上 下
23 / 26

あなたにも幸せになってほしい

しおりを挟む
酷く体が重いし喉も痛い。

どうやらここは、病院のようだ。
「メグ!意識が戻ったんだね!本当によかった!」

「ルーナさん、ケホッ…あの後、テオとブラッドは…家はどうなったんでしょうかっ」

「ああ、テオは大丈夫さ。医者が言うには幸いかすり傷程度で、煙を吸ってしまったみたいだが命に別状はないとのことさ。今は、サムがちゃんとついてるからね。」
「そうですかっ。良かったっ。本当にっ…ううっ…」

「怖かったねえ。よくテオを守ったね。さすがはテオの母親だ。あとは、私たちに任せて、ゆっくり休まないとね。あとでテオに会えるか医者に聞いてみるから。」
「ありがとうございます、ルーナさん。あの、ブラッドは大丈夫だったんでしょうか…?」

「ああ、ブラッドねえ。まあ、そうさね。心配しなくて大丈夫さ。奴も騎士なんかして鍛えてきたようだし。大丈夫さ。また、元気になってからでも、気が向いたら会ってやったらいいさ。」

「そうですか。良かった。無事だったんですね…。」

それから、しばらくしてやっと、テオと二人で退院の許可が下りた。
焼けてしまった離れにはもうすめないので、ルーナさんたちのお宅の空いている部屋にテオと二人で住まわせてもらうことになった。

ルーナさんもサムさんも、これでいつでもテオの世話が焼けて嬉しいと歓迎してくれた。

でも、このままというわけにもいかないので、しばらくして落ち着いたら、どこか近くに空き家がないか探してみようと思う。

入院中に、何度かブラッドに面会に行ったが、毎回もすれ違って結局会えずじまいだった。
そして、退院して戻ってきた今もまだ一度もその姿を確認していない。

いつもなら、毎日のように顔を出してくれるのに。
散歩に出るには体がまだつらいので、電話をして病院にブラッドがまだいるのか確認することにした。
すると電話に応対してくれた受付は、ブラッドがまだそこにいることを教えてくれた。

家屋に押しつぶされそうな姿を思い出す。いやな予感がする。
そう思った私は、テオを乳母車に乗せ、重たい体を何とか動かして、病院へ向かった。

私達がくると思ってなかったのだろう。
リハビリをしているらしいブラッドの姿が目に入った。
その表情から、そのリハビリがどれだけつらいのかが伝わってくる。

気がついたら、ブラッドの手を握っていた。

「おっと!…なんだ、みつかったのか。ちゃんと歩けるようになってから会いに行こうと思ってたのになあ。」
なんて言って、いたずらがばれてしまったこどものような笑い方をしたブラッドが私の頭をなでている。

涙がとめどなく私の頬を伝う。

「メグ、テオも。二人とも無事でよかった。」

そういってブラッドの大きくて逞しい腕が私を優しく包む。

大粒の涙をこぼしながら、助けてくれてありがとうと伝えた。

それから炎の中でブラッドに伝えたかったことを伝えた。

少し落ち着いてから、今回の件のことをブラッドが謝罪した。
なんで、ブラッドが謝ることがあるのかと問うと、あの女性の一方的な行動とはいえ、私たちを巻き込んでしまって後悔しているらしい。

目の前で二度も彼女を追い返したのを目の当たりにしているが、なぜかそういわれると癪にさわった。
気が付いた時には、もう言葉が堰を切ったように溢れてきていた。

「あのケーキ屋には、もう二度と行けない。あの特別なケーキ屋に私以外の女の人を連れて行ったなんて本当に最低。」
「ごめん…。」

「そもそも、ブラッドとケーキ屋にもう二度と行けないかも。」
「…。ごめん。俺がこれからは腕を振るって手作りする。」

「仕事で泊りがけって、なんなのそれ。浮気の常套句?本当に最低。本当に気持ち悪い。」
「ごめん…。」

「あの小さい子を抱いて、女の人を連れてるブラッド本当に楽しそうだった。そんなに幸せだったのなら、私なんかさっさと捨てとけばよかったんじゃない?」
「っ!それは絶対にない!…本当にごめん。」

「ばれなきゃ、今頃もずっとあの女の人と浮気してたんだろうね。本当に気持ち悪いし、最低だね。」
「…それは…ごめん…」

「そこは、絶対にそれはないっていうところだよね。言い切れないってことは、まだ未練があるんでしょ?早く向こうに戻ったらどう?」
「未練は全くない!絶対に。関係が終わるきっかけがなかっただけで…。いや、俺がそれをしなかったから悪かったんだな。ごめん。」

「結局、私じゃなくてもいいんだよね。本当にショックだった。」
「そんなことはない。メグじゃないとだめだ。でも、やってしまったことは言い訳出来ない。本当にごめん。」

「ごめんごめんって。謝るくらいならなんで浮気したの?本当に最低!」
「ごめん……」

「ほかの女の人に触れたブラッドとは無理だと思うの。ブラッドが反省してるのも分かったし、今回も私とテオを体をはって助けてくれて嬉しかった。だから、私の幸せを祈るだけじゃなくて、ブラッドも誰かと幸せになってほしい。」
「メグ…」

「本当に、ブラッドが無事でよかった。リハビリ頑張ってね。…じゃあ、行くね。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!! 打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。

私は私を大切にしてくれる人と一緒にいたいのです。

火野村志紀
恋愛
花の女神の神官アンリエッタは嵐の神の神官であるセレスタンと結婚するが、三年経っても子宝に恵まれなかった。 そのせいで義母にいびられていたが、セレスタンへの愛を貫こうとしていた。だがセレスタンの不在中についに逃げ出す。 式典のために神殿に泊まり込んでいたセレスタンが全てを知ったのは、家に帰って来てから。 愛らしい笑顔で出迎えてくれるはずの妻がいないと落ち込むセレスタンに、彼の両親は雨の女神の神官を新たな嫁にと薦めるが……

【完結】彼の瞳に映るのは  

たろ
恋愛
 今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。  優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。  そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。  わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。 ★ 短編から長編へ変更しました。

私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください

迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。 アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。 断るに断れない状況での婚姻の申し込み。 仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。 優しい人。 貞節と名高い人。 一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。 細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。 私も愛しております。 そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。 「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」 そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。 優しかったアナタは幻ですか? どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

無価値な私はいらないでしょう?

火野村志紀
恋愛
いっそのこと、手放してくださった方が楽でした。 だから、私から離れようと思うのです。

この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ

めぐめぐ
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。 アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。 『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。魔法しか取り柄のないお前と』 そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。 傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。 アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。 捨てられた主人公が、パーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー短編。 ※思いつきなので色々とガバガバです。ご容赦ください。 ※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。 ※単純な話なので安心して読めると思います。

処理中です...