15 / 39
第一章『変身』
番場の観察レポート①
しおりを挟む「さて、二人の人間が《HEART》の欠片の力を覚醒させたわけだが……一旦、今までの状況を整理しておくとしようか」
「おや? 君は……。覗き見とは、随分と悪趣味だねぇ。まあ、いいさ。君もこれまでの出来事を振り返っておきたいんだろう? だったら、私も手を貸すよ」
「先に自己紹介をしておくとしよう。私の名は、リ……いや、違った。今のは忘れてくれたまえ。
では改めて。私の名は、番場 均。職業? そう訊かれると、返答に困るわけだが、そうだな……“マッドサイエンティスト”とでもしておくかな」
「名乗りも済ませたところで、さっそく始めていこうじゃないか」
番場による第一章ダイジェスト
「まずは、冒頭。物語における第一話だね。
とある強盗グループが、古代の杯を盗み出すところからこの事態は始まった。ここでいう杯とは、酒を呑む為の器のことではなく、トロフィーのことを指している。つまりは、古代人の権威の象徴だ。聖杯、とでも言えば、分かる人には分かるだろうか」
「深海の底に沈んでいた杯をとある海洋研究所が偶然発掘したらしく、いろいろ調査をした後、どうやら博物館で展示する予定だったそうだ。……見世物ではないんだけどねぇ。ともあれ、その杯を強盗グループが盗み出したという場面からこの物語は幕を開ける」
「強盗犯を追い詰める捜査官・筧 崇嶺であったが、強盗犯が杯を落としたことで破損。すると、粉々になった杯の欠片が突然、異なる物体へと変化したんだ。それが、指輪と鍵。《HEART》の欠片だ。……え? 《HEART》って何だって? まあ、それは気が向いたら解説してあげるよ。
指輪と鍵は七つずつ存在し、すべて合わせて十四ある。さらに、指輪と鍵には光輝く宝石が備わっているんだ。色はそれぞれ、青、緑、黄、紫、赤、白、黒だ」
「そんな指輪と鍵は各地へ飛び散っていった。……とはいえ、そのうちの一つ、黄色の宝石がついた鍵は筧捜査官の手元に残ったのだが。そして、私と“彼女”はそれぞれ指輪と鍵を回収する為に動き出したんだ。
私が最初に見つけ出したのが、青い宝石のついた指輪だった。その指輪を偶然拾ったのが、中野 文哉だったのさ。どうやら文哉は親友の渡橋 明慶とともに展望台からの景色をスケッチしに来ていたみたいだが……そこに異変が起こる」
「文哉と明慶の前に、ある生命体が出現したんだ。我々はこれを《GROW》と呼んでいる。
《GROW》は、人間の中に存在する想象力と創造力の素となるエネルギー・《GENESIS》が乱れることによって生まれるんだ。……分かりにくい? そうは言ってもねぇ……これ以上、簡潔な説明は困難だ。諦めてくれたまえ」
「そんな《GROW》に対し絶体絶命の文哉と明慶だったが、そのとき、文哉の拾った指輪が輝きを放ったんだ。光に包まれた文哉はなんと! 画家のような姿に変身を遂げたんだよ、いやぁ実に素晴らしいねぇ!!」
「変身した文哉は手に持った武器・七色の絵筆を用いて《GROW》を撃退する。そこへ現れるのがこの私、番場 均というわけさ。
さらに。現れたのは私だけではなかったんだ。“彼女”──加々見 成美が黒い指輪の所有者を連れてわざわざ挨拶しに来てくれたのさ。……相変わらず律儀だねぇ。
黒い指輪の所有者に関しては、顔立ちが中性的で、男なのか女なのか私にすら判別できなかったよ。人間であることは間違いなさそうなんだが……一体、何者なんだろうねぇ?」
「後日、文哉と明慶の疑問に答える為に私は再び展望台へとやって来た。質疑応答の末、もっと人間社会を知りたいと感じた私は、二人に街を案内してほしいと願い出たんだ。……え? あなたも人間じゃないのかって? それについては、そうだね……ノーコメント、としておこうかな。
文哉たちの住む街、昇陽町には実に多くの施設が建ち並んでいて、飽きなかったよ。文哉たちの通う石動高校、文房具屋に、花屋に、CDショップ。それから、玩具屋も。休憩で立ち寄った明慶おすすめの店の……どーなっつ? は絶品だったよ」
「ある日。三稜 ことははクラスメイトから華道部に入部してみないかと誘われる。花を綺麗に魅せる華道に、ことはは関心があった。しかし、部活を始めると実家の花屋を手伝えなくなってしまう。そんな迷いからクラスメイトへの返事ができず、ことはは悩んでしまったんだ。そんな彼女の前に、スタイリストを名乗るしなやかな人物が現れる。名は、ユリアン・アールグレイ。ところで、あーるぐれい? とは何だい? ……ほう、紅茶のことなのか。どーなっつにも合うのかな?
おっと……話が逸れてしまったね。ことははユリアンから助言を受けるんだ。「自分の気持ちに、わがままになってみたらどう?」とね。その言葉に背中を押されたことは。すると彼女は、花屋に置いてあったチューリップの中から、緑色の宝石のついた指輪を発見した。……そう、文哉が持つ指輪と同じ物だ」
「両親に華道部をやってみたいと打ち明けたことは。両親は当然のように快諾した。良い親だねぇ。そんなわけで、ことはは親友の筧 花彩と……なぜか文哉と明慶も一緒に華道部を体験することに。
活動の最中、華道部部長・道玄坂 小百合が語ったのは、“咲くことの厳しさ”についてだ。花が暑さや寒さ、雨風といった厳しい環境を耐え抜いて咲くように、人も厳しい境遇を乗り越えることで大成することができる。そういった内容だ。
ことはは瞬時に、部長の放った言葉の意味を理解し、自分に華道は向いていないかもしれないと考えてしまう。
そんな中、手を動かし続ける者がいたんだ。そう、文哉さ。彼は迷うことはに対して、ある言葉を告げる。「楽しんでやれば良いと思うよ。心の底から楽しまないと、綺麗なお花が台無しになっちゃうから」と。その言葉に影響されたことはは、自分だけの作品を完成させることができたんだ」
「しかし──楽しむ、という考えを認めない華道部部長から《GROW》が生み出される。文哉たちが最初に遭遇したのは蝙蝠の姿をした個体だったが、次は猫の姿をした《GROW》だ。ん? 猫にもいろいろ種類がある? アメリカンショートヘア? スコティッシュフォールド? マンチカン? 他にもたくさんある? この《GROW》はロシアンブルーという品種なのかい? 猫とはとても奥深いんだねぇ……。
おっと、また話が逸れてしまったな。突如出現した猫の《GROW》に文哉は苦戦を強いられる。《GROW》の攻撃を受ける寸前、ことはが持っていた指輪が輝きを放った。文哉のときと同じく、ことはも変身を果たしたんだ。彼女はアルプスの少女を思わせるような可愛らしい格好に姿を変えた。ブラボーだよ!
そして、彼女の助けを受けた文哉はついに猫の《GROW》を撃退することに成功したんだ」
「……えっ? その後、私が何をしたのかって? 仕方なかったとはいえ、校内で戦闘を行った為、多くの者に《GROW》の姿を目撃されてしまったからねぇ。だから、目撃者たちの記憶を抹消し、戦闘で荒れた土地を修復したんだ。要するに、証拠隠滅ということだよ。それは悪い人がすることだ? ──そもそも私は自分を善人だと思ったことはないんだけどねぇ」
番場によるファッションチェック
「さて、まあ、ノリノリでいくとしようか。私によるファッションチェックを始めよう。
ここでは、指輪及び鍵の力で変身した姿についての詳細を確認していくよ。
指輪と鍵は覚醒させることで、その者が強くイメージする格好へと姿を変えることができるんだ」
「まず最初は、中野 文哉。彼は青い宝石のついた指輪によって変身する。
変身後は、画家を思わせるような格好になる。青いベレー帽を被り、青のポンチョコートを身に纏う。ゆったりとした服装は、大らかな性格の文哉によく似合っているね。
彼の使用する武器は七色の絵筆だ。七色、とは言っても虹色とは少し違う。虹の配色は、基本的には赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の七つだが──文哉の持つ絵筆の配色は青、緑、黄、紫、赤、白、黒。つまり、指輪についた宝石と同じ配色になっているわけさ。彼はこの絵筆を用いてあらゆる物を創造することができる。一見、汎用性が高そうだが……何でもできるということは秀でた部分が無いということでもあるからねぇ。この辺りに関しては、文哉自身も悩むところだろうね」
「次は三稜 ことはだ。彼女は緑色の宝石のついた指輪によって変身する。
変身後は、アルプスの少女を思わせるような格好になる。チロリアン? この衣装はディアンドルというのか。……人間の民族についてはもっといろいろ研究した方が良さそうだな。
それはともかく……頭には花冠を被っているよ。リボンやフリルのついたドレスは何とも可愛らしく、健気なことはにはぴったりだね。
彼女の武器は、頑強な防盾。地面から作ることができる為、どんな局面でも素早い防御が可能だ。大きさも任意で変更できるので汎用性は高い一方、攻撃には向かない。
さらに、彼女には植物を操る能力も備わっているようだ。どうやらまだ他にも秘めた能力があるようだが……それはこれからのお楽しみとしておこう」
「私のファッション? 気になるかい? なら、特別大サービスで教えてあげよう。
この私、番場 均といえば、サングラスだね。レンズは半透明でうっすら瞳が見えるよ。フレーム? ティアドロップという形らしいが……私はサングラスに詳しくないものでね。光が苦手なのかって? いや、これは単なる私の趣味だよ。
次は私の服装についてだが……やはり最大の特徴はこの白衣だろうか。本当に悪い科学者みたいだ? それはどうも、お褒めに預かり光栄だよ。インナーはタンクトップなのか? よく見たら筋肉がついてていい身体をしてる? おやおや……そんなに褒めても何も出てこないよ?
足元は、サンダルを裸足で履いているよ。グラディエーターサンダルと呼ばれるみたいだねぇ。グラディエーター、とは大昔の剣闘士のことさ。
髪型はもっと整えた方がカッコよくなる? そう思うのかい? なら今度、セットの方法を教えてもらおうかな」
現時点で判明している指輪と鍵の所有者について
「では、最後に。現時点で判明している指輪と鍵の所有者の一覧を見ていこう」
☆指輪
青→中野 文哉
緑→三稜 ことは
黒→???(名前及び性別不明。加々見 成美の手下)
赤→???
黄→???
紫→???
白→???
☆鍵
黄→筧 崇嶺
赤→???
青→???
緑→???
紫→???
白→???
黒→???
「物語もまだまだ序盤。これから少しつづ所有者が増えていくことになるだろう。まあ……それが味方であるかどうかは分からないのだけどね」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
👨一人用声劇台本「告白」
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
彼氏が3年付き合っている彼女を喫茶店へ呼び出す。
所要時間:5分以内
男一人
◆こちらは声劇用台本になります。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/contemporary.png?id=0dd465581c48dda76bd4)
体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/entertainment.png?id=2f3902aa70cec36217dc)
男女比がおかしい世界に来たのでVtuberになろうかと思う
月乃糸
大衆娯楽
男女比が1:720という世界に転生主人公、都道幸一改め天野大知。 男に生まれたという事で悠々自適な生活を送ろうとしていたが、ふとVtuberを思い出しVtuberになろうと考えだす。 ブラコンの姉妹に囲まれながら楽しく活動!
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本
しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。
関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください
ご自由にお使いください。
イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる