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こんな時に思い出すのは

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いよいよ火に囲まれてしまったようだ。
テオだけでもどうにか助かってほしいと願うが、もうどうしてよいのかわからない。

とうとうテオも腕の中でぐったりとしてしまって、私も体に力が入らなくなってきた。
助けを呼ぼうにも、炎と煙の勢いに押されもう声を上げることもできなくなってしまった。

どうしよう。テオだけでもどうにか助かってほしい。
「ブラッド…助けて…」

どうしようもない自分が今、思いだせるのはブラッドのことばかりだ。
涙がとめどなく溢れてくる。

ブラッドにきちんと向き合っておけばよかった。

そして伝えておけばよかった。

ここまで追いかけてきてくれて嬉しかったことを。

新しい環境で一から頑張っている姿を見るたびに、少し見直したことを。

私とテオの生活のために、自分の周り全てのものを売り払ったお金を用意してくれた、その気持ちが嬉しかったことを。

他の女性が近づいてきても、はっきりと断ってくれて嬉しかったことを。

お店で言いがかりをつけられた時、かばってくれて頼もしく思ったことを。

仕事で疲れているだろうに、毎日手伝ってくれて嬉しかったことを。

毎日差し入れをくれて、本当はその気持ちがとても嬉しかったことを。

休憩時間になると、いつもパンを買いにお店に寄ってくれるのをいつの間にか心待ちにしていたことを。

破水して、パニックになったときにいきなり現れて助けてくれて本当に嬉しかったことを。

出産のときに、ルーナさんにボコボコにされても、私のそばにいてくれて本当は嬉しかったことを。

乳母車を抱えてテオを運んでくれた時、少しドキッとしたことを。

一緒にピクニックみたいなことができて幸せな気持ちになったことを。

「っうぅ…」

もう、息も苦しくなってきて意識が朦朧とする。
ごめんなさいテオ。守ってあげることができなかったみたい…。


ガッシャーン!!!ガッシャーン!!!バンッ!!!

「メグーーーーー!!!!!!テオーーーーーーー!!!」」

薄れゆく意識の中で、はっきりとブラッドの声が聞こえた。


「見つけた!すぐに助けてやるからな!」


そう言ったブラッドは、私とテオを抱きかかえた。

あたりは既に火の海と化している。

びしょ濡れの布を私たちにかぶせ、火に覆われている出口までたどり着いたその時。

ドォーン!!

ものすごい音と共に、私たちは体ごと外に投げ出された。
テオをかばう形で地面に転がったため、体を強く打ち付けた。

周りからエリーさんやサムさん、近所の方々がわっと私たちの救護に駆けつけてくれた。

そして恐る恐る振り返ると、家屋の一部が倒壊し、ブラッドが下敷きになっていた。
多くの人々がブラッドを助けようとしている。
私も助けに行きたいがもう、体が限界で、動くことができない。

どのくらい時間が経っただろうか。
体の鈍い痛みと、手のヒリヒリした感覚で目が覚めた。
見たことのない天井にびっくりしてハッとする。

そうだ。火事であの時テオを抱えて、ブラッドが家屋の下敷きになって…。
それから…。
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