を返して去って行った。
賢太が居なくなるのを見届けた上で夢歌がぼやく。
「厶・カ・つ・くぅ~~~!! アイツ、何様なの!?」
「俺様……?」
首を傾げつつ未可子が呟いたが、それ以上、誰も反応はしなかった。
詩織は言う。
「言わせとけば。本番で度肝抜いてやればいいだけなんだから」
「まあ、それもそっか」
リーダーの発言に、夢歌はあっさり納得したようだった。
そんなことはどうでもいい。それよりも、先程拾った鍵のことをスタッフに聞かなければ。もしかすれば、落とした人が困っているかもしれないのだ。
思い、詩織はメンバーとともにスタッフの元へ急ぐのだった。
自らが指揮するバンドのリハーサルを終え、大迫 賢太は思う。
最高に絶好調だぜぃ、俺。
先程のJKバンド、名前は何だったか……ハイ……? まあいい。スカした英語のバンド名なんて知らん。つーか、分からん。英語は苦手なんだ、うん。
ともかく、彼女たちなど大したことはない。
所詮は、か弱い少女たちのお遊びだ。
高揚と興奮のあまり、思わず賢太は漏らしてしまう。
「へへっ、ついに……ついに、来たんだ。俺たちの音で、この『アウェイクニングサンダーフェス』をメチャクチャにしてやるんだ。そして、俺たちの伝説を作る!!」
賢太は他のメンバーに向けて発破をかける。
「いくぞ、お前ら! 今日の主役は俺たちジャミングノイズだ!!」
「「うぉーーーっ!!」」
雄叫びとともに、バンドメンバー三人揃って天に拳を突き上げた。
賢太はしみじみと思う。
いよいよだ。どれほどこの時を待ち望んでいたか。
今、祭りの本番が始まろうとしているのだった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おっ☆パラ
うらたきよひこ
キャラ文芸
こんなハーレム展開あり? これがおっさんパラダイスか!?
新米サラリーマンの佐藤一真がなぜかおじさんたちにモテまくる。大学教授やガテン系現場監督、エリートコンサル、老舗料理長、はたまた流浪のバーテンダーまで、個性派ぞろい。どこがそんなに“おじさん心”をくすぐるのか? その天賦の“モテ力”をご覧あれ!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち
鳴澤うた
キャラ文芸
失恋にストーカー。
心身ともにボロボロになった姉崎菜緒は、とうとう道端で倒れるように寝てしまって……。
悪夢にうなされる菜緒を夢の中で救ってくれたのはなんとお隣のイクメン、藤村辰巳だった。
辰巳と辰巳が世話する子供たちとなんだかんだと交流を深めていくけれど、子供たちはどこか不可思議だ。
それもそのはず、人の姿をとっているけれど辰巳も子供たちも人じゃない。
社を持たない龍神様とこれから神使となるため勉強中の動物たちだったのだ!
食に対し、こだわりの強い辰巳に神使候補の子供たちや見守っている神様たちはご不満で、今の現状を打破しようと菜緒を仲間に入れようと画策していて……
神様と作る二十四節気ごはんを召し上がれ!
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる