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第二章『ライブ行こうぜ!!』
渇望
しおりを挟む『アウェイクニングサンダーフェス』。その本番前リハーサルの中で、まっすぐな音を掻き鳴らす少女たちがいた。
現役女子高生四人によるロックバンド・ハイドランジアだ。
その中でドラムを担当している少女、 姫里 夢歌は言う。
「今の、ケッコー良いんじゃない!?」
「確かに。悪くないと思う」
ギターを担当する 日比野 星羅は自信ありげに頷いた。
すると今度は、キーボード担当の 棚本 未可子が溜め息を吐きながら呟いた。
「もうすぐ、本番始まる……緊張してきた……」
「未可子。何、弱音吐いてんのよ。ここまで来たら、いっそ思いっきり楽しむしかないでしょ!」
ローテンションな未可子に対して、星羅は歯を剥き出しにして笑顔を作った。
「えぇ……」と言いながら未可子は再び深く溜め息を吐いた。
メンバーが本番に向けて想いを募らせる中、バンドリーダーである黒髪ロングヘアーの少女・ 真木 詩織は静かに告げる。
「みんな、浮き足立つのは分かるけど──本番は確実にキメるよ」
「それがプレッシャーなんですよぉぉぉ……」と未可子が涙目になって呟いているが、リーダーが本気である以上、誰も反抗はしなかった。
そんな中で、詩織は足元に何か光る物体が落ちているのを見つけた。
彼女がそれを拾い上げると、他のメンバー三人は彼女の近くへと集まってくる。
星羅は首を傾げながら言う。
「何、ソレ……? 鍵?」
詩織が拾った物体──それは、頭部に緑色の宝石がついた鍵だった。
次に、夢歌が瞳を輝かせて言う。
「うっわぁ~! めっちゃくっちゃキラキラしてるね! これって本物の宝石かなぁ? エメラルド??」
「ペリドット、かも……」
はしゃぎまくる夢歌に対して、未可子は静かに呟いた。
「ここにあるってことは……もしかしたら、スタッフさんが落としたのかもね」
詩織が自らの考えを口にしたそのとき、背後から男の怒鳴り声が響いてきた。
「オイオイ、お前らいつまでやってんだ! 早くしろ! もう終わったんなら、俺らに場所譲れや!!」
彼女たちが振り返って声のした方を見ると、腕を組んで貧乏ゆすりをしている若い男がいた。
同じくこのフェスに出演するロックバンド──ジャミングノイズのボーカル・ 大迫 賢太だ。
激怒している賢太を宥めるように、星羅が丁寧な口調で応対する。
「すみません、確認に時間がかかってしまって……すぐ片付けます」
すると、賢太は少女たちへ向けて吐き捨てる。
「とっととしろ、ノロマ」
言って満足したのか、彼は踵を返して去って行った。
賢太が居なくなるのを見届けた上で夢歌がぼやく。
「厶・カ・つ・くぅ~~~!! アイツ、何様なの!?」
「俺様……?」
首を傾げつつ未可子が呟いたが、それ以上、誰も反応はしなかった。
詩織は言う。
「言わせとけば。本番で度肝抜いてやればいいだけなんだから」
「まあ、それもそっか」
リーダーの発言に、夢歌はあっさり納得したようだった。
そんなことはどうでもいい。それよりも、先程拾った鍵のことをスタッフに聞かなければ。もしかすれば、落とした人が困っているかもしれないのだ。
思い、詩織はメンバーとともにスタッフの元へ急ぐのだった。
自らが指揮するバンドのリハーサルを終え、大迫 賢太は思う。
最高に絶好調だぜぃ、俺。
先程のJKバンド、名前は何だったか……ハイ……? まあいい。スカした英語のバンド名なんて知らん。つーか、分からん。英語は苦手なんだ、うん。
ともかく、彼女たちなど大したことはない。
所詮は、か弱い少女たちのお遊びだ。
高揚と興奮のあまり、思わず賢太は漏らしてしまう。
「へへっ、ついに……ついに、来たんだ。俺たちの音で、この『アウェイクニングサンダーフェス』をメチャクチャにしてやるんだ。そして、俺たちの伝説を作る!!」
賢太は他のメンバーに向けて発破をかける。
「いくぞ、お前ら! 今日の主役は俺たちジャミングノイズだ!!」
「「うぉーーーっ!!」」
雄叫びとともに、バンドメンバー三人揃って天に拳を突き上げた。
賢太はしみじみと思う。
いよいよだ。どれほどこの時を待ち望んでいたか。
今、祭りの本番が始まろうとしているのだった。
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