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第一章『変身』
教えて、怪しいおじさん
しおりを挟む昨日起こった出来事の詳細を聞く為に、再び展望台へと向かう文哉と明慶。
目的地へ辿り着いた二人の目の前には、昨日見た景色と同じ、茜色の夕焼けが広がっていた。
だが、肝心の番場の姿が見当たらない。二人が周囲を見回してもどこにもいない。
「あれ? 番場さん、いないねぇ?」
そう文哉が呟いた瞬間、どこからともなく声が発生した。
「やあ、君たち」
相変わらず怪しげな科学者風の格好をしている、番場 均だった。
いきなりの登場に、明慶は驚き、文哉はなんだか楽しそうな調子で言う。
「番場さん!? どこから来たんですか?」
「わあ、すごい! まるで瞬間移動だね! どーやったの?」
「まあ、それはともかく……まずは何から説明したものかな。質問に答えようとは言ったが、禁則事項もいくつかあるから答えられる範囲で答えるよ」
話をはぐらかしながらも、番場は告げた。
すると、文哉は右手の中指に嵌めた青い宝石のついた指輪を見る。サファイアのような煌めきを放つ不思議な石を眺めつつ、番場へ最初の質問を投げかけた。
「この指輪は何なの?」
そう来たか、と言わんばかりに、得意気な顔でニヤリと笑う番場は答える。
「簡潔に言うと、その指輪は≪HEART≫の欠片さ」
「ハート?」
「そう。≪HEART≫はある理由から杯の形に姿を変えて眠りに就いていたんだが……先日、何らかの事故でその杯が砕けてしまったようでね。その影響により、≪HEART≫の欠片が各所に飛び散っていったんだ。欠片は指輪と鍵の形をしていて、その中の一つを君が拾ったというわけさ」
文哉は、番場の説明で気になった箇所をさらに質問する。
「杯って、お酒を呑む器のこと?」
うーん、と唸りを上げると、首を傾げながら番場は言う。
「君たちがよく知る物でいえば、トロフィーの方が近いだろうか」
すると、明慶が今度は静かに手を挙げた。
「その≪HEART≫っていうのは結局、何ですか? さっきは、杯に姿を変えて、って言ってましたけど……」
「≪HEART≫というのは、いわば≪GENESIS≫の源泉さ」
「えーっと、あの、その……また何か聞いたことない用語が出てきたんですけど…… 」
「≪GENESIS≫のことだね。これはそうだな……想像力と創造力の素となるもの、といえば分かりやすいかな」
すかさず文哉が突っ込みを入れる。
「今、“そうぞうりょく”って二回言わなかった?」
「おっと、すまない。言葉だけでは分かりにくかったね。君たちの使う英語という言語で言い換えれば、ImaginationとCreationがあるからさ。その両方の源になっている、という意味だよ。君たち人間は≪GENESIS≫を基にあらゆる物を生み出してきたわけなんだ」
番場の発言の最後の部分が気になって、文哉は言う。
「番場さんも人間でしょ?」
番場は不敵な笑みを浮かべるだけで、文哉の問いには答えない。
そのまま表情は崩さずに、番場はさらりと話題を切り替える。
「他に質問はあるかな?」
そうだなぁ、と呟きながらしばらく考えを巡らせた文哉は、何か思いついたように手を挙げる。
「そういえばさっき、指輪と鍵って言ってたけど……指輪以外に鍵もあるんだね?」
「ああ。指輪と鍵はそれぞれ七つずつ存在している。それぞれに宝石がついていて、色は青、赤、黄、緑、紫、白、黒とある」
「へーそうなんだ。鍵っていうことは、何か開けれるの?」
「宝箱、とか?」
明慶は自らの予想を口にしたが、番場は両手を広げてやや大袈裟なポーズで答える。
「さあ? 私にもそこまでは……。指輪と鍵という形状や宝石の配色は≪HEART≫自ら設計したものだから、何かしら意図はあると思うがね」
「番場さんでも分からないことがあるんだね」
文哉の言葉に、番場は情けなさそうな表情になって応じる。
「私は神ではないからねぇ。全知全能とまではいかないのさ。それより、君たちにお願いがあるんだが……」
「何ですか?」
明慶の促しに番場は頷き、一つの願いを言った。
「恥ずかしながら、私はこの展望台から降りたことがなくてね。良ければ、街を案内してくれないだろうか」
怪しげな科学者風の男の懇願に対する文哉の返事はといえば、
「いいよー」
という、かなり軽いものだった。文哉の親友である明慶も拒絶する様子はなく、むしろ歓迎しているようだ。
そんな二人の寛容さに、番場は笑みを浮かべ、感謝を述べる。
「ありがとう。よろしく頼むよ」
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