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第7話
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「夕理、おはようございます」
「は…?」
朝ひとりで登校することにも、やや慣れてきた今日この頃。あまり理由を考えたくないけれど、節々が痛む体を動かして玄関を出ると、そこには超笑顔の真犯人が立っていた。
「まだ眠そうですね」
今日はギリギリまで寝てしまったし、そんな寝起きの脳みそにその笑顔は刺激が強すぎて毒だ。いや、そもそもあの人はうちの高校の生徒会長なわけで、今頃全校生徒への挨拶をしているはずだし、うちの玄関の前に不審者のように張っている訳がない。もしかしたら寝ぼけている脳みそが作り出した幻影なのかもしれない。
それにしてはやけに精巧だけど。それにしてはやけにお肌のきめが細かいし、なんだか近づいてくるんだけど。体を抱きしめられた瞬間に、反射的に目をつぶると、額に柔らかさが触れた。
「おはようのキスです」
「な、な…」
「目は覚めましたか?」
目を開けば真近に生徒会長の顔があり、反射的に腕を突っ張って距離を取ろうとしても、やっぱりこの人はびくともしない。着痩せするだけで、やっぱり筋肉は結構しっかりついてるんだなあ、などとぼんやり思っていたら、昨日のあれやこれや、朝に不適切な映像が脳内で再生され始め、慌てて頭をブンブンと振った。
「今日はおとなしいですね、借りてきた猫のようです」
そう言って、また顔を近づけてくるんだ、この人は。そして、その先をほんのちょっとだけ期待するようになってしまった自分にも腹が立つ。
「おかしいですね、夕理は私のネコなのに」
耳元でふふっと満足げに笑う生徒会長。面白がっているのは彼だけだ。
「…そういうの、寒いですよ」
「え」
なんであの人のことを好きになっちゃったんだろう。あの人も相当バカだけど、自分も人のことが言えないくらいバカだ。
「はあ、なんか朝から疲れた…」
結局あの後、会長を置き去りにしてひとりで学校へと向かったのだが、朝から感情のジェットコースターに乗ってしまったせいで気疲れした気がする。
机に突っ伏しながら、まだ空の隣の席を見つめる。なんだか話しかけにくくなってしまってから、隣の席の悪友とはしばらく言葉を交わしていない。少し前までは、あれだけ毎日会話していたというのに、少し話していないだけで、なんだか会話をすることが気まずくなるものなのだな、と少しだけ寂しく感じなくもない。
そんなことを考えながらぼんやりとそのままいたら、ガタンと椅子を引く音がして、悪友とバッチリと目が合った。そう、それはもう、バッチリと。
「…お、はよう、ございます…」
「…おまえ…」
数秒の痛い沈黙が続いた後、残っている気力と勇気を絞り出して挨拶してみたら、悪友は眉の間のシワを深くした。
「え?」
「…なんでもない」
戸惑っている自分をよそに、ふいっと顔をそらせた悪友は、そのまま乱暴に席へと座る。
話しかけようにも話しかけるなオーラがぴりぴりと出ているし、最悪のタイミングで先生が教室へと入ってくるし、はてなマークが大量に頭の中でサンバしている自分が世界でたった一人取り残されてしまったみたいだ。
悪友くん、見ない間にどうしてそんな悪い子になっちゃったの? そんな風に育てた覚えないんだけど
「は…?」
朝ひとりで登校することにも、やや慣れてきた今日この頃。あまり理由を考えたくないけれど、節々が痛む体を動かして玄関を出ると、そこには超笑顔の真犯人が立っていた。
「まだ眠そうですね」
今日はギリギリまで寝てしまったし、そんな寝起きの脳みそにその笑顔は刺激が強すぎて毒だ。いや、そもそもあの人はうちの高校の生徒会長なわけで、今頃全校生徒への挨拶をしているはずだし、うちの玄関の前に不審者のように張っている訳がない。もしかしたら寝ぼけている脳みそが作り出した幻影なのかもしれない。
それにしてはやけに精巧だけど。それにしてはやけにお肌のきめが細かいし、なんだか近づいてくるんだけど。体を抱きしめられた瞬間に、反射的に目をつぶると、額に柔らかさが触れた。
「おはようのキスです」
「な、な…」
「目は覚めましたか?」
目を開けば真近に生徒会長の顔があり、反射的に腕を突っ張って距離を取ろうとしても、やっぱりこの人はびくともしない。着痩せするだけで、やっぱり筋肉は結構しっかりついてるんだなあ、などとぼんやり思っていたら、昨日のあれやこれや、朝に不適切な映像が脳内で再生され始め、慌てて頭をブンブンと振った。
「今日はおとなしいですね、借りてきた猫のようです」
そう言って、また顔を近づけてくるんだ、この人は。そして、その先をほんのちょっとだけ期待するようになってしまった自分にも腹が立つ。
「おかしいですね、夕理は私のネコなのに」
耳元でふふっと満足げに笑う生徒会長。面白がっているのは彼だけだ。
「…そういうの、寒いですよ」
「え」
なんであの人のことを好きになっちゃったんだろう。あの人も相当バカだけど、自分も人のことが言えないくらいバカだ。
「はあ、なんか朝から疲れた…」
結局あの後、会長を置き去りにしてひとりで学校へと向かったのだが、朝から感情のジェットコースターに乗ってしまったせいで気疲れした気がする。
机に突っ伏しながら、まだ空の隣の席を見つめる。なんだか話しかけにくくなってしまってから、隣の席の悪友とはしばらく言葉を交わしていない。少し前までは、あれだけ毎日会話していたというのに、少し話していないだけで、なんだか会話をすることが気まずくなるものなのだな、と少しだけ寂しく感じなくもない。
そんなことを考えながらぼんやりとそのままいたら、ガタンと椅子を引く音がして、悪友とバッチリと目が合った。そう、それはもう、バッチリと。
「…お、はよう、ございます…」
「…おまえ…」
数秒の痛い沈黙が続いた後、残っている気力と勇気を絞り出して挨拶してみたら、悪友は眉の間のシワを深くした。
「え?」
「…なんでもない」
戸惑っている自分をよそに、ふいっと顔をそらせた悪友は、そのまま乱暴に席へと座る。
話しかけようにも話しかけるなオーラがぴりぴりと出ているし、最悪のタイミングで先生が教室へと入ってくるし、はてなマークが大量に頭の中でサンバしている自分が世界でたった一人取り残されてしまったみたいだ。
悪友くん、見ない間にどうしてそんな悪い子になっちゃったの? そんな風に育てた覚えないんだけど
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