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第二章『ライブ行こうぜ!!』
電撃のステージ
しおりを挟む「皆様お待たせしました。それでは登場していただきましょう! 現在赤丸急上昇中、現役男子高校生DJユニット・ライジングイカロスのお二人です!」
瞬間、拍手の嵐が巻き起こった。
ここは昇陽町のとあるCDショップ。今、店内の特設ステージは熱気に包まれている。
イベントの進行役を務める店員の呼びかけで、ステージ上に二人の男子高校生が姿を現した。
一人は、首にヘッドホンを掛けた少年。もう一人は、カラフルなビーニーを被り、黒縁の眼鏡を掛けている。
進行役の店員は言う。
「では、自己紹介からお願いします」
はい、と短く応じたのは、首にヘッドホンを掛けた少年だ。彼は告げる。
「ライジングイカロスの 雨宮 紡です。よろしくお願いします」
続いてカラフルなビーニーを被った眼鏡の少年も告げる。
「同じくライジングイカロスの 天道 晴喜です! よろしくお願いしまーす!!」
進行役の店員が笑顔で言う。
「お二人とも、よろしくお願いします! 今日は最新CDの発売記念イベントということで、さっそくなんですけど、この店内を最高に盛り上げていただけますか?」
答えるのは眼鏡の少年・晴喜だ。
「もっちろん! 今日も最高のライブを皆さんにお届けしますよっ!!」
「ここはライブハウスよりも小さくて狭い空間ですが……でも、だからこそ、俺たちの熱さをより強く感じられると思います。皆さん、今日は思う存分楽しんでいってください」
紡がそう言い終えると、首に掛けていたヘッドホンを耳に装着した。
流れるような動きで紙製のジャケットからレコード盤を取り出し、プレーヤーにセット。そして、セットしたレコード盤へと針を落とした。
すると、穏やかな曲調のメロディーが流れ始めた。非常にゆったりとした曲にも関わらず、すでに晴喜はノリノリでリズムに乗せて首を振っている。
イベントに参加している客たちも晴喜に導かれるようにして首を振ったり、肩を揺らしたりしている。
しばらくそのまま曲を流し続け、場が温まっていくのを確かめる紡と晴喜。
良い感じだ、と判断したのか、晴喜が紡の方へと振り向いて合図を出した。パートナーの合図に頷いた紡は、機材のスイッチを入れた。
刹那。店内に音の衝撃が炸裂した。
唐突に溢れ出した電子音の波に、客たちの歓声が上がる。
晴喜は曲のリズムに合わせて軽快なステップで踊り始めた。
時折、体をくねらせたり、飛び跳ねたりと、晴喜のダンスは実に自由で解放的なものだ。
かと思えば、突然ロボットのような機械的で硬い動きをし始める。そしてまた最初の軽快なステップへと回帰していく。
晴喜のパフォーマンスに、皆が釘づけだ。
そんな最中、晴喜はパートナーである紡の方へ歩み寄る。
二人は互いの手と手を打ち合い、ハイタッチを交わした。ステージ上に快音が鳴り響く。
すると同時に、紡が機材のスイッチを切り替える。瞬間、先程とは雰囲気の違う曲が爆発した。
そして今度は紡が前に出てきて踊り始め、晴喜が機材を操作する。
抜群のコンビネーションで役割を交代しながらパフォーマンスを行う。それが、彼らライジングイカロスのスタイルだ。
その後、二人は数曲をプレイし、観客たちを熱狂の渦へ巻き込んでいったのだった。
イベントが終わり、紡と晴喜は言葉を交わしながら機材を片づけていた。
晴喜は得意げに言う。
「へへっ、今日も大成功だったよなぁ! この調子なら、『アウェイクニングサンダーフェス』のステージも大盛り上がり間違いなし! だな!」
そんなパートナーの口振りに、紡は釘を刺す。
「あんま調子乗りすぎんなよ。フェスの会場は、今日とは比べ物になんねぇくらいのデカさなんだぞ。それに俺ら、野外ステージでやんのは始めてだろ。中と外じゃ音の響きだって変わってくるんだから、いつも以上に念入りに調整しねぇと恥かくだけだ。少しも油断は許されねぇ」
「紡は相変わらず真面目ちゃんですねぇ」
「うるせぇよ」
などと他愛もない会話を繰り広げていると、晴喜がある異変に気づいた。
機材のわずかな隙間に何かが挟まっているのを見つけたのだ。
「あっれ? なんか……光ってね?」
晴喜は機材を傷つけないようにゆっくりと挟まっていた物を取り出した。その中から出てきたのは、黄色い宝石のついた指輪だった。晴喜は驚きのあまり、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
「うぉっ!? すげぇ、すげぇよ! なんでこの中に指輪が入ってんの? 本物?」
「知るか」
「え、この宝石、何て言うんだっけ? 琥珀……だっけ? いや、アンバー?」
「どっちも同じだろうが」
パートナーの天然ぶりに呆れて溜め息を吐き出した紡は、ジト目で晴喜に問いかける。
「で? どうすんだ、それ」
「ほい」
と、晴喜は軽い調子で指輪をパートナーへ手渡した。
そんな彼の、あまりにもあっさりした素振りに、紡は思わず困惑してしまい、
「お、おい……俺に渡されても」
「まあ、試しに 嵌めてみたら?」
相変わらず軽い調子で晴喜が提案してきた。
悩みながらも、紡はしぶしぶ指輪を着けてみることにした。
さっそく右手の薬指に指輪を嵌める。
晴喜の感想はといえば、
「おー、サイズぴったしじゃん!」
心底嬉しそうな声色でそう言った。紡は言う。
「……ってか、俺が着けていいのかよ。だいたい誰の物かも分かんねぇし」
すると不意に、晴喜がまっすぐな眼差しを紡へ向けた。そして先程までとは違う、真剣な口調で告げる。
「それ、俺からの婚約指輪だから。紡に着けててほしいんだ」
パートナーの唐突な発言に対して、紡は動揺してしまう。
「こん……っ!? はぁ!? 何言ってんだ、お前は?」
戸惑いを隠せない様子の紡をからかうように晴喜は笑いながら言う。
「冗談に決まってんだろ~? お、赤くなっとる」
「なってねぇし」
「んだよ、拗ねんなよぉ」
「黙れ」
だんだん身体中が熱を帯びてくるのを感じつつ紡は思う。
……ったく、コイツと話してるといつも調子を乱されるな。
それからもう一つ、紡には思うことがあった。
にしても……この指輪は一体、何なんだ?
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