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第1話 久しぶり

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  夕飯の支度をしていると、玄関の鍵を開ける音が聞こえた。鍋の火を止めて、エプロンで手を拭きながら玄関へと向かう。そこには期待していた通りの人物の姿があった。

「おかえり、咲」

そう声をかけると、靴を脱ぐために下を向いていた顔がパッとあげられた。元々茶色の髪の毛が、勢いよく揺れ動く。

「凛! ただいま!!」

その声が聞こえると同時に、体がすっぽりと包み込まれた。つむじのあたりに頬が擦り付けられて、少しだけくすぐったい。

「咲は外の匂いがするな」
「ごめんっ、すぐ着替えてくる!」

急ぎ足で部屋へと去っていく後ろ姿を見送りつつキッチンに戻り、ガスを付け直す。夕飯の支度ができた頃に咲がリビングへと戻ってきた。食卓に並ぶカレーに、咲が目を輝かせる。最近仕事で忙しそうにしていた咲に、大好物を作っておいてよかったと、知らずに頬が緩む。

「今日の夕飯当番ありがとう、明日は俺やるから」
「忙しくなければ、ね」
「大丈夫、とりあえずピークは過ぎ去ったから。有給をもぎ取ってきた」
「最近ずっと忙しそうにしてたもんな。有給取れてよかった」
「だって、連日夜遅くまで残らないといけなかったせいで、全然凛と過ごせなかったし。明日有給が取れなかったら、暴れてたかも」
「咲は体が大きいから、暴れたら誰も抑えられなくて大変になっちゃうだろ」
「だって…どうしても休み取りたかったんだもん。凛は寂しくなかったの?」
「それは、お前と過ごせるなら何よりだけど…でも、俺の都合で、仕事頑張ってくれてる咲を振り回しちゃうと、だめ、だよなあって」

言いながら、目線はテーブルの上を彷徨ってしまう。咲がやりたがっていた仕事に邁進できているのなら、喜ぶべきだ。寂しくないかといえば嘘になるけれど、自分勝手な理由で咲を縛り付けることは、したくない。

「そりゃあ、凛が休んでっていうときにすぐに休めるとは限らないけど、でもさ、寂しいと思ったら俺に教えて? 俺はいつも凛のことを見てるし、いつも凛のことを考えてるけど、でも、全部わかるわけじゃないから。だからさ、約束」

咲がテーブル越しに差し出してきた右手の小指に左手の小指を絡めると、ぎゅっと握られた後、するりと小指が抜かれ、4本の指が手のひらを滑っていく。可愛らしい約束の印が、夜を予感させる恋人つなぎに変わってしまった。はっとして咲の方を見ると、上目遣いでこちらを見てくる目線と交わる。

「ねえ、凛、今日してもいい?」




体を重ねる前には、いつもぐずぐずになるまで溶かされてしまう。今夜もそうで、お腹の中が熱くなって、どうしようもできなくて、朦朧とした意識の中で、咲に向かって手を伸ばした。

咲が上半身を倒して、俺の顔の横に両肘を付き、顔を寄せてくる。咲の柔らかい茶色の髪を両手ですきながら、唇を重ねる。優しくはむようなキスなのに、体に燻る熱は暴力的なほど、高められていく。ふっと唇を離した咲が、耳元に顔を寄せてきた。

「ねえ、今日は、後ろからしてみてもいい?」
「なんでも…いいからっ、早く…っ」
「ああ、瞳がきらきらしてて宝石みたいだ。ちゃんと気持ちいいって顔してるね、凛」

咲の温かい親指が目の下の縁をなぞり、手のひらが頬を包む。自分を何度も助けてくれた、咲の手の温もりが心地良い。

「凛、ねえ、後ろからでいいでしょ?」
「…」
「凛? うんって言ってごらん?」
「…う…ん…?」
「ふふっ、さっきまで完全に発情しきった顔してたのに、今はこんな安心した顔しててさ。ほんとに飽きないね」

咲が何かを言いながら、頬に当てていた手を外して、背中の下に入れてきた。咲の手の温もりがなくなった部分の熱が急速に失われていく。

そのまま背中に回っていた咲の右手が、俺の右肩までたどり着き、手を添えられて、うつ伏せになる。お腹の下に腕が入れられて、下半身だけが持ち上げられた。

「凛、いれるね」

咲の優しい声が聞こえる。耳にすぐに馴染む、大好きな声。夢うつつにその声に浸っていると、体内に熱いものが入ってきて、途端に意識が現実に引き戻される。

「あぅ…っ」
「凛? 痛くない?」

そう言いながら、咲は、俺の背中に覆い被さるようにして、顔の横に片手をついてきた。咲の厚い胸板が背中に当たり、その逞しさにどきりとする。

「うんっ…痛くっ、ぁっ、ない…あっ、なかっ…あつい」
「凛の中も火傷しそうなくらい熱いね…気持ちっ、いいよ」

そう言いながら、耳にキスが落とされる。

「んっ、みみっ、だめ…あんっ、ほんとにっ、さくっ」
「本当かなあ、耳にキスすると中きゅってなるよ? …ほら、なった」
「んっ、はやくっ、さくっあつい、おくっかいてぇ、はやっく、んっ…」
「…かわいいなっ、ほんとにっ…じゃあっ、お願い、叶えようかな」

今までベッドに溶けていた俺の上半身が、咲によって持ち上げられる。されるがままになっていると、自分の重みでさらに深く貫かれ、その瞬間、視界が真っ白に弾けた。

「あんっ」
「あ、凛、いった?ちょっと待とうか?」
「はあ…んっ、はあ…ああんっ…はあ、はあ…」
「りーん? 腰動いてるよ、いったあとに動いたら辛いでしょ」
「んっ…だって、ぅんっ…こしっ、とまんないっ…んあっおく…んっあつい、おさまんっない、たすけてっ…あぅっ、んっ」
「…はあ、はっ…あぶな、いき…そうだった…じゃあっ、本気っ、出すよ?」

言うがはやいか、背後からへその前に回る手に、ぎゅっと力が込められる。鳩尾の前で組まれた咲の両手に力がこもり、激しい突き上げが始まった。

突き上げるたびに、咲が無意識に自分の体の方へと、握った両手を引き寄せているのだろうか。突き上げられるたびに鳩尾がななめ上に押される形になる。思わず咲の両手を下へと下ろそうと、前屈みになると、さらに咲の拳が食い込んだ。

「まってっ、あんっ、さくっ、なんかっ、きちゃうっ」
「いいよっ、俺もっ出そうっ」

まずい、と思ったときには間に合わず、胃の内容物が、喉を通ってくる感覚がして、気がつけば戻してしまっていた。

「はあっ…凛、いけた…? って、あれ? 体調悪い?」

戻したものに気がついたのか、咲が後ろから顔を覗き込んでくる。

「気持ち悪いよね、洗面所で口すすいでこようね」

咲のものが抜かれると、咲の形に合わせて開いた後孔から、どろりと何かが伝う感触がした。それさえも快感に変わり、思わず太ももをすり合わせてしまう。お姫様抱っこでかかえられ、あっという間に洗面所へと運ばれる。

「凛? 水、口に入れてぐちゅぐちゅぺーしようね? できる?」

水をたたえたコップの縁を口に当てられる。水を口に含んで吐き出すと、口の中がすっきりとした。

「よしよし、ほら、もう一回ね」

再びコップから口の中へと水が注がれ、もう一度水を吐き出す。

「凛、口開けてごらん? 俺に見せて」

口のチェックが終わると、咲の手によってタオルで包まれ、リビングのソファへと横たえられる。

「ちょっとベッド片付けてくるから、いい子で待ってて」

おでこにキスを落とされた後、一人残されたまま呆然とバスタオルにくるまっていると、ものの数分で咲がリビングへと戻ってきた。濡れタオルで拭かれる感覚が気持ちよくて、咲がそばにいることに安心して、思わずうとうとしてしまう。

「凛ー? あともうちょっとだけ頑張ろうね、服着て、お水飲んだらベッド行こうね」
「…うん」
「ほら、ばんざーい」

ようやく服を着て、ひと心地ついたところで、ペットボトルの水を口に当てられた。

「脱水になると怖いから、ちょっとだけでも頑張って飲んで」

ペットボトルを傾けられると、口の端から溢れた水が首を伝って落ちてゆく感覚に、少しだけ体が震える。そのまま、ベッドに連れて行かれる時も、指一本動かさないままだった。

「凛、おやすみ」

咲の優しい声に、すとんと眠りに落ちたのだった。
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