煌めく世界へ、かける虹

麻生 創太

文字の大きさ
上 下
4 / 39
第一章『変身』

変身

しおりを挟む

いきなり現れた怪物に、動揺する文哉と明慶。
二人には今、何が起こっているのか全く見当もつかなかった。
蝙蝠の姿をした巨大な怪物がその大きな口を開くと、耳をつんざくような高周波の音が発生した。
文哉は言う。

「何なの、これ……!!?」

あまりにも不快な音の嵐に、二人とも耳を塞いだ。
すると、甲高い音を発し続ける蝙蝠の怪物は、大きな翼を広げた。
何かまずい気がする。文哉がそう思ったときには、遅かった。
蝙蝠は広げた翼を羽撃かせ、突風を発生させたのだ。
途端、ベンチに置いていたドーナッツの箱は吹き飛ばされ、ぐちゃぐちゃに潰れてしまった。

「あぁ……!! 僕たちのドーナッツがぁ……!!」

目の前で起こった惨劇にショックを受ける明慶。
そんな彼のことを蝙蝠は逃さない。
大きな口を開け、鋭い牙を剥き出しにした蝙蝠は、明慶に向かって突進した。
文哉は叫びを上げる。

「あっくん、危ない……!!」

親友が怪物に喰われそうになったその時。文哉の見つけた指輪の宝石部分が光を放った。
それは、とても青く、眩い光だった。あまりの眩しさに、怪物は動きを止め、目を背けた。
光はやがて、文哉の全身を包み込んだ。明慶は呆然とその様子をただ見ていることしかできない。
そして、光は徐々に消えていき、文哉の姿が現れた。
先程まで制服姿だった文哉の服装は、画家のような格好に変化していた。頭には青いベレー帽を乗せている。そして、スケッチに使用していた鉛筆は、七色に輝く絵筆に変わっていたのだった。

「え……? えっ、えっ、え……?」

訳が分からず、混乱して上手く言葉が出ない文哉。
光が収まったことにより、蝙蝠は再び襲いかかる。戸惑う少年のことなどお構いなしに、高速で突っ込んできたのだ。
どうしたらいいのかも分からない文哉は、反射的に絵筆を横に振り払った。すると、七色の軌跡が空中を走り、蝙蝠を勢いよく殴り飛ばした。

「す、すごい……」

目の前で起こった現象に、自身でさえも驚きを隠せず、文哉は思わず声を漏らしてしまった。
打撃を受けた怪物は少しふらついたものの、すぐさま復帰する。
なんとかして怪物の動きを止めなければ、また襲ってきてしまう。
思い、今度は絵筆を真下に思い切り振り下ろす文哉。
結果、先程と同様に七色の軌跡が発生し、怪物は地面に叩きつけられた。
それでも蝙蝠の怪物は起き上がり、空中に浮遊する。しかし、ダメージの蓄積により、怪物はふらふらとよろめいていた。
生まれた隙。その瞬間、あることを閃いた文哉は思うままに実行する。
蝙蝠の怪物を中心として、その周囲に何本もの直線を虚空に描いたのだ。漫画において、読者に注目してほしい箇所へ視線を誘導する為に用いる、集中線のような感覚だ。
そして、文哉が絵筆を横に思いっ切り振り払う。
すると、ただの直線だったものが青い矢となって高速で放たれた。
全方位に囲まれた怪物は当然、逃げ場を失い、矢のすべてが命中。串刺しになった。
蝙蝠の怪物は断末魔を上げながら消滅していった。
文哉は呆然としてしまい、思わず、

「やった……の……?」

と、疑問符を漏らしてしまった。
しかし、親友の歓喜の叫びを聞いてやっと実感を持てたのだった。

「やったよ! やったんだよ! 文哉くんはやっぱりすごいや!!」

親友の喜ぶ姿を見ているうちに、いつしか文哉は元の制服姿に戻っていった。
蝙蝠の怪物が消滅した地点には、文哉たちに歩み寄ってきたスケッチブックを持った男性が倒れていた。
男性の安否を確認しようとしたその時、遠くの方から拍手の音が聞こえてきたのだった。
文哉たちが音のする方へ振り向くと、そこには一人の男が立っていた。
男はボサボサで整えられていない髪型に、大きめのサングラスをかけていた。服装はというと、黒のタンクトップの上に白衣を羽織っており、足元は裸足にサンダルという出で立ち。いかにも怪しげな科学者というイメージを与える人物だ。
男は心底嬉しそうな声色で叫ぶ。

「ブラボー! いやぁ、実に素晴らしいよ!! まさかいきなり指輪を扱える者と出会えるとは思わなかったよ」

そのままブツブツと独り言を呟く謎の男。

「なるほど、青の指輪の能力は“変化”といったところかな……。なかなか興味深い力だねぇ……」

明慶が呆然とした様子で男に問いかけた。

「あなたは、誰……?」

すると、即座に表情を消し去り真顔になった男は明慶へ告げる。

「君に興味はない。私が興味を持つのはその指輪をつけた君の方だ」

そう言った男の視線は文哉に向いていた。
文哉は自分を指さして、戸惑いの声を上げる。

「オレ……?」

怪しげな男は頷いた上で、言う。

「そうだ。なぜなら、君はその指輪を通じて≪HEART≫に選ばれた特別な存在だからさ」

「オレが、特別……? おじさんはこの指輪のこと、知ってるの?」

と、文哉が尋ねたその瞬間だった。
突如、彼らの目の前に眩い光が発生したのだ。
明慶は不安そうな表情になって叫ぶ。

「今度は何……!?」

目が眩むほどの強烈な光。その中から現れたもの──それは、とても大きな鏡だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

👨一人用声劇台本「告白」

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
彼氏が3年付き合っている彼女を喫茶店へ呼び出す。 所要時間:5分以内 男一人 ◆こちらは声劇用台本になります。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

男性向け(女声)シチュエーションボイス台本

しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。 関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください ご自由にお使いください。 イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...