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招かれざる訪問者

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今日、店を閉めて、しばらくたってから、ブラッドが訪ねてきた。
仕事が終わってそのまま来たみたいで、少し疲れた顔をしていた。

「メグ、あのさ、もしもお前がいいっていうなら…その、何か手伝わせてもらえないか?
いや、その。もしもお前がよければさ。買い出しでも、掃除洗濯、テオをふろに入れたりとか、お前が少しでも休めるように…なんかできないかと思ってな。…ああ、いや、いやなら無理にとは言わないが…‘」

思ってもみないブラッドの申し出に、私は一瞬言葉を失ってしまった。
確かに、ルーナさんたちがいろいろ手伝ってくれてはいるが、毎日とても大変で疲れがたまっている。
ブラッドだって仕事帰りにわざわざここまで来て大変だとおもう。
でも、そうやって気にかけてくれることが正直うれしかった。

「じゃあ、…ブラッドさえよければ、少しだけお願いしようかな。本当にいいの?」
「っああ!!もちろんさ、もちろんいいにきまってる!よかった!ありがとう!メグ!」
「ふふっ!お礼を言っても言われる筋合いはないと思うんだけど。」

というわけで、この日を境に、ブラッドが私たちを毎日のように訪ねてくるようになった。
私に差し入れをもってきたり休憩時間にちょっと顔を出すのに加え、仕事帰りや休みの日に必ず手伝いに来ている。

最初の頃は、おむつを替えたり、テオをふろに入れたりは大変そうだったけど、最近は慣れた手つきでやっている。
正直、私も少し休めるし、ブラッドが一緒にしてくれることで気が楽になったと思う。

今日は、ブラッドが休みの日で、私はルーナさんたちとパン屋で忙しい一日を過ごしている。
テオは今日一日ブラッドに面倒を見てもらうことにした。

「いらっしゃいませ!」

騎士団の方々が、お店にやってきた。
「あっ!メグちゃん。こんにちは、元気?たまに、散歩してるの見かけるよ。」
「そうなんですか?すみません。気が付かなくって。」
「いいっていいて。それより何か手伝えることがあったらいつでも俺に言ってよ?」
「「「俺にも、俺にも!!」」
「そんな、申し訳ないです。でも気持ちだけ頂きます。ありがとうございます。皆さん。」
「「「「っ!…。」」」」
「…ほんっとーに可愛すぎるんだけど…。」

「ちょっと!あんたたち!なーに言ってんのさ!メグとテオには私たちがついてるんだからね!五百人力さ!!はっはっはー!!余計な心配しなくていいからね!また来ておくれよー!!!」

「…。」
テオをあやしながら、ブラッドは焦燥に駆られていた。
遠くからでも、メグの幸せを見守りたいとか、他の誰かと幸せになったとしてもメグが幸せであれば満足だと頭では納得しているのだが。

実際、子供を産んでからのメグはより魅力的になった。
このパン屋の看板娘としてだけでなく、道行く男たちが振り返って見とれるほどだ。


「こんにちは。」
「いらっしゃいませ。」
「あの…、急にごめんなさいね。すみません。ちょっとお時間よろしいですか?」

そう言ってやってきたのは、この前ブラッドを追いかけてきていたアリサという女性だった。

「あの…アリサさんですよね。公園でお会いしましたよね?今日はどういったご用件でしょうか?」
「…。あなた、子供がいるのよね?これ以上ブラッドを巻き込まないでくれる?ブラッドも迷惑してると思うの。」
「…それは…。彼は私の手伝いを申し出てくれて。あの、迷惑ってブラッドがそう言っていたんでしょうか。」
「それは…違うけど。でも、最近何かにつけてあなたのところに通ってるみたいだし!そういうのやめてほしいんだけど!」

「あの…それはブラッド本人に伝えてもらえませんか?」
「私はあなたに言ってるのよ?!」

私とブラッドの過去を知っているのは、このまちではルーナさんとサムさんだけだ。
私達の過去についてこれ以上の人に知らせる必要はないと思っている。
だから、どうしたものかと思い悩んでいると、目の前に大きな背中が立ちはだかった。

「何をやっているんだ?」
「っ!ブラッド、あの、ちょっとこの店員さんと話してみたくって。」

「嘘をつくな。俺が誰に会おうがお前には全く関係ないだろう?なんでお前が出しゃばってくるんだ?」
「だって!みんな、私とブラッドがお似合いだって!」

「だからなんなんだ?他人からお似合いだといわれたから、ハイそうですかって付き合わなきゃいけないのか?なにいってんだ、お前?」
「そうだけど、でも、ブラッドだって気がついてるんじゃない??私たちうまくやっていけると思うの!」

「お前がそうやって思うのは勝手だけど、悪いが俺には全くその気はない。俺にはお前も、他の女も必要ねえんだよ。今だってこれからだってずっとだ。わかったら、二度とここに来るな!」

女性に声を荒げるブラッドを目の当たりにしたのは初めてだったから、かなり驚いた。


しばらくその場に立ち尽くしていたアリサという女性は、私を睨みつけてから無言で立ち去って行った。

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